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【プレスリリース】人工知能による食道がんの診断 -AIによる内視鏡画像診断支援システム-

2018年09月07日

「ポイント」
●人工知能(AI)を活用して、内視鏡画像から食道がんを検出するシステムを開発しました。
●食道がんの98%を発見することができました。
●1画像の解析にかかる時間は0.02秒(1,118枚の画像を27秒で解析)でした。
●動画にも対応し、内視鏡検査時のリアルタイム自動検出システムへの応用が期待されます。

 公益財団法人がん研究会有明病院(院長:佐野武、所在地:東京都江東区)の由雄敏之医師(上部消化管内科副部長)、堀江義政医師(上部消化管内科医員)と株式会社AIメディカルサービス(CEO: 多田智裕、所在地:東京都豊島区)の多田智裕医師(ただともひろ胃腸科肛門科院長/東京大学医学部客員講師)らの研究グループが開発した人工知能(AI)を用いて、食道内視鏡静止画像の中から食道がんを検出できることを示しました。
 食道がんは飲酒喫煙を危険因子として発生し、男性では6番目に死亡率の高い悪性腫瘍で、早期での発見は内視鏡検査でも難しい場合があります。本研究グループは最先端のAI技術であるニューラルネットワーク注1)を用いたディープラーニング注2)を活用し、8,428枚の食道がん内視鏡画像をAIに学習させ、がん検出力の検証をしました。その結果、検証用の内視鏡画像1,118枚から全食道がんの98%、10mm未満の食道癌では7病変全て検出することができました。食道癌の進行度判定(表在型食道癌または進行型食道癌)においては98%の精度で正診しました。これらは熟練した内視鏡医に匹敵するものです。また、1,118枚の画像の解析に要した時間は27秒であり、解析速度は、人間の能力をはるかに超えるものでした。さらに、本システムは動画も解析処理させることができ、リアルタイム診断支援の可能性も示しました。
 これまでにAIを活用した食道がん内視鏡診断の報告はなく、本報告は世界初です。今後さらに改良を進め、内視鏡検査時にリアルタイムで食道がん検出を支援する内視鏡診断支援システムの実用化を目指します。
本研究成果は、米国内視鏡医学雑誌『Gastrointestinal Endoscopy』オンライン版(2018 年 8月 15 日付)に掲載されました。

研究の内容
「研究の背景」
 食道がんは日本の男性では6番目に多いがんですが、進行癌で見つかることがまだ多く、進行癌の予後はよくありません。他の癌と同様に早期に発見できると予後も良く、内視鏡的切除のような体への負担の少ない治療が可能であるため、早期発見が重要です。
 各自治体を主体とした胃内視鏡健診の増加に伴って上部内視鏡検査を受ける機会が増加し、食道癌、胃癌の早期発見が可能になってきています。しかし、発見が難しい食道がんについては内視鏡医の経験と技量、知識の違いにより診断精度は変わります。 Narrow Band Imaging(NBI)など画像強調内視鏡の開発により、食道がんの早期発見がより容易になってきており、十分に経験のある内視鏡医がNBIを用いれば食道がんの拾い上げ感度は高くなりますが、経験の浅い内視鏡医では十分ではありません。
 近年、AI による画像認識能力は大きく進歩し、人間と同等以上の成績も報告されるようになりました。医療の現場でも目覚ましい進歩を遂げており、放射線診断、胃生検の組織学的診断などが報告され注目されています。我々のグループでもAIによるピロリ菌感染診断、胃がん拾いあげを報告しており内視鏡診断支援システムの実現に向け努力しています。

「AI を用いた内視鏡診断システムの開発」
 本研究グループは、AI に機械学習注3)をさせることにより、食道がんを内視鏡画像から自動的に発見するシステムを開発しました。機械学習においてはAIに覚えさせる内視鏡画像(教育用データ)が高品質で十分な量であることが非常に重要ですが、がん研有明病院は年間10,000件以上の上部内視鏡検査、200件以上の食道がん内視鏡治療を行っており、膨大な内視鏡画像を蓄積しています。今回は、約10,000枚の食道がん画像を準備し、その画像からエキスパートの内視鏡医が、質の高い内視鏡画像を選別し、細かく病変の範囲をマーキングして食道がん教育用データを作成しました。
 そのデータを、株式会社AI メディカルサービスが独自に開発したニューラルネットワークによるディープラーニング・システムに導入し、学習させることで、内視鏡診断支援システムを開発しました。

「内視鏡診断システムの評価」
1.内視鏡診断支援システムの検証用データ
2016年2月から2017年4月にがん研有明病院で内視鏡検査を行った食道がん47人、非食道がん50人を対象とした1,118枚の内視鏡画像を用いて、今回の内視鏡診断支援システムを検証しました。
2.成績
内視鏡診断支援システムは1,118枚の画像を27秒で解析し(1画像あたり0.02 秒)、食道がん症例の98%(46/47例)において、食道がんを正しく検出しました。その内、腫瘍サイズが10mm未満である7病変全ての食道がんを正しく検出しています。陽性的中率は40%と高くないですが、実臨床でも癌を疑う際には生検をして診断しており、その陽性的中率は5-10%程度であり許容される結果と考えました。また、食道がんの進行度判定(表在型食道癌または進行型食道癌)においては98%の精度で正診しました。

「今後の展望」
 内視鏡診断支援システムのAI はさらに学習することで診断精度を向上させることができます。AIが決まった正常部位を間違って食道がんと検出してしまうこともあり、それらを非食道がんとしてAI に学習させることにより改善が期待されます。本システムを今後さらに改良を行い、臨床評価と実用化に必要な手続きを進め、医療現場に実装することを目指します。
1.動画中における食道がん診断精度の確立
 今回教育した AI による内視鏡診断支援システムのがん診断の閾値など設定を調整して、動画における診断能の最適化を図ります。その上で多数の食道がんを含む動画を用いて、動画中の AI の診断精度を確立します。
2.内視鏡検査時のリアルタイム診断支援
 内視鏡診断支援システムを上部内視鏡検査時に連動させることにより、検査中に食道がんを明示することでがんの見逃しを回避できる可能性があります。 我々のグループはピロリ菌胃炎診断、胃がん拾いあげに対するAI内視鏡診断支援システムも開発しており、上部内視鏡検査を広くサポートすることを目指しています。

【図1】


図1左:ピンク色した食道の粘膜の中に、周囲よりやや赤い凹凸のある食道がんを認めます。
図1右:緑の枠は内視鏡医ががんの位置を示したもの、白の枠は内視鏡診断支援システムが 食道がんを検出した部位です。今回開発した内視鏡診断支援システムは、このような発見が難しい早期の食道がんも検出しました。

<用語解説>
注1)ニューラルネットワーク:
人間の脳の神経細胞ネットワークを模倣し、数理モデル化したものの組み合わせのことです。
注2)ディープラーニング:
ニューラルネットワークの層を増やすことにより、画像認識などの処理能力を画期的に向上させた機械学習の一形態です。AI の急速な発展を支える技術です。
注3)機械学習:
コンピューターが、与えられた多量の画像などから特徴やルールを自律的に学ぶことです。

<論文名、掲載誌、著者およびその所属>
論文名
○The diagnostic outcomes of esophageal cancer by artificial intelligence using convolutional neural networks
○掲載誌
Gastrointestinal Endoscopy 2018 Aug 15 doi: 10.1016/j.gie.2018.07.037
○著者
Yoshimasa Horie1, 7, Toshiyuki Yoshio1, 3, Kazuharu Aoyama2, Syouichi Yoshimizu1, Yusuke Horiuchi1, Akiyoshi Ishiyama1, Toshiaki Hirasawa1, 3, Tomohiro Tuchida1, Tsuyoshi Ozawa3, 4, Soichiro Ishihara3, 4, Youichi Kumagai5, Mitsuhiro Fujishiro6,Iruru Maetani7, Junko Fujisaki1, Tomohiro Tada2, 3, 8
○著者の所属機関
1 がん研有明病院 消化器内科
2 株式会社AI メディカルサービス
3 ただともひろ胃腸科肛門科
4 国際医療福祉大学 山王病院 外科
5 埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科
6 東京大学医学部付属病院 消化器内科学
7 東邦大学医療センター大橋病院 消化器内科
8 東京大学医学部附属病院 腫瘍外科

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