(株)医療科学社 月刊INNERVISION(インナービジョン)1998年4月号(Vol.13, No.5) より許可を得て転載。
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[ラジウム治療学] [核医学の苗床としてのラジウム] [保健物理学の礎としてのラジウム] [最初に戻る]保健物理学の礎としてのラジウム
蛍光塗料のなかに少量のラジウムを混ぜて夜光塗料とし,夜光時計の文字板をつくる作業が1908年ころから工業化された。1923年秋ころになって,これらの工場に1年あるいはそれ以上勤めている女性の間に,下顎骨あるいは上顎骨の骨髄炎ないし骨壊死が発生していることがわかった。さらに1920年代後半には,この人たちの間に“貧血”“骨肉腫”なども多発していることが発見され,これが体内に沈着したラジウムによる慢性放射線障害によるものであることが明らかとなった。これらの工場では,文字板に夜光塗料を塗るのに小さい筆を用い,筆の穂先をそろえるのに唇で湿らすのが普通であったところから,筆先についた極微量が毎日少量ずつ嚥下され,長年の間に放射線障害を引き起こすことになったものであった。
人体内に存在する放射性物質の量を人体を損傷することなく測定する技術は,ダイヤル・ペインターの障害をきっかけに生じてきた。この人たちの障害は“ラジウム中毒”であったので,この人たちの体内ラジウム量を測定することは,あらゆる点から見て重要であったのである。
この問題に関して,患者の実測を初めて行ったシュルント(Schlundt:1929)らは,検出器として,検電器に電離槽を取り付けたものを用いた。彼らは椅子に後向きに掛けさせた患者の後方からこの測定器で測定し,最低約5μgのラジウムを検出することができたという。この方法はしかし,患者相互の体内量の比較には便利であったが,身体内のラジウムの分布状態が異なると値も異なって出るという不便があった。体内分布が不均等であることを考慮した上で,ずっと正確な測定を行ったのはエバンス(Evans:1937)であった。彼は測定器にも電離槽より感度の良いG-Mカウンタを採用している。彼の方法は半径約1mの円弧状の木製ベッドに患者を寝かせ,その中心に測定器を置いて測定するもので,放射能の体内分布が不均等であるところからくる誤差を少なくするために,このベッドに背臥位で寝たときと腹臥位で寝たときの2度測定し,平均値をとっている。患者の体格の差による吸収の差を補正するためには,3つのラジウム標準線源を患者の肩,腰,大腿の後において測定した結果を用いている。この方法では最低で0.1μgのラジウムが測定できたので,ラジウム中毒によって骨腫瘍が発生した症例の最低沈着量が0.8μg,臨床的に骨に変化のみとめられた症例の最低沈着量が0.4μg,などという結論を出すのに役立った。
これら夜光時計文字板工場の作業員などで得られたデータは,Puなどによる被曝線量とその障害の関係を明らかにできる貴重な症例として役立てられ,保健物理学成立の重要な礎となった。
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