がんの種類について
甲状腺がん
- Chapter.1:甲状腺の位置と機能
- Chapter.2:甲状腺の病気
- Chapter.3:甲状腺の検査法
- Chapter.3:甲状腺がんの種類
- Chapter.5:甲状腺乳頭がんの診断と治療
- Chapter.6:甲状腺濾胞(ろほう)がんの診断と治療
- Chapter.7:甲状腺髄様(ずいよう)がんの診断と治療
- Chapter.8:甲状腺未分化がんの診断と治療
- Chapter.9:甲状腺悪性リンパ腫
- Chapter.10:甲状腺手術 合併症と術後の経過
- Chapter.11:がん以外の甲状腺の病気、副甲状腺の病気
- Chapter.12:癌研病院頭頸科甲状腺外来のご案内
- Chapter.13:当科における最近の主な論文発表
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Chapter.4:甲状腺がんの種類
甲状腺がんにはそれぞれ顕著な特徴をもった種別があり、種類ごとに診断・治療が大きく異なります。万が一、甲状腺がんといわれたらどの種類かしっかり確認しましょう。
痛みや甲状腺ホルモン異常などの症状が出ることはまれで、多くは、頸にしこりができて気づかれます。診断は、頸の触診、超音波検査、穿刺吸引細胞診と血液検査でつくことがほとんどです。特殊な場合にシンチグラフィを行います。がんの広がりを見るためにCT、MRIや内視鏡検査を行うことがあります。治療はがんの種類によって違います。また、欧米と日本でも基本的な治療方針に差異があります。
日本では命を脅かす可能性の低いおとなしいがんが多いのですが、放置すると次第に大きくなり、近辺の大切な組織(声帯、気管、食道など)に浸潤して嗄声、呼吸障害、嚥下障害などを起こすことがありますので、できれば早いうちに治療してしまうほうが安心です。
乳頭がん
日本では甲状腺がんの9割を占める、基本的に成長が遅く、治りやすいがんです。
超音波と細胞診で診断がつきます。90%は生命を脅かす心配のない低危険度がんで、残り10%が用心しなければならない高危険度がんですが、その区別は比較的容易です。リンパ節への転移は予後をあまり左右しません。声がかすれて出にくい、呼吸が苦しい、血痰が出る、食事が通りにくいなどの強い症状がある場合、肺や骨など頸以外への転移がある場合などが高危険度がんです。
低危険度がんでは、ほとんどの場合、甲状腺機能や副甲状腺機能、声などに影響の出ない最小限の手術で充分だと考えています。
濾胞がん
良性の濾胞腺腫との区別が難しいことがあります。
多くはやはりおとなしいがんですが、まれに骨や肺に転移することがあり、そうなると厄介です。
未分化がん
上記3つを一括して分化がんということもできます。
これらは比較的予後の良いがんですが、それに対して未分化がんは頻度は稀ながら、非常に性質の悪いがんです。あっという間に大きくなり、一気にからだも弱ってしまいます。大部分は、高危険度の乳頭がんが長い間放置されていたものから突然変異してできるもののようです。
悪性リンパ腫
稀に橋本病から起こってくる悪性腫瘍で、抗がん剤や放射線治療が有効なことが多いです。
Chapter.5:甲状腺乳頭がんの診断と治療
乳頭がんの特徴
| ・ | 日本のようなヨード充足地域(海藻類などをよく食べる国々)では、甲状腺がんの85~90%は乳頭がんが占めます。 |
| ・ | 女性に多く、20歳台から70歳台まで幅広い年代にみられます。 女性10万人あたり年間約3人が乳頭がんに罹るといわれています(男性はその5分の1程度)。 |
| ・ | 「がん」とはいえ、大人しく、成長の遅い腫瘍で、治る確率は90%以上です。 |
| ・ | 普通のがんと違って、若い人の方が予後良好です。 |
| ・ | リンパ節転移は頻繁に見られますが、普通のがんと違って、リンパ節転移があっても進行がんと考える必要はありません。リンパ節転移のある人とない人を比べると、治る確率はほとんど変わらないのです。 |
| ・ | 診断は触診、超音波検査、細胞診によって容易です。 |
| ・ | 治療は手術が中心ですが、欧米と日本で治療方針に若干違いがあります。 |
| ・ | 最近では最初の治療の時点で、命に関わる可能性のある怖い乳頭がん(高危険度がん:10%程度)か、命を脅かすことのないがん(低危険度がん:90%程度)かおおよそ判断することができるようになりました。 |
| ・ | 「がん」という病名に必要以上に怯えることなく、きちんとした治療を受け、きちんと経過をみてもらい、あとは元通りの生活を続けましょう。 |
乳頭がんの診断
診断は触診、超音波検査、細胞診によって行います。
乳頭がんは乳頭状とよばれるその顕微鏡的な構造により名づけられました(乳がんとは関係ありません)が、その特徴的な細胞の姿から診断は容易です(当科での正診率は98%以上)。
ほかに血液検査で甲状腺機能などをチェックしておきます。腫瘍が大きい場合など、頸部CTやMRIで、病気の広がりを確認したり、内視鏡で声帯の動きを確認したりします。遠隔転移の心配がある場合、肺CTやシンチグラムの検査を追加することがあります。
乳頭がんの予後因子とがん死危険度分類
乳頭がんの多くは予後良好ですが、一部に肺や骨への遠隔転移や著しい局所浸潤のため不幸な転帰をたどる乳頭がんがあります。
つまり、乳頭がんというひとつの病気の中にがん死する危険の高い種類と、その可能性がほとんどない種類とがあるのです。
最近、乳頭がんの予後を左右すると考えられる様々な因子を、統計学の手法を用いて検討し、その予後を治療開始の時点で予測し、がん死する可能性の高い高危険度群と、その可能性のほとんどない低危険度群とに分類する方法(がん死危険度分類)が、多くの施設で提唱されてきています。
その結果、簡便で再現性の高いがん死危険度分類により、患者さんの長期予後を予測し、その結果に応じて治療および経過観察の方針を決定することができるようになってきたのです。
がん死危険度分類法は施設ごとに患者さんの背景因子などが異なるため、微妙に違いますが、大体、年齢が高く、腫瘍が大きく、甲状腺の外に病気が広がって周囲の気管・食道や声帯を動かす神経(反回神経)などに浸潤しているものや、肺や骨などへ遠隔転移しているものが高危険度群に分類されることが多いようです。
乳頭がんはまわりの組織にくっつく性質が強いので、実は「浸潤あり」の判定は難しいことが多いのですが、「浸潤あり」の場合は通常、声嗄れや呼吸困難、血痰、嚥下困難などはっきりと病的な症状が出て、しかもその症状が数ヶ月ではっきり進むので、それがなければ大丈夫と考えてもよいと思います。
乳頭がんが見つかったとき、既にリンパ節転移が起こっている確率は20~80%と報告されており、きわめてリンパ節転移を起こしやすい病気であるといえます。
しかしながら、リンパ節転移は甲状腺乳頭がんの生命予後を左右しないとする報告が多いのです。
特に若い年代の人で、リンパ節転移がたくさんある方では、手術後に、残したリンパ節や甲状腺に再発する確率が高い傾向がありますので、術後の経過観察は慎重に行うのがよいでしょう。
とはいえ、このようなリンパ節転移も全てが必ずしも時間の経過とともに増加・増大するものではなく、ある程度のところでそれ以上成長しなくなってしまうことも少なくないようです。
したがって、命を脅かすようなことは(特に若い人の場合は、)通常ないのです。ただし、あまりに巨大なリンパ節転移は要注意であると考えています。巨大化した転移リンパ節ではがん細胞の増殖能が原発巣(甲状腺内の火元の部分)以上に亢進しており、そこからさらに病気が広がっていく可能性があるようです。
癌研有明病院頭頸科における乳頭がん治療成績とオリジナルのがん死危険度分類
1976年1月から1998年12月までに当科で手術した甲状腺乳頭がんの患者さん604人(腫瘍最大径1cm以下の微小がんは除く)の治療成績は、疾患特異的5年生存率で97.6%、10年生存率、94.0%、20年生存率、91.9%です。
各種予後因子を統計学的に解析した結果、当科オリジナルの甲状腺乳頭がん、がん死危険度分類法として、年齢50歳以上で遠隔転移、甲状腺外浸潤、3cm以上のリンパ節転移のいずれかを有する患者さん、および年齢50歳未満で遠隔転移を有する患者さんを高危険度群、それ以外の患者さんを低危険度群と定義することができました。
その結果604人中、498人82.5%が低危険度群、106人17.5%が高危険度群に分類されました。疾患特異的10年生存率はそれぞれ99.3%、68.9%でした。低危険度群における乳頭がんによる死亡(原病死)は498人中3人0.6%のみでした。
(図)当科の甲状腺乳頭がん、がん死危険度分類による低危険度群と高危険度群の疾患特異的生存率

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乳頭がんの治療方針
乳頭がんの治療の中心は手術ですが、その基本方針には大きく二つの考え方があります。
ひとつは欧米式の考え方で、すべての乳頭がんに対して、甲状腺全摘手術を行い、手術後、放射性ヨードによる治療を行った上、生涯甲状腺ホルモン剤による治療を行うというものです。そして、もうひとつは主に日本で発展してきた考え方で、甲状腺の中での乳頭がんの広がりに応じて、甲状腺の切除範囲は小さくし、術後補助療法はなるべく行わないとするものです。また、リンパ節郭清の仕方についても議論があり、予防的に側頸部まで郭清するというものから、術前診断で転移の明らかな領域のみ郭清するというものまで、施設によって、ばらつきがあります。
最近はEBM(evidence based medicine)といって、医療は確固としたデータ(証拠)に基づいて行われなければならないという認識が広まってきていますが、乳頭がんは全般に(どんな治療を受けても)予後が良いため、どの治療ががん死を防ぐのにベストであるか統計学的にはっきりとした結論を出すのが、非常に難しいのです。
したがって、甲状腺切除範囲やリンパ節郭清範囲、術後補助療法については、国ごと、施設ごとにそれぞれ最善と信じる方法によって治療が行われている現状です。
一方、最近では先に述べましたように、乳頭がんのがん死危険度分類の研究が進み、症例ごとの予後が治療開始の時期にかなり見通せるようになってきましたので、それに基づいて個々の患者さんの治療方針を立てる必要があると考えています。
(表)甲状腺全摘と甲状腺縮小切除のメリット・デメリット
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癌研病院頭頸科における甲状腺乳頭がん手術の考え方
甲状腺切除にしてもリンパ節郭清にしても、当然切除郭清範囲を広げれば、そこに含まれる微小な病巣は除去されるので、がんの遺残・再発は幾分減少することが期待されます。
しかし、問題はその遺残・再発が患者さんの生命やQOL(quality of life:生活の質)を実際にどれだけ脅かす可能性があるかという点にあると思います。乳頭がんというやや特殊な種類のがんでは、医学的にがんであっても人体には生涯無害に経過する病変がありうると考えられています。
例えば先に述べたように、乳頭がんのリンパ節転移率は非常に高いが、少なくともあまり大きくないリンパ節転移は生命予後に影響しないというデータが得られています。手術範囲を広げれば、それだけ患者さんのQOLは損なわれることになるのですから、少なくとも低危険度がんと思われる患者さんにすべからく甲状腺全摘や予防的頸部リンパ節郭清の手術を行うべきではないと考えています。
低危険度乳頭がんの治療
がん死する危険のほとんどない低危険度乳頭がんの治療目標は、局所障害の予防のため、局所の病変を過不足なく除去することです。
その際、反回神経麻痺や上皮小体機能低下といった合併症や美観を損なう創はできるだけ残したくありません。
必ずしも全ての症例に甲状腺全摘や予防的郭清は必要ないとの考えで、当科においては、対側病変が腺葉上部に及ぶ場合や両側頸部に明らかなリンパ節転移がある場合に限り、甲状腺全摘または準全摘(甲状腺全摘により失われる怖れのある副甲状腺(上皮小体)を確実に温存する目的で、健側の甲状腺上後部を、副甲状腺とそこへの血管の枝とともに少しだけ残す術式)を選択し、通常は患側腺葉切除を行っています。
またリンパ節郭清は気管周囲の郭清のみを全例に行い、内深頸部領域や縦隔の郭清は同部に触診、超音波検査などによって明らかな転移を認める場合に限り行い、しかもその際、大事な血管・神経・筋肉などは極力傷つけないよう保存的な方法で行うことにしています。
ところで、がん死危険度判定を術前・術中所見によってのみ行うことには無理がないわけではありません。
低危険度がんと思われた症例の中に、ごく一部、再発を繰り返すうちに、悪性度が高くなっていくことがあり、経過観察中に当初の危険度の予測を改めざるをえなくなることも稀にあります。いったん手術操作のおよんだ範囲には術後癒着が起こり、再手術は難しいものです。
低危険度がんに対するわれわれのコンセプトをまとめると、最初の手術は必要最小限の摘除にとどめ、経過観察は慎重に行い、もし再手術を必要とする時はがん死危険度の判定を再検討して充分な摘除に努める、ということになります。
高危険度乳頭がんの治療
高危険度がんとはがん死する可能性のある乳頭がんということで、全乳頭がんの10%前後を占め、うち2~3人に1人ががん死するといわれています。
その比率は施設の性質によっても変わってくるわけで、癌研ではやはり進行がんの患者さんが紹介されてくることが多く、全体に占める高危険度乳頭がんの患者さんの比率が普通の病院より高い傾向がありますが、10年生存率で70%近い治療成績をあげています。
がん死危険度分類の方法も施設ごとのデータにより、微妙な違いがありますが、大体、遠隔転移のある症例、高齢者で大きな腫瘍を認める症例や気管や食道、反回神経など隣接組織内に浸潤する症例などが該当します。
肺や骨などに遠隔転移のある患者さんに対しては、甲状腺全摘手術の後、放射性ヨードによる治療を行うのが一般的です。しかし、遠隔転移を完全に除去することは非常に難しく、状況に応じて、放射線照射や抗がん剤による治療、手術などを組み合わせて、上手に病気とつきあっていくことになります。
幸い乳頭がんの遠隔転移で最も多い肺転移は、通常進行が緩やかで、10年以上症状が出ないというようなことも珍しくありません。
隣接臓器に直接浸潤する乳頭がんの患者さんに対しては、切除した部位の再建手術方法の進歩もあって、気管・喉頭、食道・下咽頭などの合併切除や縦隔郭清を含む拡大切除が行われるようになってきています。拡大手術は声への影響が出ることが多いことや、遠隔転移をともなっていることが多いことから、あまり行わないほうが良いという意見もありますが、当科では、拡大手術を状況に応じて安全に行うことで、腫瘍による呼吸困難、嚥下困難などの辛い症状を除去し患者さんのQOLを高めることができると考えています。
しかしながら、高危険度群の乳頭がんの中には、確かにきちんとした手術を行っても次々と再発して次第に未分化がんの状態に陥っていったり、進行の早い遠隔転移を認めたりして、どんな治療も効果なく不幸な転帰をたどるケースが厳然として存在します。そのような患者さんにたいする新しい治療法の開発が今後の課題となっています。
甲状腺微小乳頭がんの取り扱い
腫瘍最大径が1cm以下の乳頭がんを特に微小(乳頭)がんと呼んで区別しています。無症候性の微小がんは、これまで述べてきた"通常命に関わることはない"低危険度群の乳頭がんの典型的な例であり、治療(手術)の必要すらないのではないかという考えがあるのです。
甲状腺以外のいろいろな原因で亡くなった、さまざまな年齢・性別の方々の甲状腺を解剖して調べてみると、実に多くの人たちが、生涯気づかずに過ごした無症候性の甲状腺微小がんを持っていたということがわかりました(報告により8~28%、すなわち10人に1~2人)。それにも関わらず、実際に乳頭がんにかかる人は女性10万人あたり年間わずか3人ほどなのです。つまり、ほとんどの微小乳頭がんは、小さいまま、臨床的に問題になるほどの局所浸潤、血行性転移をきたすことなく生涯無害に経過するということになります。
最近では超音波検査など診断技術の進歩により、1cm以下の微小がんがみつかることが多くなってきています。当初は早期発見・早期治療の鑑として考えられたこともありましたが、以上のような事実から、健康診断などで超音波検査を駆使して微小がんの発見に努め、それを片端から手術することは、病人を治すのではなく、病人を作り出すことになり、予防医学上もあまり意味のないことと考えられるようになりました。
しかし、偶然見つかってしまった微小がんをどう取り扱うかについては、これまで必ずしも一定の基準がありませんでした。微小がんにおいても(微小な)リンパ節転移は高頻度に起こることから、通常の乳頭がん同様の手術を勧める意見も根強くあり、実は当科でも以前は微小がんが見つかり次第、全て手術を行っていました。しかし、当科で手術治療を行った微小がん患者178人のうち、遠隔転移や明らかなリンパ節転移(最大径1cm以上)、反回神経麻痺といった臨床症状をいっさい認めなかった148人中にはがん死者は皆無でした(表)。
当科における甲状腺微小乳頭がんの手術後の状況(1976~1993年)
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注) 有症候性:初治療時に臨床的に明らかな1cm以上のリンパ節転移(n=28)または反回神経麻痺(n=5)をともなっていた患者。遠隔転移をともなうもの、その他の臓器に浸潤するものはなかった。
この結果をうけて当科では、1995年以降、無症候性の微小がんの患者さんに対しては十分な説明を行い、患者さんの同意が得られれば、手術をすぐに行うことはせず、経過観察する方針にしました。ただし、明らかなリンパ節転移や遠隔転移、隣接臓器への浸潤所見のある有症候性の微小がんははじめから除外しました。経過観察の方針に同意された場合、ほぼ6ヶ月毎に超音波検査などにより、腫瘍径、リンパ節転移、周囲組織との関係や遠隔転移の有無をチェックすることにしました。また、その検査により明らかに腫瘍の増大が認められた場合や反回神経をはじめとする周囲組織に接するもの、明らかなリンパ節転移や血行性転移を認めたものには、方針を変更して手術を行うことにしました。現在まで60病巣について1~10年の経過観察を行いましたが、腫瘍の大きさは12例 (20%)が縮小、36例(60%)は不変でした。12例(20%)は増大し、うち2例では手術を行いました。しかし、経過中に明らかなリンパ節転移や遠隔転移、甲状腺外浸潤を生じた症例はなく、微小がんの経過観察という方針は妥当であると考えています。
Chapter.6:甲状腺濾胞(ろほう)がんの診断と治療
濾胞がんの特徴
| ・ | 日本では甲状腺がん全体の5%前後を占める。 |
| ・ | 診断はやはり超音波検査、細胞診および血液検査を行うが、濾胞がんは、濾胞性腫瘍として良性腫瘍の濾胞腺腫と一括されることもあるくらいで、がんの細胞の特徴に乏しい。したがって診断が難しく、最終的には手術して摘出した腫瘍を顕微鏡で詳しく調べて、初めてがんと診断されることがある。 |
| ・ | 乳頭がんに比べて局所浸潤やリンパ節転移が問題となることは少なく、遠隔転移を生じない症例の予後は良好である。多くは、甲状腺切除手術によって治るが、一部、血行性の遠隔転移を肺や骨に起こして、難治の場合がある。 |
| ・ | 血行性転移に対しては、まず甲状腺全摘を行い、放射性ヨード治療を行うが、根治に至るケースはむしろ稀で、適宜、放射線外照射、手術、抗がん剤治療などを行う。 |
濾胞がんに対する治療方針
濾胞がん全例に甲状腺全摘を勧める考え方と、もうひとつ、腫瘍被膜がよく保たれており、肉眼的に濾胞腺腫と区別しがたい微少浸潤(被包)型の濾胞がんには腺葉切除で十分という考え方があります。
濾胞がんは同じ甲状腺濾胞細胞由来の分化がんである乳頭がんに比べ、腺内転移やリンパ節転移、気管や食道などへの直接浸潤を来すことは少ない反面、血行性の遠隔転移を肺や骨に起こすことがあるので、甲状腺全摘をしておけば、いつでも遠隔転移に対して放射性ヨード治療が行える上、遠隔転移がない場合でも、血中サイログロブリンが再発・転移の良いマーカーとなるメリットがあります。
しかし、遠隔転移を来す可能性の低い濾胞がんを術前ないしは術中までに区別しえれば、甲状腺全摘をすべての症例に行わなくて済み、甲状腺機能低下や上皮小体機能低下、反回神経麻痺といったQOLを損なう合併症のリスクを減らすことができます。
そして、遠隔転移の可能性の高い濾胞がんに対してのみ、甲状腺全摘を行って、術後放射性ヨードで全身検索を行い、取り込みのある転移巣が見つかった場合に放射性ヨード治療を行えばよいと考えられます。
遠隔転移を生じやすい濾胞がんを区別できるか
濾胞がんとは、乳頭がんの特徴を持たない甲状腺濾胞細胞由来の腫瘍のうち、腫瘍組織が被膜(カプセル)を破っているか、腫瘍細胞が血管内に侵入している、または転移(リンパ節、血行性)をともなっている腫瘍をいいます。要するに、転移が明らかな場合を除いては、手術前に濾胞がんと言い切ることは理論上不可能なわけです。
それではすべての濾胞性腫瘍(濾胞腺腫:良性腫瘍を含む)は手術しなければならないのでしょうか。すべて、遠隔転移の恐れがあるということで、甲状腺を全摘しなければならないのでしょうか。濾胞腺腫と濾胞がん、遠隔転移を生じやすい濾胞がんとその恐れの少ない濾胞がんを区別する方法はないのでしょうか。
絶対確実な方法は残念ながらありません。しかし、いくつか状況証拠といえるものはあります。
当科で経験した濾胞がん患者34人(1985-1999年、男11、女23、27-76歳)のうち遠隔転移を生じた患者さんは11人(骨7、肺2、骨+肺 2)で、うち4人が原病死しました。一方、遠隔転移を生じなかった患者さん23人中には濾胞がんによる死亡は1人もありませんでした。ある意味で、遠隔転移のない濾胞がんは、良性腫瘍と同じに扱ってよいのかもしれません。少なくともこれらの患者さんに甲状腺全摘は必要ないように思われます。
さらに遠隔転移例では、非遠隔転移例と比較して、
(1)術前の血中サイログロブリン値が著しく高いことが多い、
(2)術後血中サイログロブリン値が正常化しない、
(3)手術直後に切除した腫瘍の割面を見ると、被膜が肉眼でわかるほどはっきり破れていたり(広汎浸潤型濾胞がん)、分厚い被膜を持つものが多い、
(4)顕微鏡で見ると脈管侵襲陽性で、低分化成分(予後不良の症例に多い、顕微鏡検査でわかる特異的な組織構造)を持つものが多い、といった特徴がありました。
これらのうち、(1)、(3)および(4)の一部の所見については手術前の血液検査や超音波検査、細胞診と手術中の肉眼所見や迅速病理組織検査で情報が得られ、手術方針を決めるのに役立つのではないかと考えています。
甲状腺濾胞がんの治療とその後の状況
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甲状腺がんの放射性ヨードによる治療について
甲状腺乳頭がんまたは濾胞がんの、主に遠隔転移(肺、骨など)に対して放射性ヨード(131I)を用いたアイソトープ(RI)治療(内照射治療)が行われることがあります。
ヨードのカプセルを飲むと、体内では甲状腺だけにヨードが取り込まれる性質を応用したものです。ヨードに放射能を付けたものを内服すると、甲状腺に取り込まれ、そこで放射能を出して、甲状腺の組織が壊れます。これはバセドウ病の治療に使われる方法の一つです。
あらかじめ甲状腺を手術で全摘しておけば、放射性ヨードは体内で甲状腺に近いところ、甲状腺由来の部分を探し、甲状腺がんの遠隔転移部位に取り込まれれば、そこで放射能を放出して、がん細胞が死んでくれることが期待されるのです。
放射性ヨード治療を行うためには、甲状腺を全摘した後、体を甲状腺ホルモンとその材料であるヨードに飢えた状態にする必要があります。そのため、術後約2 週間、通常の甲状腺ホルモン補充の場合に使うホルモン剤(T4製剤)とは異なる代謝の良いホルモン剤(T3製剤)で甲状腺ホルモンの補充を行い、その後約 2週間は(ちょっとだるくて辛いのですが)、甲状腺ホルモンの補充をストップして、放射性ヨード治療に臨みます。この間は海藻などヨードを含む食品も食べてはいけません。麺類のだしやヨード入りのうがい薬などにも注意が必要です。
甲状腺がんに対する放射性ヨード治療は入院して行います。初日に放射性ヨードの入ったカプセルを内服していただき、あとは1週間くらいおとなしくしていただくだけです。その間、ご自身から放射能が出ているという状態になりますので、個室に入っていただくことになり、外出できないのが辛いところだと思います。
副作用としては、放射性ヨードが通っていく消化管への影響として、嘔気・嘔吐、下痢、味覚の変化、唾液の減少などのほか、卵巣への被爆、白血球減少などが問題になる場合があります。しかし一般に、直接放射線を患部に当てる外照射や抗がん剤治療に比べると副作用は少ないといえます。
目標とする遠隔転移部位に放射性ヨードが取り込まれれば、3ヶ月~1年おきに数回同様の放射性ヨード治療を行います。がんの性質によっては放射性ヨードが全く取り込まれない場合もあり、そのような場合は残念ながら効果なしということになります。一般に若い患者さん、転移のサイズが小さい場合、血中サイログロブリンがよく上昇している場合などに効果が期待されます。
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説明文にて掲載している諸症状で思い当たる節があった場合など、
がんについての疑問・不安をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。
自己判断で迷わず、まずは専門家である医師の検診を受けることをお勧めします。
ご相談はがんの相談ページからどうぞ。