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形成外科

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目次

Chapter.3: 乳房再建の方法

乳房再建には2つの基本的な術式があります。

  1. 人工乳房手術(シリコン・インプラント法)
  2. 自分の組織を使う手術(皮弁法)

それでは、これからこの二つの手術方法についてお話いたしますが、その前にまず、当科の特徴のひとつである再建手術前の準備手術(ティッシュ・エクスパンダーによる組織拡張手術)についておはなしいたします。

当科では、皮膚の伸展性(のびやすさ)と柔らかさを保つために、いずれの術式の場合でも、再建の専門科である形成外科の手術により、最初に組織拡張器(ティッシュ・エクスパンダー)を大胸筋という胸の筋肉の裏に挿入し、自然な形態を得られるような工夫を行っております。

まず、皮下乳腺全摘手術の際に、少量の生理食塩水の入ったティッシュ・エクスパンダーを大胸筋の下に挿入します。(一期再建)

大胸筋の裏へ、健側と対称的な位置に正確にティッシュ・エクスパンダーを挿入することは、形成外科の治療上、自然でバランスのとれた乳房を再建するためのきわめて重要な要素であると私たちは考えております。

乳房は女性にとって大切な臓器であり、より自然な形態を再建するために、再建を目的とした乳腺全切除の手術の際には、乳腺外科とともに再建専門の科である形成外科が必ず手術に一緒に入り、責任を持って手術を行っています。このチーム医療によって、より正確に自然な乳房の対称性を再現するための準備を行うことができます。

手術後、外来受診の際に、生理食塩水を徐々に注入し、健側(切除していない側)の乳房と相応するまで組織(皮膚)を拡張します。さらに伸びた皮膚が後戻りしないようにエクスパンダーを3ヶ月ほどそのままおいておくと、より柔らかな乳房になります。

十分な皮膚のやわらかさ、のびやすさが得られたのち、人工物(シリコン・インプラント)、もしくは自家組織のいずれかを選択して再建手術を行うことが可能です。

その際、健側の乳房の大きさ・形などが手術方法選択のための大変重要な目安になります。

1.人工乳房手術(シリコン・インプラントを用いた乳房再建)

 

人工乳房(シリコン・インプラント)を用いた乳房再建の最も大きな利点は、体のほかの部分にきずをつけたり、身体の他の部分を用いることなく、再建手術を行うことが可能であるという点です。

手術手順としては、エクスパンダーにより十分な皮膚の進展を得た後に、人工乳房(シリコン・インプラント)と入れ替えますが、乳房を切除したときと同じきずから皮膚を切開してシリコン・インプラントを挿入します。この際には、きずが目立たないように形成外科的な特殊な縫合を行い、最終的にできるかぎりきれいな仕上がりになるよう工夫しております。

全身麻酔は必要ですが、きわめて低侵襲の手術であり、実質の手術時間も約30分から1時間程度で済みます。

術後の合併症の心配もほとんどなく、入院期間も最短(通常2泊3日)で済みます。

一方、欠点としては、シリコン・インプラントは人体にとってはあくまでも異物であるため、インプラントを挿入してしばらくたつとインプラントの周りには皮膜(ひまく)といってうすいカプセルのようなものができてきます。そして何もせずに放っておくと、この皮膜はだんだん縮こまってきてしまうため、せっかくいい形で入っていたインプラントがだんだん変形してきてしまうことがあります。そのため、インプラントの手術を選んだ場合には皮膜拘縮(ひまくこうしゅく:ひまくがちぢまってしまうこと)をおこさないように主治医の指導のもとでマッサージをおこなわなければいけません。

身体にはいる異物であるインプラントの問題点としては、感染症の問題があります。一般的には、シリコン・インプラントを用いた再建で約3%の患者さんに感染症が生じるといわれています。感染が生じた場合には、インプラントを取り出さなければ感染がなおらないことがあります。

治療費の点から考えると、現段階ではシリコン・インプラントを用いた乳房再建手術は健康保険の適応外となっており、すべて自費による負担となります。

また、シリコン・インプラントでは形状的に下垂した乳房への適応が難しいことや、対側(治療していない側)が年齢とともに下垂してもシリコン・インプラントで再建した乳房の形態には変化が起きないため、手術直後の自然な乳房の対称性が徐々に失われていくといった難しい点が考えられます。

この問題に対する私たちの解決策としては、

  1. 乳房下溝(にゅうぼうかこう:乳房の下のライン)を少し低い位置において左右のバランスをとる、
  2. 健側(手術をしていない側)の乳房を少しつりあげることによって両側とも若々しい印象にする、
  3. 健側を豊胸することで乳房下垂の改善をはかる、

などの治療をおこない、患者さんの希望する形に可能な限り近づける工夫を行っています。

また、術後放射線照射を受けている方、もしくは照射を予定されている方では合併症の頻度が増すことからシリコン・インプラントは適応とはならず、その場合には自家組織での再建を推奨しています。

当院では、人工乳房にINAMED社のMcGhan style 410を使用しています。インプラントの形が立位での乳房の形に近い涙滴型で、エクスパンダーと同じように表面はすこしざらざらとした祖面加工がなされていて、被膜による拘縮(ひきつれ)を予防し、インプラントの位置異常が起こりづらくなっています。内容にコヒーシブシリコンジェルという「こんにゃく」のような特殊なシリコンが使われていることで、外側のシリコンの膜が破れても流れ出しにくい構造になっており、現在あるものの中で質感と安全性が最も優れているインプラントといわれています。インプラントの幅と高さ、突出度の組み合わせによって117種類の中から適切なサイズを選んで使用します。

2.自分の組織を移植する手術

自分の組織(自家組織:じかそしきともいいます)を身体のある場所からほかの場所へ移動することによって欠損した部分をおぎなう再建手術の方法を、「皮弁(ひべん)法」といいます。

自家組織による乳房再建方法は、大きく分けると「腹直筋皮弁法」といっておなかの組織を使って再建する方法と、「広背筋皮弁法」といって背中の組織を使って再建する方法の2種類があります。 通常、背中の脂肪組織と筋肉はそれほど厚いものではなく、これらの組織だけで乳房を再建するにはボリュームが不足することが多いので、私たちは背中の組織の使用(広背筋皮弁)は第一選択にはしていません。そこで、この項目ではおなかの組織を使う「腹直筋皮弁法」を中心にお話したいとおもいます。

腹直筋の血行について(解剖)

手術方法の話の前に、まず、おなかの皮膚の下の解剖がどのようになっているか、簡単にお話ししましょう。

おなかの皮膚の下には、肋骨から下に向かって恥骨までの間に、左右にそれぞれ1本ずつ腹直筋という大きな筋肉があります。わたしたちが腹筋運動をするときにつかう筋肉です。この腹直筋には、筋肉の栄養源である血液をおくってもらっている大切な血管が上下2方向から入ってきています。上から入る血管を「上腹壁動静脈」(動脈と静脈をまとめて動静脈とよびます)と呼んでいます。もうひとつは下から入る血管で「下腹壁動静脈」と呼んでいます。上からの血管も下からの血管も、それぞれが同じおなかの筋肉へ栄養である血液を送っていますが、乳房再建の手術で使うおへそから下の部分の組織には「下腹壁動静脈」のほうがたくさんの血液を供給できることがわかっています。

腹直筋の表面には「筋膜」という白い強靱な膜があり、筋肉を包み込んでいます。下腹壁動静脈の血流は腹直筋の裏を下から上へ向かって流れており、その途中で体の表面に向かって何本かの細い枝を出し、これらの枝は「筋膜」を貫いておなかの脂肪組織や皮膚を栄養しています。これらの細い血管を「穿通枝(せんつうし)」と呼んでいます。体の組織に栄養を送るために必要なのは実は筋肉ではなくて血管なので、このような再建手術をするときには、主要な血管があれば、筋肉などの組織は必要ありません。腹直筋の筋肉や神経を犠牲にせずに血管だけをはずすことが技術的に可能であるとわかったのは、ここ10数年の間の話です。

それまでは、腹直筋の筋肉と神経を犠牲にして再建をおこなうやり方が主流でした。

では、腹直筋皮弁によるいくつかの再建方法についてお話いたします。

1) 有茎腹直筋皮弁法

腹直筋皮弁を用いた再建方法には、いくつかのバリエーションがあるのですが、最も古典的な方法は、「有茎腹直筋皮弁法」といって、腹直筋の上側をつけたまま皮膚の下を通して腹直筋、脂肪組織皮膚を胸部に移植する方法です。この方法は顕微鏡を使って血管をつなぐ高度な技術が必要なく、上腹壁動静脈によって組織に血流が送られるため、安全性の面から考えると、組織全体の血流がわるくなることはあまりないのですが、問題点として、先ほど解剖のところで申し上げた通り、移植した組織にゆきわたる血流が十分でないことがあり、組織の一部の血流が悪くなったり硬くなったりすることがあります。また、腹直筋の片側はすべて犠牲にせざるを得ないところも、デメリットのひとつです。しかし、手術手技が単純で、高度な手術技術を必要としないため、自家組織移植のなかでは、現在でもなお国内で最も使われる頻度が高い方法になっています。

2) 遊離腹直筋皮弁法

次に、「遊離腹直筋皮弁法」について説明いたします。先ほど、お話しいたしましたとおり、おなかの組織の血流は下からのものの方が優っているため、下腹壁動静脈を栄養血管として腹直筋皮弁を採取し、乳房を再建する方法です。胸部に移植する際には、肋骨の下にある内胸動静脈に皮弁の血管をつなぐために、「マイクロサージャリー」とよばれる特殊な顕微鏡下での手術を行い、直径1.5mmから2mmくらいの血管をつなぎます。

この方法のメリットは、血流の信頼性が高いため、「有茎腹直筋皮弁法」に比べるとより広い面積の組織を使うことができるという利点がありますが、その一方で、「有茎腹直筋皮弁法」と同じく、片側の腹直筋は犠牲にしなければなりません。

また、血管吻合(マイクロサージャリー)を確実に成功させるためには高度な技術が必要となりますが、当科では、がんによる体のさまざまな部分の欠損を再建する手術を多数行っており、これらの手術のなかでは、マイクロサージャリーは最も日常的な技術のひとつになっています。

3) 深下腹壁穿通枝皮弁法

1990年代前半から、乳房再建の先進国であるヨーロッパやアメリカの一部を中心に、腹直筋を犠牲にせずに腹部の皮膚、脂肪組織と下腹壁動静脈を移植する穿通枝皮弁法という方法が行われるようになってきました。

この方法は、筋肉の機能を残したまま組織を移植することができるため、最も理想的な方法といえるわけですが、筋肉から血管をはずす作業は高度な技術が必要で、手術時間も通常の腹直筋皮弁法に比べると長くならざるをえないのが難点といえます。

しかし、手術時間で数時間の差があっても、体や組織は一生使い続ける大切なものであり、私たちは、患者さんの身体的な損失を最小限におさえ、可能な限り腹直筋を温存することを目標として、自家組織での乳房再建の場合には、当院形成外科では深下腹壁穿通枝皮弁法を第一選択に考えております。

4) 深下腹壁穿通枝皮弁の利点と欠点について

ここで深下腹壁穿通枝皮弁の利点と欠点について整理してみます。

(欠点)

まず、欠点についてですが、筋肉や神経を丁寧に分けて温存する作業が必要なため、技術的な難易度が高く手術時間もインプラントに比べるとずっと長くなります。

また、回復までに時間がかかり、術後約2日間はベッド上安静が必要で、入院期間も約10日前後となり、少し長くなります。また、インプラント比べれば、おなかの傷が増えることも否めない事実です。

(利点)

その一方で、利点について挙げますと、従来の腹直筋皮弁法に比べて筋肉や筋肉を動かす神経をできるだけ残すため、身体に対する侵襲を最小限にできるというメリットがあります。言いかえれば、自家組織による再建手術の中では最も身体にやさしい手術であると言えます。

また、自分の組織であるため、仕上がりの外観やさわった感触がインプラントに比べて非常に自然であることも特徴の一つです。

さらにインプラントでは表現できない大きめの乳房や下垂した形を表現することも可能です。

皮弁の採取部のきずは短所で申し上げたとおり、下腹部に残るのは確かですが、おへそから約10センチ下方であり、下着にうまくかくれる位置なので日常生活のうえでは通常は目立ちません。

治療費については、自家組織による手術であるため保険診療の適応であり、インプラントに比べると、経済的な負担が少ないこともメリットのひとつです。

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