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【プレスリリース】 胞巣状軟部肉腫モデルを用いて新たながんの転移機構を発見

2016年12月19日

ポイント                                                   

・思春期から若年成人に発生し高い転移能を示す胞巣状軟部肉腫の新たなモデルマウス作製に成功しました。 

・マウスモデルの解析により、胞巣状軟部肉腫には血管周皮細胞(ペリサイト)に富む密な血管網の構築が確認されました。

・腫瘍細胞はペリサイトに被われたまま血管内を移動して転移先に到達する現象が発見され、がんの転移に対する予防や治療法に新たな途を開くことが期待されます。

田中美和 研究員(がん研究会がん研究所発がん研究部)と 中村卓郎 部長(がん研究会がん研究所発がん研究部)、及びがん研究所病理部の研究グループは、胞巣状軟部肉腫(ASPS)の新たな動物モデルの作製に成功し、がんの転移機構の解明につながる新事実を見出しました。  

 ASPSは、思春期から若年成人に発生する軟部悪性腫瘍で、発育は比較的緩やかですが、高頻度で血行性の転移を示す難治性の稀少がんです。この高転移能の原因として、腫瘍内の豊富な血管形成が従来から指摘されていました。本研究では、ASPSex vivoマウスモデルを作製しましたが、このモデルにおいても腫瘍血管構築が高度であり、腫瘍細胞の血管侵襲や高転移能が再現出来ました。また、ASPSの血管に密に存在する血管周皮細胞(ペリサイト)が転移に重要な役割を担っていることが示されました。今回確立されたマウスモデルは、ASPSの発生機構や病態解析に有用であるばかりではなく、がんの転移機構の解明に新たな一石を投じるものでもあり、がん転移に対する新たな予防・治療方法に途を開くことが期待されます。 

 本研究の成果は、米国の医学雑誌『Cancer Research』オンライン版(米国時間12月15日付)に掲載されました。

 

<研究の背景>                                              

ASPSは思春期から若年成人の大腿部や臀部などに発生する軟部悪性腫瘍で、発育は比較的緩やかですが、高頻度で血行性の転移を示します。この高転移能の原因として、腫瘍内の豊富な血管形成が指摘されていました。ASPSは全例においてASPSCR1-TFE3融合遺伝子を有し、ASPSCR1-TFE3が発生母地細胞で発現することにより腫瘍化が進むと考えられています。ASPSCR1-TFE3は転写因子1)として標的遺伝子の発現異常を促すため、ASPSにおける血管形成や転移能の多くはASPSCR1-TFE3と標的遺伝子を介して生じていることが予想されました。

 

<研究の内容>                                              

私たちは、EWS-FLI1融合遺伝子をマウス胎児の軟骨前駆細胞に導入することで、従来作製が困難であったEwing肉腫のex vivoモデルマウスの開発に成功しました(田中ら、Journal of Clinical Investigation, 2014)。この手法に基づき、マウス胎児の四肢から取り出した間葉系細胞にASPSCR-TFE3を導入し、ヌードマウスに移植してASPSを発生させました。マウスのASPSはヒトASPSときわめて類似した形態を示すとともに、豊富な血管形成や腫瘍細胞の血管侵襲、高転移能を獲得しました。ASPSモデルの血管ではペリサイトが豊富に存在することが特徴的で、この現象はヒトASPSでも確認されました。また、血管内においてASPS細胞群がペリサイトに周囲を被われる特異な構造が観察されました。面白いことに、ASPS細胞のみをマウスの尾静脈から注射しても、転移は形成されません。このことから、ASPSの転移には腫瘍細胞が血管内でペリサイトに防御されていることが必要と考えられました。 

一方、ASPS細胞の血管侵襲に際してはASPSCR1-TFE3の標的遺伝子GPNMBの高発現が関与していることが示されました。事実GPNMBをノックダウンすると、ASPS細胞による血管内皮の透過性が阻害されました。今回ASPSマウスモデルを立ち上げたことにより、融合遺伝子を構成するTFE転写因子ファミリーの発がん作用を比較することも可能になりました。これらのTFE転写因子ファミリー遺伝子をASPSCR1と融合させると、TFE3以外にもTFEBにも発がん作用がある一方、TFECMITFにはないことがわかりました。この結果から、TFE3TFEBに共通に存在する機能モチーフと共役因子の存在が示唆されました。

 

<まとめ>                                                  

ASPSと同様の転移様式は、腎細胞がんや内分泌腺のがんなど他でも観察されています。これらのがんにおいても、ASPSと同様に血管形成と転移過程におけるペリサイトの重要性や、GPNMBを介した血管侵襲機構が存在する可能性が考えられます。今回の研究成果を基礎として、新たながんの転移機構が解明されることも期待され、ペリサイトを介した転移機構を標的とした新たな治療法の検討も行う予定です。

 

<参考図>

図1:ASPSにおける血行性転移過程。ASPS細胞がペリサイトを誘導し、胞巣状構造と呼ばれる独特の形態を発生させる。ASPSは胞巣状構造をとったままの状態で、GPNMBを介して血管内皮の間をすり抜けるように血管内に侵入。ペリサイトに被われたまま血管内を転移先臓器(肺)へ移動し、転移巣を形成する

 

<用語解説>                                                 

注1)転写因子: 

 遺伝子DNAからメッセンジャーRNAを産生する転写作用を調節する因子。比較的短いが特異的なDNA配列に結合する領域を有していて、この性質を利用することで自身の標的遺伝子に結合して、さらに転写共役因子と会合することによって、遺伝子発現を時間的・空間的に調節している。但し、染色体上に存在するDNA配列に結合するに際しては、ヒストンの修飾状態やDNAのメチル化状態などエピゲノムの状況が大きく影響しているため、細胞種によって働きが大きく異なる。

 

<論文名、著者およびその所属>                                    

○論文名 

Modeling alveolar soft part sarcoma unveils novel mechanisms of metastasis

○ジャーナル名 

Cancer Research

○著者 

Miwa Tanaka1, Mizuki Homme1, Yukari Yamazaki1, Rikuka Shimizu1, Yutaka Takazawa2, Takuro Nakamura1*

* 責任著者(中村 卓郎)

 

○著者の所属機関 

1 がん研究会 がん研究所 発がん研究部 

2 がん研究会 がん研究所 病理部

 

<本研究への支援>                                             

本研究は、主に下記機関より資金的支援を受けて実施されました。 

・文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究(A)、基盤研究(C)

 

 


 

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