注目の論文

印刷

注目の論文

染色体凝縮の開始スイッチを解明

Abe, S.,* Nagasaka, K.,* Hirayama, Y., Kozuka-Hata, H., Oyama, M., Aoyagi, Y., Obuse, C., Hirota, T. (*equal contribution)
The initial phase of chromosome condensation requires Cdk1-mediated phosphorylation of the CAP-D3 subunit of condensin II .
Genes & Dev., In-press (2011)

細胞のふるまいを決定するゲノムの情報は、細胞核の中に納められているクロマチンが担っている。細胞が分裂するときには、クロマチンを高度に凝縮して「染色体」をつくり、その染色体を均等に2分することによってゲノム情報を過不足なく伝搬する。この染色体形成過程に不備があると、がんに特徴的なゲノムの量的不均衡といった病態に陥ると考えられる。分裂期の染色体はどのような仕組みで形成されるのであろうか?

数cm長もあるといわれるクロマチン線維を分裂期に数μmのオーダーまで縮めるのは、計算上は、まるで東京スカイツリーがこどもの背丈ほどに短縮させるに等しく、細胞はこの大掛かりな構造変換を細胞分裂の度に行っているのは実に驚きである。これまでの研究によって、コンデンシンと呼ばれるタンパク質複合体が、クロマチンをおりたたむ過程において中心的な役割を担っていることが分かってきた。染色体の凝縮は、細胞分裂期の最初のステージである「前期」において既に進行することが見てとれるが、この時期の凝縮は、特に、コンデンシンII(2種類あるコンデンシンの一つ)のはたらきにより進められる(Hirota et al. 2004)。一方で、分裂期の進行は、サイクリン依存性キナーゼ(Cdk1)に代表される分裂期キナーゼの活性により支配されていることが知られている。しかし、染色体の凝縮がどのキナーゼの活性化と関連しているのか、どのキナーゼがどうはたらくのか、といったことが分かっておらず、細胞は染色体の形成という分裂期の最たるイベントをどのように誘導するのか、が長らく不明であった。

今回われわれは、 Cdk1がコンデンシンII複合体のなかのCAP-D3というタンパク質をリン酸化することが、染色体凝縮を開始させるスイッチであることを突き止めた。この特定のリン酸化修飾は、図のように、Poloキナーゼ(Plk1)というまた別の分裂期キナーゼを染色体に呼び込み、さらにコンデンシンIIの広範囲のリン酸化を促進して、染色体の凝縮を進めるという絡繰りが存在する。更に、このスイッチが入らない細胞を観察すると、前期における染色体の凝縮が進まないうえに、螺旋状に渦巻いた異常な染色体をつくり出してしまい(上の図)、ひいては分配の失敗を導いた。これらの観察は、細胞がどのようにして染色体の形成を促すかを説明するばかりではんく、前期における染色体凝縮の重要性を示唆している(Abe et al. 2011)。

このページのTOPへ