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分子免疫研究部

最終更新日 : 2026年3月10日

●詳細な研究内容

■はじめに

 免疫チェックポイント阻害剤が画期的な臨床効果を示して以来、その効果予測バイオマーカーの解明や奏効率を大きく引き上げる新規免疫治療法の開発は、がん研究における最重要課題となってきました。私たちは、実際にがん免疫治療を受けた患者さんの腫瘍組織を精密に解析することで、治療効果を左右する分子基盤に迫り、新規治療標的の発見と治療戦略の創出を世界に先駆けて進めてまいります。

■ ドライバー遺伝子異常と免疫逃避の接続点を拓く

 部長の熊谷は、がん細胞のドライバー遺伝子異常が「@ CD8陽性T細胞による免疫監視からの逃避」、「A 制御性T細胞(Treg)を動員した免疫抑制環境の形成」にどのように関わるか、その精緻な分子機構を明らかにしてきました(S. Kumagai et al., Immunity 2020 / Nat Rev Clin Oncol 2024)。

 さらに EGFR など ERBB シグナル異常が細胞増殖のみならず免疫逃避に強く寄与することを示し(S. Kumagai et al., Nat Rev Cancer 2021)、「ドライバー遺伝子異常は発がんと免疫逃避の両輪を駆動する」という新しい視点を提示しました。

その結果、がんにおいてゲノム進化と免疫学的進化が同時に進行し、急速に免疫逃避が成立するという"immuno-genomic cancer evolution"の概念を打ち立て、これを基盤とした"immuno-genomic precision medicine"という新規治療戦略を提案するに至りました(S. Kumagai et al., Sci Immunol 2025)。

  1. S. Kumagai, et al. An Oncogenic Alteration Creates a Microenvironment that Promotes Tumor Progression by Conferring a Metabolic Advantage to Regulatory T Cells. Immunity, 53(1):187-203, 2020.
  2. S. Kumagai, et al. Nishikawa. Antitumour immunity regulated by aberrant ERBB family signalling. Nat Rev Cancer,21:181-197, 2021.
  3. S. Kumagai, et al. Regulatory T cell-mediated immunosuppression orchestrated by cancer: towards an immuno-genomic paradigm for precision medicine. Nat Rev Clin Oncol, 21: 337-353, 2024.
  4. S. Kumagai, et al. Immunogenomic cancer evolution: A framework to understand cancer immunosuppression. Sci Immunol;10(105):eabo5570, 2025.

■ 「ヒト解析 × 遺伝子改変動物 × 分子免疫学」を統合する研究スタイル

 私たちの研究の最大の特徴は、「@ 患者検体にもとづく網羅的かつ高感度な免疫・ゲノム解析」、「A 得られた知見について遺伝子改変動物モデルを用い分子レベルで機能的側面を解明」、「B 新しい治療コンセプトとして昇華」という、学際的で循環型の研究スタイルを徹底している点です。このアプローチにより、部長の熊谷は以下のような臨床と基礎を架橋する重要な成果を上げてきました。

  • Treg に発現する PD-1 が治療効果を規定する重要因子であることを発見(S. Kumagai et al., Nat Immunol 2020)
  • 肝転移では乳酸代謝を利用した Treg 活性化が免疫療法抵抗性の基盤となることを解明(S. Kumagai et al., Cancer Cell 2022)
  • EMT → IL-1β → CTLA4陽性Treg / iCAF / MDSC による新たな免疫抑制軸が放射線併用免疫治療抵抗性を形成することを解明(H. Bando and S. Kumagai et al., Nat Cancer 2025)
  1. S. Kumagai, et al. The PD-1 expression balance between effector and regulatory T cells predicts the clinical efficacy of PD-1 blockade therapies. Nat Immunol, 21: 1346-1358, 2020.
  2. S. Kumagai et al. Lactic acid promotes PD-1 expression in regulatory T cells in highly glycolytic tumor microenvironments. Cancer Cell, 40: 201-218.e9, 2022.
  3. H. Bando#, S. Kumagai # (#contributed equally), et al. Atezolizumab monotherapy following dCRT indicated a promising cCR rate in patients with unresectable locally advanced esophageal squamous cell carcinoma. Nat cancer, 6(3):445-459. 2025.

■ 難治がんへの挑戦

 がん免疫治療は多くのがん種で有効性が確認され、臨床現場に広く浸透してきました。一方で、膵臓がん、原発性脳腫瘍(グリオブラストーマ)、肉腫といった一部のがん種では、依然として十分な治療効果が得られていません。こうした難治がんは、免疫抑制機構の強固さや腫瘍微小環境の特殊性など、未解決の課題が数多く残されています。

 私たちは、これらの難治がんの患者さんから得られる手術・生検検体を詳細に解析し、免疫分子動態の視点から新たな治療標的を同定し、革新的ながん免疫治療シーズを創出することを目指しています。

 これまで私たちの研究は AMED 事業にも採択され、難治がんの克服に向けた基盤的研究を着実に進めてきました。今後も、臨床現場で依然として解決されていない難題に果敢に挑み、未来の治療選択肢を切り拓いていきます。

■ がん発生の謎に迫る

 がんがどのように発生し進展するのか?その本質には、ゲノム進化と免疫学的進化の相互作用が深く関わっています。"immuno-genomic cancer evolution" の概念は、まさにその両者が同時進行でがんを形作っていくことを示すものです(S. Kumagai et al., Sci Immunol 2025)。一方で、依然として説明がつかない「特定集団におけるがん発生の偏り」という謎も残されています。たとえば「@EGFR変異肺がんがアジア人女性に多い理由」、「A高度肥満女性の子どもで発がんリスクが上昇する背景」、「B代謝機能障害関連脂肪肝炎(MAFLD/NASH)患者の一部で、軽症であっても肝がんが生じるメカニズム」など、生活背景・代謝・炎症・免疫が複雑に絡み合った"がん発生の謎"は数多く残されています。

 私たちは、これらの未解決問題に対して、「がん細胞と向き合う免疫細胞の分子動態」という視点からアプローチし、これまで見過ごされてきた発がん過程の本質に迫ろうとしています。がんが「なぜ、誰に、どのように」生じるのか。その問いに真正面から挑むことは、未踏の生命現象の解明につながり、未来のがん予防・治療戦略の創出へと直結します。私たちは、この壮大な課題に挑み続けます。

■ 未踏の生命現象に挑む仲間を募集しています

 世界中でがん免疫研究が発展する中、患者検体の解析を起点とし、遺伝子改変動物の作出、分子メカニズムの解明、そして新規治療戦略の提案までを一貫して行う研究室は多くありません。この“臨床 × 基礎 × 創薬シーズ創出”を縦断的に手がけられる点こそ、私たち分子免疫研究部の大きな強みです。

 高感度免疫解析技術、データ統合解析、新規遺伝子改変マウスモデル、さらにそこから生まれる新しい理論と概念。これらを組み合わせることで、誰もまだ解き明かしていない生命現象を私たち自らの手で明らかにしていきたいと考えています。

 がん免疫の未来を切り拓きたい。

 自分自身の研究で新しい概念や治療戦略を生み出したい。

 そうした情熱と好奇心をもつ大学院生、若い研究者・医師を心より歓迎しています。

 「ここでなら、大きな発見ができる。」

 そう思っていただけた方は、下記までぜひお気軽にお問い合わせください。

公益財団法人 がん研究会 がんプレシジョン医療研究センター 分子免疫研究部
部長 熊谷尚悟

〒135-8550 東京都江東区有明三丁目8番31号
TEL: 03-3570-0455 (直通)/ 03-3520-0111 (内線5343), FAX: 03-3570-0454
E-mail: shogo.kumagai●jfcr.or.jp(●を@に変更してください)