研究内容

「細胞老化」とは、増殖能を有する正常細胞においてテロメアの短小化、癌遺伝子の活性化や過度な酸化的ストレスなどにより発癌の危険性のある修復不可能なDNA損傷が生じることで起こる不可逆的な増殖停止状態を指す(図-1)。
図1 細胞老化の誘導機構
この現象はアポトーシスと同様、異常を持った細胞が増殖して癌化することを防ぐために働く重要な癌抑制機構であると考えられている(図-2)。
図2 細胞老化の2面性
しかし、アポトーシスとは異なり、細胞老化を起こしても細胞が直ぐに死滅するわけではないので、生体内に細胞老化を起こした細胞(老化細胞)が長期間存在し続ける可能性が考えられる。事実、我々は細胞老化誘導遺伝子であるp16INK4a遺伝子の発現をマウスの生体内でリアルタイムにイメージングすることで、加齢と伴に体中に老化細胞が蓄積して行く様子を明らかにしている(図-3)。
図3 加齢に伴うp16INK4a遺伝子発現のリアルタイムインビボイメージング

最近、老化細胞は単に増殖を停止しておとなしくしているだけでなく、炎症性サイトカインや細胞外マトリックス分解酵素など発癌促進作用のある様々な分泌性タンパクを高発現するSASPと呼ばれる現象を起こしていることが明らかになってきている。このため、生体内に老化細胞が存在することは慢性炎症の惹起や癌の進展など、生体にとって不利益をもたらす可能性があることが明らかになりつつある。つまり、細胞老化は短期的には癌抑制機構として働くが、長期的には発癌を促進してしまう危険性を兼ね備えた「諸刃の剣」として働いており、加齢と伴に老化細胞が体内に蓄積することが発癌を促進する結果につながると考えられる(図-2)。

原研究室では、細胞老化が持つ癌抑制機構と発癌促進機構の両方の分子メカニズムを培養細胞や遺伝子改変マウス、更にはヒトの臨床サンプルを用いて解き明かそうとしています。

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