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診療科・部門紹介
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消化器センター

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最終更新日 : 2016年6月10日

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肝胆膵外科:腹腔鏡手術への取り組みと術中蛍光イメージングの応用

はじめに

腹腔鏡下手術は、腹部に「トロッカー」と呼ばれる径5-12mm程度の装具を設置した後、トロッカーからカメラや手術器具を出し入れし、TVモニター上の映像をもとに病変を切除したり、消化管を縫合したりする手術です(図1)。腹部を広く切開し、「直接目で見て、手で触って」操作を進める従来の開腹手術と比べて、手術後の痛みが軽度であり、手術の傷に関するトラブルも少ないというメリットがあります。特に肝胆膵手術では、縦切開だけでなく、臍の上から右または左に横切開を加えないと十分な視野が得られないことも多いので、手術の傷を小さくするという意味では腹腔鏡手術の效果が大きいと考えられます(図2)。

一方、腹腔鏡手術は開腹手術に比べて器械を操作する自由度が低く、手術時間も長くなる傾向にあります。いくら皮膚の傷が小さくても、お腹の中の手術操作が開腹手術と比べて不十分である場合には、病気の治療という意味で本末転倒な結果になりかねません。

そこで当科では、一人一人の患者さんに対し、手術の方法(腹腔鏡手術か開腹手術か)についてまず肝胆膵内科と合同カンファレンスで協議しています。さらに、食道・胃・大腸外科と一緒に行っている術前カンファレンスに提示し、腹腔鏡手術を行うことが妥当であるか消化器外科全体で検討し、手術法を決定しています。

当科では現在、次項で述べる保険収載術式(肝部分切除・外側区域切除、膵体尾部切除、胆のう摘出術、および脾摘出術)に限って腹腔鏡手術を導入しています。予定の手術が腹腔鏡手術の保険術式でない場合、あるいは保険収載術式であっても腹腔鏡手術を採用することが不適切であると判断された場合には、従来通り開腹手術を提案しています。

また、腹腔鏡手術の安全性と有効性を向上させるために、インドシアニングリーン(ICG)を用いた術中蛍光イメージングを積極的に導入しています。ICGは従来から主に肝機能検査薬として広く使用されていた薬剤ですが、これに近赤外光(テレビリモコンなどに用いられている光線)を照射すると蛍光を発する性質があるため、最近は手術中に血管などの体内構造や腫瘍を描出するために用いられています。さらに、膵臓手術の重大な合併症である「膵液漏(膵液の漏れ)」の予防を目指して、本来無色透明である膵液を描出するための新しい蛍光プローブの開発にも取り組んでいます。

腹腔鏡下肝部分切除、外側区域切除

基本的には腹腔鏡でも開腹手術と同じ方法で肝切除を行っています。まず、肝臓を周囲の組織から剥がした後、超音波検査や、後述する蛍光イメージングを用いて腫瘍の位置を確認します(図3)。次に肝臓を離断しますが、これには血管シーリングシステムやバイポーラー鉗子と呼ばれる器具を用います。肝臓内部の太い血管は糸で縛るか、クリップで閉鎖します[参考文献: 1-3]

当科では、2015年7月までに92例の腹腔鏡(補助)下肝切除が実施されました。現在の手術法を導入した最近の32例における出血量の中央値(範囲)は100(5-1800)mL、手術時間は247(82-517)分でした。手術中に切除すべき腫瘍が多数発見された1例で、腹腔鏡手術から開腹手術に変更して肝切除を行いました(開腹移行率: 3%)。

腹腔鏡下胆のう摘出術

世界で最も頻繁に行われている消化器外科手術の一つです。一般的には胆石症が主な対象疾患ですが、がん専門病院である当院では、良悪性の鑑別が必要になる胆嚢ポリープに対して行われることが多くなっています。手術前に悪性(胆のう癌)と診断されている場合は、初めから開腹手術を採用し、病変の進行度に応じて周囲のリンパ節や肝臓、胆管を合併切除しています[4]

腹腔鏡下胆のう摘出術の合併症には、胆管損傷(温存すべき胆管が傷ついてしまうこと)に伴う胆汁漏(胆汁の漏れ)が挙げられます(図6)。頻度は0.5%程度と稀であり、通常は保存的治療により治癒しますが、時には肝機能障害の原因となったり、再手術などの追加治療が必要になったりすることもあります。当科では胆管損傷のリスクを減らすために、後述する蛍光イメージングを用いて、脂肪組織の中を走行する胆管の位置を確認しながら手術を行っています。

術中蛍光イメージングの応用

ICG蛍光イメージングとは

タンパク質と結合したICGに近赤外光(750 - 810nm)を照射すると、840nmをピークとする蛍光を発します。この波長は肉眼では観察できませんが、血液や水の吸収を受けにくいため、厚さ5mm前後の組織を通過することができます。近年、開腹手術だけでなく腹腔鏡手術中にICGの蛍光を描出するための装置が市販され、癌や血管、胆管などの位置を手術中に確認するために応用されつつあります[5,6]

蛍光胆道造影

最も期待されている用途は胆管のイメージング(蛍光胆道造影)です。ICGを静脈注射し、胆汁中に排泄されたICGを蛍光イメージングで描出することにより、胆管に何も操作を加えることなくその位置を同定することができます(図7[7], ビデオ:。本邦で開発された技術ですが、近年ロボット手術中に蛍光イメージングを行う装置が米国で販売されたこともあり、国外でも普及しつつあります。

肝癌のイメージング

術前に肝機能検査のために投与されたICGが肝臓癌の組織や周囲の肝組織に集積することを利用して、蛍光イメージングを用いて肝切除中に腫瘍の位置を確認することができます(図8[8,9]。特に腹腔鏡手術では、直接手で触れて肝腫瘍の位置を確認することができないので、蛍光イメージングで腫瘍を描出できれば肝切除の範囲を決定するために非常に役立ちます。

肝区域のイメージング

肉眼的には肝臓は右葉と左葉の2つに区分できるのですが、肝内の血管の枝振りに基づいて整理すると、S1からS8まで8つの区域に分類できます。通常、この8区域の境界は見た目には認識できません。しかし、手術中に超音波を用いて特定の区域に向かう血管(門脈)に微量のICGを注入し、蛍光イメージングを行うと、その区域が蛍光領域としてはっきり描出されます(図9[10-12]。この方法により、切除すべき肝区域と残すべき区域との境界を確実に認識できるようになるので、より正確な肝切除を行うために役立つと期待されています。

膵液のイメージング

膵切除では、膵臓の切り口や消化管とのつなぎ目(吻合部)から高頻度に膵液が漏出します(膵液漏)。膵液は蛋白質や脂肪を溶かす酵素を含んでいるので、膵液漏が起きると自分の体の組織が障害を受け、出血や感染などの重大な合併症につながる可能性があります。私たちは、膵液漏を予防できない理由の一つは、膵液が無色透明であるため手術中に膵液漏の有無を確認できないからではないかと考え、東京大学と共同で「蛍光イメージングで膵液を目で見えるようにする」技術を開発しています(図10[13,14]。この方法はまだ患者さんには使えませんが、将来はこの技術を用いて手術中に膵液が漏れている場所を閉鎖したり、膵液漏のない患者さんには予防のためにお腹に入れる管(ドレーン)を省略したりすることが可能になるかもしれません。

お問い合わせ

腹腔鏡下肝胆膵切除に関する診察は、月曜日から金曜日までどの外来でも対応しております。特に金曜日には内視鏡外科技術認定医(石沢)による診察を行っております。

蛍光イメージングに関するお問い合わせは下記にお願いいたします。

がん研有明病院 肝胆膵外科 副医長
石沢 武彰
takeaki.ishizawa@jfcr.or.jp

参考文献

  1. ^ 石沢武彰, Brice Gayet. Gayet腹腔鏡下肝胆膵手術. 南江堂, 2012.
  2. ^ Ishizawa T, et al. Laparoscopic Segmentectomy of the Liver: From Segment I to VIII. Ann Surg 2012;256:959-64.
  3. ^ 齋浦明夫(編). 肝癌 (がん研スタイル癌の標準手術). メジカルビュー社. 2014.
  4. ^ 山口俊晴(監修)、齋浦明夫(編集). 膵癌・胆道癌 (がん研スタイル 癌の標準手術). メジカルビュー社. 2015.
  5. ^ Kokudo N, Ishizawa T (Eds).: Fluorescent imaging: treatment of hepatobiliary and pancreatic diseases. Karger, Basel, 2013.
  6. ^ Dip FD, Ishizawa T, Kokudo N, Rosenthal R. Fluorescence Imaging for Surgeons: Concepts and Applications. Springer, NY, 2015.
  7. ^ Ishizawa T, et al. Fluorescent cholangiography illuminating the biliary tree during laparoscopic cholecystectomy. Br J Surg 2010;97:1369-77.
  8. ^ Ishizawa T, et al. Real-time identification of liver cancers by using indocyanine green fluorescent imaging. Cancer 2009;115:2491-504.
  9. ^ Ishizawa T, et al. Mechanistic background and clinical applications of indocyanine green fluorescence imaging of hepatocellular carcinoma. Ann Surg Oncol 2014;21:440-8.
  10. ^ Ishizawa T, et al. Positive and negative staining of hepatic segments by use of fluorescent imaging techniques during laparoscopic hepatectomy. Arch Surg 2012;147:393-4.
  11. ^ Inoue Y, et al. Anatomical liver resections guided by 3-dimensional parenchymal staining using fusion indocyanine green fluorescence imaging. Ann Surg 2015;262:105-11.
  12. ^ Miyata A, Ishizawa T, et al. Reappraisal of a dye-staining technique for anatomic hepatectomy by the concomitant use of indocyanine green fluorescence imaging. J Am Coll Surg 2015;221:e27-36.
  13. ^ Yamashita S, Sakabe M, Ishizawa T, et al. Visualization of the leakage of pancreatic juice using a chymotrypsin-activated fluorescent probe. Br J Surg 2013;100:1220-8.
  14. ^ Mori K, Ishizawa T, et al. Intraoperative visualization of pancreatic juice leaking from the pancreatic stump in a swine model. Gastroenterology (in press).
図1  ^ 腹腔鏡手術の様子(肝切除)

腹部に開けた小さな傷にトロッカーと呼ばれる装置を設置し、そこから手術器具を出し入れして手術を行います。術者と助手はTVモニターを見ながら手術を進めます。

図2 ^ 開腹手術と腹腔鏡手術の皮膚切開

肝胆膵外科の肝胆膵手術では、縦切開に加えて右または左側の横切開が追加されることが多くなります。腹腔鏡手術では、通常5-6箇所に小さな傷を開けてトロッカーを設置し、手術を行います

図3 ^ 腹腔鏡下肝切除の様子

超音波で腫瘍の位置を確認しながら切除のラインを設定し(左上)、種々の装置を駆使して腫瘍を含む肝臓の一部を切除します(左下)。肝切除の範囲が開腹手術とほぼ同じになるように心がけています(右)

図4 ^ 膵臓の解剖と周囲臓器との関係

膵臓は十二指腸に近い方から「頭部」、「体部」、「尾部」に分類されます。保険で認められている腹腔鏡手術の対象は体部または尾部の切除です。脾臓と膵臓は共通の血管を用いているので、膵体尾部の切除で脾臓を一緒に摘出することもあります。

図5 ^ 脾臓を温存した腹腔鏡下膵体尾部切除後の様子

膵臓の断端はステイプラーというホチキスに似た医療用の機器で閉鎖されています。脾臓の動脈と静脈が温存されています。

図6 ^ 胆のう摘出術における胆管損傷

胆のう摘出術では、胆のうと総胆管を接続する「胆のう管(図のピンク色の部分)」を切離します。この部分は脂肪組織に埋もれており、炎症が強い場合は周囲と強く癒着していることがあるので、胆のう管を処理する過程で総胆管が損傷されることがあります(胆管損傷)。総胆管が損傷すると、内部を流れる胆汁が腹腔内に漏れ出すことになります(胆汁漏)。

図7 ^ 腹腔鏡下胆のう摘出術中の蛍光胆道造影

通常のカラー像では脂肪に覆われて不明瞭ですが、蛍光イメージングでは胆のう、胆のう管、総胆管の位置関係が連続して描出されています。最近、本来色として認識できない蛍光シグナルをカラー像に重ね合わせて表示できる装置も開発されています(右)。

図8 ^ 蛍光イメージングによる肝腫瘍の抽出

腹腔鏡手術中に、蛍光イメージングで肝腫瘍(大腸癌肝転移、→)が明瞭に描出されています。手で直接肝臓を触ることができない腹腔鏡手術では、蛍光イメージングによる癌の位置情報が役に立ちます。

図9 ^ 肝区域の蛍光イメージング

右の写真は、従来から用いられている青い染色液に微量のICGを混ぜ、S6と呼ばれる肝区域に向かう血管(門脈)に注入した後に蛍光イメージングで撮影したものです。肉眼像(左)よりも、肝S6領域の範囲を正確に認識することができます。

図10 ^ 膵液漏の蛍光イメージング

膵切除後に漏れ出す無色透明の膵液を、新しく開発した蛍光プローブで「可視化」して、膵液漏の予防に用いるための技術を開発しています。将来患者さんの体の中で蛍光イメージングを行うことを目指して、現在は蛍光プローブの安全性データを収集しています。

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