手術の方法 |
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肝臓は再生力の旺盛な臓器で、正常であれば70%程度切除してももとの大きさ近くまで再生します。しかし、肝硬変などがあると肝臓の再生はあまり期待できず、大きく切除すると残った肝臓の働きでは体から要求される仕事を十分にはこなせなくなってしまいます。これを肝不全といいます。

肝不全の治療法は肝臓を入れ替える(肝移植)しかありません。
ですから、ウイルス性肝炎やそのための肝硬変で肝機能が低下していると思われる場合には、その低下がどの程度かを血液検査などで手術前に推定し、CTなどの画像検査から肝臓の体積を計算して、「切り取る予定の肝の分量」が「切り取っても大丈夫な肝の分量」を超えないように、小さめに肝臓を取ることになります。
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開腹の仕方 |
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手術のための皮膚の切り方(皮切法)はいろいろあり、術式によって選択します。


図1は、肝臓の腫瘍を切除する場合によく用いる皮切法です。

肝臓は大きな臓器で、右の横隔膜に接して肋骨のかごに保護されてあります。ですから、たとえ小さく切除するにしても、安全な手術のために肝臓全体を見渡すためには他の手術に比べて大きくおなかを開ける必要があります。
肝臓の右側にある腫瘍を切除する場合には視野を十分にとるために右方向に長く皮切を伸ばしますが、肝臓の左側を操作するためにはそれほど長く横に切る必要はありません。
大きなきず(創)になることによる術後の障害は、皮膚の一部の知覚(さわった感じなど)が鈍くなること以外には特にありません。
最近、胆嚢摘出術などでよく行われる、「傷の小さい」腹腔鏡手術で肝切除を試みる施設も一部にありますが、切除可能な部位や大きさに制限があり一般的ではありません。 |
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肝臓の解剖 |
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肝臓はひとかたまりの臓器ですが、そのなかを走る血管の分布の仕方によって、便宜上いくつかの区画に分けられます。

まず肝全体は大きく左葉と右葉の二つに分かれます。
さらにそれぞれが2つの区域(左葉は外側区域と内側区域に、右葉は前区域と後区域に)に分かれていて、都合4つの区域があります。このうち外側区域、前区域、後区域はさらに上下2つの亜区域に分かれ、これに内側区域と尾状葉(肝臓の後ろ側の小部分)を加えて合計8つの亜区域に分かれます(図2)。

つまりこれらの亜区域には「番地」がふってあるようなもので、「何番目の亜区域にある」とか「何番と何番の亜区域にまたがる」というように肝臓の中の腫瘍の位置をだれにでも誤解のないように表現するのに便利です。

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肝切除の方法 |
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肝臓の切り取り方(肝切除法)は、これら肝の区画の「どこ」を「どのくらい」切除するかによって表現されます。
たとえば、4つの区域のうち3つを取る方法は右または左3区域切除と呼ばれます。次は区域2つを取る方法で左葉切除、右葉切除、中央2区域切除などと呼ばれます(図3)。次が1つの区域を取る方法(区域切除)、さらに1つの亜区域を取る方法(亜区域切除)があります。最も小さく取る方法はがんの周りに正常な肝臓を少しつけて切り取る部分切除という方法です。

がんの大きさにもよりますが、すでに述べたようにどの程度大きく取れるかは肝機能との相談で、肝硬変のある患者さんでは安全のために、亜区域切除や部分切除などより小さい取り方を選ぶのが普通です。
がんでない肝臓をできるだけ残し、しかもがんを取り残さないのがよい手術ということになります。

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精密な手術方法
がんでない肝臓をできるだけ残し、しかもがんを取り残さない、という一見両立が困難な問題を解決する努力がはらわれ、手術方法が改善されてきました。 |

肝臓に流れ込む門脈は肝臓の中に入ると木の枝のように分かれて(門脈枝といいます)肝臓の各部分を養います。肝臓がんはこの門脈枝に沿って広がることがわかっているため(図4)、がん病巣とそれに流れ込む門脈枝の領域(肝臓の部分、たとえば1つの亜区域)を取れば最小限の肝臓の切除量で再発しにくい手術ができるのではないかと考えられ、系統的亜区域切除という手術法が生まれました。

実際には手術中に肝臓の中を超音波検査装置でのぞきながら必要な部分だけを取ります。
この方法だと残った肝臓が大きいため、手術後に肝不全が起こる心配が少なく、ある程度まで肝機能の悪い肝硬変でも安全に行えます。

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肝切除の麻酔、手術中の輸血 |
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麻酔は全身麻酔で、手術時間は術式によって幅があり、だいたい3~10時間くらいかかります。

肝切除は1980年の始め頃までは、何千CCも出血する命がけの手術で輸血の準備が大変でしたが、最近の専門施設では出血量はほぼ千CC以下で、輸血が必要のない手術も少なくありません。輸血は日赤からの献血血液を用いますので家族血などを集める必要はありません。

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肝切除時の出血の制御と輸血について
肝臓は厚みのある臓器で内部を血管が密に走行しているため、そのままメスをいれると著しく出血します。
肝臓を切っている(肝を「離断する」といいます)最中の出血を制御するためには、いろいろな分野での発展が
必要でした。まず、肝切除をしている外科医が肝臓の中を血管がどのような方向に走行しているかを理解することが重要です。次に手術中リアルタイムに肝内の血管の位置・向きを調べることが超音波検査により可能になったことがとても役にたちます。 |

これによって誤って血管を縛ったり切ったりする危険が少なくなり肝切除術の安全性は飛躍的に高まったといえます。また、肝臓に流れこむ血液を遮断してしまえば、肝切除の際の出血を著しく減らすことができます(最初の報告者の名前をとって「プリングル手技」といいます)。
以前はこのようなことをすると肝臓の細胞に酸素が供給されなくなることでのデメリットが大きいとされていましたが、肝臓に血液を流した状態での肝切除と血液を遮断しての肝切除を比較するとむしろ後者の方が手術後の肝機能などの回復が良いとされるようになりました。
肝臓の入り口で肝動脈と門脈が入っている組織(肝十二指腸間膜)を鉗子などではさんで血液が流れないようにしますが、ずっと止めているわけではなく、15分間止めている間に肝臓を離断し、次の5分間は血液を流して肝臓を休ませることを繰り返します。
この方法を用いるとトータル300分以上肝臓に血液が流れこまなくても、問題なかったと報告されています。

癌研病院消化器外科肝胆膵グループでは、このプリングル法を用いて肝切除術を行っており、2001年5月から2002年9月までに行った92回の肝切除術では肝臓を切っている間の出血量の平均が300mlで、手術全体での平均出血量は585mlと1000mlをはるかに下回りました。赤血球輸血は92回中12回(13.0%)でした。 |
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術後経過 |
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手術後しばらくは集中治療室(ICU)や回復室(リカバリールーム)で治療を受けます。
手術後の痛みは他のおなかの手術と変わりません。最近は麻酔法や鎮痛剤の進歩によって、かなり苦痛が軽減されています。

原則として手術翌日からベッドの上で起き上がったり、場合によってはベッドの脇に立ったりするように努力してもらいます。術後2~3日を過ぎると痛みはかなり楽になります。順調であれば、3~4日で普通の病室に戻ります。同じ頃、尿道カテーテル(膀胱にいれて尿を持続的に取る管)が抜け、トイレへ歩いて行けるようになります。術後3日から1週間の間に排ガス(おなら)があり、鼻から胃に入れた管(胃カテなどと呼びます)が抜け、水分から少しずつ食事が始まります。抜糸は1~2週間の間に行われます。
手術の時におなかの中にたまるものを外へ出すために、ドレーンという管が何本か入れられ、傷の近くから体の外へ出ています。おなかの中に汚染がなければ1~2週間でぬけますが、汚染があればゆっくり時間をかけて抜くことになります。

すべてが順調であれば、手術後10日程度で退院です。 |
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手術の危険度や合併症 |
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最も恐ろしいのは手術後の(1)肝不全です。
肝不全になると徐々に黄疸(血液中のビリルビンという色素が増加し、皮膚が黄色くなること)が進行し、肝臓を含めた全身の重要な臓器(腎臓、心臓、肺など)の機能が低下していき最後には死亡します。肝炎や肝硬変のために肝機能が悪かったり、手術中の出血が多かったり、手術後に肺炎などの余病を併発すると肝不全に陥りやすくなります。

転移性肝がんの患者さんのほとんどは肝臓そのものは正常なので、手術によって肝不全になり死亡する確率はほぼ0%ですが、慢性肝炎や肝硬変を伴うことが多い原発性肝がん(特に肝細胞がん)では術後肝不全にならないように、慎重に手術の適応や術式について検討しなければなりません。
昔は手術後にこれで亡くなる患者さんが多かったのですが、最近は手術前の肝機能評価法の進歩、手術技術の向上、術後管理法の進歩などによって非常に少なくなりました。手術死亡率は最近の全国集計では2.7%で、わが国の多くの専門施設では1%程度です。

このほかに、(2)手術後の出血、(3)胆汁瘻(肝臓を切った断面などから胆汁がもれること)、(4)腹腔内膿瘍(おなかのなかに膿がたまること)、発熱、肺炎などの合併症が起こり得ます。適切に治療して、これらをきっかけにして肝不全に陥らないようにします。 |
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退院後の生活 |
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退院後の通院の仕方と検査
退院後はしばらくは2週間に一度、順調であれば1か月に一度程度の外来通院になるでしょう。 |

通院の一番大きな目的は再発のチェックです。
肝臓がんの90%以上にみられるB型またはC型肝炎それ自体が発がんのハイリスクグループであり、ほかのがんに比べて再発が非常に多いことを知っておく必要があります。
チェック方法は腫瘍マーカー(アルファフェトプロテイン、PIVKA-2など)の測定(採血)と超音波検査、CTなどの画像診断で行います。また、食道静脈瘤を合併していることがありますので、定期的に食道、胃の内視鏡検査も必要です。

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退院後の生活
とくに支障のない限り普通の生活ができます。
飲酒は厳禁です。たばこも好ましくありません。
肝硬変や肝臓がんそのものが進行して肝障害によるさまざまな症状が現れた場合はそれに応じた投薬などを受けます。
たとえば腹水や浮腫が現れた場合は利尿剤が、胃十二指腸潰瘍や胃炎の場合には抗潰瘍薬や胃粘膜保護薬が投与されます。 |
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