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【プレスリリース】 抗がん剤治療に伴う吐き気や嘔吐の軽減効果を確認 〜薬剤師が世界に発信した研究成果〜

2016年07月14日

【ポイント】 

・がん研究会有明病院薬剤部 副部長 鈴木賢一は2010年、全国の薬剤師に多施設共同で行う制吐薬に関する第V相臨床試験(TRIPLE 試験)への参加を呼びかけ、手を挙げた20施設の協力により試験を開始しました。 

・このたび試験が無事終了しその研究成果が、がん研究専門誌「 Annals of Oncology 」に2016629日付で公開されました。 

・この研究は、これまでの臨床研究とは異なり、医師の指導のもと、各施設の薬剤師が窓口となり、患者への説明、評価、副作用や検査値チェック、CRF作成など試験に関する主な業務を薬剤師が担いました。 

CDDP投与後数日間遷延する吐き気や嘔吐に対し、パロノセトロンを使用することで従来の薬剤よりも軽減できることがわかりました。

 

【試験概要】

肺がん、胃がん、頭頚部がんなどで汎用されているシスプラチン ( CDDP ) レジメンは、高度催吐性(HEC: higly emetogenic chemotherapy )に該当し、日本癌治療学会から発刊されている制吐薬適正使用ガイドラインにおいて、5HT3受容体拮抗薬(5HT3RA)、ニューロキニン1受容体拮抗薬(NK1RA)、デキサメタゾン(DEX)3剤併用標準制吐療法を施行することが推奨されています。このうち、5HT3RAに関しては2010年に、従来の薬剤とは異なった長時間の作用を有する初めての薬剤として、パロノセトロンが発売されました。しかしながら従来の5HT3RAに比べ高価である上、あえて使用をすすめ科学的根拠が世界的に乏しい状況でありました。このたびTRIPLE試験において、世界で初めて3剤標準制吐療法における、グラニセトロンに対するパロノセトロンの有効性が確認できました。特に治療開始後の数日間遷延する悪心嘔吐を軽減する効果に優れており、CDDPによる治療がこれまでよりは楽に受けられる可能性があります。(患者個々の背景や、投与する抗がん薬によっては従来の薬剤でも十分な場合もあります。)

 

TRIPLE研究組織】 

  研究代表医師  山本信之(和歌山県立医科大学医学部内科学第三講座教授) 

            (前任:静岡県立静岡がんセンター副院長兼呼吸器内科部長) 

  研究事務局   鈴木賢一(がん研有明病院 薬剤部 副薬剤部長) 

            (前任:静岡県立静岡がんセンター薬剤部) 

  統計解析責任者 山中竹春(横浜市立大学医学部臨床統計学教室教授) 

プロトコル委員 後藤功一(国立がん研究センター東病院 呼吸器内科長) 

 松井礼子(国立がん研究センター東病院 薬剤部) 

  関 順彦(帝京大学医学部附属病院 病院教授) 

 島田俊一(帝京大学医学部附属病院 薬剤部) 

 

 試験運営組織  財団法人しずおか産業創造機構ファルマバレーセンター治験推進部

 

【研究の背景】 

2009年、順天堂大学医学部附属順天堂医院 乳腺科教授 齋藤光江らは、50mg/m2以上のCDDPレジメンおよびAC/EC療法を対象とし、DEX併用下( ニューロキニン1受容体拮抗薬:以下NK1RA )における、グラニセトロン( granisetron : 以下 GRA )3mg とパロノセトロン( palonosetron : 以下PALO ) 0.75 mgの効果を、二重盲検ランダム化比較試験により検証し報告しました( PROTECT study 1。その結果、全期間 ( CDDP投与後0120時間以内 )CR率はPALO 47.9%、GRA 38.1%(p0.0007)、遅発期においてはPALO 53.0%、GRA 42.4%(p0.0003)と、PALO群は有効であることが証明されました。また「悪心なし」 の割合においても同様に全期間( PALO 31.9%、GRA 25.0%p0.0117 )、遅発期(PALO 37.8%、GRA 27.2%p0.0002 )ともにPALO GRA に対する優越性が証明されました。このことから、複数の制吐療法ガイドラインでは中等度催吐性リスク化学療法(Modelately Emetogenic Chemotherapy 以下:MEC)において2-4、また一部のガイドラインではHECにおいても5HT3RAとしてPALOの使用が推奨されています4。しかしながら、現在、日本癌治療学会の制吐薬適正使用ガイドラインではHECにおいて、NK1RAの併用が推奨されていますが、NK1RA併用下においても、PALOGRAよりも優れているかどうかは、少数例による限られた報告のみであり、科学的な根拠に乏しい状況でした。本研究ではNK1RA、およびガイドラインで推奨されている用量のDEX併用下において(標準制吐療法)GRAに対するPALOの有効性を検証しました。この研究成果はCDDPなど催吐性の高いレジメンに対する、もっとも有効な制吐療法を確立することにつながるため、たいへん有益と考えています。 

そこで我々は固形腫瘍に対しCDDPベースのHEC施行予定患者を対象とし、DEXおよびAPR ( NK1RA )を含む3剤併用制吐療法における、GRAに対するPALOの制吐効果を検証するために、全国20施設の薬剤師が中心となり、医師らの強力なサポートのもと二重盲検無作為化比較試験( 多施設共同第V相試験 : TRIPLE study )を実施しました。

 

【研究の内容】 

患者は日本国内の20施設より、本研究に登録されました。対象は、初回治療としてCDDP(50mg/m2)を含むHECが施行される予定の固形腫瘍患者としました。両群ともにAPRCDDP投与60分前に125mg、第2日目、3日目に80mgずつ内服投与され、DEXCDDP投与前に9.9mg (i.v.)、第 2日目〜4日目に6.6mg (i.v.)が投与されました。試験薬は各施設の調剤担当薬剤師が無菌的に調製を行った後、盲検薬剤師が病棟にて症状評価を行いました。なお、本研究は症状を評価した薬剤師の他、関係したすべての医師および看護師、患者本人、会計担当者が盲検化された状態で実施されており、関係スタッフの恣意的な影響は極めて低い状況のもと実施されました。また本試験は、最小化法を用いて割付が行われ、割付調整因子は施設、年齢(<60歳、60歳)、性別、CDDP投与量(<70mg/m270mg/m2)としました。観察期間はCDDP投与開始後120時間経過後までとしています。試験デザインを図1に示します。

図1

試験結果】 

主要評価項目(CR率) 

CR率:complete response 嘔吐完全抑制率(嘔吐なし、追加の制吐薬服用なしの割合) 

PALO群、GRA群の全期間CR率はそれぞれ65.7%、59.1%であり、その差はごくわずかではあるが統計学的にPALOGRAに対する優越性を示すには至りませんでした( OR 1.35  95CI 0.99-1.82 : p0.0539 )。急性期のCR率はどちらの5HT3RAを用いても91.8%と高いCR率を確認でき、先行研究と同様に良好な結果となりました。一方遅発期のCR率ではPALO群とGRA群ではそれぞれ68.2%、59.1%とPALO群において有効な成績が ( p=0.0142)が確認されました。

表1

副次評価項目(CC率、TC率) 

CC率:complete control

(嘔吐なし、追加の制吐薬なし、悪心軽度または無しの割合) 

TC : total control

 (嘔吐なし、追加制吐薬なし、悪心なしの割合)

 

両群の全期間CC率はPALO 63.8%,GRA 55.9%、全期間TC率ではPALO 47.6 %GRA 40.7 % でした。また、CR率と同様に遅発期においてその差はより顕著であり、CC率で9.3 ( PALO 65.2% : GRA 55.9% )TC率で7.2 ( PALO 48.6% : GRA41.4% )の上乗せ効果が認められました。(図2 

 主な試験薬関連の有害事象は便秘でありPALO群で 52.3%GRA群で51.1%に認められました。その他吃逆、高血糖などが認められましたが、両群間の発現率、重篤度に差はなく更に試験薬に関連したグレード4以上の重篤な有害事象は認められませんでした(表2

 

図2

表2

【まとめ】 

CDDPレジメン施行時の悪心嘔吐予防対策として、本邦では作用機序の異なる3剤標準制吐療法が推奨されています。そのうちの5HT3RAとしては、PALOを用いることで遅発期の悪心嘔吐、および全期間の悪心に対する有効性が証明されました。PALOGRAよりも高価な(4-5倍)薬剤であり、費用対効果の観点からは議論の余地があるかもしれません。しかしながら、がん化学療法は、繰り返し投与されることが多く、初回治療から副作用を予防することで、食事摂取量低下による抗がん薬の減量や、治療中止などを回避できる可能性があります。副作用を理由とした抗がん薬の減量や中止は、結果的に治療効果を弱める可能性があり、可能な限り回避するための策を講じることが、現代のがん薬物治療ではたいへん重要と思われます。

 

【本研究の支援】 

本研究は財団法人しずおか産業創造機構ファルマバレーセンターにより、試験運営および資金的援助を受け実施されました。

 

【掲載された論文名】 

Randomized , double-blind , phase III trial of palonosetron versus granisetron in the triplet regimen for preventing chemotherapy-induced nausea and vomiting after highly emetogenic chemotherapy : TRIPLE study

 

【引用論文等】 

 1. Saito M, Aogi K, Sekine I, Yoshizawa H, Yanagita Y, Sakai H, et al. PALOnosetron plus dexamethasone versus       granisetron plus dexamethasone for prevention of nausea and vomiting during chemotherapy: a double-blind, double-dummy, randomised, comparative phase III trial. The lancet oncology. 2009; 10(2): 115-24. 

2. Basch E, Prestrud AA, Hesketh PJ, Kris MG, Feyer PC, Somerfield MR, et al. Antiemetics: American Society of Clinical Oncology clinical practice guideline update. Journal of clinical oncology : official journal of the American Society of Clinical Oncology. 2011; 29(31): 4189-98. 

3.  MASCC/ESMO Antiemetic Guideline 2016;   

http://www.mascc.org/assets/Guidelines-Tools/mascc_antiemetic_guidelines_english_201 6_v.1.1.pdf

 

4.  Eisenberg P, Figueroa-Vadillo J, Zamora R, Charu V, Hajdenberg J, Cartmell A, et al. Improved prevention of moderately emetogenic chemotherapy-induced nausea and vomiting with PALOnosetron, a pharmacologically novel 5-HT3 receptor antagonist: results of a phase III, single-dose trial versus dolasetron. Cancer. 2003; 98(11): 2473-82.

 

【お問い合わせ先】 

(本研究に関すること) 

公益財団法人がん研究会有明病院 薬剤部 鈴木賢一 

 〒135-8550 東京都江東区有明三丁目8番31号 

 

 電話 03-3570-0215 (内線 7703

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