癌研有明病院 THE CANCER INSTITUTE HOSPITAL OF JFCR

抗がん剤の知識−抗がん剤治療の進歩と現状−

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抗がん剤の知識−抗がん剤治療の進歩と現状−
ー抗がん剤治療の進歩と現状ー(月刊 がん 誌 2002年11・12月号より)
取材・文◎柄川昭彦 医療ジャーナリスト 撮影◎早坂 明

手術、放射線、抗がん剤――がんに立ち向かう3つの武器のなかで、最近、特に目覚ましい進歩を遂げているのが、抗がん剤である。次々に開発される新薬が大きな期待を集める一方、既存の抗がん剤の投与法の工夫で副作用を抑え、劇的な効果を上げている例もある。
抗がん剤治療の基礎知識から、最新の用法まで、いくつかのトピックスを交えてリポートする。
目次
Chapter.1: 抗がん剤治療の進歩と現状
Chapter.2: 抗がん剤治療の進歩で治るがんが増えた
Chapter.3: 数種類の薬の併用で治療効果を高める
Chapter.4: 抗がん剤が「効く」とはどういうことか
Chapter.5: 支持療法の発達で副作用が軽減
Chapter.6: 分子標的薬の登場で変わる抗がん剤治療
Chapter.1: 抗がん剤治療の進歩と現状
抗がん剤で変わったがん治療
−副作用も軽減され体に優しく−
抗がん剤は、がん治療を大きく変えた。進行がんの患者の寿命を延ばし、かつては治らないと言われた白血病が、抗がん剤によって5割が治るようになり、最近は固形がんでも、放射線と抗がん剤との併用療法で、優れた治療効果を上げる例が出てきた。
抗がん剤の泣きどころであった強い副作用も、吐き気などを抑える支持療法の発達や投与方法の工夫によって軽減され、患者がつらい思いをすることも少なくなってきている。
今また、分子標的薬といわれる、これまでになかった種類の薬の開発によって、がんの治療に新たな展望が開けてきた。
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Chapter.2: 抗がん剤治療の進歩で治るがんが増えた
抗がん剤治療はまだ歴史が浅い。手術療法の歴史は約100年、放射線療法の歴史は約50年だが、がんの治療に抗がん剤が用いられるようになってからは、たかだか35年ほどしかたっていないのだ。しかし、抗がん剤治療は、がんの治療において重要な位置を占めるようになっている。
例えば、早期の段階で発見され、狭い範囲にとどまっているがんであれば、手術によって切除する治療が効果的だ。放射線治療も、がんがある範囲に限局している場合に効果を発揮する。
ところが、がんという病気は、進行するとリンパや血液に乗って、全身に転移していく。発見されたときからがんが全身に転移していることもあるし、手術や放射線治療を受けた後、再発して転移が起こる人もいる。こうした患者さんに対しては、局所的な治療ではなく、抗がん剤治療のように、全身に効果を発揮する治療法が必要になる。癌研究会附属病院化学療法科の畠清彦部長によれば、抗がん剤治療が発達してくるまで、全身に広がったがんに対しては、効果的な治療法がなかったのだそうだ。
「進行がんで腹水がたまっているとか、全身状態も悪くなってきたという場合、積極的な治療法がないので、3~6カ月くらいで亡くなることがほとんどでした。ところが、効果的な抗がん剤が次々と開発されることによって、こうした状況は大きく変わってきました」
抗がん剤治療は、進行がんの患者さんの延命期間を延ばすことに成功しただけでなく、がんの種類によっては、治すことができるようになった。特に治療成績が優れているのが血液系のがんで、白血病なら50%の治癒率を誇っている。
「血液系のがんや悪性リンパ腫などでは、たくさん抗がん剤を使うことで、治癒する例が出てきました。骨髄移植を行う場合でも、大量の抗がん剤でがん細胞を完全にたたくことで、効果が上がることがわかってきたのです。このようながんに対しては、抗がん剤治療は、試みなければならない治療法だと言えます」
血液系のがんに効果を発揮するようになっても、固形がんに対しては延命効果が期待できるだけで、治癒まで持っていくのはなかなか困難だった。しかし、最近では、がんの種類によっては、固形がんでも治癒が期待できるようになっている。例えば、食道がんなどがそうだ。
「食道がんの4分の3は、すでに進行がんの段階で発見されます。こうしたがんに、抗がん剤と放射線の併用療法を行うと、良くなることがわかってきました。治療成績は手術を行った場合と同じくらいです」
食道がんに対する両者の治療成績はほぼ互角だが、治療後のQOL(生活の質)を考えると、抗がん剤と放射線の併用療法に軍配が上がりそうだ。食道がんの手術では、食道を取って胃をつり上げたり、がんのできている部位によっては、胃まで切除することになる。そのため、十分に栄養を吸収できずにやせてくるなど、手術の直後から栄養障害が深刻な問題となる。
それに比べ、抗がん剤と放射線の併用療法は、治療を行っている1~2カ月は副作用でつらい思いをするが、治療後の生活には影響を及ぼさない。このように、手術療法に比べて侵襲性が低いのも、抗がん剤治療の大きなメリットと言えそうだ。
ただし、抗がん剤治療はどんな患者さんにも行っていいものではない。抗がん剤治療は、がん細胞をたたくだけでなく、正常細胞もたたいてしまうという側面を持っているため、患者さんの全身状態が良好でないと、かえって好ましくない結果を招いてしまうこともあるからだ。
患者さんの全身状態をパフォーマンス・ステータス(PS)といい、別表のように0~4の5段階で評価する。このうち、抗がん剤治療の対象となるのはPS0~PS2で、PS3とPS4の場合には、原則として抗がん剤治療は行われない。
「PS3やPS4だと、抗がん剤治療を行っても、延命効果はほとんどないことがわかっているんですね。場合によっては、抗がん剤治療が負担になって、かえって状態を悪化させてしまうこともありますし、寿命を縮めてしまうことだって考えられます」
全身状態が良くない患者さんへの抗がん剤治療は、患者さんを苦しめるだけの結果に終わることが多いわけだ。

別表 パフォーマンス・ステータス(PS)
0. 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく発病前と同等にふるまえる。
1. 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行や軽労働、(軽い食事など)、座業(事務など)はできる。
2. 歩行や身の回りのことはできるが、ときに少し介助がいることもある。軽労働はできないが、日中の50%は起居している。
3. 身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床している。
4. 身の回りのこともできず、つねに介助が必要で、終日就床を必要としている。
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Chapter.3: 数種類の薬の併用で治療効果を高める
抗がん剤の効果は、がんの種類でまったく異なっている。抗がん剤治療がよく効くがんもあれば、ほとんど効かないがんもあるのだという。効果の程度によって、「よく効くがん」、「ある程度効くがん」、「ほとんど効かないがん」という3つのグループに分けることができる。
よく効くがんとは、抗がん剤治療によって、治癒が期待できるがんのことだ。急性骨髄性白血病や悪性リンパ腫がこれに該当する。これらのがんには抗がん剤治療が効果的で、抗がん剤治療を行わなければ助からないし、抗がん剤治療を行えば、50%ほどの確率で治癒することがわかっている。
ある程度効くがんとは、効けばがんが小さくなり、延命効果が期待できるがんを指す。胃がん、大腸がん、子宮がん、前立腺がん、膀胱がんなどが該当する。
ほとんど効かないがんとは、抗がん剤に対する感受性が低く、抗がん剤治療を行っても、縮小するのもまれながんのことだ。スキルス性胃がん、悪性黒色腫、膵臓がんなどが該当する。
抗がん剤の効果は、抗がん剤の使い方によっても違いが出る。例えば、単独で使った場合には十分な効果が期待できない抗がん剤でも、いくつかの薬を組み合わせて使うことで、大きな効果が現れることがあるのだ。
「効果を少しでも高めるために、現在では、2~4種類程度の抗がん剤を併用する多剤併用療法が一般的になっています。抗がん剤を併用することで、それぞれの薬のいいとこ取りをして、相乗効果もしくは相加効果を期待しようという使い方です」
大きくなったがんは、いろいろな種類のがん細胞が混在していることが多い。そのため、1種類の抗がん剤だと、ある種のがん細胞には効くが、ほかのがん細胞には効きにくいということが起こりがちだ。ところが、数種類の薬を併用すると、ある抗がん剤が効きにくい部分にも、別の抗がん剤が効く可能性がある。このため、1種類の抗がん剤で治療するより、多剤併用療法のほうが治療効果が高くなるのだ。
「多剤併用療法を行う場合には、作用は同じでもいいのですが、副作用が同じ薬を組み合わせないようにします。同じ副作用を持つ薬を組み合わせてしまうと、それが相乗的に現れて、患者さんを苦しめることになるからです」
副作用が異なり、効果の優れた抗がん剤を組み合わせれば、副作用を許容範囲内に抑えながら、大きな効果を得ることができる。多剤併用療法は、抗がん剤の効果を最大限に利用するための利用法といえるかもしれない。
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Chapter.4: 抗がん剤が「効く」とはどういうことか
抗がん剤治療では、その治療によってどのような効果が現れているかを、きちんと判定していかなければならない。効果が認められれば、その治療を続けていけばいいのだが、効果がないのであれば、別の治療法に切り替えなければならないからだ。
抗がん剤の効果は、次のような基準によって判定する。

1. 完全寛解(CR=コンプリート・レスポンス)
腫瘍がすべて消失し、その状態が4週間以上続いている場合。
この状態を長く続けることで治癒に結びつく。
2. 部分寛解(PR=パーシャル・レスポンス)
腫瘍の縮小率が50%以上で、新しい病変の出現が4週間以上ない場合。
完全に治ったわけではないが、薬がよく効いていて、ほとんどの症状は消失している。
3. 不変(SD=ステイブル・ディジィーズ)
腫瘍の大きさがほとんど変わらない場合(正確には、50%以上小さくもならず、25%以上大きくもならない場合)。がんは放置すればどんどん大きくなるので、大きさが変わらないのは、薬の効果があったことを意味している。
4. 進行(PD=プログレッシブ・ディジィーズ)
腫瘍が25%以上大きくなった場合、もしくは別の場所に新たな腫瘍ができた場合。

以上の4段階で判定し、完全寛解、部分寛解、不変だった場合には、その治療の効果があったと考える。効果がある場合は、その治療を継続するのが基本だ。ただし、完全寛解の場合には、途中で薬の投与を中止し、再発がないかどうかをチェックしていくことになる。
「治療を開始してから定期的に検査を受け、効果判定を続けていくことを経過追跡というのですが、抗がん剤治療ではこれがとても大切です。検査を頻繁に受けるほど、正確に効果判定と経過追跡ができます。例えば、進行していることがわかった場合でも、前の検査との間隔が開いていると、その間ずっと進行していたのか、最近になって急に進行したのかわかりませんからね」
そうしたことをしっかり把握するためにも、なるべく頻繁に、そして定期的に検査を受ける必要がある。検査の間隔は、がんの種類によってそれぞれ決まっている。
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