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最終更新日 : 2020年7月31日

芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍における高頻度の 8q24 再構成:細胞形態,MYC 発現, 薬剤感受性との関連

Recurrent 8q24 rearrangement in blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm:
association with immunoblastoid cytomorphology, MYC expression, and drug response
Sakamoto K, Katayama R, Asaka R, Sakata S, Baba S, Nakasone H, Koike S, Tsuyama N, Dobashi A, Sasaki M, Ichinohasama R, Takakuwa E, Yamazaki R, Takizawa J, Maeda T,
Narita M, Izutsu K, Kanda Y, Ohshima K, Takeuchi K.
Leukemia. 2018 May 23. doi: 10.1038/s41375-018-0154-5.

【研究の背景】

芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)は,形質細胞様樹状細胞の前駆細胞に由来するとされる稀な腫瘍です.皮膚に好発するのが特徴で,高齢者,男性に特によくみられます.当初化学療法に反応しますが,再発率が高く,生存期間中央値は 12-14 か月と予後不良な疾患です.BPDCN では様々な癌抑制遺伝子の変異や,MYB 遺伝子の再構成等が報告されていますが,多数例の収集が困難であることもあり,大規模コホートをもちい,臨床的意義とともに検討されたゲノム異常は知られていません.標準治療も定まっておらず,有効な治療法の開発が求められています.

組織病理学的には,腫瘍細胞はクロマチン繊細で中等大の不整形核と少量から中等量の細胞質を持ち,核小体は不明瞭,または 1 つ〜数個の小さな核小体が認められます.しかし我々は以前より,このような標準型の BPDCN(classic BPDCN)とは大きく異なり,類円形空胞状の核,好塩基性で中等量の細胞質と光輝性の大きな中心性核小体を 1 つ持つ,免疫芽球(immunoblast)に似た immunoblastoid cell を主体とする像を示す症例が存在することを認識しており,「免疫芽球様型 BPDCN」(immunoblastoid BPDCN)と名付けていました.最近我々は,8q24 領域(がん遺伝子 MYC の遺伝子座)の再構成を示し,MYC を発現するimmunoblastoid BPDCNの症例を経験しました.このことから,BPDCNの細胞形態と, 8q24 再構成および MYC 発現の間に,遺伝子型・表現型相関があるのではないかと考え,研究を開始しました.また,MYC をターゲットとした治療法についても細胞株を用いて検討することとしました.

【研究の内容】

我々は,全国 52 機関の協力を得て,154 例の BPDCN と診断または疑診された症例の収集に成功しました.これらのうち 118 例を組織病理学的に BPDCN と確定しました.細胞形態を解析し,62 例(53%)を classic BPDCN,41 例(35%)を immunoblastoid BPDCN に分類しました.続いて,8q24 領域(MYC locus)の再構成,MYC 発現について,FISH 法(独自開発したプローブを使用)および MYC 免疫染色法を用いて,それぞれ解析しました.その結果,109 例が解析可能であり,41 例(38%)が MYC+BPDCN(両解析陽性),59 例(54%)がMYC-BPDCN(両解析陰性)に分類されました.驚くべきことに,解析可能なimmunoblastoid BPDCNの全例(39/39例)が MYC+BPDCNであり,classic BPDCNのほとんど(54/56, 96%)が MYC-BPDCN であると判明しました.すなわち,形態分類と MYC による分類の間に強い遺伝子型・表現型相関が見出されました(図 1).なお,MYC+BPDCN には MYB/MYBL1 再構成は認められず(0/36 例),MYC-BPDCN の 18/51 例(35%)ではMYB/MYBL1 の再構成が認められました.

臨床的情報の統計学的解析により,MYC+BPDCN 症例は MYC-BPDCN 症例に比し,発症年齢が高く,局所腫瘤性の皮膚病変が多く,生存期間が不良であることが示されました(図2).後方視的研究であるため今後の検証が必要ですが,MYC+BPDCN とMYC-BPDCN は臨床的にも異なる点が認められたことになります.免疫学的マーカーについても,BPDCN に特徴的とされるマーカーの一つである CD56 の陽性率(MYC+BPDCN:78%, MYC-BPDCN: 98%)等に違いがみられました.図3にBPDCN 118例の所見のまとめを示します.

さらに MYC+BPDCN と MYC-BPDCN の生物学的特徴を比較するため,BPDCN 細胞株 CAL-1,PMDC05 がそれぞれ MYC+BPDCN,MYC-BPDCN であることを確定し,これらの細胞株を用いて実験を行いました.両株の遺伝子発現プロファイルを比較したところ,MYC はその差異をもたらす代表的な分子の 1 つであることが明らかになりました.また,shRNA により MYC をノックダウンしたところ CAL-1 の生存性が抑制され,MYC+BPDCN 細胞の生存に MYC が重要な役割を果たしていることが示唆されました.続いて薬剤感受性実験を行い,MYC を間接的に抑制する BET 阻害薬,オーロラキナーゼ阻害薬が PMDC05 に比しCAL-1 の増殖を強く抑制することを見出しました(図4).これらの結果から,BPDCN では,8q24 再構成,MYC 発現,および細胞形態が密に関連し,さらに治療において有用なバイオマーカーとなる可能性が示唆されました.なお,PMDC05 に対しては,BCL2 阻害薬であるベネトクラックスがCAL-1同様に有効であり,BET阻害薬等の効果が比較的低い可能性のある MYC-BPDCN に対しては,同薬剤を治療に用いることができる可能性が示されました.

【今後の展開】

今回我々は,BPDCN において,MYC 異常(遺伝子再構成および発現異常)が高頻度(約40%)に見られ,かつ,それが細胞形態観察時に推測可能であること,薬剤感受性と関連することを明らかにしました.MYC 異常に基づく分類は,BPDCN の病態解明と新たな治療戦略開発に寄与するものと期待されます.

図1:BPDCNにおける細胞形態とMYC異常の関連
図1:BPDCNにおける細胞形態とMYC異常の関連
図2:MYC+BPDCNとMYC-BPDCNの臨床的特徴
図2:MYC+BPDCNとMYC-BPDCNの臨床的特徴
図3:BPDCN 118例の所見一覧
図3:BPDCN 118例の所見一覧
図3:BPDCN 118例の所見一覧
図4:BPDCN細胞株の薬剤感受性

IGH-MYC転座陽性の多発性骨髄腫細胞株であるKMS-12-PEと,MYC再構成陰性の慢性骨髄性白血病細胞株であるK562をレファレンスとして用いた.

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