注目の論文

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注目の論文

最終更新日 : 2016年06月14日

姉妹染色分体が分かれて行く過程の描出に成功
―染色体を形作る仕組みに新視点―

このたび がん研究会がん研究所の広田亨実験病理部長らの研究グループは、染色体が分かれて行く過程の観察にはじめて成功しました。

遺伝子(DNA)の本体である「染色体」の維持・継承は根本的な生命機能です。細胞は分裂するたびにそのDNAを複製し、その染色体のペア(=「姉妹染色分体」と呼びます)を一対ずつ 分裂する細胞に分配することを繰り返します。この細胞周期のなかで、S期(DNA合成期)にDNAの複製、M期(細胞分裂期)に染色体の分配がなされるとされています。ところが、複製後の姉妹染色分体は強く絡み合って結合していることを考えると、どのようにしてM期という短時間にその間の結合をあまねく解消して無事に染色体を分配するのか、明快な説明はなく 謎めいていました。こうした状況のなか、われわれの研究室では、欧州分子生物学研究所の研究グループとともに、姉妹染色分体の解離過程を観察することに成功し、染色体を分けるというプロセスの謎を解く重要な知見を得ることができました。

【詳細】

われわれの研究室の長坂浩太博士は、姉妹染色分体のペアを別々の色に標識することで、その間の重なりを検出するという方法を考案し、その重なりとともに染色体全体の容積を測定することによって、姉妹染色分体がどのように分かれ行くのかを解析しました。その結果、姉妹染色分体の解離は、これまで考えられていたよりもずっと早い時期に始まり、染色体の凝縮と相俟って進行することが判明しました。ヒト細胞の染色体は、核膜が消失した後に細胞質で分配されることが知られていますが、驚いたことに、姉妹染色分体の分離がほぼ完了した状態で細胞質に出てくることが分かりました(写真)。さらにその分子メカニズムを検討したところ、姉妹染色分体の「解離」と染色体の「凝縮」という一見相異なる営みが、実は共通の因子のはたらきによって進むことが分かり “分けながら凝縮していく”という染色体をつくる仕組みを、分子レベルでも示すことができました。

染色体の分配に先立って姉妹染色分体の解離を進めるのは、長大なDNAを安全に分けるために細胞が獲得した機能であると考えられます。実際に、解離が不完全の状態で分配しようとするとDNA鎖に多くの傷が入ってしまい、遺伝子に変異を起こす危険性が高くなります。昨年、DNAの損傷修復の仕組みの解明に対してノーベル化学賞が授与されたことは記憶に新しいですが、こうしたDNAに傷が入る原因を探ることは、がんの原因解明に向けて極めて重要な課題と言えます。今回の知見を踏まえて、今後、姉妹染色分体間の異常な結合といったがんの病理機構に新たな視点が拓かれることが期待されます。

1) Kota Nagasaka, M. Julius Hossain, M. Julia Roberti, Jan Ellenberg, and Toru Hirota.
Sister chromatid resolution is an intrinsic part of chromosome organization in prophase.
Nature Cell Biology (2016) in-press

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