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【プレスリリース】人工知能で胃がんを発見する! −AIを活用した内視鏡画像診断支援システムの開発−

2018年01月22日

「ポイント」

・人工知能(AI)を活用して、内視鏡画像から胃がんを検出するシステムを開発しました。
・6mm以上の胃がんを98%の精度で発見することができました。
・1画像の診断にかかる時間は0.02秒(2,296枚の画像を47秒で処理)でした。
・動画にも対応し、内視鏡検査時のリアルタイム自動検出システムへの応用が期待されます。


 公益財団法人がん研究会有明病院(病院長:山口 俊晴、所在地:東京都江東区)の平澤俊明医師(上部消化管内科副部長)と株式会社AIメディカルサービス(CEO: 多田智裕、所在地:東京都新宿区)の多田智裕医師(ただともひろ胃腸科肛門科院長/東京大学医学部客員講師)らの研究グループは、人工知能(AI)を活用し、胃内視鏡静止画像の中から高精度に胃がんを検出する内視鏡画像診断支援システムを開発しました。
 胃がんは慢性胃炎を背景として発生しますが、慢性胃炎の中から胃炎に類似している胃がんを拾い上げることは、経験を積んだ医師でも難しい場合があります。本研究グループは最先端のAI技術であるニューラルネットワーク注1)を用いたディープラーニング注2)を活用し、13,584枚以上の胃がん内視鏡画像をAIに機械学習させ、病巣検出力の検証をしました。その結果、検証用の内視鏡画像2,296枚から全胃がんの92.2%、6mm以上に限定すると98.6%の胃がんを検出することができました。これは熟練した内視鏡医のレベルに匹敵するものです。また、2,296枚の画像の解析に要した時間は47秒であり、解析速度は、人間の能力をはるかに超えるものでした。さらに、本システムは動画も解析処理させることができ、リアルタイム診断支援の可能性を示しました。

 これまで、AIを活用した胃がん内視鏡診断支援システムの報告はなく、本報告は世界初です。今後さらに改良を進め、胃がん内視鏡検診の内視鏡画像ダブルチェックへの応用や内視鏡検査時にリアルタイムで胃がん検出を支援する内視鏡診断支援システムの実用化を目指します。
 本研究成果は、胃がん専門医学雑誌『Gastric Cancer』オンライン版(2018年1月18日付)に掲載されました。

<研究の背景>
 胃がんは日本では罹患数が最も多いがんで、年間約13万人が罹患し、約5万人が命を落としています。しかし、胃がんは早期発見で根治できるがんであり、ステージTの5年生存率は95%以上で、さらに粘膜内がんで発見された場合は、体の侵襲の少ない内視鏡手術で根治が可能です。胃がん治療のキーポイントは内視鏡による早期発見と早期治療です。しかし、慢性胃炎のなかに隠れて発見が難しい胃がんも多く、内視鏡による胃がんの見逃しは5〜25%と報告されています。また、内視鏡医の経験と技量の差も大きな課題となっています。

 近年、AIによる画像認識能力は大きく進歩し、人間と同等以上の成績が報告されるようになりました。内視鏡診断でも大腸の領域において、病変の拾い上げや良性と悪性の鑑別にAIを用いた診断システムが報告されています。しかし、胃がんは内視鏡診断そのものが非常に難しいため、これまでAIを用いた内視鏡診断支援システムは開発されていませんでした。
 本研究グループは世界に先駆け、欧米と比べても罹患患者が多い日本でこそ、医療現場に実装できるAIによる胃がんの内視鏡診断支援システムを開発したいと考えました。

<AIを用いた内視鏡診断システムの開発>
 本研究グループは、AIに機械学習注3)をさせることにより、胃がんを内視鏡画像から自動的に発見するシステムの開発に取り組みました。機械学習において、もっとも重要な点は、AIに覚えさせる内視鏡画像(教師用データ)が高品質で十分なデータ量を満たすことです。がん研有明病院は年間の内視鏡検査数7,000件以上、同治療数450件以上で、世界トップレベルの胃がんの治療を行っており、膨大な内視鏡画像を蓄積しています。今回は、さらに研究協力施設の胃がん画像を追加して、12,000枚以上の胃がん画像を準備し、その内視鏡画像を胃がん治療エキスパートの内視鏡医が、質の高い内視鏡画像を選別し、細かく病変の範囲をマーキングして胃がん教師用データを作成しました。
 そのデータを、株式会社AIメディカルサービスが独自に開発したニューラルネットワークによるディープラーニング・システムに導入し、学習させることで、内視鏡診断支援システムを開発しました。

<内視鏡診断システムの評価>
1.内視鏡診断支援システムの検証用データ
 がん研有明病院で2017年3月に内視鏡検査を行った胃がん69症例(77病変)の内視鏡画像2,296枚を用いて、今回の内視鏡診断支援システムを検証しました。

2.成績
 内視鏡診断支援システムは77病変中71病変(92.2%)を検出し、6mm以上の病変に限定すると、71病変中70病変(98.6%)を検出することができました(図1)。これは熟練した内視鏡医に匹敵するものです。また、2,296枚の画像の解析に要した時間は47秒(1画像あたり0.02秒)であり、解析速度は、人間の能力をはるかに超えるものでした。
 陽性反応的中率(内視鏡診断支援システムが胃がんと診断して、実際に胃がんであった率)は30.6%であり、内視鏡診断支援システムが胃がんと診断した病変のうち7割は胃炎や正常な解剖学的な屈曲でした。実臨床での生検の陽性反応的中率(がんを疑って生検して、実際にがんである可能性)は5〜10%前後であることを考えますと、今回の内視鏡診断支援システムの陽性反応的中率は臨床的に許容できるレベルです。

 

【図1】

図1a:慢性胃炎では色調はまだらで、粘膜も凹凸を認めるため、内視鏡医でも容易に胃がんが見逃されてしまいます。
図1b:緑の枠は内視鏡医ががんの位置をマーキングしたものです。黄色の枠は内視鏡診断支援システムが胃がんを診断したマーキングです。今回開発した内視鏡診断支援システムは、このような胃炎に紛れて発見が難しい胃がんも検出することに成功しました。

 

<今後の展望>

 内視鏡診断支援システムのAIはさらに学習することで診断精度を向上させることが可能です。陽性反応的中率は、非胃がん病変をAIに学習させることにより改善できることが期待されます。
 本システムを日本発のAI胃がん内視鏡診断支援システムとして、今後さらに改良を行い、臨床評価と実用化に必要な手続きを進め、医療現場に実装することを目指します。



1.胃がん内視鏡検診のダブルチェックの支援
 胃がん内視鏡検診では内視鏡検査後に、別医師による画像のダブルチェックが義務付けられています。3,000-4,000枚の内視鏡画像を1-2時間かけて読影するこのダブルチェックは現場専門医の大きな負担になっています。内視鏡診断支援システムを使用することで、こうしたダブルチェックの負担を軽減することが可能になります。

2.内視鏡検査時のリアルタイム診断支援
 今回開発した内視鏡診断支援システムは、すでに動画でも胃がんを検出することが可能になっています。内視鏡検査時に直接本システムを連動させることによって、リアルタイムで胃がんの見逃しを回避できる可能性があります。

 なお、AIメディカルサービス(CEO: 多田智裕医師)は、同様の手法で、昨年にピロリ菌胃炎の内視鏡診断支援システムを開発済であり(EBioMedicine. 2017;25:106-111)、今回の成果によって、ピロリ菌胃炎と胃がんの両方に対するAI活用内視鏡診断支援システムの開発に成功しました。


<参考図>


<用語解説>

注1)ニューラルネットワーク:
人間の脳の神経細胞ネットワークを模倣し、数理モデル化したものの組み合わせのことです。
注2)ディープラーニング:
ニューラルネットワークの層を増やすことにより、画像認識などの処理能力を画期的に向上させた機械学習の一形態です。AIの急速な発展を支える技術です。
注3)機械学習:
コンピューターが、与えられた多量の画像などから特徴やルールを自律的に学ぶことです。

<論文名、掲載誌、著者およびその所属>
○論文名
Application of artificial intelligence using a convolutional neural network for detecting gastric cancer in endoscopic image
○掲載誌
Gastric Cancer. 2018 Jan 15. doi: 10.1007/s10120-018-0793-2
○著者
・Toshiaki Hirasawa1,2 · Kazuharu Aoyama3 · Tetsuya Tanimoto4,5
·Soichiro Ishihara2,6 · Satoki Shichijo7 · Tsuyoshi Ozawa2,6 · Tatsuya Ohnishi8
·Mitsuhiro Fujishiro9 · Keigo Matsuo10 · Junko Fujisaki1 · Tomohiro Tada2,3,11
○著者の所属機関
1 がん研有明病院 消化器内科
2 ただともひろ胃腸科肛門科
3 株式会社AIメディカルサービス
4 医療ガバナンス研究所
5 ナビタスクリニック
6 国際医療福祉大学 山王病院 外科
7 大阪国際がんセンター 消化管内科
8 ららぽーと横浜クリニック
9 東京大学医学部附属病院 光学医療診療部
10 東葛辻仲病院
11 東京大学医学部附属病院 腫瘍外科

<本研究の実施>
 本研究は、公益財団がん研究会と株式会社AIメディカルサービスの独立した共同研究によって実施されました。

 

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