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【ニュースリリース】光線力学診断や治療に利用されている5-アミノレブリン酸から合成される光感受性物質 プロトポルフィリンIXの細胞外排出に細胞膜タンパク質ダイナミン2が機能していることを発見

2019年06月18日

【概要】
公益財団法人がん研究会がん化学療法センター・分子薬理部(旦慎吾 部長)とSBIファーマ株式会社・研究開発本部・川崎研究所(石塚昌宏 所長)は、同部で樹立したJFCR39がん細胞株パネルを用いて、がんの光線力学診断や治療に利用されている5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid, 5-ALA)から生合成されるプロトポルフィリンIX(PpIX)の細胞外排出に、細胞のエンドサイトーシスとエキソサイトーシスに機能するダイナミン2が重要な役割を果たしていることを発見しました。この結果は、5-ALAを用いる光線力学診断や治療の効率を高める方法としてダイナミン2阻害剤の応用の可能性を示唆しています。
本研究成果はNature誌が発刊するオンラインジャーナルScientific Reportsに、2019年6月17日に公開されました。

【研究の背景と経緯】
5-ALAは、さまざまながんの光線力学診断(ALA-PDD)や治療(ALA-PDT)に利用されています。5-ALAは細胞に投与すると細胞内に取り込まれ、ミトコンドリアでヘムが生合成されます。ところが、増殖の速いがん細胞ではミトコンドリアにおける酸化的リン酸化の効率が悪いため5-ALAから効果的にヘムを生合成することができず、前駆体のプロトポルフィリンIX(PpIX)が細胞内に蓄積されます。PpIXは紫色の光を当てると赤色蛍光を発するため、がん細胞を検出することが可能となります。5-ALAはこれまでに、我が国で悪性神経膠腫と筋層非浸潤性膀胱がんの術中診断薬として承認されています。5-ALAを用いたがんの診断や治療の効率を上げるためには、5-ALAから生合成されるPpIXの細胞内蓄積を高める必要があり、PpIXを細胞外排出する細胞膜トランスポーターの研究が過去20年以上に亘って行われてきました。その結果、主要なABCトランスポーターであり多剤耐性因子MDR2としても知られるABCG2がPpIXの細胞外排出に働く因子として同定され、PpIXの蓄積量を上昇させるための標的分子として注目を浴びてきました。しかし、その特異的阻害剤では細胞外排出を完全に止めることができないことが分かり、排出メカニズムの全貌の解明が望まれています。一方で、ALA-PDDやALA-PDTをさまざまな臓器由来のがんに適用できるか否かも分かっておらず、がん研究における重要な課題となっています。

【成果の要点】
本研究では、がん研究所がん化学療法センターが樹立したJFCR39がん細胞株パネルを用いて、さまざまな由来臓器のがん細胞株における5-ALA を投与した時のPpIXの産生と蓄積について調べるとともに、PpIXの排出に働く細胞膜分子を探索しました。その結果、調べた9臓器由来39細胞株のすべてでPpIXの産生と蓄積、細胞外放出が観察されました。またPpIXの細胞外排出量は、ABCG2の発現量とはよい相関を示しませんでしたが、細胞のエンドサイトーシスとエキソサイトーシスに機能するダイナミン2の発現量とよい相関を認めました。そこで、ダイナミン2のGTPase活性阻害剤を5-ALAと併用することによるPpIXの細胞内蓄積量への影響を調べた結果、顕著な上昇が確認されました。以上のことから、PpIXはABCトランスポーターであるABCG2に加え、ダイナミン2によるエキソサイトーシスにより細胞外に排出されることが示されました。

図1 がん細胞が取り込んだ5-ALAから生合成されるPpIXの細胞外排出のメカニズム

【今後の展開と社会へのインパクトやアピールポイント】
ABCG2やダイナミン2の特異的阻害剤で、安全性の高い医薬品としての化合物が開発されれば、それらを用いることによりがん細胞内でのPpIXの蓄積を高めて、5-ALAを用いた光線力学診断や治療の効率を高めることが可能となり、5-ALAの投与量も減じて、より副作用の少ない安全な診断と治療の開発に繋がることが期待されます。また、本研究成果から、肺がんや胃がん、乳がん、大腸がんなど、あらゆる臓器由来のがんに5-ALAを用いた光線力学診断や治療が応用できる可能性が示されました。

【発表論文】
論文タイトル:Mechanistic study of PpIX accumulation using the JFCR39 cell panel revealed a role for dynamin 2-mediated exocytosis
著者:Yuya Kitajima1, Takuya Ishii1, Takeo Kohda1, Masahiro Ishizuka1, Kanami Yamazaki2, Yumiko Nishimura2, Tohru Tanaka1, Shingo Dan2* and Motowo Nakajima1*
1.SBI Pharmaceuticals Co., Ltd.
2.Division of Molecular Pharmacology, Cancer Chemotherapy Center, Japan Foundation for Cancer Research
*責任著者
雑誌名:Scientific Reports (2019) 9: 8666.
doi:https://doi.org/10.1038/s41598-019-44981-y

【参考文献】
1. Ishizuka, M. et al. Novel development of 5-aminolevurinic acid (ALA) in cancer diagnoses and therapy. Int Immunopharmacol. 11, 358-365 (2011)
2. Inoue, K. et al. Oral 5-aminolevulinic acid mediated photodynamic diagnosis using fluorescence cystoscopy for non-muscle-invasive bladder cancer: A randomized, double-blind, multicentre phase II/III study. Photodiagnosis Photodyn Ther. 12, 193-200 (2015).
3. Hagiya, Y. et al. Pivotal roles of peptide transporter PEPT1 and ATP-binding cassette (ABC) transporter ABCG2 in 5-aminolevulinic acid (ALA)-based photocytotoxicity of gastric cancer cells in vitro. Photodiagnosis Photodyn Ther. 9, 204-214 (2012)
4. Dan, S. et al. An Integrated Database of Chemosensitivity to 55 Anticancer Drugs and Gene Expression Profiles of 39 Human Cancer Cell Lines. Cancer Res. 62, 1139-1147 (2002)
5. Yamori T. Panel of human cancer cell lines provides valuable database for drug discovery and bioinformatics. Cancer Chemother Pharmacol. 52 Suppl 1, S74-79 (2003)

 

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