【ニュースリリース】膠芽腫に有効性を示す化合物を探索し、pan-Bcl-2ファミリー阻害剤とERストレス誘導剤の併用効果を確認 〜膠芽腫の新たな治療法開発へと繋がる可能性〜
2025年07月31日
- 膠芽腫細胞に対する化合物の単剤および併用療法スクリーニングを実施したところ、pan-Bcl-2ファミリー阻害剤(Obatoclax)と小胞体ストレス誘導剤との併用により、膠芽腫細胞の生存率が大幅に低下することを特定しました。
- 詳細な作用機序解析の結果、Bcl-2ファミリータンパク質であるMcl-1とBcl-xLの同時抑制が膠芽腫細胞内の保護的オートファジー過程を阻害し、小胞体ストレスを増大させることが、両剤による協調的な細胞死誘導のメカニズムであることを解明しました。
- 現在薬物療法の選択肢が極めて限られている膠芽腫に、新たな治療法開発へと繋がる可能性が期待されます。
2. 研究の概要
膠芽腫(Glioblastoma, GBM)は、原発性脳腫瘍の50%以上を占める、極めて侵襲性が高く治療が困難な腫瘍の一つです。現在の治療法は、外科手術に放射線療法と化学療法を組み合わせた集学的治療法となりますが、膠芽腫の一次治療薬として承認されている薬剤はTemozolomideのみであり、薬物療法の選択肢は極めて限られています。このため、膠芽腫に対する新たな治療標的の探索とそれを標的とした薬剤開発が喫緊の課題となっています。
がん研究会の片山 量平(基礎研究部 部長)、高木 聡(同 主任研究員)、黄 天懿(HUANG Tianyi、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 博士課程大学院生)の研究グループは、膠芽腫細胞に効率的に細胞死を誘導する薬剤を特定することを目的に、独自の阻害剤ライブラリーおよび360種類以上の化合物ライブラリーを活用して、単剤および併用療法スクリーニングを実施しました。その結果、pan-Bcl-2ファミリー阻害剤であるObatoclaxが膠芽腫細胞の増殖を顕著に抑制することが明らかになりました。特に、Bcl-2ファミリーに属する抗アポトーシスタンパク質Mcl-1およびBcl-xLを同時に抑制することで、膠芽腫細胞におけるアポトーシスが大幅に増加することが確認されました。
また、Obatoclaxを小胞体ストレス誘導剤と組み合わせた際に、細胞死の誘導が一層顕著となり、明らかな相乗効果が観察されました。詳細な作用機序解析の結果、ObatoclaxなどによるMcl-1およびBcl-xLの同時抑制が膠芽腫細胞内の細胞保護的なオートファジー過程を阻害し、小胞体ストレスを増大させることが判明しました。これにより、ストレス応答転写因子ATF4の発現が促進され、その下流に位置する細胞死関連遺伝子の発現が誘導されることで、細胞死が顕著に誘導されることを明らかにしました(図1)。
本研究は、膠芽腫治療におけるpan-Bcl-2ファミリー阻害剤およびその併用療法の潜在的な有効性を示すものであり、将来的に新たな治療法開発へと繋がる可能性が期待されます。
図1:本研究のメカニズム概要
3. 論文名、著者および所属
Inhibition of anti-apoptotic Bcl-2 family members promotes synergistic cell death with ER stress inducers by disrupting autophagy in glioblastoma
DOI: https://doi.org/10.1038/s41420-025-02632-4
〇論文名
Cell Death Discovery
〇著者
Tianyi Huang1,2, Satoshi Takagi1*, Sumie Koike1, Ryohei Katayama1,2*
*責任著者
〇所属機関
1.公益財団法人がん研究会 がん化学療法センター 基礎研究部
2.東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻
4. 本研究への支援
本研究は、下記機関・財団より資金的支援等を受けて実施されました。
- 日本医療研究開発機構(AMED)次世代がん医療創生研究開発事業(P-CREATE)「脂質メディエータ受容体を標的とした骨肉腫の増殖・転移を阻害する新治療法の開発」 (研究代表者:高木 聡)JP22cm0106286
- 日本医療研究開発機構(AMED)次世代がん医療加速化研究事業(P-PROMOTE)「LPA受容体を標的とした骨肉腫など希少がんの新規治療法開発」 (研究代表者:高木 聡) JP24ama221220
- 日本医療研究開発機構(AMED)次世代がん医療加速化研究事業(P-PROMOTE)「骨肉腫の増殖と転移を阻害する新規LPAR1アンタゴニストの創製」 (研究代表者:高木 聡) JP25ama221241
- 日本医療研究開発機構(AMED)次世代がん医療加速化研究事業(P-PROMOTE)「細胞運命に着目した薬剤スクリーニングによる骨肉腫治療戦略の開発」(研究代表者:山田 泰広) JP24ama221231
- 日本医療研究開発機構(AMED)次世代がん医療加速化研究事業(P-PROMOTE)「がん臨床検体と革新的3D培養技術を応用した治療抵抗性機構と克服法の探索」(研究代表者:片山 量平)JP24ama221210
- 日本医療研究開発機構(AMED)革新的がん医療実用化研究事業「インターフェロン応答異常によるがん免疫療法耐性機構の解明と新規耐性克服併用療法の開発」(研究代表者:片山 量平)JP24ck0106795
- 日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 挑戦的研究(萌芽)「がん免疫微小環境の新規制御因子である腫瘍内血小板の機能解析」(研究代表者:高木 聡)JP19K22572
- 日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 基盤研究(B)「患者由来検体の性状解析に基づく骨肉腫特異的な脆弱性の基盤解析」(研究代表者:高木 聡)JP23H02754
- 日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 挑戦的研究(開拓)「動くタンパク質構造辞典構築を介した疾患関連分子の新規標的部位探索」(研究代表者:片山 量平)JP22K18383
- 日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 基盤研究(B)「がん薬物療法後の残存腫瘍における生存シグナルとがん免疫微小環境の解析」(研究代表者:片山 量平)JP24K02333
- 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)「グリーントランスフォーメーション(GX)を先導する高度人材育成」(プロジェクト生:黄 天懿) JPMJSP2108
- 公益財団法人三菱財団 自然科学研究助成
- 日本財団助成
■がん研究会について
がん研究会は1908 年に日本初のがん専門機関として発足して以来、100 年以上にわたり日本のがん研究・がん医療において主導的な役割を果たしてきました。基礎的ながん研究を推進する「がん研究所」や、新薬開発やがんゲノム医療研究を推進する「がん化学療法センター」「がんプレシジョン医療研究センター」、さらに新しい医療の創造をする「がん研有明病院」を擁し、一体となってがんの克服を目指しています。
ウェブサイト: https://www.jfcr.or.jp/
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