DICOMの理解と習得の道案内


(財)癌研究会・癌研究所・物理部
日本放射線機器工業会・顧問
伊藤 彬(aito@jfcr.or.jp)

1。はじめに

 医用画像と通信の標準規格DICOMに関心が高まっています。世の中はどうもDICOMを中心に動いており、医用画像を取り扱う者は、この内容と動向を理解していないと、時代の流れに取り残されてゆく心配がありそうです。そこで、DICOMに関する資料と情報が、どこから、どのようなものが得られるのか、また、どのように、勉強、調査、研究をしたら良いのかについて、道案内をするつもりでこの小文を作りました。筆者は、この10年間は、研究所と病院(東大医科研と癌研究所)において、研究と診療のためのネットワークと画像管理システムの構築の模索をしてきました。最近の5年間は、日本放射線機器工業会の顧問の一人として、医用画像と通信の標準の確立のため微力をつくしてきました。ここで説明するDICOM規格は、オブジェクト指向、クライエント/サーバ方式、ダウンサイジング、オープンシステム、インターネット等のキーワードで示される最近の情報処理技術の進歩と歩調をあわせた内容を持っています。この小文が、DICOMを理解し、DICOMの関連技術を習得する一助となれば幸いです。

 まず、DICOMの意味するところは、医用画像と接する立場によって大いに異なると思います。医用画像の最終利用者である医師(画像診断の専門医、画像検査の依頼医師)、画像検査に携わる放射線技師、医用画像システムの研究開発に携わる研究者、あるいは、医用画像システムの製造、輸出入、販売業者(これも、経営、営業、技術、研究開発等の立場で、視点が異なる。)、あるいは、自分の体を検査される患者さん、更には、病院管理者・経営者、医療保険機関、医療行政当局も、なんらかの形で関連してきます。DICOMに関する共通の理解を広めることと、各立場で必要となることがらを整理しながら、道案内をしてゆきたいと思います。

 この文書は、癌研究所のインターネットサーバ (http://www.jfcr.or.jp:80/DICOM/dicom_guide.html)で閲覧することができます。また、FTPサーバ(ftp://ftp.jfcr.or.jp/pub/DICOM/DCM_GUID.DOC)からMSワード(V6)の文書として取得することができます。


2.DICOMとは?

3. 日本でのDICOMは?

4.DICOM規格が目指すものは?

5.DICOM規格はどこで入手出来ますか?

6.DICOM規格を採用するにはどうすれば良いのですか?

7.DICOM規格の試験用CTNソフトウェアについて

8.DICOM規格の試作品/製品の相互接続の実績

9.おわりに


2。DICOMとは?

 「そもそも、DICOMとは何ですか?」との質問がまずあげられるでしょう。この質問への最短の答えは、「DICOM(ダイコムと発音)とは、Digital Imaging and COmmunication in Medicineの略で、米国放射線学会(ACR)と北米電子機器工業会(NEMA)が開発した医用画像と通信の標準規格です。」となりますが、文献1、2、5が、一般的なDICOMの説明(英語)として広く流布しています。特に、文献2は、インターネットのDICOMのWWWサーバ( http://www.xray.hmc.psu.edu/dicom/dicom_home.html )に掲載されている説明文(DICOM: An Introduction to the Standard)なので、取得してご覧下さい。このサーバは、 Dr.Horii とか Dr. Prior等のDICOM開発のキーパーソンがいるペンシルバニア州立大学に設置されています。 ここをアクセスすると、ホーム・ページ(目次)が表示され、DICOMに関する様々な情報を取得することが出来ます。 DICOMに関して頻繁に問われる質問、FAQ(Frequently Asked Questions) 、同じWWWサーバに掲載されています。なお、関連する電子情報として、インターネットのニュースグループ(comp.protocols.dicom)でDICOMに関する諸々の議論が行われています。そこには、医用画像に関するFAQ(medical-image-faq)も毎月更新したものが投稿されていて、有益な情報源となっています。文献5は、RSNAが1994年に用意したDICOMの歴史と実装について解説した「実用的ハンドブック」です。ここらが、「DICOMとは?」の出発点となるでしょうか。


3。日本でのDICOMは?

 日本でも、DICOM規格は、医用画像機器の業者の団体である日本放射線機器工業会(JIRA)で医用画像と通信の標準規格として採用されています。DICOM規格案が提案され始めた1991年頃からJIRAの委員会(現在は、通信規格委員会、繁村直委員長(東芝メディカル・エンジニアリング株))で検討を重ねてきました。1993年に米国(NEMA)でDICOM規格が正式に承認された(文献3)のを受けて、JIRAでも1994年にDICOM規格を日本の規格として採用することを決めました。JIRAでは、米国のDICOM規格に、日本語を始めとして東アジア(中国、韓国など)のマルチバイトの言語を取り扱うことができるDICOM規格の拡張案を提案しました。この提案は、NEMAで承認されDICOM規格の一部となりました。JIRAが採用しているDICOM規格は、この日本語等の拡張部分と、米国と日本との国情の違いで放射線診療内容が異なる部分を留保している点が、少し異なっています。この差分を、MIPS規格−94として定義してあります(文献4)。しかし、その後、日本放射線学会の電子情報委員会(前田和穂委員長)で検討した結果、運用で対応できること理解できました。このような経過をたどりましたが、現在では、JIRAもDICOM規格を採用していると言ってかまわないと思います。

 JIRAは、DICOM規格の実装技術の習得、相互接続試験の実施、および、利用者へのPRを目的として、JMCP95(名古屋、1995年4月)においてMIPS規格-94/DICOMデモを実施しました。JIRAの17社、および、日本医学放射線学会の数グループの参加により、日本でもDICOM規格が確立したことを示しました。日本歯科放射線学会の総会(東京、1995年9月)に付設の機器展示において、DICOM規格による歯科放射線画像機器の相互接続デモを実施しました。JMCP96(横浜、1996年4月)においても、病院の診療現場でDICOM規格がどのように利用できるかとの視点で、利用者に分かりやすいデモが企画されました。

 DICOM規格を採用した病院の画像情報管理システムを構築する試みも始まっています。国立がんセンターでは、1993年より、スーパーコンピュータによるがん診療情報システム構築のプロジェクトが開始されました。築地の中央病院、および、柏の東病院の両病院のディジタル画像データベースをDICOM規格に基づいて作成しています。診療情報と有機的に結合した高度な画像管理システムの実現を目指しています。ここでは、JIRAの日本語取り扱いの標準規格が確立する前にプロジェクトがスタートしたので、DICOM規格の独自の拡張を含んだ「国立がんセンター画像フォーマット」を採用しています。これらの内容は、国立がんセンターのWWWサーバ( http://www.east.ncc.go.jp:80/format/imagef_j.html)に具体的に公開されています。

また、DICOM日本語ホームページ(http://www.jfcr.or.jp:80/DICOM/)が開設されて、日本語での情報の収集が出来るようになりました。


4。DICOM規格が目指すものは?

 DICOM規格が目指すものは、病院内外で、異なった製造業者(マルチベンダー)の、異なった種類(マルチモダリティ)のディジタル画像機器を、ネットワークで、あるいは、画像保存媒体で、相互に接続して、患者の画像検査情報のやり取りや、画像データの伝送を可能とします。ディジタル画像機器は、画像の発生装置(CT、MRI、超音波画像装置、核医学画像装置、CR、フィルムディジタイザ、その他)、画像の保管装置(サーバ等)、画像の表示・処理・診断装置(CRT、ワークステーション等)、画像の印刷装置(レーザイメージャ等)があります。これらの画像機器間を、診療の目的に従って、意味のある相互接続を実現することにより、これまでのフィルムを中心とする画像診療システムの問題点(保管場所不足、フィルムの紛失、遅い配送、など)の克服と、新しい画像診療の付加価値(ディジタル画像処理、コンピュータ支援診断、総合画像診断、など)が得られることが期待されています。

 すなわち、DICOM規格は、PACS(Picture Archive and Communication System)、あるいは、IMAC(Image Management And Communication)の理想を実現する技術的な基盤を提供します。1980年代には、医用画像機器各社が競ってPACS製品を開発し、病院に導入し、試験的に利用されてきました。これらの試みが、必ずしもうまくいかなかった原因のうち最大の技術的な問題が、各社間の、また、自社内での異機種間の、相互接続が困難な点でした。すなわち、実際に使えるディジタル画像と通信の標準規格が無いことでした。また、最近のディジタル技術とネットワーク技術の素晴らしい発展を考えると、隔世の感があります。当時(と言っても数年前)のディジタル技術は、今日のレベルから見ると、相互接続の標準が未成熟、性能が低い、価格が高いなどと問題点が多かったと考えざるを得ません。昔の数億円の大型計算機のC(Central)PU性能(数10MIPS程度)が、今の数10万円以下のパソコンのM(Micro)PU性能(100MIPS(SPECint92)以上)よりも、はるかに低いのです。このようなディジタル技術の大発展のなかにあっても、やはり、最大の技術的課題は医用画像機器の相互接続の標準の確立にあります。これを実現したのがDICOM規格です。

DICOM規格の理解のためのキーワード

 DICOM規格は、前身のACR−NEMA規格とは、幾つかの点で大きく変わっています。ACR−NEMA規格と異なる重要なキーワードを簡単に説明します。

(1)ISOに準拠した標準規格の作成

 標準規格の作成方法そのものが、ISO(国際標準機構)の基本参照モデルに従って作成されています。DICOMは、オープンな他の標準規格を「積み木」の材料として利用して積み上げられています。医用画像の世界だけに閉じないで、情報技術の世界の標準を積極的に取り入れています。

(2)オブジェクト指向に基づいた考え方

オブジェクトとは?:医用画像診療の実世界の活動を、論理モデルに定義した上で規格化しています。重要なキーワードとして、「患者」、「(画像)検査」、「(撮影)シリーズ」、「装置」、「画像」、「解釈」、「検査結果」等があります。これらを「情報エンティティ(実体)(Information Entity)」として定義します。複数の「情報エンティティ」の関連を「リレーション(関係)(Relation)」として定義して、相互関連を明らかにします。例えば、「患者」は「検査」を受ける、「装置」は「(撮影)シリーズ」を作成する、などです。この情報エンティティとリレーションは、総称してオブジェクトと呼ばれます。このような、医用画像診療の実際を論理的モデルに置き換えることにより、曖昧さの少ないすっきりとした定義が得られます。オブジェクト指向の論理モデルでは、情報エンティティとリレーションの的確な分析が最も重要です。DICOMでは、各医用画像モダリティについて、このような論理モデルの分析を行った結果を、情報オブジェクト定義(IOD)として規格化しています。例えばCT画像オブジェクトとか、CR画像オブジェクトとは、IODに定義された画像と属性の諸々の情報を含んでいます。この手法は、放射線画像診断以外の新しいモダリティ(例えば、放射線治療とか、病理診断画像)を追加しやすいので、広く受け入れられています。

サービスとは?:DICOM規格のもう一つのキーワードは、サービスです。情報オブジェクトに対する、各種の処理を、サービスクラスとして定義します。これには、ネットワーク相互接続のための「確認サービス」、画像オブジェクトの「保存サービス」、保存されている患者・検査に対する「問合せ/検索サービス」、画像オブジェクトのハードコピーを作成する「プリント管理サービス」などが定義されています。これらのサービスとオブジェクトを組み合わせたSOP(Service Object Pair)が、DICOMの対象となります。CT画像情報を保存するとか、CR画像情報をプリントする、などがSOPです。

(3)TCP/IP通信規格とISO/OSI通信規格のサポート

 ISOの中では、永年、OSI規格によるネットワークの標準規格作りが続けられてきました。しかし、インターネットの通信規格であるTCP/IPが、実際的な通信規格として普及しています。DICOMでは、ACR−NEMA規格でのポイント間通信の規格(50ピンコネクタ=DR−11W)に加えて、これら2大通信規格を標準としてサポートしています。実際上は、TCP/IPに基づく、実装が進んでいます。

(4)ポピュラーな互換媒体(FD, MOD, CD-R)のサポート

 DICOMでは、画像オブジェクトの「保存サービス」を、「通信規格」によるネットワーク伝送と、「媒体規格」による電子保管の両方をサポートしています。特に、FD(MS-DOS Format)、MOD(3.5", 5")、CD−R等の、広く利用されている保存媒体を採用して、画像情報オブジェクトを保存します。これは、オープンな標準規格を「積み木」の材料として採用する考えからきています。

日本で問題とされている、患者情報の「セキュリティ」は、DICOMの情報オブジェクトとしては定義されていません。守秘義務は、画像を扱う医師個人、および、病院の管理責任の問題として、論理モデルから除外してあるからです。(同様に、画像検査の結果は、DICOMオブジェクト定義からは、除外してあります。これは、検査結果の論理化は複雑で誰もが納得できる情報モデルが定義されていないからです。)


5。DICOM規格はどこで入手出来ますか?

DICOM規格を記述した規格書は、以下のものがあり、入手が可能です。

(1)NEMAのDICOM規格書(NEMA PS3.1−3.13)の購入

 以下のNEMAに直接、注文を出せば、規格書を入手できます。1995年末現在で、

10冊のセット価格(カタログ番号 905013)がUS$255(に郵送代)です。

National Electrical Manufacturers Association,

2101 L. Street, N.W.

Washington, DC 20037, USA

(2)DICOMサーバ上の規格書ドラフトのFTPによる取得

 以下のDICOMインターネットサーバから、anonymous ftpで規格書ドラフトを取得することができます。

ftp://anonymous:@ftp.xray.hmc.psu.edu:21/dicom_docs/dicom_3.0

(3)DICOM規格書ドラフトの日本語訳

 DICOM規格書(ドラフト)の日本語訳が、JIRAで行われました。日本におけるDICOMの理解と普及のために、これらの文書はインターネットサーバ(http://www.jfcr.or.jp:80/DICOM/dicom_draft-j.html)に掲載されています。FTPで取得することもできます。

規格書の性格と動向

 上記のDICOMの規格書と関連文書の、性格と動向を以下に箇条書きに示します。

(1)NEMAの英語のDICOM規格書が正式な規格です。

(2)欧州(CEN)でも英語版のDICOM規格をそのまま採用しています。(1994)

(3)JIRAのMIPS規格−94が、DICOMとの差分を記述した正式な規約です。

(4)JIRAによるDICOM規格書の日本語訳文書は、JIRA会員用の参考資料です。

(5)絶えず内容が拡張されているので、差分は補遺(Supplement)として出版されています。

(6)1997年にDICOM規格書の再編成と更新したものの出版が行われます。


6。DICOM規格を採用するにはどうすれば良いのですか?

 この質問は、いくつかの側面があります。画像機器の利用者と提供者では、答えの出しかたが異なります。それぞれの場合について、説明しましょう。

6−1.画像機器の利用者の立場:

 この場合には、そもそもDICOM規格を採用する診療上の目的を明瞭にする必要があると思います。例えば、A社、又は、B社の2台のCTからのマルチスライス画像を、C社の放射線治療計画システム、あるいは、D社の手術計画システムのワークステーションに転送して、精度の良い治療計画を立案したい場合(例1)があります。あるいは、E社のCTとF社のMRIのディジタル画像をすべて、G社の画像データサーバに保管して、ネットワークに接続されたH社とI社のそれぞれのワークステーションを使ってCRT上で診断を行う、あるいは、ネットワーク上のJ社のレーザプリンタでフィルムを作成する場合(例2)があります。あるいは、K社のCR画像、ないしは、L社のフィルムディジタイザの画像データを、M大学で研究中のコンピュータ支援診断のワークステーションに送って、そのコンピュータ診断の結果を、N社のCRT装置に表示させ、O社のレーザイメージャでフィルム出力するとの場合(例3)も考えられます。その他、複数の画像機器間を相互接続する必要のある様々な画像診療の場面があります。何れの場合も、DICOM規格で相互接続が可能です。これらの相互接続が必要な診療上の場面を良く検討し明確化することが必要です。なんとなくDICOM規格に準拠する画像機器を導入しても診療上の付加価値は得られません。

 次に、少し技術的な課題になりますが、 DICOM規格に準拠していない既存の画像機器をDICOM対応に改造するかどうかという課題があります。古い機器も、各社の独自な画像データ規格をDICOMへと変換する装置を外部に設置することができれば、DICOM準拠の装置になり得ます。一昔前のCT、MRIなどは、この方法でDICOM準拠の画像を外部に転送することができるものもあります。機器の提供業者と相談して下さい。

 DICOM規格に準拠した製品を導入する場合には、その機器は何が出来るのかを良く調べる必要があります。DICOM規格を採用したと称する特定の製品は、規格全体を採用していることを意味していません。ここは、非常に大事な点です。DICOM規格は非常に広い内容を持っているので、DICOM規格の採用と言うとどんなこともできるように聞こえます。しかし、実際は、DICOM規格全体のうち、ごく一部を実際に装備して、特定の相互接続機能を実現しているに過ぎないのです。そこで、各機器には、DICOM規格への「適合性の宣言(Conformance Statement)という仕様書を添付して、この装置が実現している機能の説明をします。これは、「何でも出来ます!やります!」式のセールス文書ではなく、DICOM規格(巻2「適合性」)に定義されている必須の技術文書です。ここには、「これこれが出来ます。」と記述されています。この文書が提示されなければ、それだけで、その製品はDICOM規格に準拠していません。すべての利用者は、このような重要文書があることを知らなければなりません。この技術文書の内容を理解し、特定の診療目的に照らし、機器間の相互接続が可能かどうかを評価するのは、病院内の技術スタッフの重要な役割です。この理解の上で、製品の要求仕様に、DICOM規格への準拠、更には、「適合性の宣言」の具体的な要求内容を記述出来れば、DICOM製品の導入もスムーズにゆくでしょう。

6−2.画像機器の提供者の立場:

 医用画像機器を製造、輸出入、あるいは、販売する業者にとっては、DICOM規格を採用した製品を提供する上では、良く理解すべきことがあります。

利用者の要求の分析と理解

 画像機器の機能と、利用される実際の状況、あるいは、前節で説明した利用者の要求を分析して、DICOM規格への準拠とは、いったいどのような機能が必要なのか理解する必要があると思います。

「適合性の宣言(Conformance Statement)

 DICOM規格に従って、実装した機能については、「適合性の宣言」の仕様書を用意します。DICOM規格の巻2に基づき、記述しなければならない内容と形式が定められています。製品の開発担当者はこの「適合性の宣言」を正確に記述しなければなりません。営業担当者も、自社製品の「適合性の宣言」内容の理解がまず求められます。技術陣に良く教えてもらい、利用者(顧客)への説明ができなければなりません。

 次に、相互接続を行う相手のDICOM規格に準拠した機器の「適合性の宣言」の比較と検討が必要です。しかし、DICOM規格には、相互接続の試験方法などについての記述はありません。実際に2台以上の画像機器を相互接続して、診療の目的に適うためには、更に、検討すべき課題があります。例えば、この装置は何枚の画像を保管できるとかは規定されていません。これらの「適合性の宣言」には記載されていない課題があることを理解しなければなりません。利用者の要求に応えて、相互接続を実現するノウハオの蓄積が必要です。

接続試験の実施

 DICOM規格に準拠して作成された画像機器は、問題なく相互運用ができるかどうかは、規格では保証していません。「それは、なんと無責任な規格か」と考えられるでしょうが、現実には、様々な要因(例えば、DICOM規格で不明瞭な内容の解釈の違い、小さな誤りをどの程度容認するか、あるいは、他社との差別化のために高度な機能を導入したことによる障害発生など)により、実際に接続してみるまでは、相互接続性が確認できません。このような実際上の問題を解決するために、数年間にわたり次のような努力が積み重ねられてきました。

(1)相互接続の試験用ソフトウェア(CTN)の開発

(2)相互接続試験の実施

(3)RSNAの学会展示(InfoRad)、商業展示の機会の相互接続試験の実施

(4)相互接続のための指針文書を作成して試験方法の明確化

(5)インターネットの上で相互接続試験の実施

接続実績の説明

 各社とも、上記のいくつかの方法により、相互接続の実績を積み重ねています。これらの実績を、整理して示すことができれば、利用者にとっては、安心であります。


7。DICOM規格の試験用CTNソフトウェアについて

CTNソフトウェアとは

 DICOM規格の制定作業と平行して、 相互接続の基準となるDICOM規格を実装したソフトウェアが開発されました。RSNA92における各社のDICOM装置の相互接続デモ用の中央試験ノード(Central Test Node)用のソフトウェアとして開発されました。RSNAが資金を出して開発者を公募した結果、ワシントン大学(セントルイス)のマリンクロット放射線学研究所(Mallinckrodt Institute of Radiology)の電子放射線学研究室(Electronic Radiology Laboratory)が開発を担当することになりました。 このソフトウェアは、その後、現在に至るまで4年間以上にわたり開発が続けられています。1994年には、このソフトウェアは公開ソフトウェア(Public Domain Software)となり、世界中の誰でもが利用できるようになりました。このことにより、DICOM規格とその実装技術は大いに広まりました。CTNソフトウェアの主たる開発者は、 Steve Moore で、彼の優れたソフトウェアと献身的なサポートの努力により、CTNソフトウェアは世界中で広く利用されています。

CTNソフトウェアの取得と利用

 CTNソフトウェアは、PDSで誰でも利用可能です。このソフトウェアは、単にDICOM規格に基づく相互接続の試験ソフトウェアに留まらず、DICOM規格を実装した医用画像システムのソフトウェア開発のキットにもなっています。RSNAとワシントン大学の版権を明示することが唯一の利用条件なので、商用的に利用することも可能です。ただし、ソフトウェアの利用に伴う法律的な責任は、利用者にあります。

 CTNソフトウェアの最新のバージョンは、RSNA95のために準備されたV2.7(1995年10月)です。これは、以下のサイトからanonymous ftpでコピーして利用することが可能です。

  ftp://wuerlim.wustl.edu

動作環境とインストレーション

 CTNソフトウェアは、Unixワークステーション上に作成されます。ソフトウェアの標準規格を広く採用して、プラットフォーム(ハードウェアとOS)に依存しないプログラムとなっています。準拠している標準規格とは、ANSI規格のC言語、POSIX規格のオペレーティングシステム、Xウィンドウ(X11R5)、MotifのGUI、等です。CTNソフトウェアのV2.7には、PDSのデータベース管理システム(miniSQL)も付属しているので、簡単な患者と検査の情報システムを構築することも可能です。標準媒体へのDICOMオブジェクト(画像+属性)の保存の機能も新たに追加されています。また、ポストスクリプトファイルで約500頁ものマニュアルが付属しています。RSNAでの相互接続の概要、インストレーションマニュアル、CTNのDICOM機能の「適合性の宣言」、CTNの相互接続機能の利用者マニュアル、更には、ソフトウェア開発者用の関数ライブラリの詳細マニュアルなどがあり、CTNソフトウェアを利用しやすくなっています。実際、CTNソフトウェアは、Sun(SunOS+Solaris)、DEC(Ultrix+OSF/1)、HP、IBM、SGI、NEC等のUnixワークステーションで稼動しています。

CTNソフトウェアの機能

 CTNソフトウェアは、100近くものアプリケーションプログラムから構成されており、その機能の概略は、以下の通りです。

(1)DICOMオブジェクトの作成、チェック、表示など

(2)接続の確認のチェックと確立

(3)DICOMオブジェクトの転送と保存(画像サーバ/画像クライエント)

(4)患者・画像情報の問い合わせ・回答

(5)画像プリント管理機能

(6)DICOMオブジェクトの標準媒体(FD(MS-DOS), MOD(3.5,5), CD-R)への保存

DICOM試験画像

 RSNA94、および、RSNA95の相互接続デモに提出された各社からのDICOM仕様の画像データがオープンになっており、以下のftpサイトから取得できます。

ftp://wuerlim.erlwu.edu:21/pub/dicom/images/version3/RSNA94

ftp://wuerlim.erlwu.edu:21/pub/dicom/images/version3/RSNA95

 また、インターネットで取得できる医用画像のデータベースの一覧表は、以下のURLを起点に取得できます。

http://chasse-spleen.xray.hmc.psu.edu/med_img_dbs.html


8。DICOM規格の試作品/製品の相互接続の実績

 DICOM規格を実装した、各社の試作品、あるいは、製品が、CTNソフトウェア、並びに、他社の製品と、相互接続できて、DICOMオブジェクトの相互伝送が可能であることを実証するために、以下のデモンストレーションが進められてきた。これらは、いずれも医用画像の利用者の学会に併設された公開の相互接続の実験である。当初は、各社の装置とCTNとの接続試験だけが行われた。DICOMの実装技術の進展と共に、各社のDICOM装置間の接続が整備されてきた。さらには、インターネットを利用したリモート接続、一般の商業展示の一部として、任意の相手との接続試験と、進化してきている。これらの、一連の相互接続試験により、実際の病院内でのDICOM導入の技術的な条件が満ちてきている。

RSNAにおける相互接続デモ

 1992年 InfoRad(24社)

 1993年 InfoRad(40社)

 1994年 商業展示ブース内

 1995年 商業展示ブース内

 1996年 商業展示ブース内

JMCPにおける相互接続デモ

 1995年 特別展示(JIRA17社)+JRS学会

 1996年 医用電子情報共同展示(JIRA15社)

 1997年 電子情報合同展示(DICOM教育展示、DICOMビュワー)

日本歯科放射線学会における相互接続デモ

 1995年 商業展示(8社)+学会企画

NEMAの「相互接続試験の指針」にもとづく試み

 1995年 RSNA95のために準備されました。


9。終わりに

 日本でのDICOM規格の普及を目標として、DICOMの理解と習得の一助となればと考えて、DICOMの解説文書を用意しました。「DICOM規格は解りにくい。」と言われますが、それはオブジェクト指向の考え方への馴染み方によります。病院内の画像診療の活動は、多岐にわたります。この全体象を的確に把握して、論理的な情報モデルとして理解することが、DICOM規格を構築する前提となっています。画像診療に関するすべての課題をモデル化は出来ていません。患者−画像検査−撮影シリーズ−画像、と一連の関連情報を整理して定義した内容がDICOMオブジェクトです。日常の画像診療の内容を、このように、分析し定義することが、基本です。

 パソコンの高性能化と低価格化を始めとする情報処理技術は、すざましい勢いで進行しています。この新しい技術を、医用画像のため、患者の診療内容の向上のために、少しでも役立てられることを願って、この解説を終了します。

文献

1. Bidgood,W.D. and Horii,S.C., Introduction to the ACR-NEMA DICOM Standard,

Syllabus: A Special Course in Computers for Clinical Practice and Education in Radiology, 37-46, 1992 RSNA(Available from RSNA)

2. Horii,S.C., Prior,F.W., Bidgood,W.D., Parisot,C., and Claeys,G., DICOM: An Introduction to the Standard, 1993, available from http://www.xray.hmc.psu.edu

3. NEMA Standards Publication No. PS 3.1-9, 1992-1993.

4. 日本放射線機器工業会、JESRA S-2301-1994, 医療におけるデジタル画像と通信の規格 MIPS規格−94,1994.

5. Hindel,R. eds., Implementation of the DICOM 3.0 Standard - A Pragmatic Handbook -, RSNA 1994.

(1997年3月31日版)

質問/コメントは、伊藤 彬(癌研) AIto@jfcr.or.jp まで。