がんに関する情報
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センチネルリンパ節

センチネルリンパ節

最終更新日 :2018年6月14日

目次

Chapter.1: センチネルリンパ節の位置付けと意義

がんの治療は、現在大きくは2つの要素から成り立っています。まず、第一には、「生存率を向上させる」ことです。近年、がんの生存率が向上してきました。次に現れた要素として、「生存の質を低下させない」ことです。乳がんは治療法の進歩で世界的に生存率が向上しています。原発巣に対しては旧来の胸筋まで切除するハルステッドの手術から、胸筋温存のオーチンクロスの手術を経て、乳房温存療法が行われるようになってきています。リンパ節は転移することが多く、転移の個数などが手術後の予後因子として重要な役割を果たすため、手術後のアジュバント療法の大きな指標となるため腋窩郭清(脂肪と共に一塊として取ってしまう)が行われてきました。

1977年にCabanas RMは、「腫瘍から最初にリンパ流を受けるリンパ節をセンチネル節と命名」し、センチネル節を検索することで更なるリンパ節郭清の必要性を決定できると提唱しました。1992年にMorton DLは、Melanoma に色素を用いてリンパ管およびセンチネル節を同定しました。1993年に Alex とKragは、乳がんに放射性物質を用いてセンチネル節を同定しました。

その後、急速にmelanomaと乳がんではセンチネル節の手法が欧米を中心に多数行われて、標準的な方法になりつつあります。乳がんでは腋の下のリンパ節を郭清することでの副作用がかなり多く、センチネル節の手法を用いることにより、より良い生存(QOLの向上)が期待されます。

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Chapter.2: センチネル節の方法

色素を使用する場合と放射性同位元素を用いる方法がありますが、精度等で放射性同位元素を用いる方法の方が優れていると考えられます。

放射性同位元素で標識した大分子(コロイド)を、がんの周囲(がん自体に注射する施設も少ないながらあります)に注射しますと、生体は異物が入ってきたのでリンパシステムを動員して排除しようとします。リンパ管を通ってリンパ節に流れ込みます。リンパ節に達したコロイド(コロイドの大きさは、リンパ節に流れ込んでリンパ節に留まる様な大きさのものを用いる。小さすぎるとリンパ節をすり抜けてしまう。大きすぎると流れない。)は、そこに留まります。

がんのリンパ節転移もこの経路を利用して生じると考えられます。

そこで、乳がんの場合には、手術の時にセンチネル節をリンパ節にある放射能を検出することで見つけ、そのリンパ節のみを切除し病理検査を行います。センチネル節にがんの転移が認められない場合には、リンパ節の郭清を行いません。通常、放射能が入るリンパ節は1−3個ですので、この程度のリンパ節を切除しても、従来の郭清による合併症の発症の危険性はありません。

センチネルリンパ節の画像を示します。 注射部位に放射能がありますが、腋窩リンパ節(↓)に放射能が流れ込んでいることが分かります。

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Chapter.3: 放射性同位元素を用いることでのデメリット(被ばくの問題)

放射性同位元素を用いますので被ばくの心配があると思います。この手法に用いる放射能は極わずかですし、骨シンチグラフィに用いる40分の1から20分の1です。また、注射部位は手術の時、通常切除されますので患者さんには特に問題になりません。

少量の投与ですが、病院のスタッフでセンチネルの仕事に関与される方々は毎日少しですが被ばくすると考えられます。「塵も積もれば山となる」と考えられる方もいらっしゃると考えられます。実際のスタッフの被ばく量は、どれ位あるのか測定しました。また、切除された腫瘍を含む乳腺組織は鉛を張った容器に入れて被ばく軽減を行っています。

センチネル節のスケジュールは、1日法と2日法があります。

1日法:朝注射し、1-2時間後に撮像、午後手術。
2日法:前日午後注射し、1−2時間後に撮像、翌日手術。
被ばく量・1回の手術 表示:μSv平均値(範囲)

1日法
7.4 1(1-2) 0(0-1) 0(0-0) 0(0-0)
11.1 1(1-3) 1(0-1) 0(0-0) 0(0-0)
14.8 2(2-4) 1(0-1) 0(0-0) 0(0-0)
17.5 2(1-3) 1(0-2) 0(0-0) 0(0-0)
22.2 2(1-3) 0(0-1) 0(0-0) 0(0-0)
29.6 5(3-6) 2(1-2) 0(0-1) 0(0-0)
37 6(4-6) 2(1-2) 0(0-0) 0(0-0)
2日法
37 1(0-2) 1(0-1) 0(2-4) 0(0-1)
44.4 2(1-3) 0(0-0) 0(0-0) 0(0-0)
55.5 3(2-4) 0(0-1) 0(0-0) 0(0-0)
74 4(4-6) 2(2-2) 0(0-0) 0(0-0)

レニウムコロイドでの成績です。 至適投与量決定のために行いました。

1日法では、11.1MBq、2日法では37MBqをその後の投与量としました。術者で平均1-2μSvでその他の人にはほとんど被ばくがありません。なお、乳房温存手術ではガーゼに1μCiの放射能が付着することがあります。

また、1日法では、尿に0.5μCi程度の放射能が出ることあります。その後、我々の施設ではフチン酸に変更していますが、被ばく量は、1日法で、術者;2.4μSv(投与量 14.8 MBq)、2日法で、術者;1.6μSv(投与量 55.5MBq)です。ちなみに、1日の自然被ばく量は、世界平均で一日6.6μSvです。

以上から、センチネル節検出における医療従事者の被ばくは、注意しなければならないがあまり問題となるものでないと考えられます。

日本では、当初、Tin-colloidやHASが用いられました。HASは小さすぎてリンパ節をすり抜けます。また、Tin-colloidは大きすぎてリンパ節への移行が悪いため検出率が欧米の成績に劣っていました。現在では、Tin-colloid の標識方法を工夫し、もう少し小さな粒子で用いている施設とフチン酸を用いている施設が多いと考えられます。標識の簡便性から、我々の施設では現在ではフチン酸を用いています。当初は、我々はレニウムコロイド(Rhenium sulfide)を個人輸入で使用していましたが、輸入の煩雑さ、標識の煩雑さ、臨床成績よりフチン酸に変更しました。

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Chapter.4: 技術的な問題

使用されているコロイドの種類と大きさ

Agent Size(nm) comment
HAS 2-4 Japan
Dextran 2-4  
HAS-D 5-15 Japan
Antimony trisulfide colloid 3-50 Australia
Colloidal Albumin (Nanocoll) 3-70 EU
Sulfur colloid (filtered) 50-100 USA
Rhenium sulfide (Nanocis) 50-150 EU
Sulfur colloid (unfiltered) 100-600 USA
Phytate 200-1000 Brazil, Japan
Colloidal Albumin (Albu-Res) 200-2000 EU
Tin colloid 400-5000 Japan
Mannose -dextran (lymphoseek) 7 (receptor-binding)
(JNM 42:1198,2001, 臨床放射線46:1373、2001,
Ann Surg Oncol 10:531,2003)

上記表は、センチネル節検出に現在世界中で用いられているコロイド粒子をまとめたものです。これらのコロイドをTc-99mという放射性物質で標識してセンチネル節検出に用いています。表を見て分かると考えますが、非常に数多くのコロイド粒子が用いられています。また、粒子の大きさも様々です。当初の成績では、粒子径100nm程度が良いとされていましたが、その後の検討で、もう少し大きいサイズのものが好まれるようになってきています。現在は、約200nm程度のものが広く用いられています。

投与の方法は、当初は腫瘍周囲の深い部分に投与されていましたが、皮膚の浅い部分に投与したほうがリンパ節によく流れるということで、世界中で浅い所(皮下や皮内)に注射をする方法が試みられました。さらには、乳房は1つのユニットであるとの考え方から、腫瘍から離れた乳輪付近に注射する方法も行われています(乳輪への投与の経験は我々はありません。)。しかし、浅い部位に注射をすると内胸リンパ節がほとんど描出されない問題があります。また、腋窩リンパ節でも偽陰性(腋窩リンパ節に転移があるものの、放射能の流れこんだリンパ節には転移がない)があります。そこで、我々は、投与法の比較を行いました。すなわち、皮膚の浅い部分のみの投与と皮膚の浅い部分と深い投与を組み合わせた方法を比較しました。その結果、浅い部分のみの注射よりも、浅い投与と深い部分への投与を組み合わせた方が、腋窩リンパ節の検出数、内胸リンパ節の描出ともに優れていました。厳密には比較できませんでしたが、腋窩リンパ節に転移があるにもかかわらずセンチネル節が陰性となる偽陰性も減少しました。投与は、現在では浅い部位と深い部位を組み合わせた方法で行っています。

センチネル節の摘出の問題では、最も放射能の高いリンパ節が必ずしもセンチネル節ではないので、どの程度の放射能があるリンパ節まで摘出すべきかが問題となってきます。我々は、摘出したセンチネル節の放射能、摘出の順番などを検討しました。結論は、放射能が少しでも検出出来る場合は摘出すべきであるとなりました。

腫瘍の位置がセンチネルリンパ節に近い場合には、投与部に残る(約80%が残る)放射能のために、センチネル節が見えない場合があります。我々は、多方向から撮像することでこの問題の解決を図りました。また、現在、SPECT/CTというシンチ画像とCT画像を同時に撮ることで、センチネル節と筋肉の関係など、センチネル節が解剖上どこにあるかを、より詳細に検討しています。

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Chapter.5: センチネル節関連文献

  1. 小泉 満、野村 悦司、山田 康彦、滝口 智洋、高橋 かおる、多田 隆士、斉藤 光江、内田 恵博、蒔田 益次郎、吉本 賢隆、霞 富士雄、高橋 民雄、関根 七巳江、尾形 悦郎:乳がんセンチネルリンパ節の核医学的検出法における医療従事者の被ばくの検討  核医学 38:47-52、2001.
  2. Koizumi M, Makita M, Yoshimoto M, Kasumi F, Sakamoto G, Ogata E: Indication for Sentinel Lymph Node Biopsy in Patients with Breast Cancer: retrospective and simulation analyses. Jpn J Clin Oncol 32: 517-524, 2002.
  3. Koizumi M, Nomura E, Yamada Y, Takiguchi T, Tanaka K, Yoshimoto M, Makita M, Tada T, Sakamoto G, Kasumi F, Ogata E: Sentinel node detection using Tc-99m rhenium sulfide colloid in patients with breast cancer: 1-day and 2-day protocols with dose finding study. Nucl Med Commun 24:663-670, 2003.
  4. Koizumi M, Nomura E, Yamada Y, Takiguchi T, Makita M, Iwase T, Tada T, Tada K, Nishimura S, Takahashi K, Yoshimoto M, Kasumi F, Akiyama F, Sakamoto G, Ogata E: Radio-Guided Sentinel Node Detection in Breast Cancer Patients: Comparison between Tc-99m Phytate and Tc-99m Rhenium Colloid. Nucl Med Commun 25: 1031-1037, 2004.
  5. Koizumi M, Nomura E, Yamada Y, Takiguchi T, Ishii M, Tada K, Nishimura S, Takahashi K, Makita M, Iwase T, Yoshimoto M, Kasumi F: Improved detection of axillary hot nodes in lymphoscintigraphy in breast cancer located upper lateral quadrant with additional projection imaging. Ann Nucl Med 18:707-710, 2004.
  6. Takagi K, Uehara T, Kaneko E, Nakayama M, Koizumi M, Endo K, Arano Y: Tc-99m labeled mannosyl-neoglycoalbumin for sentinel lymph node identification. Nucl Med Biol 31:893-900, 2004.
  7. Tada K, Nishimura S, Miyagi Y, Takahashi K, Makita M, Iwase T, Yoshimoto M, Kasumi F, Koizumi M: The effect of an old surgical scar on sentinel node mapping in patients with breast cancer: a report of five cases. Eur. J Surgical Oncol 31:840-844, 2005.
  8. Morota S, Koizumi M, Koyama M, Sugihara T, Tada T, Miyagi Y, Nishimura S, Makita M, Iwase T, Yoshimoto M, Kasumi F. Radioactivity Thresholds for Sentinel Node Biopsy in Breast Cancer. Eur. J Surgical Oncol 32:1101-1104, 2006
  9. Mori M, Tada K, Ikenaga M, Nishimura S, Miyagi Y, Takahashi K, Makita M, Koizumi M: Frozen section is superior to imprint cytology for the intraoperative assessment of sentinel lymph node metastasis in stage I breast cancer patients. World J Surgical Oncology. 4:26:2006
  10. Koizumi M, Koyama M, Yamashita T, Tada K, Nishimura S, Takahashi K, Makita M, Iwase T, Yoshimoto M, Kasumi F:Our experience with intradermal injection and intradermal-plus-deep injection in the radioguided sentinel node biopsy of early breast cancer patients. Eur. J Surgical Oncol 32: 738-742, 2006.
    Also, published in The Breast cancer.Net News for: Monday, September 25 2006
  11. Koizumi M, Koyama M, Tada K, Nishimura S, Miyagi Y, Makita M, Yoshimoto M, Iwase T, Horii R, Akiyama F, Saga T: The feasibility of sentinel node biopsy in the previously treated breast.  EJSO 34:365-368,2008.
  12. Nishimura S, Koizumi M , Kawakami J, Koyama M. Contralateral Axillary Node Metastasis from Recurrence after Conservative Breast Cancer Surgery. Clin Nucl Med 39; 181-183, 2014
  13. Koizumi M, Koyama M, Morizono H, Miyagi Y. Sequential sentinel node scintigraphy with planar and SPECT/CT images revealed contralateral drainage from ipsilateral breast tumor relapse in a patient with bilateral breast cancer. Clinical Nuclear Medicine in press 2018.

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