がんに関する情報
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子宮がん

子宮がん

最終更新日 : 2024年3月25日
外来担当医師一覧

がん研有明病院の子宮がん診療の特徴

がん研有明病院の子宮がん診療の特徴

がん研有明病院婦人科は、化学療法部や放射線治療部の助言を得つつ、婦人科医が責任を持って手術・化学療法・放射線療法などの治療手段のなかから、患者の皆様の状況に応じて、適切な治療方針を決定し、それを安全に実施するシステム(集学的治療)を構築しています。

特徴

  1. 個別化治療―個々の患者さんのがんの特徴、身体的精神的状況、要望に合わせた治療。
  2. 正確な細胞診断、組織診断に立脚したがん治療。
  3. 治療後の検診―再発の早期発見。
  4. がん治療に伴う後遺症・合併症によるQOL低下を予防(内分泌・骨外来、リンパ浮腫予防外来、また脱毛などに対応する帽子クラブなど)。

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子宮がんについての知識

子宮がんとは

子宮頚がんと子宮体がん

女性の生殖臓器である子宮は骨盤の中央に位置しており、その両側には左右の卵巣があります。子宮は、解剖学的に子宮の下部、つまり子宮の出口にあたる子宮頚部と、子宮の上部、子宮の袋の部分に相当する子宮体部より構成されています。子宮がんとは子宮の上皮性悪性腫瘍を指し、子宮頚部に発生する子宮頚がんと子宮体部に発生する子宮体がんに大別されます。 子宮体がんがほとんど全て腺癌(内膜腺由来)であるのに対して、子宮頚がんは扁平上皮癌と腺癌に分類されます。子宮頚がんにおいては、諸外国では扁平上皮癌が多いのに比べ、本邦では腺癌が多いのが特徴です。年間罹患数は、子宮頚癌11283人、子宮体癌17880人(2019年)、年間死亡数は子宮頚癌2871人、子宮体癌2863人と増加傾向であります。(2022年)

図1
図1
図2
図2

子宮頚がんと子宮体がんにおける患者年令分布・発症頻度(図1, 2)を示しました。

最も注目されるのは、子宮頚がんの発症が、20才台より急速に増加している点で、この病気が若い妊孕性を有する世代に重大な影響を及ぼしていることがわかります。幸いにしてこの世代の病変はほとんどが早期がんであるため、子宮温存が可能である場合が多いと考えられます。

一方、子宮体がんでは、50-60才を明確なピークとしており、閉経期前後から閉経期以降比較的早い時期の疾患であることがわかります。

病因

子宮頚がんの原因はヒトパピローマウイルスによる感染であることがかなり明確になってきています。
この感染に何らかの他の要因が加わり、発がんすると考えられています。感染は性行為によって発生し、それ以外の感染は極めて稀とされます。現在までのところ、感染から何年で発症するかは諸説があり、はっきりしていませんが、先(さき)の患者年令分布は性行為の開始年令と大きな関係があるとされます。

前がん病変である子宮頚部異形成(軽度、中等度、高度の3段階)を経て、がん化すると考えられており、がん組織はもちろん、異形成の組織よりも高率にヒトパピローマウイルスが証明されます。
なお、ヒトパピローマウイルスには100種類以上の型があり、一般にハイリスク型(16,33,52,58型など)とローリスク型(6,11型など)に分けられます。個々の症例における型決定は、子宮頚部細胞の採取(PCR法)などにより可能です。もちろんハイリスク型がより病変の進行を誘発しますが、異形成でハイリスク型のウイルスが検出された場合でも、がん化する確率は20%程度ではないか(諸説がある)と見られており、それほど高いものではないと考えられます。がん研有明病院婦人科は、「子宮頚部前がん病変患者のHPV型判定」を外来で実施しています。この検査方法についてのわかりやすい説明(HPV型説明)とより詳しい解説(HPV型解説)を掲載しました。

一方、子宮体がんはホルモン環境が主たる因子とされるエストロゲン依存性のI型と、非依存性のII型に分けられます。I型は、未婚、未妊、月経周期異常、多嚢胞性卵巣症候群、排卵障害、ホルモン剤服用などの危険因子があり、高エストロゲン状態が発症に大きな影響を与えると考えられています。また、I型は子宮内膜増殖症を前がん病変としており、異型を伴う子宮内膜異型増殖症と、伴わない子宮内膜増殖症に分類されます。子宮内膜異型増殖症は約20%が子宮体がんに進行するとされ、治療の対象になります。I型の大半が類内膜がんと言われる組織型であり、細胞異型、構造異型によって3つの異型度(悪性度)Grade1〜3に分けられ、子宮体がん全体の約80%を占め、比較的予後が良いとされます。類内膜がんGrade3は悪性度が高く、II型に分類されることがありますが、明確な結論はありません。II型は、類内膜癌以外の漿液性癌、粘液性癌、明細胞癌、神経内分泌腫瘍、未分化癌等が含まれます。前がん病変を介すことは少ないとされており、悪性度が高く、進行も早いため予後は不良とされています。

 

 

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診断

臨床症状

子宮頚がんでは、不正出血、接触出血が主体ですが、初期の場合は無症状のことがむしろ普通と考えられます。これら無症状患者の多くは子宮がん検診で発見されています。子宮体がんでは圧倒的に不正出血が多く、特に閉経期以降の出血という形で発見される場合が多いとされます。子宮内腔に腫瘍が存在するため異常な帯下を主訴とする場合もありますが、集団検診で発見される場合には無症状のことも多いとされます。

検査

1.細胞診
図2
図2

子宮がんにおける細胞診の役割は極めて大きいものがあります。婦人科領域における細胞診は子宮頚部(腟部)に対するものと子宮体部に対するものに分けることができます。

一般に、集団検診では、子宮頚部に対してのみ細胞診が行われる事が多く、子宮頚がんにおける診断率は95%という信頼性です。子宮体がんに関しては、子宮頚部細胞診での発見率は約50%にすぎません(図3)。
従って、近年増加傾向にある、子宮体がんの早期発見の向上ためには、集団検診での体部の細胞検査が必須となりますが、コストの問題に加え手技上の問題もあり、あまり普及していません。

子宮内膜検査の実際の手技には、子宮内膜吸引法、エンドサイト法などがあり、いずれも何らかの器具を子宮内腔まで挿入する必要があります。なお、子宮体がんの細胞診では、卵巣がんの13%前後、卵管がんの約50%が発見可能とされ、その他の腹腔内悪性腫瘍が偶発的に発見される場合もあります。

2.コルポスコピーとヒステロスコピー

コルポスコピーは、通常頚部細胞診による疑陽性以上の症例に対して行われます。

子宮頚部(腟部)病変に対しては、コルポスコピー(腟拡大鏡)で病変の質的診断をするとともに、このガイド下に狙い組織診(パンチバイオプシー)を施行します。コルポスコピーは単に病変を拡大するだけではなく、酢酸処理をすることにより、病変部と健常部を識別させることができます。

ヒステロスコピー(子宮鏡)は子宮内腔を観察するものですが、子宮内腔は潜在的な空間であるため、通常は何らかの液体もしくはガスによる子宮内腔の拡張が観察には必要となります。子宮体部の組織検査は、このガイド下に行うことも可能ですが普及しておらず、ブラインド(盲目下)での部分掻爬あるいは全面掻爬が一般的です。

3.円錐切除

一般に子宮頚部の高度異形成、微少浸潤がんを疑う症例を対象として行います。

子宮頚部の組織を円錐状に広範囲に切除し、得られた組織は連続的に切片が作成されるため、病変が全て切除されている場合は確定診断に至ります。

従って、この手技は、確定診断を導く検査法であると同時に、病変のマージン(辺縁)が十分切除されていれば、この手技で治療を終えてしまうこともあります。

実際の臨床の場では、様々な器具が使用されていますが、通常のメス(コールドメス)で切除し縫合する場合、レーザーメスを使用する場合、高周波電気(リープ)を使用する場合に大別されます。当院では全身麻酔をかけて施行するため、入院(通常2泊3日)が必要です。

4.画像診断

骨盤MRIは今日必須の検査で、明確な浸潤がんの治療前では、子宮がんのほぼ全例に施行される傾向にあります。原発巣の状況、近接臓器(特に膀胱と直腸)との関係などがよく把握されるため、術前検査としての価値は極めて大きいと考えられます。全身CT及びPET(Positron Emission Tomography) 検査は、原発巣に関する解析の他に、子宮外進展の有無の診断に用いています。遠隔転移の存在は治療方針に重大な影響を与えるため、可能な限り綿密に行われます。

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子宮頚部異形成のHPV-DNA診断

診断の対象

わたしもこの検査を受けたほうがいいのでしょうか?
子宮頚がんの検診で、軽度もしくは中等度の子宮頚部異形成と診断された方にお勧めしています。

子宮頚部異形成とは

がん検診を受けたら「異形成」だから3ヵ月後に再検査しましょうって言われて心配しています。
子宮頚がんでは、子宮頚部の正常な粘膜からがんができる過程で、途中に子宮頚部異形成という段階があると考えられています。
子宮頚がん検診はがんを初期に発見することを目的に行われていますが、がんばかりではなく子宮頚部異形成の段階で病気が発見され精密検査を勧められる場合もあります。
子宮頚部軽度異形成は大部分が治療なしで自然治癒してしまい、その全てががんへと進行していくわけではないので、切除などの治療はせずに、多くの場合経過観察されます。
最近の研究で子宮頚部異形成はヒト乳頭腫ウイルス(Human Papillomavirus;HPV)というヒトにイボをつくることで知られていたウイルスによって引き起こされることが明らかになってきました。
現在、HPVには約100種類の型・タイプが確認されています。
タイプというのは、ヒトでいうと人種にあたるものですが、大切なのはウイルスのタイプによって出来上がってくる病気にそれぞれ特徴があるということです。
子宮頚部異形成の場合、その組織中から見つかるHPVのタイプによってがんへの進行増悪の率がちがうことがわかっています。
そこで、子宮頚部異形成と診断された場合に、その病変中のHPVのタイプを調べることで異形成ががんへと進行していく危険率が予測できないものだろうかと考えられるようになりました。この試みを実践しているのが「子宮頚部異形成のHPV-DNA診断」です。

検査時の患者さんの負担

検査って大変ですか?
通常の検診で行われている細胞診と同じ検体をつかい、細胞の中のHPV-DNA(ウイルスの遺伝子)を検出し、タイプを判定します。

治療方針の変更

検査の結果によって、治療が必要になることもあるのでしょうか?
検査の結果はその後の経過観察において参考とされますが、結果によって経過観察の方法や治療方針が変わることは原則としてはありません。私たちの研究結果では,高危険群に分類されているタイプのHPVが見つかった場合でも、それらの病変の80%は自然治癒しています。

子宮頚がんとヒトパピローマウイルス

子宮頚部に感染しているHPVのタイプが判れば異形成の経過、運命が100%正確に予測できるかというと、残念ながら現時点ではまだそうではありません。しかし、HPVを検出、DNA診断することは従来から用いられている検査方法の補助診断方法として役に立つと考えられています。

集団検診、あるいは病院で行われている子宮頚がんの検査は、細胞診、組織診という方法です。これらの検査方法は、共に細胞や組織の形の上での異常から病気を診断しようという方法です。形のおかしな細胞・組織には性格にも異常があるというわけです。顕微鏡で観察して形のおかしな細胞を見つけ出し、形の異常の程度によって性格の異常の程度を診断していきます。

しかし、形から性格を判断しようとする方法には限界があります。従来の診断方法で同程度の異形成と診断されても、がんになっていくものもあれば、自然に消えてしまうものもあるわけですが、この性格の違いは形の上からだけでは判別できません。異形成と診断された場合には、皆さんに同じ割合、同じ回数で検診に来ていただき、同じやり方、同じ条件で念入りに経過観察を続けているのが現状です。

ここにHPVの型の情報を取り入れることによって、従来と同じように念入りな検診が必要な患者さんと、病変消失の可能性が高く検診の間隔をあけてもよい患者さんとに分けることができないだろうかというのが私たちの第1の狙いです。本来必要がないかもしれないのに検査のために病院を受診する必要がなくなり、患者さんの負担が減るだろうと考えています。

また、こんな場合も考えられます。従来の検査方法で病変が消失していても、相変わらずハイリスクのHPVが続けて見つかる場合、経過観察の手を緩めてはならないと判断できるかもしれません。HPV検査をすることによって、病気の潜伏的な進行増悪を見過ごしてしまうことを防ぐという第2の狙いです。

HPV検査の問題点

HPV6型、11型が見つかる病変はがん化しないということはほぼ間違いがないと考えられています。しかし、ハイリスクのHPVが見つかった場合、その異形成が確実にがん化するかというとそうではないのです。最もがん化の率が高いと考えられているHPV16型が見つかった場合でさえ、約20%にしかがん化は起こりません。HPV18型は欧米での研究から高危険型に分類されています。HPV18型は、先に述べました子宮頚部腺癌では約50%に見つかりますので、確かにハイリスクのウイルスと言ってよいと思います。しかし、病変の経過について研究がより進んでいる扁平上皮癌に限って言えば、話は違ってきます。

HPV52型、58型は欧米の報告ではがんから見つかることが少ないとされ、あまり注目されていません。しかし、日本ではHPV52型、58型ががん組織から高率に見つかる傾向があり、私たちはこれらHPV52型、58型をハイリスクHPVと考えています。調査、研究がどこの国、どの地域で行われたかによって、ハイリスク型に分類されるHPVの型が違ってきてしまう可能性があります。 日本人にとってのハイリスク型HPVをきちんと見きわめるためには、日本人の患者さんについての日本独自の研究がまだまだ必要だということになります。ハイリスクタイプのHPVに感染している異形成が子宮頚がんへと進んでいくという仮説を証明するためには長期間にわたる経過観察による研究が必要です。

私たちがん研婦人科では、10年以上前からこの命題に取り組み、HPV16型、33型、52型、58型が見つかった軽度異形成は、それ以外の型のHPVが見つかった軽度異形成に比べてがん化の危険が数倍高いという結果を出しました。しかし、これらハイリスク型と考えられるHPVが見つかった異形成でもがん化するのは6-7人に1人です。

HPV検査は従来の検査方法と組み合わせることによって有用性を発揮します。細胞診、組織診とHPV検査を組み合わせて行うことによって、経過観察のための検診をより効率的に行い、皆さんの定期検診に費やす負担を減らせるのではないかと考えています。

子宮頚部異形成と診断された場合、従来の検査方法での検診に加えて、HPV検査の結果を参考としながら適正な検診間隔を考えていくことが、現時点における最良の治療方針ではないでしょうか。

説明文にて掲載している諸症状で思い当たる節があった場合など、がんについての疑問・不安をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。

自己判断で迷わず、まずは専門家である医師の検診を受けることをお勧めします。

HPVワクチンについて

前述の通り、子宮頸がんの主な原因はハイリスク型のヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染であり、その予防としてHPVワクチンが有効であるとされています。現在販売されているHPVワクチンは16, 18型に対する2価ワクチンとしてサーバリックス、コンジローマなどの良性疾患の原因となる6, 11型を加えた4価ワクチンとしてガーダシル、6, 11, 16, 18型のほかに31, 33, 45, 52, 58型まで予防する9価ワクチンとしてシルガード9の3種類があります。いずれも半年間に3回の接種が必要とされています。これらはいずれもHPV感染を予防するワクチンであり、すでに感染したものを治療するものではない点に注意が必要です。

HPV感染が成立していない状態でこれらのワクチンを接種した場合の子宮頸がんの予防効果は2価・4価ワクチンで70%、9価ワクチンで90%と推測されています。スウェーデンの大規模コホート研究では、HPVワクチン非接種者の子宮頸がんの発症リスクを100とした場合、10-16歳でワクチン接種した人は88%リスク軽減、17-30歳でワクチン接種した人は53%リスク軽減されたことから、HPVワクチンが子宮頸がんの発症を軽減することが科学的に証明され、その軽減効果は初交前でより高い可能性が示唆されました。

わが国では2010年から中学1年生から高校1年生を対象に公費助成が開始され、2013年に小学校6年生から高校1年生の女の子を対象に定期接種になりました。そのころ、HPVワクチン接種後に失神や広範な疼痛、運動障害など多様な症状が報告され、積極的勧奨が取り消されたことから、我が国のHPVワクチン接種率はほぼ0%の状態が続いてきました。その後名古屋スタディなど大規模調査研究が行われ、日本産科婦人科学会は、日本においてみられるような慢性疼痛等の様々な症状はワクチン接種とは関係なく発症することもあるとし、2016年4月、日本小児科学会など国内17の学術団体は、接種再開を求めるその声明において、症状が未回復の副反応疑い症例は延べ接種回数の0.002%程度であり、ヨーロッパでの調査でもワクチン接種群と非接種群で副反応とされる症状の発生頻度に差が見られないとしました。厚生労働省は、2021年11月にHPVワクチンの定期接種の積極的勧奨の差し控えの終了を決定し、2022年4月からは、約9年ぶりに積極的勧奨が再スタートしています。しかし、このような経緯の影響で、世界各国の多くでワクチン接種率が80%を超える中、日本のワクチン接種率はわずか1%程度と低く、諸外国で70%を超えている検診の受診率も44%と低迷しているのが実情です。若い女性や子育て世代の女性が子宮頸がんに罹患し、妊娠能力や命を失う深刻な問題が発生している現状を変える必要があります。

2022年11月8日に開催された第50回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会において、2023年4月から9価HPVワクチンの定期接種化の方向性が示されました。基本的には、定期接種(小学校6年生から高校1年生相当)対象者の女子とキャッチアップ無料接種となる女性も対象となり(2023年度に17歳~26歳となる女性)、途中から2価・4価HPVワクチンから9価ワクチンへ切り替える「交互接種」も可能となるようです。日本産科婦人科学会の見解としては、定期接種・キャッチアップ接種対象者に早期に2価・4価のHPVワクチン接種を開始することが基本的な姿勢ですが、個々の接種対象者の年齢や置かれた環境を勘案し、9価HPVワクチンの定期接種化以降に9価HPVワクチンを接種するべきかについて、個別に接種対象者の希望も聴取して決めていくべきとしています。

 

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治療

子宮頚がん

子宮頚がんでは子宮全摘術もしくは放射線治療が治療の原則です。しかし、若い世代の早期がん(IA期やIB期の一部)で妊娠を強く希望される患者さんでは、子宮温存手術が適応になる症例もあります。子宮温存手術には、円錐切除またはレーザー治療や(広汎)子宮頚部全摘術があります。 広汎子宮頚部全摘術は子宮頚部を広汎に切除して、腟と残った子宮とを縫合する術式です。

子宮全摘術には単純子宮全摘術、準広汎子宮全摘術、広汎子宮全摘術の3種類があり、切除範囲が徐々に広くなります。一般的には子宮頚がんIA期では準広汎子宮全摘術まで(リンパ節郭清を行う場合もある)、IB期以降の病期では広汎子宮全摘術(リンパ節郭清を含む)を行います。広汎子宮全摘術では膀胱子宮靱帯、基靱帯等の処理を行い、子宮周辺の組織を幅広く切除します。その結果、膀胱及び直腸関連の神経が広範囲に切断される場合があり、術後これらの障害が問題となる場合があります。V期以降の症例は一般的には放射線同時化学療法が行われます。IV期症例には放射線治療や化学療法が行われる場合が多いです。他には化学療法で、腫瘍の縮小を計った後、根治手術を行う場合もあります。また、当院では、子宮頚がんに対する腹腔鏡下手術を行っています。腹腔鏡下手術はその整容面や術後の回復の早さなど多くのメリットがありますが、全ての方を腹腔鏡で手術できれば良いというわけではなく、最も大切なことは安全に子宮頚がんの治療が行える事であると私達は考えています。そのため、その適応についてはお一人お一人慎重に検討させていただいております。

腹腔鏡下広汎子宮全摘術について
@広汎子宮全摘術における腹腔鏡下手術のメリット

2021年3月現在、日本の保険診療では早期子宮頚がんの標準治療は広汎子宮全摘術ですが、当院では開腹手術および腹腔鏡下手術どちらも行っています。一般的に腹腔鏡下手術やロボット補助下手術は開腹手術と比べ入院期間の短縮や術後疼痛の軽減など、患者さんの負担は軽くなる傾向にあり、近年多くの癌でさかんに腹腔鏡下手術やロボット補助下手術が行われています。ここで、広汎子宮全摘術において腹腔鏡下手術やロボット補助下手術の治療成績を正確に評価しようという試みがなされました。

A腹腔鏡下広汎子宮全摘術の成績は?〜外国の場合〜

2018年秋、アメリカを中心とした世界規模の多施設共同の前向き研究の結果が、世界で影響力の強い雑誌の一つであるThe New England Journal of Medicine(NEJM)に掲載されました。この研究は、IA2期からIB1期の早期子宮頚がんの患者さんを対象とし、開腹手術と低侵襲手術(腹腔鏡下手術とロボット補助下手術の総称)の予後を比較した研究です。結果は、低侵襲手術が開腹手術と比較して劣る治療成績と判断されました。具体的には低侵襲手術では開腹手術に比べ術後4.5年の時点での再発リスクが3.7倍、全死亡リスクは6倍でした。上記の治療成績の差が、何故起きたのかはっきりとしたことはわかっていません。 そして、ここで重要なことは日本には上記の研究に参加した施設はないということです。

B腹腔鏡下広汎子宮全摘術の成績は?〜日本の場合〜

日本での腹腔鏡下広汎子宮全摘術の成績は、2021年に腹腔鏡下広汎子宮全摘術のみの多施設の成績が発表されました(PMID: 33433752)。 腫瘍の大きさと郭清したリンパ節の回収方法が予後因子となることが判明しましたが、 開腹手術と腹腔鏡下手術の直接比較の大規模なデータではありません。

C当院での腹腔鏡下広汎子宮全摘術の成績は?〜がん研有明病院の場合〜

当院では、上記論文掲載以前より腹腔鏡下広汎子宮全摘術の術式の改善や適切な手術症例選択に取り組んでいました。そこで、当院で行った広汎子宮全摘術のデータを見返してみました。すると、開腹手術と腹腔鏡下手術ではその成績に差を認めませんでした(2019年論文掲載 PMID: 30887768、2021年論文掲載 PMID: 34885205)。この研究は過去のデータを見返すため後ろ向き研究と言い、海外のAの論文の方が質が高いと言われています。 また、 国内のBよりは症例数が少ないデータです。しかし 国内での開腹手術と腹腔鏡下手術を比較した数少ないデータです。

D当院での腹腔鏡下広汎子宮全摘術

当院では以前より広汎子宮全摘術の術式の改善や適切な手術症例選択に取り組み、腹腔鏡下広汎子宮全摘術は早期子宮頚癌の有用な治療選択肢であると考えています。しかし適切な手術症例選択が必要であると考えており、腹腔鏡下手術を希望する皆様全員に腹腔鏡下手術を行うものではありません。当院に受診される際には主治医がまず、腹腔鏡下手術をお薦めできる状況かどうかを判断します。その上で低侵襲手術のメリット・デメリットを主治医・担当医とよく相談していただいた上で、手術方法を選んでいただきたいと考えています。

腹腔鏡補助下広汎子宮頚部摘出術について

子宮頚がんは子宮頚部の周囲組織(基靭帯)や腟の方向に広がる(浸潤する)傾向があるため、子宮頚がん根治術としては基靭帯、腟を広範囲に切除する広汎子宮全摘術が一般的に行われています。広汎子宮全摘術はその名の通り子宮を完全に摘出するため妊娠することができなくなります。しかし前述のように子宮頚がんは基靭帯、腟の方向に広がる傾向にありますが、子宮体部(受精卵が生着する部位)の方向にはあまり広がらないため、基靭帯・腟は従来通り広汎子宮全摘術と同様な切除を行いつつも子宮体部を残すことで子宮頚癌の根治性を落とさずに、妊孕性(妊娠する可能性)を温存する術式が理論的には可能です。これが広汎子宮頚部摘出術です。

広汎子宮頚部摘出術はまだ一般的な術式ではありませんので以下の点を十分理解したうえで手術を受けてください。

1.子宮頚がんの根治性について

術前のいろいろな検査から子宮頚がんの状態が早期であり、広汎子宮頚部摘出術を行うことができる状態と判断された場合にのみ行います。しかし、癌の広がりすべてを術前から正確に判断できるわけではないので、以下のような手術中の所見から癌の根治性から考えて広汎子宮全摘術に変更する場合があります。

  1. 腹水細胞診陽性であった場合
  2. 術中にわかる範囲内で骨盤内リンパ節転移を認めた場合
  3. 術中にわかる範囲内でがんの子宮外進展を認めた場合
  4. 子宮切開線(子宮頚部と体部の切開線)にがんの浸潤を認めた場合
  5. その他、術者が広汎子宮全摘術を必要と判断した場合

また手術中には子宮温存可能と判断された場合でも、術後の病理組織診断で子宮温存はリスクが高いと判断した場合は再手術を行って子宮を摘出したり、追加治療として放射線治療や化学療法を行ったりする場合があります。放射線治療を行った場合は子宮を温存していても妊娠することはできなくなります。

2.広汎子宮頚部摘出術を受けた後の妊娠について

A.不妊症治療の観点から

  1. 手術が妊孕能におよぼす影響
    排卵日の前後には、卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)の影響で、子宮頚管から粘液が分泌されます。 性交時に腟内に射精された精子はこの粘液を通って子宮頚管を遡上し(泳いで入っていく)、子宮内に達します。手術により頚管の大部分を摘出した場合、頚管粘液の分泌が減少するうえ、子宮口が手術の影響で狭くなる場合もあり、妊娠率の低下が予想されます。
  2. 手術後療法による卵巣への影響
    手術後に後療法(抗がん剤治療)が必要になることがあります。がん細胞は活発に分裂する特徴をもつため、細胞分裂過程を阻害する薬剤が抗がん剤として用いられます。しかしながら正常の細胞でも比較的分裂の盛んな腸粘膜、骨髄、毛根などの細胞は抗がん剤の影響を受けやすいといわれています。また、卵巣に対しても卵子の減少、早発閉経などの影響がみられることがあります。
  3. 手術から妊娠までの時間の影響
    女性は年齢を重ねるごとに、妊娠率が低下するといわれ、30歳を過ぎたところから徐々に、30歳代後半から急激に低下し、40歳代前半でほぼなくなると考えられています。
    広汎子宮頚部摘出術では術後に病気が再発しないかを注意深く観察する必要があり、手術終了から一定の期間(半年から1年)は妊娠を待って頂く必要があります。しかし、この間にも卵巣機能、妊孕能は低下していきます。
    卵子自体の老化への対策としては卵子・受精卵の凍結があります。手術前後に卵子を採取し、受精卵を作って凍結保存する方法や、卵子自体を凍結保存する方法があります。妊娠許可後にそれを融解して利用することもできます。妊娠率を少しでも維持することを目的に行うものですが、これらの体外受精での採卵あたり生産率(体外受精全般の生産率)は30歳で22%、35歳で17%、40歳で8%、45歳で1%程度と言われており、これを行うことで確実に妊娠できるというものではありません。

B.産科治療の観点から

広汎子宮頚部摘出術後に妊娠した場合ですが、摘出する子宮頚部は、赤ちゃんの体重を支えて子宮内に赤ちゃんを保持する働きや、腟から子宮内への感染の波及を防御する働きなどがあります。 それが広範囲に切除されるこの手術の後の妊娠では、流産・早産をはじめとするさまざまな妊娠合併症が増加する可能性があります。

C.当院の成績

当院で2015-2020年に腹腔鏡補助下広汎子宮頚部摘出術を受けた35人の子宮頚癌(TA2–UA1期)の患者さんを振り返りました。35人のうち妊娠をトライしたのは9人で、妊娠率は76%(7/9人)であり、9件(2人の方が2回妊娠しました)の妊娠が成立しました。9件の妊娠のうち8件が生児を得ることができ、特記すべき周産期合併症は認めませんでした。特に8件の出産すべてが正期産であることは注目すべきことだと考えております。(2021年論文掲載 PMID: 34575265)。

子宮体がん

子宮体がん治療は原則子宮の摘出です。しかし早期の子宮体癌(TA期)で妊娠を強く希望される患者さんでは、慎重に経過をみながらホルモン療法による子宮温存療法を行っています。手術は子宮全摘、両側附属器切除に加えて骨盤内及び傍大動脈リンパ節廓清が標準的な術式です。ただし、子宮頚部への浸潤を伴うU期症例に広汎性子宮全摘術を行う施設も多いです。

子宮体がんにおける所属リンパ節は、骨盤内リンパ節と傍大動脈リンパ節であり(子宮頚がんでは骨盤内リンパ節のみ)、両方の廓清が必要と考えられています。しかし、がん浸潤の浅い早期のもの、何らかの合併症を有する症例などに、リンパ節廓清を省略する場合があります。

早期子宮体がんに対しては、2014年4月1日より腹腔鏡下手術が保険となり、当院でも積極的に腹腔鏡下手術を行っています。また、当院ではロボット支援手術『ダビンチ』を用いた手術も行っています。『ダビンチ』は医師が患者さんから離れた場所で行った手術操作をロボットが正確に行います。腹腔鏡下手術同様に傷口が小さい他に、操作ポートの挫滅が少なく創の痛みが軽いのがメリットです。

V期またはIV期では、治療開始時に既に広汎な転移を認める症例においては、化学療法を優先する場合があります。

リンパ節廓清の必要性

子宮体がんにおいては早期の症例にリンパ節廓清を省略しようとする動きも見られます。リンパ節廓清を省略できれば、リンパ浮腫などの問題も解決され、患者のQOLも改善されることになります。

しかし、リンパ節転移の有無を術前に察知するのは容易ではなく、リンパ節転移の有無により予後に大きな差があることが知られています。また、リンパ節転移があっても術後適切な治療をすれば、かなりの生命予後が得られることもわかってきています。従って、リンパ節廓清は、実質的な転移巣を除去する意味と、リンパ節転移を有するハイリスク群を同定し、これに対する補助療法をガイドするという役割を持っているといえます。

ロボット支援下手術について
<はじめに>

当院では一部の疾患に対して手術支援ロボットを用いたロボット支援下手術を行っております。

この手術支援ロボットは、1997年より欧米で臨床使用されており、日本では2009年11月に薬事法に承認されました。婦人科領域において日本では2018年4月より子宮体がんおよび良性疾患に対して保険収載されました。欧米では広く普及しており、子宮悪性腫瘍の子宮全摘出術の70%以上がロボット支援下で行われています。

<ロボット支援下手術とは>

手術支援ロボットはロボット部・操作台・モニターなどで構成されます。

ロボット部には、腹腔鏡やさまざまな手術器具を取り付けるアームが4本装備されています。執刀医は、患者さんの腹部に小さな穴をあけ腹腔鏡や手術器具を差し込み、手術台から離れた操作台にてモニターを見ながらアームを遠隔操作し手術を行います。

ロボット支援下手術の特徴として、3次元による立体的で正確な画像から肉眼でみるより細かく正確に血管や神経の走行、病変の把握が可能となります。また、自由度の高い手振れ補正機能付きの多関節鉗子を利用し複雑で細やかな手術手技で手術を行います。このようなロボット支援下手術は以下のようなメリットが挙げられます。

<ロボット支援下手術のメリット>
  1. 術後の回復が早い
    開腹手術に比べて傷が小さいため、術後の回復が非常に早くなります。当院では数日で退院される方がほとんどです。
  2. 術後の痛みが少ない
    創部が開腹手術に比べてとても小さいため、痛みも速やかに治まります。多くの方が術後数日で痛みを気にせず歩けるようになります。
  3. 整容性に優れている
    傷が小さいため、跡が残りにくく、多くの方で術後1年する頃には傷跡も目立たなくなります。
  4. 手術中の出血量がすくない
    術者は高解像度3Dモニターを使用するため、画質が非常に良く細かい血管まで見えます。また、ロボットアームは自由度が高く精度の高い手術が可能となるため、少ない出血量で手術が可能となります。
<ロボット支援下手術の方法>
  • 全身麻酔下にて、臍および下腹部に5-6か所の8-12mmの皮膚切開を入れ、その部位よりロボット手術用の細い筒(トロッカー)を数本挿入します。(手術内容により切開箇所、位置が異なる場合があります。)
  • 腹腔内に炭酸ガスを注入し腹部を膨らませて(気腹)手術野を確保します。
  • トロッカーより内視鏡や細長いマジックハンドのような手術器具(鉗子、電気メス、超音波メス等)を挿入し、手術支援ロボットを操作して手術を行います。
  • 腹腔内をモニターに移し、執刀者および、第一助手、場合によっては第二助手と手術を行います。

子宮体がん、子宮頚部異形成等を対象に当院ではロボット支援下手術を行っておりますが、がんの種類、進行期、他疾患の既往等でロボット支援手術が選択できない場合もあります。ロボット支援下手術の適応等についてはお気軽に担当医にご相談ください。

術後療法

子宮頚がんも子宮体がんも、リンパ節転移を有する症例、あるいは浸潤の深さ、腫瘍の大きさなどにより再発率が高いと考えられる症例に対しては、術後補助療法を行います。術後補療法には化学療法と放射線療法があり、患者さん一人一人の病状などによって適切と思われる治療をおすすめします。

治療成績と予後因子

子宮頚がんでは進行期によって治療成績がかわります。一般的には進行期があがるほど予後は不良ですが、当院では手術においては術式の改良や腹腔鏡手術など、放射線治療においては積極的な小線源治療の施行、化学療法においては分子標的薬の導入やご希望される患者さんへの治験など、日々根治性を高めるために努力をしております。

子宮体がんでは、組織の分化度が重要な予後因子となっています。子宮体がんの腫瘍組織像は、腺腔部分と充実部分よりの構成となっており、充実部分の多い(悪性度が高い)程、予後不良となります。手術でのリンパ節転移の有無、卵巣転移の有無も重要で、これらにより大きな予後の差がみとめられます。

また、近年では遺伝子変異によるがん化が注目されており、マイクロサテライト不安定性(MSI)が一部の子宮体がんに関連していることがわかってきました。マイクロサテライト不安定性を引き起こす原因遺伝子はLynch症候群といわれる大腸癌のほか子宮体がん、卵巣がん、胃がん、肝胆道系がん、腎盂・尿管がん等の発症リスクが高まる遺伝性腫瘍の原因遺伝子とされております。当院でも子宮体がんの進行症例や再発症例に対してMSI検査を施行しており、近年発展してきている免疫チェックポイント阻害薬も治療戦略の一つとしております。

KEYNOTE-775試験の結果を受け、進行・再発子宮体がんの方にペンブロリズマブ(点滴投与)およびレンバチニブ(内服投与) を当院でも開始させていただいています。それらの免疫チェックポイント阻害薬を含めた治験もいくつか取り扱っており、患者さんひとりひとりにあった治療を提供できるように日々精進しております。

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