がんに関する情報
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唾液腺がん

唾液腺がん

最終更新日 : 2024年3月19日
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唾液腺がんについての知識

唾液腺がんとは

唾液腺というのは唾液(つば)を作る組織のことです。唾液腺には大唾液腺と小唾液腺があります。大唾液腺は耳下腺、顎下腺、舌下腺の3つからなり、ここで作られた唾液は管を通じて口腔内に導かれます。 一方、小唾液腺は口腔粘膜やのどの粘膜の一部に存在し、直接口腔内に唾液を分泌しています。 したがって、唾液腺がんとはこれら唾液腺組織を構成する細胞から発生したがんのことを指しています。唾液腺がんのほとんどは耳下腺がんと顎下腺がんで占められ、舌下腺がんはきわめて稀です。また小唾液腺がんの治療はがんが出来た部位の治療(例えば口腔にできた小唾液腺がんは口腔がんの治療といった具合)に準じて行うので、以下は大唾液腺がんについて説明します。

耳下腺はどこにあるのでしょうか

耳下腺は耳の前から下、そしてほんの少し後ろにも及び皮膚直下の比較的浅い位置に存在しています。 ここは耳下腺の大部分を占め、浅葉と呼ばれています。

一方、耳下腺の一部は、下顎骨(下あごの骨)の後ろを回りこんであごの骨の裏側の深いところに入り込んでいます。ここは深葉と呼ばれています。

つまり耳下腺全体として形はくびれを持った三角錐のようになっています。左右1対ずつあって、重さは約25gといわれています。子供の頃<おたふくかぜ>にかかって腫らしたところと言えば、なじみが深いかもしれません。

手術の時に注意するものとして浅葉と深葉の間に走っている顔面神経(顔の表情を作る筋肉を動かす神経です)があります。

顎下腺はどこにあるのでしょうか

字のごとく顎(あご)の下で、ちょうどあごの<えら>の部分と正中の間でやや後ろ寄りにあります。形と大きさはクルミのようです。左右1対ずつあって、重さは約10〜15gといわれています。

手術の時に注意するものとして、顔面神経の下顎縁枝(下唇を下に引き下げる、すなわち口をへの字に曲げる運動をする神経です)、舌下神経(舌を動かす神経です)、舌神経(味覚を司る神経です)があります。

舌下腺はどこにあるのでしょうか

口腔底(口の中で床の部分にあたるところ)粘膜の下でかなり前寄りにあります。大きさは小指頭大です。左右1対ずつあって、重さは約2gといわれています。

唾液腺がんの頻度

唾液腺がんは頭頸部がんの3〜5%程度といわれており、頭頸科初診のがん患者さん20人に1人ないしはそれ以下になります。

唾液腺がんの中で耳下腺がんは60〜70%(耳下腺腫瘍の中の20〜30%にあたります)、顎下腺がん20〜30%(顎下腺腫瘍の中の30〜40%にあたります)、舌下腺がんは2〜3%程度です。

唾液腺がんの病理組織像

唾液腺がんの病理組織型(がんを構成する組織や細胞の種類その比率、増殖の仕方などを顕微鏡で見て決定される型)は非常に種類が多いことが特徴です。

2017年のWHOで決められた分類によるとなんと20種類以上にも及んでおり、またそのうちのいくつかでは、臨床的悪性度の点からさらに分類がなされます。これは他の頭頸部がん(口腔がん、咽頭がん、喉頭がんなど)がほとんど扁平上皮がんという単一の組織型から構成されているのと大きく異なる点です。

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症状

耳下腺がん

耳下部、耳前部の腫れ

最も多い症状で無痛性腫脹のことが大半ですが、痛みを伴うことがあり、何も原因がないのに痛みを伴う時は悪性腫瘍が疑われます。

顔面神経麻痺

目が閉じにくい、口角が下がる。がんが神経に浸潤するために起こり、悪性腫瘍を疑う症状の一つです。

顎下腺がん

顎下部の腫脹

この症状を自覚されて病院を受診する方がほとんどです。耳下腺がん同様に何も原因がないのに痛みを伴う時は悪性腫瘍が疑われます。

舌下腺がん

口腔底部の腫れ、オトガイ下部の腫れ

口腔底(舌の下面の部分)の前よりが腫れてきたり、オトガイ下部(顎の骨の下で首の正中部分)がはれてきたりします。この部分が腫れてくる病気にはいくつかのものがありますが、硬く痛みを伴い、口腔底粘膜が汚くなっているような場合(進行例でみられます)は悪性腫瘍を疑います。しかし、実際の臨床では口腔底粘膜から発生した口腔底がんとの鑑別が難しいことも多く、この場合は視触診、画像診断、病理組織型などを参考に診断されます。

また、耳下腺がん、顎下腺がん、舌下腺がんいずれの場合も上述の症状以外に最初の症状として頸部のリンパ節が固く腫れて病院を受診されることもあります。

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診断

診断には問診、視診、触診が非常に重要です。ここで実際に唾液腺腫瘍の存在が疑われれば、超音波検査、MRI、CTなどの画像診断を実施し、腫瘍の存在の確認とともに、その広がり(周囲組織との関係)を詳しく調べます。さらに穿刺吸引細胞診といって腫瘍の一部に針を刺して腫瘍細胞を注射針の中に吸引し、その細胞を顕微鏡で見ることで組織型を推測する細胞診検査を行います。しかし、唾液腺がんの最終的な病理組織型診断は手術で摘出された腫瘍に全部割をいれて薄切片を作り、詳細までくまなく顕微鏡で観察しないと得られません。

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病期診断

下記のような病期分類によって病期診断が行われています。

T-原発腫瘍

T1 最大径が2cm以下の腫瘍で実質外進展*なし
T2 最大径が2cmをこえるが4cm以下の腫瘍で実質外進展*なし
T3 最大径が4cmをこえる腫瘍、および/または実質外進展*を伴う腫瘍
T4a 皮膚、下顎骨、外耳道、および/または顔面神経に浸潤する腫瘍
T4b 頭蓋底、翼状突起に浸潤する腫瘍、および/または頸動脈に浸潤する腫瘍

*実質外進展とは、周囲の組織へ浸潤している場合や神経に浸潤しているものをいう。

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治療法

唾液腺がんの治療の基本は手術であり、治癒するのに一番確実な方法です。手術ではとにかくがんに安全域をつけて完全に取りきることがきわめて重要です。また、病気の組織型や進行度に応じて、術後に放射線治療を要する場合もあります。手術前に肺、肝臓、皮膚、骨などの臓器に遠隔転移をきたしている場合などは手術以外の治療法が選択される場合があります。

以下に手術の概要を説明します。

手術

1.耳下腺がん
  • 耳下腺浅葉切除術
    耳下腺浅葉をがんと共に切除する方法です。
    大きさがあまり大きくなく浅葉に限局し、画像診断上も比較的おとなしいタイプと判断された例では、がんであっても施行される場合があります。また、この手術を施行する人の中には、術前は良性腫瘍の診断でも摘出した腫瘍の中に手術後初めてがん組織が見つかったというようなケースが見られることがあります。
  • 耳下腺全摘術
    耳下腺を全部摘出する方法です。
    術前にがんの診断がついていて、がんがある程度の大きさがあるもの、深葉や耳下腺全域に及んでいるようなもので選択されます。しかしがんが耳下腺の中に納まっていることが必要です。
  • 拡大耳下腺全摘術
    耳下腺外の周囲組織を一緒に合併切除する方法です。
    腫瘍近くの皮膚、周囲の筋肉、外耳道、耳介、場合によっては下あごの骨の一部や側頭骨の一部も一緒に切除されることがあります。この場合は、欠損部を埋めるためにお腹の筋肉や皮膚などを用いて顔面再建をおこないます。耳下腺外に進展したがんの手術として選択されます。
  • 顔面神経の対応について
    先にも触れましたが、耳下腺の中に顔面神経という神経が走っていてそれが耳下腺の中でいくつにも枝分かれしているために、がんの手術ではこの神経をどのように処理するかが問題となってきます。当科では以下の4点の原則に基づいて処理を決定しています。
    1. 手術前に顔面神経麻痺が既に見られている人では神経にがんが浸潤しているわけですから耳下腺内を走る神経の全部を切除します。
    2. 神経ががんと癒着している場合や、がんの中を貫通している場合には切除します。
    3. 神経とがんの間に肉眼的に正常な耳下腺組織が存在すれば基本的に神経を保存します。
    4. 神経が腫瘍と接しているような場合はがんの組織型を考慮して対応を決定します。
2.顎下腺がん

顎下腺を全部摘出する方法で腺の中にがんがおさまっている場合に選択されます。一方、顎下腺全部ががんに置き換わって周囲と癒着している場合や、腺外の組織に明らかに浸潤しているような場合は、顎下腺を周囲の組織と共に切除します。皮膚や筋肉、神経、場合によってはあごの骨や口腔粘膜も切除されることがあり、この場合は腕の皮膚や足の皮膚などを用いて再建が必要になります。

3.舌下腺がん

基本的に口腔底がんの治療に準じた切除になります。

進行したがんの場合は、口腔底粘膜や舌、あごの骨の一部などが切除され、腕の皮膚や肩甲骨のついた皮膚、足の骨や皮膚が移植されることもあります。

  • 頚部リンパ節郭清術
    当然のことながら、頸部のリンパ節に転移が認められれば頸部も同時に手術治療を行います。

2020-2023年 手術件数

 

再建術の有無など 2020年 2021年 2022年 2023年
小計 症例数 小計 症例数 小計 症例数 小計 症例数
大唾液腺腫瘍手術
(副咽頭間隙悪性腫瘍手術含む)
良性腫瘍 22 38 12 22 22 47 13 39
悪性腫瘍(再建なし) 10 5 11 12
悪性腫瘍(再建あり) 6 5 14 14

• 頸部郭清術などを含む

 

手術以外の治療法

一般に唾液腺がんに対する放射線治療や化学療法(抗がん剤治療)はそれほど有効ではないと言われています。しかし、放射線に感受性があるといわれるがんも数種類あり、それらでは治療の一環として選択される場合があります。また、手術後に悪性度が高いがんでは補助治療として行った方が良いという場合もあります。

一方、化学療法の効果に関しては現在のところは不明な点も多く、唾液腺がんの治療の柱は手術であり、この見解は本邦、欧米とも一致しています。

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再発の診断と治療

唾液腺がんにおける、再発時の診断は初回治療前の診断方法と同様であり、視診、触診や、顔面神経麻痺の有無などの問診、画像診断によって再発腫瘍の存在を確認し、周囲臓器との関係も調べます。穿刺吸引細胞診を行う場合もあります。手術治療が可能であれば手術が選択されます。再発様式や部位によっては、手術以外の治療が選択される場合もあります。

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治療の副作用と対策

耳下腺がんの手術では顔面神経の取り扱いが重要です。当院では、治療前から顔面神経麻痺を認める場合や、がんによって顔面神経の切除が必要な場合には形成外科と連携して顔面神経麻痺の再建術を行います。

再建方法は、切除した顔面神経のかわりに体の他の部分より神経を移植する方法や、顔面神経麻痺のよって起こる顔貌の変化を直接再建していく方法があります。具体的には、@眉毛の下垂を、おでこの皮膚を縫合することによりを引き上げ、A閉眼の補助をするために、上まぶたの皮下に金のプレートを挿入し、B口角(くちびるの端)の下垂を足の筋膜などを用いて引き上げます。

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当科における治療成績

耳下腺がんの患者さんのうち、手術治療を受けた方の5年全生存率はstage別に、I期93%、II期92%、III期88%、IV期43%です。

顎下腺がんの患者さんのうち、手術治療を受けた方の5年全生存率はstage別に、I-II期95%、III期64%、IV期25%です。

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