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大腸がんに対する腹腔鏡下手術

大腸がんに対する腹腔鏡下手術

大腸がんの新しい手術治療(腹腔鏡下手術)

腹腔鏡手術とは「腹腔鏡」というテレビカメラでおなかの中をみながら行う手術のことです。従来の「おなかを切る手術」は開腹術と呼びますが、腹腔鏡手術は開腹術と比べて非常に小さな創で済むために患者さんの術後の痛みが少ないこととそれにより回復が早いことが一番の長所です。胆石などに対しての腹腔鏡下胆嚢摘出術は約20年前に始まりましたが現在では標準手術となっています。

大腸がんに対する腹腔鏡手術は日本でも約15年前から導入され、2005年度版大腸がん治療ガイドライン(大腸がん研究会編)ではStage0およびIの大腸がん(早期大腸がん)に対する外科的治療のひとつとして認められておりましたが、2009年度版大腸がん治療ガイドライン(大腸がん研究会編)ではさらにStage0およびIという規制がはずれ、がんの部位や進行度などの患者要因の他に、術者の経験、技量を考慮して適応を決めるべきであるというように改訂されています。すなわち術者の技量に応じてStageIIおよびIIIの大腸がん(進行がん)にも適応拡大も可能であるという理解です。事実2002年4月からは進行がんに対する同手術の保険の適応も認められており、また、より早く腹腔鏡大腸がん手術が導入された欧米では、進行がんに対しての長期成績が従来の開腹術に劣らないことが報告されています。

当院では、個々の患者さまに合わせた、根治性(がんをなおすこと)と安全性と低侵襲性(体への負担が少ないこと)に最も優れた治療を提供するために、積極的に新しい治療法の開発に努めており、内視鏡治療や腹腔鏡下手術を大腸がん治療にも取り入れています。がん研が有明に移った2005年から2013年までに3000例を超える大腸手術を行ってきました。最近では大腸がん手術のうちで腹腔鏡下手術の占める割合は95%となっています。

腹腔鏡手術の年次的推移
図1: がん研有明病院 初発大腸癌手術件数

実際の腹腔鏡手術は、開腹手術と同じ全身麻酔下で行います。まず腹腔内(腹腔:おなかの壁と臓器の間の空間)に炭酸ガスを入れて膨らませ、おへそからこの手術用に開発された細い高性能カメラ(腹腔鏡)を挿入します。この際、同時に手術操作に用いる器具を挿入するために、5−10ミリの小さなあなを左右に合計4−5か所に開けます。先のカメラでおなかの中の様子をモニターに映し出し、大腸切除や周囲のリンパ節の切除を行います。

この手術は、専用の高性能カメラからの拡大した鮮明な画像を見ながら行うため、従来の開腹手術では見えにくかった部位や細かい血管・神経まで見えて繊細な手術操作が可能です。腹腔内で操作を終えたあとに最後に病変を4−5cmの切開創からおなかの外に取りだします。

従来の手術で20cmほどおなかを切開した場合(開腹)と比較して、創が小さくてすむことや、術後の痛みが少ないこと、術後の腸管運動の回復が早いために早くから食事がとれること、入院期間が短くて早く社会復帰ができることなどが利点です。現在当院で採用している大腸がん患者様の腹腔鏡手術の内容をご説明いたします(図3、図4、図5)。

図3: S状結腸・直腸の手術創
図3: S状結腸・直腸の手術創

先述したように、Stage0およびI(がんの深さが腸管の筋層内にとどまっておりリンパ節転移のないもの)の大腸がんは治る可能性が非常に高いことが分かっているので、同じように治ることが期待できるのであれば、体の負担の少ない、また術後の回復が早い腹腔鏡手術を行います。術後翌日から水分が摂れ術後の入院期間は約1週間です。StageII以上の大腸がん(がんが腸管の筋層を越えて深く入っている、あるいはリンパ節転移がある、など)に対しても、開腹手術と同じ治る可能性と判断すれば腹腔鏡で行います。腫瘍が極端に大きい、あるいは隣の臓器に浸潤している、リンパ節転移がたくさん認められる、などの大腸がんには開腹手術をお勧めすることがあります。術後経過は腹腔鏡で行えば早期がんと同じです。

直腸がんに対しても他の大腸がんと同じように腹腔鏡手術を第一選択としております。直腸がんの手術は骨盤という深いところでの操作が必要とされるために腹腔鏡手術の長所が活かされ、開腹術よりも良好な視野で手術を行うことができます。肛門に近い進行直腸がんでは、術前の抗がん剤と放射線治療を組み合わせる治療を先行させてから同じように腹腔鏡で行います。

最後に最近注目されている単孔式腹腔鏡下手術というのをご紹介いたします(図6)。これは1年くらい前から胆嚢摘出術など主に良性の病気に行われ始めている手術で、文字通りひとつの孔で手術を行うというものです。さらにその一つの孔はお臍そのものに開けますので、術後はどこを切ったかがわかりません。いわゆるおなかを切らない(実際にはおへそを切っておなかの中の操作をするのですが)最新の手術と言っていいでしょう。利点はまず美容的な面が挙げられます。術後の痛みや回復が従来の腹腔鏡手術より良いかどうかはまだ分かりませんが、その可能性があります。しかしまだ始まったばかりの手術ですので、今のところはStage0-Iの早期がんでごく限られた場所のものに対してのみ行っております。

図6: 単孔式腹腔鏡下手術後の創
図6: 単孔式腹腔鏡下手術後の創

当院では、がんの根治性(治すこと)と「患者さんに優しい治療」すなわち患者様の体への負担の軽減を最優先に考え、この腹腔鏡手術を大腸がん治療の一環として積極的に取り入れています。ただし前述した条件に合う方でもそれぞれ患者様自身の条件で、この腹腔鏡手術ができない場合があります。すなわち、がん治療とはそれぞれの患者様の病状に応じて、その患者様にとっての最善の治療法を患者様ご自身と一緒に考えていく必要があり、腹腔鏡手術はその治療法のひとつとして位置づけられます。

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