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【プレスリリース】 EGFRチロシンキナーゼ阻害剤に耐性を獲得した肺がんに対する耐性克服薬としてゴルジ体機能阻害剤を同定

2017年12月07日

【ポイント】
・ 肺がんは我が国において現在がんによる死因の1位であり、そのうち約8割を非小細胞肺がんが占めます。日本人の非小細胞肺がんの約40%では、受容体チロシンキナーゼの1つであるEGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子の活性化変異が認められます。これまでにゲフィチニブ(商品名:イレッサ®)やエルロチニブ(商品名:タルセバ®)といった第一世代EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)が開発され、活性変異型EGFRを持った肺がん患者に奏功することがわかりましたが、多くの場合その効果は一時的であり、一年程度で薬剤耐性を生じ増悪に転じます。薬剤耐性の主な原因は、活性化変異型EGFR遺伝子に新たに薬剤耐性変異(T790M)が挿入されることですが、そのダブル変異型EGFRに奏功する第三世代のEGFR-TKIオシメルチニブ(商品名:タグリッソ®)が開発され、昨年薬事承認されました。しかし、そのオシメルチニブにも薬剤耐性が生じること、その原因の1つとしてEGFR遺伝子への更なる薬剤耐性変異(C797S)の挿入(トリプル変異型EGFR)が報告されており、現在このトリプル変異体への治療法は確立されていません。

・ M-COPA(2-メチルコプロフィリンアミド[AMF-26])は、がん研究会がん化学療法センターが以前見出し、その後東京理科大学が人工合成に成功した新規ゴルジ体阻害剤であり、これまでに受容体チロシンキナーゼ(RTK)遺伝子の1つであるMETを遺伝子増幅する難治性胃がんに対して、METの細胞表面への輸送を抑制することにより強力な抗がん活性を示すことを明らかにしてきました (Ohashi et al, Cancer Res 2016)。

・ がん研究会がん化学療法センター・分子薬理部(旦慎吾部長)、同・基礎研究部(片山量平部長)、東京理科大学理学部第一部応用化学科(椎名勇教授)、ならびに、エーザイ株式会社の共同研究チームは、活性化変異型EGFRを持つ肺がん、とりわけ、既存の第一世代EGFR-TKI耐性がん(EGFR-T790M/活性化変異:ダブル変異体)や第三世代EGFR-TKI耐性がん(EGFR-C797S/T790M/活性化変異:トリプル変異体)に対して、その細胞表面への輸送を抑制することにより、強力な抗がん活性を発揮することを明らかにしました。また、EGFR-TKIへのもう1つの耐性メカニズムとして知られるバイパス経路活性化に関わるMET遺伝子の過剰発現に対しても、M-COPAはその細胞膜への輸送とプロセッシングを抑制することを示しました。

・ 以上の研究成果は、新たなEGFR-TKI耐性克服治療戦略としてゴルジ体機能阻害剤が有望であることを示すものであり、この成果によりがんのアンメットニーズに応える画期的な抗がん剤としてゴルジ体機能阻害剤の開発が加速化されるものと期待されます。

・ 本研究成果は、米国のがん研究専門誌「Oncotarget」に12月6日付(米国東部時間、日本時間12月7日午前2時)でオンライン公開されました。


図1 M-COPAのEGFR-TKI耐性がんに対する抗がん効果(概念図)

【概要】
がん研究会がん化学療法センター・分子薬理部の旦慎吾部長、大橋愛美主任研究助手、岡村睦美研究助手らは、同・基礎研究部(片山量平部長)、東京理科大学理学部第一部(椎名勇教授)、エーザイ株式会社との共同研究において、以前人工合成に成功した新規ゴルジ体阻害物質M-COPAを用いたEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)に耐性を獲得したEGFR活性化変異陽性肺がんの治療実験に成功し、EGFR-TKI耐性克服治療戦略として、ゴルジ体機能阻害剤が有望であることを明らかにしました。

【研究の背景と経緯】
20世紀後半からの分子生物学や遺伝医学的研究手法の進歩により、がんの分子レベルでの理解が進んだ結果、細胞のがん化に関わる分子を特異的に阻害する抗がん剤(分子標的薬)が2000年代以降に次々と開発されました。肺がんでは、ゲフィチニブやエルロチニブといった第一世代EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)が開発され、EGFR遺伝子にエクソン19の部分欠失やエクソン21のL858R点変異などのEGFR活性化変異を持つ非小細胞肺がん患者に奏功することが報告されました。しかし、多くの場合その効果は一時的であり、一年程度で薬剤耐性を生じ増悪に転じます。薬剤耐性の主な原因は、活性化変異型EGFR遺伝子のエクソン20に新たに薬剤耐性点変異(T790M)が挿入されることですが、そのダブル変異型EGFRにも有効な第三世代のEGFR-TKIオシメルチニブが開発され、昨年薬事承認されました。しかし、そのオシメルチニブにも薬剤耐性が生じること、その原因の1つとしてEGFR遺伝子エクソン20への更なる薬剤耐性点変異(C797S)の挿入(トリプル変異型EGFR)が明らかにされていますが、現在このトリプル変異体への治療法は確立されていません。このようながんのアンメットメディカルニーズに応える画期的な新薬の開発が求められています。
がん研究会がん化学療法センター・分子薬理部では、JFCR39と呼ばれる39種のヒトがん細胞株からなるパネルを利用したがん細胞パネル法を導入しています。がん細胞パネル法は、被験化合物のJFCR39に対する抗がんスペクトル(フィンガープリント)を測定し、取り貯めた既存薬のフィンガープリントと比較することにより、その作用メカニズムについて既存薬との類似性およびユニーク度を評価する系です。本系を用いてこれまでに、既存の抗がん剤とは作用機序がまったく異なるユニークな新規抗がん物質M-COPAを同定し、本化合物が既知の生理活性物質ブレフェルジンAと同様、ゴルジ体機能阻害を起こすことを明らかにしてきました。また、本剤の奏功するがんを検索したところ、受容体チロシンキナーゼ(RTK)の一種であるMETを遺伝子増幅により過剰発現する胃がん細胞に著効すること、その作用メカニズムとして、METの細胞膜への運搬を司るゴルジ体の機能不全が関わっていることを明らかにしてきました。そこで本研究では、MET以外のRTKとしてEGFRに着目し、EGFRに活性化変異を持つ肺がん、とりわけ、EGFR-TKIに対する治療耐性を獲得した肺がんへのM-COPAの抗がん作用について調べました。

【研究の内容】
EGFRはMETと同様、がん細胞の表面に発現していることから、M-COPAを作用させてゴルジ体機能を阻害することによりEGFRの表面発現を抑制することができれば、本剤がEGFR遺伝子の活性化変異陽性の肺がん治療に応用可能であると考えました。そこで本研究では、肺がん細胞株のうちEGFR変異陽性の3細胞株(PC-9、NCI-H3255、NCI-H1975)と、野生型EGFRを持つ細胞株を用いて、細胞増殖に対するM-COPAの感受性を調べました。その結果、本剤は期待通り、EGFR変異陽性の肺がん細胞に良好な増殖抑制活性を示しました。その際、活性化変異陽性のEGFRたんぱく質の細胞表面における発現が顕著に抑制され、EGFR自身の脱リン酸化およびEGFR下流のシグナル伝達分子の脱リン酸化が認められました。さらに、EGFR遺伝子のエクソン19部分欠失を有するPC-9細胞にゲフィチニブ長期曝露によりEGFR-T790M耐性点変異を獲得したPC-9R細胞、および、ゲフィチニブ治療後に再燃した患者由来のT790Mを有するMGH121細胞に第三世代EGFR-TKIを長期曝露して得られたEGFR-C797S/T790M/活性化変異のトリプル変異を有するMGH121R細胞に対してもM-COPAは良好な抗がん効果を発揮し、変異型EGFRの細胞表面発現を抑制しました。興味深いことに、これらのEGFR-TKI耐性肺がん細胞ではEGFRのバイパス経路であるMETの過剰発現が認められましたが、M-COPAはMETのプロセッシングを抑制するとともに、細胞膜への輸送を抑制することが明らかとなりました。最後に、これらのEGFR-TKI耐性肺がん細胞をヌードマウスの皮下、もしくは同所(肺実質)に移植したヒト肺がんゼノグラフトモデルにおいて治療実験を実施したところ、M-COPAはゲフィチニブおよびオシメルチニブでは抑制できない腫瘍増殖を顕著に抑制することが明らかとなりました(図2)。以上のことから、ゴルジ体機能阻害剤M-COPAは、EGFRの活性化変異を持つ肺がん、とりわけEGFR-TKIへの治療抵抗性を獲得した肺がんに対する有望な治療オプションであることが世界で初めて示されました。

図2 第三世代EGFR-TKI耐性細胞のヌードマウス肺同所移植モデルの治療実験

【研究のインパクト及び今後の展開】
EGFR-TKIを用いた肺がんの薬物治療は、キナーゼドメインの耐性変異や、バイパス経路の活性化によりTKIへの治療抵抗性を生じ、耐性変異に奏功するTKIにもやがて耐性変異が起こる、いわばモグラたたきのような状況になっています。本研究では、TKIとは作用メカニズムが異なる、まったく新たなEGFR-TKI耐性克服治療戦略としてゴルジ体機能阻害剤が有望であることを示すものであり、たいへん注目される成果です。また、この成果によりがんのアンメットニーズに応える画期的な抗がん剤としてゴルジ体機能阻害剤の開発が加速化されるものと期待されます。

【発表論文】
Yoshimi Ohashi1#, Mutsumi Okamura1#, Ryohei Katayama2, Siyang Fang1, Saki Tsutsui1, Akinobu Akatsuka1, Mingde Shan3, Hyeong-Wook Choi3, Naoya Fujita2, Kentaro Yoshimatsu4, Isamu Shiina5, Takao Yamori1¶ and Shingo Dan1*

Targeting the Golgi apparatus to overcome acquired resistance of non-small cell lung cancer cells to EGFR tyrosine kinase inhibitors

Oncotarget, advance publication online on December 6, 2017.

1. (公財)がん研究会 がん化学療法センター分子薬理部
2. (公財)がん研究会 がん化学療法センター基礎研究部
3. エーザイ・インク アンドーバー研究所(米国)
4. エーザイ株式会社
5. 東京理科大学理学部第一部応用化学科
¶ 現所属 (独法)医薬品医療機器総合機構
# 共筆頭著者
* 責任著者

【参考文献】
1. Ohashi Y, Iijima H, Yamaotsu N, Yamazaki K, Sato S, Okamura M, Sugimoto K, Dan S, Hirono S, Yamori T. AMF-26, a novel inhibitor of the Golgi system, targeting ADP-ribosylation factor 1 (Arf1) with potential for cancer therapy. J Biol Chem. 2012 Feb 3;287(6):3885-97.

2. Shiina I, Umezaki Y, Ohashi Y, Yamazaki Y, Dan S, Yamori T. Total synthesis of AMF-26, an antitumor agent for inhibition of the Golgi system, targeting ADP-ribosylation factor 1. J Med Chem. 2013 Jan 10;56(1):150-9.

3. Ohashi Y, Okamura M, Hirosawa A, Tamaki N, Akatsuka A, Wu KM, Choi HW, Yoshimatsu K, Shiina I, Yamori T and Dan S. M-COPA, a Golgi Disruptor, Inhibits Cell Surface Expression of MET Protein and Exhibits Antitumor Activity against MET-Addicted Gastric Cancers. Cancer Res. 2016; 76(13):3895-3903.

【謝辞】
 本成果は、以下の研究課題によって得られました。
     国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
     プログラム名:医療分野研究成果展開事業/研究成果最適展開支援プログラム
                       (A-STEP)AS2614144Q
     研究課題名:強力なゴルジ体機能阻害能を発現する新規分子標的抗がん剤の開発
     参加機関 :がん研究会、東京理科大学、北里大学、エーザイ株式会社
     研究期間 :平成26年12月〜平成29年11月

また、他に以下の機関の資金的支援を受けて実施されました。
 ・公益財団法人 車両競技公益資金記念財団 研究助成
 ・独立行政法人日本学術振興会 科学研究費補助金 (17K07230)

この場を借りてそのサポートに深謝いたします。

【内容に関するお問い合わせ先】
 <研究に関すること>
  がん研究会 がん化学療法センター分子薬理部
  部長 旦 慎吾
  TEL: 03-3520-0111  FAX:03-3570-0484 Email: molpharm@jfcr.or.jp

 <がん研究会に関すること>
  がん研究会 広報部 本山、大関  E-mail: kouhouka@jfcr.or.jp
  〒135-8550 東京都江東区有明3-8-31 TEL: 03-3570-0397

 <東京理科大学に関すること>
  東京理科大学 研究戦略・産学連携センター(URAセンター)
  〒162-8601 東京都新宿区神楽坂1-3
  TEL:03-5228-7440 E-mail:ura@admin.tus.ac.jp

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