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【ニュースリリース】胃がん腹膜播種を促進する中皮細胞の新たな役割を解明

2024年01月17日

(ポイント)
●単一細胞レベルの網羅的なタンパク質分析の結果、腹膜播種(ふくまくはしゅ)に伴うがん性腹水中の中皮細胞※1には間葉系の特徴を有する中皮細胞※2が存在することがわかりました。
●これらの中皮細胞は免疫抑制性骨髄系細胞の集積に関与することでがんの進行に関わることがわかりました。
●さらに、間葉系の特徴を有する中皮細胞は細胞外マトリックスであるテネイシンCなどを産生することで癌細胞の腹膜への接着・コロニー形成に関与し、腹膜播種形成を促進していることを明らかにしました。

(概要説明)
公益財団法人がん研究会 がん研究所 発がん研究部の米村敦子研究助手、石本崇胤部長(熊本大学国際先端医学研究機構 客員教授)を中心とする研究グループは、藤田医科大学、シンガポール国立大学及びテキサス大学MDアンダーソンがんセンターとの共同研究により、腹膜播種に伴うがん性腹水中では中皮細胞の割合が増加し、その多くが間葉系の特徴を有する中皮細胞であることを発見しました。さらにこれらの中皮細胞が免疫抑制性の細胞の集積を促すとともに、癌細胞の腹膜への定着を促進することでがん性腹水中における腹膜播種促進性の環境を構築していることを明らかにしました(図1)。本研究の成果は、米国学術誌「Cell Reports」(オンライン版)に2024年1月16日(現地時間)に公開されました。
 なお、本研究の一部は、JST 創発的研究支援事業(FOREST)の研究課題「シングルセル・マルチオミックス解析による線維化シグナルネットワークの全貌解明」(研究代表者:石本崇胤 JPMJFR200H)の一環として行われました。  
また、本研究は以下の研究支援を受けて実施したものです。

●内藤記念科学振興財団
●鈴木謙三記念医科学応用研究財団
●中外創薬科学財団
●新日本先進医療研究財団
●日本医療研究開発機構(AMED)次世代がん医療加速化研究事業(23ama221421)
●日本学術振興会 科学研究費助成事業(21KK0153, 23H02772, 23H02998, 23K08051, 23K08113)

(説明)
[背景]
胃がんは世界におけるがん死亡数の第四位を占めており、極めて予後不良ながんの一つとして知られています。近年、免疫チェックポイント阻害剤などの新しい薬剤が開発、承認され治療の選択肢は増えていますが、腹膜播種を伴う胃がん患者の奏効率は依然として限られたままです。
腹膜播種は、原発臓器である胃から腹腔内へ癌細胞が播種することで起こり、腹膜播種を伴う胃がん患者では頻繁に腹水貯留が認められます。このようながん性腹水中には癌細胞だけでなく様々な種類の細胞が含まれており、細胞間コミュニケーションや細胞からの分泌因子を通じて相互作用し共存していますが、腹水中の細胞の組成や非癌細胞の役割はまだ解明されていませんでした。

[研究の内容と成果]
 腹膜播種を伴う胃がん患者からの腹水サンプルを用いた一細胞レベルでのタンパク解析と遺伝子発現解析の結果、がん性腹水中では癌細胞の割合に伴って中皮細胞の割合が増加し、その中皮細胞の中には間葉系の特徴を有する中皮細胞が含まれていることがわかりました。
 また遺伝子発現解析の結果より、間葉系の特徴を有する中皮細胞は免疫抑制性骨髄系細胞の集積に関わる物質(ケモカイン)を多く産生していることが明らかになり、実際のがん性腹水を用いた細胞分画解析による検証の結果においても、間葉系の特徴を有する中皮細胞の割合と免疫抑制性骨髄系細胞の割合は正の相関を示すことがわかりました(図2)。
 さらに細胞間コミュニケーション解析と動物実験の結果から、間葉系の特徴を有する中皮細胞が、腹膜への癌細胞の接着・コロニー形成に関与する細胞外マトリックスタンパク質、特にテネイシンCの主な供給源であることがわかりました(図3)。

[展開]
 この研究により、間葉系の特徴を有する中皮細胞が腹膜播種においてケモカインを分泌することで免疫抑制性細胞を呼び寄せ、腹膜播種促進性の微小環境を構築する上で重要な役割を果たしていることが示されました。

図1. 中皮細胞により形成されるがん性腹水中の腫瘍微小環境

図2. 間葉系の特徴を有する中皮細胞は免疫抑制性骨髄系細胞の集積に関わる

(左図)
間葉系の特徴を有する中皮細胞は免疫抑制性骨髄系細胞の集積に関わる物質(ケモカイン:CCL2、CXCL1/2/5/8など)を分泌しています。
(右図)
間葉系の特徴を有する中皮細胞の割合と免疫抑制性骨髄系細胞の割合は正の相関を示します。


図3. 間葉系の特徴を有する中皮細胞はテネイシンCを産生し腹膜播種を促進する

(左図)
間葉系の特徴を有する中皮細胞と癌細胞の間ではテネイシンシグナルを介した細胞間コミュニケーションが行われています。
(右図)
テネイシンC欠損マウスでは腹膜播種が抑制されていることから、テネイシンCは腹膜播種を促進させることがわかります。

(用語解説)
※1 中皮細胞(腹膜中皮細胞)
  腹壁や内臓を覆う腹膜の表面に通常一層で存在する細胞のことです。
表面をなめらかに保ち、炎症や外部からの刺激に対し臓器を保護する役割があります。

※2 間葉系の特徴を有する中皮細胞
  成長因子などの刺激により紡錘状の形態へ変化した中皮細胞のことです。通常の中皮細胞と比べ細胞同士の接着が弱く、間葉系細胞マーカーを発現し、腹膜線維症やがん浸潤・転移との関連性が注目されています。

(論文情報)
論文名:Mesothelial cells with mesenchymal features enhance peritoneal dissemination by forming a protumorigenic microenvironment
著者:Atsuko Yonemura, Takashi Semba, Jun Zhang, Yibo Fan, Noriko Yasuda-Yoshihara, Huaitao Wang, Tomoyuki Uchihara, Tadahito Yasuda, Akiho Nishimura, Lingfeng Fu, Xichen Hu, Feng Wei, Fumimasa Kitamura, Takahiko Akiyama, Kohei Yamashita, Kojiro Eto, Shiro Iwagami, Masaaki Iwatsuki, Yuji Miyamoto, Keisuke Matsusaki, Juntaro Yamasaki, Osamu Nagano, Hideyuki Saya, Shumei Song, Patrick Tan, Hideo Baba, Jaffer A Ajani, Takatsugu Ishimoto
掲載誌:Cell Reports
doi:10.1016/j.celrep.2023.113613

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