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早期胃がんの新しい手術治療(腹腔鏡下手術)

早期胃がんの新しい手術治療(腹腔鏡下手術)
最終更新日 : 2023年4月14日

胃がんに対する腹腔鏡手術は、1991年に世界に先駆けて日本で開発されました。年ごとにその手術件数は増加し、国内で広く行われるようになっています。

腹腔鏡下胃切除術が日本で開発されてから、約20年がたちますが、従来からの数十年にわたる開腹手術と比べた短期成績・生存の成績の比較がまだ充分でないために、2018年発行の胃がん治療ガイドライン(第5版)においては、『幽門側胃切除術が適応となるステージI期の症例で、腹腔鏡下手術は日常診療の選択肢となりうる』と位置づけられています。

当院では、がんの根治性(治すこと)と「患者さんに優しい治療」すなわち患者さんの身体への負担の軽減を最優先に考え、この腹腔鏡下治療を胃がん治療の一環として積極的に取り入れるとともに、進行がんに対するその安全性を調べるための臨床研究を行っています。

1.対象となる病状

当院では、主に早期胃がんに対して、腹腔鏡下手術を行っています。

内視鏡(いわゆる胃カメラ)では切除しきれない、つまり胃がんが粘膜下層まで深く入り込んでおり、胃の近くにあるリンパ節をとる必要があると判断される早期胃がんに対して腹腔鏡下手術を行っています。

早期胃がんは、ほとんどが病期Iに含まれ、治る可能性が非常に高いことがわかっています。そして、同じように治ることが期待できるのならば、できるだけ身体に負担がかからず、かつ術後の回復が速い方法がよい、という考えから腹腔鏡下手術は行われています。

2.腹腔鏡下胃切除手術の実際

腹腔鏡手術は、開腹手術と同じ全身麻酔下で行います。まず腹腔内(腹腔:お腹の壁と臓器との間の空間のことです)に炭酸ガスを入れて膨らませ、おへそからこの手術用に開発された細い高性能カメラ(腹腔鏡)を挿入します。この際、同時に手術操作に用いる器具を挿入するために、5〜10ミリの小さな穴を左右に合計4−5ケ所に開けます。そして腹腔鏡で撮ったお腹のなかの様子をモニターに映し出して、胃切除や周囲のリンパ節の切除を行います。

この手術は、専用の高性能カメラからの拡大した鮮明な画像を見ながら行うため、従来の開腹手術では見えにくかった細かい血管や神経まで見えて繊細な手術操作が可能です。

3.腹腔鏡下胃切除手術と開腹手術の違い


従来の手術では20cmほどおなかを切開(開腹)して、直接手で臓器を触れながら手術を行うのに対して、腹腔鏡手術では、5〜10mm程度の創から、お腹の中に器具をいれて、カメラを見ながら手術します。

胃がんを確実に治すために切除するべき胃やリンパ節の範囲は、その方の胃がんの進行度(病期)によって決まるため、臓器の切除範囲は腹腔鏡下手術でも開腹手術でも変わりません。違いは、胃やリンパ節への到達経路(方法)とそれに要する創の大きさです。

腹腔鏡手術では傷が小さくてすむことや、術後の痛みが少ないこと、お腹の中のほかの臓器たとえば腸管などに与える影響が少ないために術後の回復が速いと言われています。早くから食事が摂れること、入院期間が短くて早く社会復帰ができることなどが利点です。

 

4. 「患者さんに優しい治療」を目指して:胃を残す取り組み

胃の手術後はどうしても一度に食べられる食事量が減るため、栄養状態が悪化したり、食べ物がすぐに小腸にながれていくことで、食事後に気分が悪くなったりすること(ダンピング症候群といいます)があります。腹腔鏡手術の対象となる早期胃がんは治る可能性が高く、手術後の消化管機能をいかに保ち、術後の障害をどう予防するが重要になります。そこで当院では、術後の生活の質の向上を目指し、がんの治療に問題ない範囲で残せる部分は極力残すように心がけています。

  • 幽門保存胃切除術:胃中部に存在する早期胃がんで、胃の出口(幽門)から4cm以上離れているものを対象としています。幽門を残すことで、食べ物がすぐに十二指腸へ流れ込まないようにし、また十二指腸液の逆流を防ぐことで手術後の生活の質の向上を図っています。胃の機能を保つことで、ダンピング症候群や体重減少を予防することが可能となっています。
  • 噴門側胃切除術:胃上部の胃がんで、基本的に2/3以上の胃を温存できるものを対象としています。
    噴門側胃切除術では、われわれが生まれながらにして持っている食道と胃の間の逆流防止の機構を切除する必要があります。したがって、手術後に胃酸の逆流が起こることが長年の問題であり、この手術では手術前と同じような生活ができるように再建することが重要です。再建する方法はいくつかありますが、当院では食道と胃を直接つなぐ再建法を行っています。なかでも逆流などの後遺症を少しでも予防するために、【観音開き法】と呼ばれる吻合法を主に行っています。これにより、従来の再建法よりも逆流や狭窄を起こしている頻度は大幅に減少しています。
  • 胃亜全摘術:胃上部に存在する早期胃がんを対象としています。
    当科ではなるべく胃を残すという基本方針のもと、胃の上部に存在する早期胃がんで、多くの施設で胃全摘術が施行されている病変に対しても、可能な限り胃を残す手術「胃亜全摘術」を行っています。
    胃亜全摘術では胃の入り口にある逆流防止弁と食欲などに関連するホルモンを分泌する胃の上部が温存できます。胃全摘を行った場合と比べて逆流症状や、術後の栄養状態が優れていると報告されています。

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