がんに関する情報

疾患別の薬物療法

最終更新日 : 2018年2月7日

目次

Chapter.1: 乳がんに対する薬物療法

抗がん剤療法の有効性

乳がんに対する抗がん剤療法の有効性は確立されています。しかし、乳がんの置かれた状況によって期待できる抗がん剤療法の効果も異なります。

大きく分けて3つの状況があります。

  1. 転移・再発乳がんでは症状の緩和と延命が期待できます。
  2. 手術の前に抗がん剤療法先行する場合(術前化学療法といいます)にはがんの縮小に伴い、温存手術、縮小手術が期待できます。
  3. 手術後の補助療法では予防的抗がん剤療法により治癒する確率が高くなります。

抗がん剤以外に乳がんの治療には副作用が軽微なホルモン療法という選択があります。抗がん療法の治療効果には限界があり、少なからず副作用を有することから、抗がん剤をいつどのような目的で行うのか、適切な判断をするのが重要です。

転移・再発乳がんの抗がん剤療法

アンソラサイクリンの代表薬剤はアドリアマイシン(アドリアシン)とエピルビシン(ファルモルビシン)です。アドリアマイシンを含むCAF療法(またはFAC療法) またはエピルビシンを含むFEC療法(またはCEF療法)が現在の標準的治療であり、その奏効率は50〜60%です。

チューブリン阻害剤であるタキサンの有効性も確立されています。タキサンにはドセタキセル (タキソテール)とパクリタキセル(タキソール)があります。タキサンの奏効率は30〜50%を期待できます。アンソラサイクリンが効かない場合にもタキサンの効果は期待できます。反対にタキサンが効かない場合にはアンソラサイクリンの効果が期待できます。アンソラサイクリンとタキサンは乳がんの治療の中心となる薬剤と考えられています。

そのほかの抗がん剤には S−1(TS−1)、カペシタビン(ゼローダ)、エリブリン(ハラヴェン)、ゲムシタビン(ジェムザール)、ビノレルビン(ナベルビン)などがあります。

HER2陽性の乳がんに対してはトラスツズマブ(ハーセプチン)の有用性が証明されています。HER2陽性乳がんに対する薬剤には、ペルツズマブ(パージェタ)、トラスツズマブ・エムタンシン(カドサイラ)、ラパチニブ(タイケルブ)などがあります。

抗がん剤の使用による不快感

抗がん剤で気持ち悪くなったり、食欲が落ちてしまうのはつらいものです。現在は、抗がん剤による吐き気、おう吐を予防する薬が発達してかなりおさえられるようになりました。

アドリアマシン(アドリアシン)やエピルビシン(ファルモルビシン)を含む治療はもっとも吐き気を起こす可能性があります。

アドリアマシンを投与して数時間はなんともないことが多いのですが、投与日の夜や翌日になってから吐き気がでることがしばしばあります。吐き気は普通、 2〜4日間ほど続きますが、その後、徐々に回復し1週間もたてばなんともなくなります。吐き気が1週間以上も長びくのは非常に敏感な方の場合ですがまれなことです。アドリアマイシンは通常3週間に1回の頻度で行う治療ですので、最初の1週間は調子が悪くなりますがそのあとは普通に食欲も戻ります。

従って、延々と気持ち悪い、食べられないわけではありませんので、やせ衰えて体力がなくなってしまうことはまずありません。反対に、がんばって食べ過ぎて太ってしまう方もいらっしゃいます。アドリアマイシン以外の抗がん剤では吐き気はずっと軽く、楽な場合が多いと予想されます。

吐き気はひとによってかなり個人差があります。全くなんともないひともたくさんいます。吐き気があっても軽い人も多いですし、ひどい吐き気を起こす方はむしろ少ないのです。このような個人差をあらかじめ科学的に予測することはまだできません。はじめから吐き気が強いと思いこんで治療を受けないで、病気を良くするチャンスを逃すのはもったいないことです。

抗がん剤の使用による脱毛

ある種の良く効く抗がん剤、例えばアドリアマイシン、エピルビシン、ドセタキセル、パクリタキセルでは頭の髪の毛はほとんど抜けます。抗がん剤を注射してすぐに抜けるわけではありません。通常は投与後、約2週間経ってから抜け始め、3週間目になるとバサバサとぬけます。4〜5週間たつとほとんど抜けてしまいます。

治療をどのくらいの期間、続けるかは病状と副作用の様子によって違ってきますが、通常は数ヶ月続けることが多くなります。従って、治療を続けている間は髪の毛は抜けた状態が続きます。

しかし、治療が終了すれば抗がん剤の影響はとれて、必ず髪の毛は生えてきます。抗がん剤が終了してから3ヶ月たつと短い毛は生えそろい、6ヶ月もするともとの髪の毛に戻ります。残念ながら、脱毛を予防する薬や方法はありません。髪の毛が抜けている間はかつらを利用して頂くのが良いでしょう。

髪の毛が抜けることはショックですが、治療効果を最大限にあげるときは、このような抗がん剤をどうしても使わなければならないことがあります。もしどうしても脱毛が嫌なかたは、髪の毛が抜けにくい他の治療があなたにとって適切な治療かどうか主治医とよく相談してください。

抵抗力の低下

抗がん剤を注射したあと1〜2週後には血液の白血球が低下することが一般的です。

抗がん剤の種類や量にもよりますが、白血球の減少がひどいときに発熱した場合は注意する必要があります。

白血球が少ないとばい菌に対する抵抗力が弱くなり、風邪をひくとすぐに発熱することがあります。高い熱がでたときになにもしないでいると、こじらせて肺炎になってしまうことがあります。肺炎を予防するために、もし熱が37.5℃以上になったときは抗生物質の薬をすぐに飲み始めてください。いったん、飲み始めたら最低3日間は内服を続けて下さい。

そのときのためにあらかじめ抗生物質のお薬を処方しますので、お手元に置いていつでも飲めるようにしておいてください。もし、抗生物質の内服を開始して翌日になっても熱が下がる傾向がないときや、そのほかに心配な症状があるときは、主治医の先生に電話でご連絡ください。ご様子を伺ったうえで、早急に抗生物質の点滴や白血球を上げる注射などを行う必要があるかを判断します。場合によっては入院が必要な場合もあります。

実際に肺炎になってしまうのは珍しいですが、このように、あらかじめ入念な対策をとることで肺炎はほとんど未然に防ぐことができます。風邪をひかないように気をつけていただくことは大事ですが、あまり神経質になる必要もありません。人混みで風邪を拾わないように気をつけることは望ましいことですが、どうしても人混みのなかに出なくてはならないこともあると思います。たとえば、通院のとき混んだ電車に乗ってこなくてはならないとか、自分で買い物をしなくてはならないとか、生活のうえで必要なことは仕方がありません。しかしその際、他人のつばや、せき払いが直接かかることに注意して下さい。

マスクをつけていただくと、つばや、せき払いのような濃厚な感染を防げます。マスクで風邪をすべて防げるわけではありませんが、治療直後から白血球が低下している間の時期(治療のあと1〜2週間まで)に人混みに出るときはマスクをすることをお勧めします。可能ならば、予定を治療の影響のない時期に延期していただいたほうが無難でしょう。

パクリタキセルの副作用について

パクリタキセルではくすりのアレルギーを起こすことがあります。

もし、いままでに他の薬で強いアレルギーを起こしたことのあるかたはパクリタキセルを使用できません。

アレルギーを予防するために、抗がん剤投与の30分前に抗ヒスタミン剤を内服した後、ステロイド(デカドロン)と抗セロトニン剤を点滴注射します。実際に強いアレルギー症状をおこすことは極めてまれですが、軽いアレルギー症状はときにあります。パクリタキセルの治療では頭の髪の毛はほとんど抜けてしまいます。

しかし、注射してすぐに抜けるわけではありません。通常は投与後、約2週間経ってから抜け始め4〜5週間たつとほとんど抜けてしまいます。

治療を続けている間は髪の毛は抜けた状態が続きます。しかし、治療が終了すれば抗がん剤の影響はとれて、必ず髪の毛は生えてきます。抗がん剤が終了してから3ヶ月たつと短い毛は生えそろい、6ヶ月もするともとの髪の毛に戻ります。

残念ながら、脱毛を予防する薬や方法はありません。髪の毛が抜けている間はかつらを利用して頂くのも良いでしょう。パクリタキセルの治療で気持ち悪くなることはほとんどありません。軽い吐き気や、食欲低下がみられることがありますが、強いものはないだろうと予測しています。

むしろ、食欲が増えて食べ過ぎてしまうこともあります。念のため、吐き気予防の薬は点滴で使用します。点滴回数が増えるにつれて、手の指先、足の指先にピリピリとしびれを感じることがあります。症状が強いときは治療を休む場合もあります。

ときには、体が疲れやすい、関節痛、筋肉痛、口内炎、味覚の変化、爪の変化、便秘、むくみ、めまい、肝機能異常などがありますが、程度は軽いことがほとんどです。まれな副作用としては血圧低下、不整脈、間質性肺炎が報告されています。

分子標的薬剤としてのハーセプチンの意義

HER2(ハーツー) (Human Epidermal Growth Factor Receptor Type 2)はヒトがん遺伝子のひとつです。その産物であるタンパク質は膜蛋白質受容体です。

ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)はHER2受容体に対するモノクローナル抗体です。

HER2過剰発現をした転移乳がんの治療薬、再発予防薬と有用です。

一般的にはHER2存在の有無は簡便な免疫組織法(ハーセプ・テスト)で判定します。3+の陽性の場合またはFISH陽性の場合にハーセプチンは適応となります。全乳がんの約20%がHER2陽性です。治療の効果をあらかじめ正確に予測し、治療計画をたてることは重要です。例えば、ホルモン・レセプター陽性の場合にはホルモン療法の有効性は高いことが予測されますのでホルモン療法が適応となります。

しかし、抗がん剤ではその有効性を確実に予測する方法は未だに確立されていません。抗がん剤は様々な作用機序を有し、単一の標的ではありません。モノクローナル抗体であるハーセプチンはHER2のみを標的とする薬剤であり、鍵(key)と錠(lock)の関係となります。HER2が存在して始めてハーセプチンが効く可能性があります。

このようにHER2を検査することにより、治療方針を明確に決定できるようになりました。個人、がんの個性にあった治療が可能となりました。分子標的薬剤は抗がん剤ほど広域ではなく、対象は限られますが標的の有無により治療の選択ができるのが最大の利点です。

ハーセプチンの副作用について

最も現れやすい副作用は発熱です。10人中4-5人の割合で38度以上の発熱が見られます。

この発熱は2-3日以内に落ち着くことがほとんどです。発熱があったときは解熱剤が有効ですので適切に対処します。その他、悪寒(さむけ)全身倦怠感(だるさ)熱感、戦慄(ふるえ)、吐き気、嘔吐、食欲低下、頻脈(どきどき感)、肝障害、などが10人に1-2人の割合で見られます。

その他、骨痛、ほてり、頭痛、筋肉痛、胸部痛、上腕痛、しびれ、咳、目やに、耳鳴りなど報告がありますが頻度は低いものです。いずれの副作用も一時的な症状でおさまると予想されます。まれな副作用として注意しなくてはならないのは心臓への副作用です。通常の状態では現れないと予測されますが、以前に心臓の病気をしたことのある方、アドリアマイシンのような抗がん剤をたくさん受けた方、胸部に放射線治療をたくさん受けた方では注意をして行う必要があります。

もし、心臓の機能が落ちている場合はハーセプチンが使用できません。安全に治療を行うために、前もって心臓の機能の検査を受けて頂きます。具体的には内科 (循環器)の心臓の専門の先生の診察を受けた後、心臓の超音波検査(エコー)で心臓の機能を調べます。最近、胸部レントゲン撮影、心電図の検査をしていない場合は、内科受診の前にそれらの検査を受けてください。その結果を心臓の先生が見て、超音波検査(エコー)を行います。

その他、ショック、呼吸不全、肝不全、白血球減少、腎障害、昏睡、敗血症などの副作用の報告がありますが、その頻度は稀です。これらは全身状態が極めて悪いときには起こるかもしれませんので、全身の体力、臓器の機能が保たれているときにハーセプチンの治療を受けるようにお勧めします。体力が十分あるときはまずおこらないと予想しています。狂牛病(伝染性海綿状脳症)がハーセプチンにより伝播したという報告はありません。ハーセプチンの製造過程で牛のひ臓由来成分を含む培地を使用していますので、可能性が絶対ないとは言い切れません。

しかし、この危険よりも治療を受けて得られる利益のほうがずっと大きいと考えられます。

ホルモン療法の種類

乳がんに対するホルモン療法は、がん細胞への女性ホルモンの影響を何らかの仕組みで抑えるものです。

一般に使用されているホルモン剤は以下のように分類されます。

LHRH アゴニスト:ゾラデックス、リュープリン
中枢神経を介して卵巣からの女性ホルモン分泌を減少させ、閉経を人工的に起こします。
抗エストロゲン剤:タモキシフェン(ノルバデックス、タスオミン)、フェアスト、フルベストラント
女性ホルモン(エストロゲン)が乳がん細胞に作用して刺激するのを抑えます。
アロマターゼ阻害剤:アリミデックス、フェマーラ、アロマシン
閉経後の方で脂肪、がん組織等でエストロゲンが作られるのを抑えます。
プロゲステロン剤:ヒスロンH
女性ホルモンの一種ですが、エストロゲン産生を抑えるなど種々の作用があります。
*ホルモン治療と併用する最近の分子標的薬剤としては、パルボシクリブ(イブランス)、エベロリムス(アフィニトール)などの薬剤があります。

ホルモン療法の副作用について

ホルモン療法は抗がん剤療法に比較すると副作用は軽度で安全ですが、次のような副作用が考えられます。乳がんに対するホルモン療法はほとんどが女性ホルモン(特にエストロゲン)の作用を抑えるものですので、自然に女性ホルモンが減少する更年期と同じような症状が出る可能性があります。とくにのぼせ、顔の紅潮、そして膣(ちつ)分泌物の異常、月経異常が多くなります。

特にLHRH アゴニストは卵巣からの女性ホルモン分泌を減少させ、更年期と全く同じような症状を起こす可能性があります。また抗エストロゲン剤、アロマターゼ阻害剤、プロゲステロン剤も同じような症状をおこします。例えばタモキシフェンの臨床試験では強いのぼせ・顔の紅潮が約17%、膣分泌物の異常が約8%、偽薬より多かったと報告されています。

なお、うつ状態、うつ病についてはホルモン療法による明かな増加は報告されていません。強い吐き気を伴うことはまずありませんが、アロマターゼ阻害剤では時に吐き気のために薬を飲み続けられない方がいらっしゃいます。プロゲステロン剤は食欲亢進、肥満をしばしば来たし、抗がん剤による食欲低下やがん悪液質 (進行がんによる痩せ、体力低下)の治療薬として使われるほどです。

タモキシフェンも食欲亢進、肥満を来すと考えられていますが、偽薬との比較では差がなかったとされています。プロゲステロン剤は血糖上昇、血圧上昇を来すことがあり、糖尿病、高血圧症の方は注意が必要です。タモキシフェンは血中コレステロールを10%程度低下させる良い作用がありますが、凝固機能(血液を固まらせる働き)を亢進させる作用もあります。心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓症の病気の方は注意が必要ですので主治医と良くご相談ください。

タモキシフェンは子宮内膜にたいしては刺激的に働きますので、子宮体がんの発生を約2.5倍に増やすことが知られています。しかし日本女性の子宮体がんの発生率は一万人に2人程度なので、それほど大きい危険ではないと考えています。

念のためにタモキシフェン服用時は定期的に婦人科検診を受けられることをお薦めします。

当院では婦人科での半年毎の検診をお願いしています。また、月経の異常、異常な膣からの出血があれば婦人科を受診してください。

他のホルモン剤では今のところ二次性のがんの発生は報告されていません。女性ホルモン(エストロゲン)は骨を保護する働きがあるので、LHRHアゴニスト、アロマターゼ阻害剤は骨粗鬆(そしょう)症(骨が薄くなる病気)を発症・進行させる可能性があり、現在どのような薬によってこれを予防できるかが検討されています。タモキシフェンは骨に対しては保護的に働き、骨粗鬆症の進行を抑えるのではないかと考えられています。

その他の副作用としてタモキシフェンによる網膜症、白内障が報告されています。

術前抗がん剤療法

乳がん手術の前に抗がん剤療法を先行する場合を術前化学療法(術前抗がん剤療法)といいます。

術前抗がん剤療法の意義は次の3点です。

  1. 術前抗がん剤療法により乳房温存の可能性が高くなります。
  2. 術前抗がん剤療法の効果をみることにより、予後の予測を行うことができ、術後の治療方針を最適なものに選択できます。
  3. 抗がん剤療法を術前に行っても、術後に使用する場合に比較して治癒率や生存期間が劣ることはありません。

一般的にはがんの大きさが大きい局所進行乳がんにおいては術前抗がん剤療法が標準治療となっています。

手術後のがんの状態について

手術によって明らかな「がん」は取り除かれます。

ただし、手術では取りきれない、肉眼では見えないがん細胞がまだ残っている可能性があります。それらのがん細胞は通常の検査をしても見つけることはできません。顕微鏡でも分かるか分からないかぐらいのわずかなものです。

また、わずかながん細胞でも時間が経つと再発となって現れます。再発を抑えて乳がんが治る確率をできるかぎり上げるためには予防治療が必要です。手術だけで高率に治ってしまう場合には強い抗がん剤治療は必要ありませんが、ある程度以上の再発の危険がある場合にはしっかりとした再発予防治療が必要です。

治療が必要となるもっとも重要な指標(目安)は乳がん周囲のリンパ節へのがん転移の個数です。手術のとき周囲のリンパ節は取り除かれますが、それらのリンパ節の1個にでも乳がん細胞が存在した場合には抗がん剤治療が必要です。

一般にがん細胞が見つかったリンパ節の数が多いほど再発の危険が増します。また、リンパ節に転移がなかった場合でもその他に、がん細胞の顔つきが悪いとき、がんがリンパ管のなかに入っているときなど、再発の危険が予想される場合は抗がん剤治療を行うこともあります。

ごくわずかな微小ながん細胞を根絶するには全身的な薬による治療が適しています。抗がん剤またはホルモン剤は血流に乗って全身にいきわたり、その効果を発揮するからです。

再発予防のための抗がん剤の必要性

乳がんに対する抗がん剤療法の有効性は確立されています。しかし、乳がんの置かれた状況によって期待できる抗がん剤療法の効果も異ります。

大きく分けて3つの状況があります。

  1. 転移・再発乳がんでは症状の緩和と延命が期待できます。
  2. 手術の前に抗がん剤療法先行する場合(術前化学療法といいます)にはがんの縮小に伴い、温存手術、縮小手術が期待できます。
  3. 手術後の補助療法では予防的抗がん剤療法により治癒する確率が高くなります。

抗がん剤以外に乳がんの治療には副作用が軽微なホルモン療法という選択があります。抗がん療法の治療効果には限界があり、少なからず副作用を有することから、抗がん剤をいつどのような目的で行うのか、適切な判断をするのが重要です。

再発予防に使用される抗がん剤

治療の中心となる抗がん剤はアドリアマイシン(A)またはエピルビシン(E)です。アドリアマイシン(またはエピルビシン)に加えて、他の抗がん剤、シクロホスファミド(C)(エンドキサン)・フルオロウラシル(F)(5FU)を同時に行う併用抗がん剤療法が標準的方法のひとつ英語の頭文字をとってCAF療法またはFAC療法またはFEC療法またはCEF療法と言います。フルオロウラシルを含まないAC療法, EC療法もあります。また、腋窩リンパ節転移が陽性の場合はタキサンを追加することによりさらに再発を減らすことができます。AC療法4サイクルの治療後にパクリタキセル(タキソール)週1回を毎週12回またはドセタキセル(タキソテール)3週毎4回を行います。

脱毛をおこす原因の抗がん剤はアドリアマイシン(またはエピルビシン)です。しかし、この薬は治療効果を挙げるうえでもっとも重要です。アドリアマイシン (またはエピルビシン)を含まない治療方法も従来から行われていますが、それらの治療方法に比べてアドリアマイシン(またはエピルビシン)を含む治療法の効果は10年生存率で5%優れることが分かっています。

2人に1人の方には閉経前の方では卵巣機能を低下させ生理を止める作用があり、長く続く場合もあります。これらの副作用は確かに無視できるものではありませんが、それ以上に抗がん剤療法による治癒率が改善することが証明されています。抗がん剤を行うことにより再発を半分近く減少させることが証明されています。

稀な副作用としては1,000人に1-2人の割合で抗がん剤によって白血病などの別のがんができることがあります。

もし乳がんが再発した場合、その後に抗がん剤療法を受けてもかなり効果はありますが、最終的にがんを治しきるのは大変難しくなります。抗がん剤を後にとっておこうと思わないで、より早い段階で抗がん剤を十分に使い、治しきると言う目的に力を注いだほうが良いと考えます。

従って、手術直後に十分に抗がん剤治療受けられることをお勧めします。

5%の改善とは少ないようにも思えますが、1,000人のうち50人の命が助かるという数字です。従って、一般にはアドリアマイシン(またはエピルビシン)を含む治療を選択することをお勧めします。なお、アドリアマイシン(またはエピルビシン)には心臓への影響がありますが、予定している薬の量は安全な範囲内のものです。心臓の検査をして安全を確認してから開始します。

再発予防のためのホルモン治療

ホルモン療法を行う必要のある場合は、ホルモン・レセプター(エストロゲン・レセプターまたはプロゲステロン・レセプター)が陽性の場合です。ホルモン剤はがん細胞のホルモン・レセプターと結合してがんの増殖を抑えます。

ホルモン・レセプターは手術で取り除いたがん細胞で検査します。ホルモン療法は副作用が少なく、安全な方法です。ホルモン療法は再発を半分近く減少させます。タモキシフェン(ノルバデックス、タスオミン)は5〜10年間毎日内服します。

閉経前で生理がある場合はゾラデックスまたはリュープリンを4週間に1回皮下注射し、2〜5年間続けます。閉経後の方はアロマターゼ阻害剤であるアリミデックス、フェマーラ、アロマシンが有効です。アリミデックス、フェマーラを5年間内服します。タモキシフェンを2-3年または5年内服後アロマターゼ阻害剤に変更して継続する治療方法も有用です。

これらのホルモン療法では脱毛もなく、吐き気もありませんが、更年期症状と似た、ほてり、紅潮、のぼせ、めまい、発汗などの症状が一時的にでることがあります。

長期的な副作用としてはタモキシフェンによって子宮内膜がんが発生の危険が増えますがその頻度は1,000人のうち1-2人と稀な現象ですので、タモキシフェンの利益のほうが遙かに大きいのです。アロマターゼ阻害剤は骨密度が低下し骨そしょう症の傾向になることがあります。1年に1回骨密度の検査をすることをお勧めします。

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Chapter.2: 血液腫瘍に対する薬物療法

悪性リンパ腫

悪性リンパ腫にはホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫がありますが、非ホジキンリンパ腫はさらにB細胞性リンパ腫、T細胞性リンパ腫、NK/T細胞リンパ腫に大きく分けられます。ホジキンリンパ腫は放射線療法併用ABVD療法、B細胞性リンパ腫はリツキサン併用CHOPあるいはCOP療法、HyperCVAD/MA療法(場合によっては放射線療法を併用します)、T細胞性リンパ腫にはCHOP療法あるいはHyperCVAD/MA療法が導入療法として行なわれています。
また、臨床試験としては新しい抗体療法やHDAC阻害剤などが行なわれています。
また、各診療科と連携して生検の施行と病理組織検査による迅速な診断、CT検査、PET検査、骨髄検査などによる迅速な病期決定を致します。

慢性骨髄性白血病とは

原因

以前は放射線照射や原爆被爆者に多いとされてきましたが、現在では原因の不明のものが多い様です。

がん遺伝子のうちbcr/ablという融合遺伝子が原因で、白血病細胞の増殖のいきおいが、早くなっており、その異常を示すフィラデルフィア染色体があるかどうかを検査するとまず診断がつきます。

頻度

白血病の中でもっとも検診や健康診断で発見される種類です。

白血球数増加がもっとも発見しやすい検査所見でもあります。昭和45年から平成9年までに少しずつ発症頻度が増加しています。

昭和45年では、3.5 が平成9年であったのが 5.1/10万人あたりに増加しています。

診断

白血球数は正常でも見つかることがありますが、多くは正常の4,000〜9,000をこえて、異常を指摘されて見つかるきっかけになります。

骨の痛みや発熱、全身倦怠、他に脾臓がはれやすく、リンパ節がはれることもあります。

末梢血の白血球数、血小板数が増加している状態が多く、他に白血球のうち好中球のアルカリホスファターゼスコアが低下します。骨髄検査は最初痛みを心配して受けないという患者さんもおられますが、必ず受けましょう。骨髄の細胞をとることによって、この白血病がどのくらい悪いのか、調べることになります。染色体検査、遺伝子検査を行います。細胞の状態、染色体の状態などで以下の3つに分類されます。

  • 慢性期
    はじめに発見される場合が多くはこの状態で、別に一刻を争う必要はありませんが、年令と薬剤の副作用などよく相談して治療法を決めていく必要があります。
  • 移行期
    慢性期と急性転化期の間を移行期といいます。
  • 急性転化期
    早く治療を受けましょう。放っておくと発熱、関節痛、脾臓腫大など悪化するだけでなく、薬剤の反応も悪くなる可能性があります。
治療:イマチニブ(グリベック)とは

以前は、ハイドレア、またはブスルファンなどの抗がん剤を少量から毎日経口で投与することが多く、またもっともよい治療はインターフェロンを毎日注射することでした。

しかし、2001年12月よりグリベックという、白血病の原因遺伝子bcr/ablによって活性化されているチロシンキナーゼ活性を特異的に抑制する薬剤が発売されました。これによって日本では幸い1錠3474円で、毎日4錠を服用することによって、有効性が出ると言う画期的な治療になってきました。

当科でもいち早く採用し、使用ができるように準備を完了しています。注射とインターフェロンの副作用から解放されるだけでなく、骨髄移植の対象にならなかった高齢者の方にも、利益が十分に期待されます。

最近、第二世代のチロシンキナーゼ阻害剤が承認されました。ダサチニブ(スプリセル)とニロチニブ(タシグナ)です。イマチニブ(グリベック)が効きにくかったり、副作用が強かったりで、イマチニブ(グリベック)の継続が難しいときに使用されます。

ダサチニブ(スプリセル)はイマチニブ(グリベック)の約300倍強力です。胸水やまれに消化管出血、肺血栓・出血などの副作用があります。

ニロチニブ(タシグナ)は約25倍イマチニブ(グリベック)より強力です。この2つがファーストラインになっています。

副作用

以前の薬剤を長く使用すると、別の種類の二次性白血病が出現してくることが問題でした。しかし今回の薬剤は、インターフェロンで見られる発熱、関節痛、うつ症状などはなく、便秘と発疹が主な副作用です。

ホジキンリンパ腫

ホジキンリンパ腫は、リンパ組織のがんである悪性リンパ腫の一型です。

リンパ組織は中に白血球の一種であるリンパ球がつまったまめ状のリンパ節とそれを結ぶ非常に細いくだ(リンパ管)よりなりますが、扁桃腺、胸腺、脾臓なども含まれ、全身に分布しています。リンパ組織はリンパ球を中心に免疫をつかさどり、感染やがんに対する防御機能の中心となります。

悪性リンパ腫はこのリンパ組織から発生する悪性腫瘍で、ほとんど全てリンパ球が悪性化したものと考えられています。悪性リンパ腫を大きく分けるとホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分けられ、欧米ではホジキンリンパ腫が悪性リンパ腫の3-5割を占めますが、日本では少なく、5-10%程度です。人口10万人あたりの年間発症率は男性0.5-0.7、女性0.3-0.4とやや男性に多いと言われています。年齢は20歳代と60歳代にピークがみられます。

ホジキンリンパ腫の症状

ホジキンリンパ腫の多くは首の周りや縦隔(両方の肺の間)を中心としてリンパ節が痛みを伴わずはれるものですが、肝臓、骨髄、肺などに広がることもあります。また発熱、寝汗、体重減少、かゆみなどの全身的な症状も出る可能性があります。

ホジキンリンパ腫の診断

ホジキンリンパ腫の診断は腫れているリンパ節などを取り出して(生検といいます)顕微鏡で調べる病理検査によります。

ホジキンリンパ腫を細かく分けると、

  1. リンパ球優勢型
  2. 結節硬化型
  3. 混合細胞型
  4. リンパ球減少型

があり、予後は1)が最も良く4)が最も悪くなりますが、基本的な治療方針は変わりません。

病気の広がり(病期)を調べることによって治療方針が決定します。

さらに全身症状(体重減少、発熱など)がない場合A、ある場合Bとして2A期、IVB期などと分類します。

最近は病期の他にも血沈高値、病変が大きい場合などの因子を組み合わせて治療方針を決定するようになってきています。

ホジキンリンパ腫の治療

ホジキンリンパ腫は主に放射線と化学療法のどちらか、あるいはその組み合わせによって治療されます。

治癒率は比較的高く早期(I、2期)で80-90%、進行期(3、IV期)でも50%程度で治癒を見込めます。

  • 放射線療法
    通常はX線を外からかけるもので(外照射といいます)、頚部、腋窩、縦隔にかけるマントル照射が中心になり、これに脾臓、上腹部、骨盤内リンパ節の照射を加えたものを全リンパ節照射と呼びます。
  • 化学療法
    抗がん剤を経口または点滴で全身に投与し腫瘍細胞を殺すものです。標準的な治療としてABVD療法が用いられています。
  • 大量化学療法+自己造血幹細胞移植
    抗がん剤を大量に投与するとがん細胞を強力にたたくことができますが、副作用で血液の元になる細胞(造血幹細胞)が死んでしまい、白血球や血小板などが元に戻らなくなって感染や出血の危険が増すことが問題になります。前もって患者さんの造血幹細胞を骨髄あるいは末梢血からとって冷凍保存しておき、抗がん剤投与(あるいは放射線の全身照射)後にその造血幹細胞を体に戻してやると比較的安全に強力な治療を行えます。
    治療方針は主に病期によって決定されます。従来は早期(I-2期)は放射線療法、進行期 (3-IV期)は化学療法というのが標準でしたが、最近は早期にも化学療法を併用して放射線療法を軽くする方向へ進んでいます。進行期の化学療法は以前は C-MOPPが標準療法でしたが、最近はABVD単独が標準となっています。
    再発した場合、初めの治療が放射線療法のみの場合は化学療法、化学療法のみだった場合は放射線療法単独または放射線療法+化学療法併用を行います。また、場合により大量化学療法+自己造血幹細胞移植を行います。
ホジキンリンパ腫の新薬について

ブレンツキシマブ ヴェドチン(CD30抗体医薬)が2014年4月より使用可能となり、当科ではいち早く使用しています。再発した患者さんには待ち望んだお薬が出たことになります。

治療の副作用
  • 放射線療法
    頚部に照射すると口内炎、のどの痛み、唾液分泌の低下、味覚障害などがおこり食事がとれない場合があります。広範囲に照射した場合には骨髄の機能が低下して白血球低下による感染、血小板低下による出血などが起こる危険があります。また、2次的に悪性腫瘍が発生する危険が高くなることも知られています。
    抗がん剤による一般的な副作用として、吐き気、脱毛、骨髄機能が低下して白血球低下による感染や血小板低下による出血、口内炎などの粘膜傷害などが考えられますが、そのために治療の中断や生命の危険に至るような強い副作用が起こることはまれです。
    末梢神経の障害(手足のしびれ)、生殖機能の低下(月経が止まったり、精子の産生が減少する)、2次性白血病などが問題になります。
    ABVD療法では生殖機能の低下や2次性白血病は見られませんが心機能の低下、間質性肺炎、点滴部位の血管炎などの危険があります。

多発性骨髄腫

多発性骨髄腫は、形質細胞というリンパ系の細胞ががん化した腫瘍で、形質細胞腫瘍とも言われます。

リンパ球は白血球の一種で、免疫機能の中心として細菌、ウイルスなどの病原体やがん細胞などを排除する働きを持ち、そのうちの一部が分化して細菌・ウイルスなどと結合して排除する働きを持つ蛋白(抗体)を産生するようになった細胞が形質細胞です。この細胞ががん化すると、全身の骨の中にあって血液細胞(白血球、赤血球、血小板)が作られている骨髄の中で主に増えていき、骨を溶かして弱くするとともに血液細胞が産生されるのを抑えるため貧血などが進んでいきます。

一方、がん化した形質細胞は一種類の抗体(M蛋白)をたくさん作り出すので血液中に異常な蛋白が増え、尿中にも出てきます。時に一カ所だけに腫瘍を作るもの(形質細胞腫)、多発性骨髄腫と悪性リンパ腫の中間のような性質を持つマクログロブリン血症などもみられます。

多発性骨髄腫は高齢者に多い病気で、65歳前後にピークがみられます。発生率は人口10万人あたり3人程度ですが、高齢化の進行と検査の普及などによって年々増加しています。

多発性骨髄腫の症状

最も多いのは骨が溶けて弱くなることによる骨痛で、6-8割にみられます。部位は腰、背中、胸部が多く、時に背骨、肋骨、手足の骨などに病的な骨折を起こして激痛を生じる場合があります。さらに骨が溶けていくと、血液中のカルシウムが高くなり(高カルシウム血症)、意識障害が出現します。

次に多い症状として骨髄での血液細胞の生成がおさえられる為に特に貧血が起こりやすく、動悸、体のだるさ、息切れ、めまい、頭重感などがみられます。病気が進行すると白血球、血小板の低下も起こります。
また異常な血中蛋白が腎臓に沈着するため、腎臓の機能が徐々に悪化していきます。

さらに、白血球の低下や正常な抗体産生の低下などにより、感染に対する抵抗力が弱まり、特に骨が弱くなって寝たきりになった場合などは肺炎が命取りになりやすくなります。

血中蛋白が多すぎると血液が粘稠になり、血液が流れにくくなって頭痛、出血傾向、視力の低下などが起こる場合があります。

診断

多発性骨髄腫が症状から疑われる場合は血液・尿中の異常蛋白(M蛋白)と骨髄中の異常な形質細胞の有無を調べます。

診断基準としては血液中(3g/dl以上)または尿中(1g/day以上)のM蛋白、骨髄中の形質細胞10%以上、レントゲン写真で骨が溶けていること、などが挙げられています。

病気の広がり(病期)を調べることによって治療方針が決定します。
一般的にはDurie and Salmonの病気分類が使われています。

治療方針

多発性骨髄腫は全身に広がった病気ですので、治療は基本的には抗がん剤を使った全身的な化学療法ですが、病変が限られた形質細胞腫や限局的な骨病変のために症状がある場合(病的骨折、神経の圧迫等)は放射線療法や手術を行う場合があります。

多発性骨髄腫は一般的には完治が難しく、予後は病気の広がりなどで大きく異なり、数ヶ月から10年以上まで幅が広いのが特徴です。

  • 1期
    無症状であれば通常無治療で観察し、数カ月ごとに検査を行い、2、3期に移行した際に治療を開始するのが通常です。
  • 2期、3期
    65歳未満のかたには、VCD療法(ベルケイド、エンドキサン、デカドロンの皮下注射と経口)が主に使われ、造血幹細胞移植を目指した治療が奨められます。
    65歳以上のかたの標準的な治療はVMP療法で、ベルケイドの皮下注射、メルファラン(アルケラン)とプレドニンという経口薬を飲みます。
    副作用は軽く、軽度の食欲低下と白血球減少のみであり、この治療と点滴の抗がん剤を幾つも組み合わせた強い治療を比較しても、生命予後にはあってもわずかな差しか出ていません。
    再発時には、ベルケイド、レブラミド、サレドなどが使用可能です。
    またこの領域は新薬の治験も盛んです。
新たな治療法
  • ビスフォスフォネート
    ゾレドロン酸(ゾメタ)などのビスフォスフォネート製剤は骨を溶かす細胞である破骨細胞を抑制する薬で、多発性骨髄腫で骨が溶かされるのを抑制し、骨痛、病的骨折、高カルシウム血症などの骨の症状の出現を抑えることがわかっています。
    ゾメタは、高カルシウム血症や多発性骨髄腫の骨症状に対して保険適応があります。
  • 大量化学療法+自己造血幹細胞移植
    抗がん剤を大量に投与するとがん細胞を強力にたたくことができますが、副作用で血液の元になる細胞(造血幹細胞)が死んでしまい、白血球や血小板などが元に戻らなくなって感染や出血の危険が増すことが問題になります。
    前もって患者さんの造血幹細胞を骨髄あるいは末梢血からとって冷凍保存しておき、抗がん剤投与(あるいは放射線の全身照射)後にその造血幹細胞を体に戻してやると比較的安全に強力な治療を行えます。骨髄腫でもとくにメルファランの大量化学療法に造血幹細胞移植を併用すると病気が完全に消える頻度が高くなり、生命予後が改善するというデータが出始めており、世界的に種々の臨床研究が行われています。
  • 同種造血幹細胞移植
    大量化学療法の後に、他人からもらった造血幹細胞を入れるもので、拒絶反応の一種であるGraft-versus-host disease(入れた白血球が患者さんの体を攻撃して起こる病気)のために副作用の頻度、死亡率が自己造血幹細胞移植に比べて高くなりますが、 graft-versus-myeloma effect(入れた白血球が骨髄腫細胞を攻撃する効果)も大きく、最近は大量化学療法を軽くして造血幹細胞移植をおこなうミニトランスプラントの研究がなされています。

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Chapter.3: 頭頸部がんに対する薬物療法

当科では頭頸部領域のがんに対して化学療法を行っています。

従来から、外科医(耳鼻科、頭頸部外科、口腔外科)が化学療法も行う事が多いがんですが、当院では腫瘍内科医(化学療法専門医)が化学療法あるいは分子標的療法を行い、よりきめの細かい高度な治療や欧米での評価が高いと報告されている治療が期待できます。

この領域のがんの特徴としては総合腫瘍科(腫瘍内科)、頭頸科(外科)、放射線治療科の3科が合同で治療を行う事が多いのが特徴です。

例えば、最も多い頭頸部扁平上皮癌の場合、進行した腫瘍に対しては先ず総合腫瘍科が化学療法を行って腫瘍の縮小をはかり、その後放射線科と総合腫瘍科が共同で放射線治療と化学療法を同時に行い、その後に腫瘍が残存する場合には頭頸科で外科的処置をする事があります。

最も多いのは放射線科と総合腫瘍科が共同で放射線治療と化学療法を同時に行って治癒を目指す化学放射線療法です。また、頭頸部外科医が手術を行ったあと再発を予防するために化学放射線療法を行う場合もあります。

どの治療方法を選択するかは総合腫瘍科、頭頸科、放射線科、更に放射線診断医や看護師らが参加するCancer boardにおいて議論され、患者さんに十分説明して決定されます。

頭頸部扁平上皮癌の治療方針の大略を図に示します。

主な頭頸部扁平上皮癌に対する主な薬物療法を以下に示します。これらは大規模な比較試験により評価が確立している標準治療であり、患者さんの全身状態、病変、これまでの治療経過などにより実際の治療は異なる場合があります。

  • 導入化学療法:DCF(またはTPF)  3-4週毎に3サイクル
  • 化学放射線療法(CCRT):CDDP 3週毎に3サイクル投与、放射線は毎週5回(月曜−金曜)照射で33-35回
  • 生物学的放射線療法(BRT):Cetuximab 毎週、放射線は毎週5回(月曜−金曜)照射で33-35回
  • 転移再発症例に対する化学療法:FP+Cetuximab 3-4週毎

以上の治療で効果がない場合にはCancer boardで検討し、手術療法、放射線療法などの局所治療に移行するか、あるいは別の化学療法(2nd line以降)を行うか、あるいは新薬の治験等を試みるかについて相談して決定します。

比較的稀な疾患としては唾液腺がん、悪性黒色腫、成人の横紋筋肉腫、神経芽細胞腫などがあげられます。特に後ろのふたつの疾患は成人では稀な疾患であり、がん研有明病院ではこのような稀な疾患の患者さんが全国から集まってきています。

 

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Chapter.5: 原発不明がんに対する薬物療法

当科では原発不明がんの診断、治療も行っています。

原発不明がんとは、病理学的に(腫瘍のサンプルを取って顕微鏡で)悪性と確認された転移性(全身的に広がっている)腫瘍で、通常の血液や画像検査で原発が分からないものを言います。頻度は意外に高く、一般的には悪性腫瘍全体のうち数%を占めると言われます。

診断はまず病理組織検査を詰めることで、以下のような免疫組織染色によって特定の原発巣を推定できる場合があります。

表.原発不明癌の病理診断によく用いられる免疫染色
組織型 抗原(抗体)
癌(上皮性悪性腫瘍) CK (cytokeratin), EMA, CEA
肺癌 Napsin-A, TTF-1
乳癌 GCDFP-15
胚細胞腫瘍 PLAP, c-kit, Oct4, CD30, AFP, hCG
神経内分泌腫瘍 Chromogranin, synaptophysin, CD56
肉腫(サルコーマ) Vimentin, CD34, desmin, myoglobin
SMA (smooth muscle actin), S-100
悪性黒色腫 S-100, HMB-45, melan-A
中皮腫

Calretinin, D2-40, mesothelin, WT-1
中枢神経系腫瘍 GFAP, neurofilament protein

最近は腫瘍組織の遺伝子プロファイルを見て原発推定、治療方針決定を行う試みも行われていますが、まだ研究段階です。

原発不明がんの中の一部は予後良好群(特定の治療方針によって長期の生存が期待できる群)と呼ばれる患者さんがいます。この場合、原発は確定しなくとも推定されるがん種に応じた治療を行えば治癒、あるいは数年以上の生存が得られる可能性があります。それ以外の場合は、治癒は困難になり、病状の進み方によっては半年も持たない場合があります。

病理・画像・検査所見により予後良好群を見つけ出し、それ以外の場合は化学療法の適応評価(効果がある程度期待できるかの判定)と今後早めに必要になるかも知れない緩和治療の準備を進めていく事が必要になります。

予後良好群と治療方針
・縦隔・後腹膜正中未分化癌 -- 胚細胞腫瘍に準じて
・未分化神経内分泌腫瘍 -- 胚小細胞癌に準じて
・腹膜癌 -- 卵巣癌に準じて
・女性の腋窩リンパ節転移、腺癌 -- 乳癌に準じて
・頚部リンパ節転移、扁平上皮癌 -- 頭頚部癌に準じて
・鼠径部リンバ節転移、扁平上皮癌 -- 婦人科癌に準じて
・男性の硬化性骨転移、PSA上昇 -- 前立腺癌に準じて

原発不明がんに対する主な薬物療法を以下に示します。原発不明がんはそれ程症例が多くなく、また非常に不均一なので大規模な比較試験により評価が確立している標準治療はなく、施設により種々の治療が行われていますが、一番良く行われているのはプラチナ製剤+タキサンと抗がん剤の組み合わせで、当院では外来で投与可能で患者さんのQOLが比較的保てるTC療法(カルボプラチン+パクリタキセル)を通常行っています。

患者さんの全身状態、病変、これまでの治療経過などにより実際の治療は異なる場合があります。

  • TC療法:原発不明がん(特に腺癌)3週ごと
    Carboplatin (パラプラチン) d1
    Paclitaxel (タキソール) d1
  • IP療法:小細胞癌、神経内分泌癌、4週ごと
    I: Irinotecan (CPT-11; カンプト) d1, 8, 15
    P: Cisplatin (CDDP;シスプラチン) d1

以上の治療で効果がない場合には総合腫瘍科カンファレンスで検討し、手術療法、放射線療法などの局所治療に移行するか、あるいは別の化学療法(2nd line以降)を行うか、あるいは新薬の治験等を試みるかについて相談して決定します。

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Chapter.6: 肉腫、希少がんに対する薬物療法

当科では肉腫を初めとする希少がんに対して化学療法を行っています。

肉腫は発生部位によりその部位を扱う外科医(整形外科、消化器外科、呼吸器外科、耳鼻科・頭頸部外科、泌尿器科、婦人科など)が化学療法も行う事が多いがんですが、当院ではサルコーマセンターを開設し、肉腫を種々の臓器を専門とする医師や多職種の医療従事者が共同で治療する体制を作っています。その中で腫瘍内科医(化学療法専門医)が化学療法あるいは分子標的療法を行い、よりきめの細かい高度な治療や欧米での評価が高いと報告されている治療を行っています。

肉腫の特徴としては希少な上にバラエティに富み、診断が難しいことがあります。従って、肉腫の患者さんは2週間に1度開催され総合腫瘍科医師、担当する外科系医師、放射線科医師、更に病理医、基礎研究者らが参加するサルコーマカンファで議論され、正確な診断に基づいて治療方針が議論され、最終的に患者さんに十分説明して決定されます。

肉腫の大部分を占める軟部肉腫は、まず小円形細胞肉腫とそれ以外の軟部肉腫に分けられます。

  1. 小円形細胞肉腫:主にユーイング肉腫と横紋筋肉腫で、共に成人では稀な腫瘍です。
    どちらも化学療法に対する感受性が高く、小児に準じて強力な化学療法+局所治療(手術、放射線)の組み合わせで治療されます。
  2. 非小円形細胞肉腫:化学療法あるいは放射線療法に対する感受性は低く、たとえ転移があっても可能ならば手術を行う事を考えます。化学療法剤としては未だにアドリアマイシンおよびイフォマイドが標準治療ですが、最近新たな抗がん剤が開発されています。

軟部肉腫に対する主な薬物療法を以下に示します。これらは大規模な比較試験により評価が確立している標準治療であり、患者さんの全身状態、病変、これまでの治療経過などにより実際の治療は異なる場合があります。

  • VDC療法:Ewing肉腫、2-3週ごと
    V (ビンクリスチン) d1
    D/A (アドリアマイシン) d1
      6サイクル目以降 → アクチノマイシンD d1
    C (サイクロフォスファミド) d1
  • VAC療法:横紋筋肉腫、3-4週ごと
    V (ビンクリスチン) d1, 8, 15
    A (アクチノマイシンD) d1
    C (サイクロフォスファミド) d1
  • ADR療法:非小円形細胞肉腫、3週ごと
    Doxorubicin (アドリアマイシン) d1
  • イフォスファミド療法:非小円形細胞肉腫、3-4週ごと
    Ifosfamide (イホマイド) d1-5
    MESNA (ウロミテキサン) d1-5

以上の治療で効果がない場合にはサルコーマカンファで検討し、手術療法、放射線療法などの局所治療に移行するか、あるいは別の化学療法(2nd line以降)を行うか、あるいは新薬の治験等を試みるかについて相談して決定します。

その他の希少がんとして当科では悪性黒色腫(主に粘膜原発)、肺外小細胞癌・神経内分泌癌、悪性中皮腫(主に腹膜原発)、褐色細胞腫/傍神経節細胞腫、さらに原発不明癌の治療を行っています。

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