がん化学療法センター分子薬理部が新しい分子標的薬の開発に貢献!
PI3キナーゼ(PI3K)は、ホスファチジルイノシトールのリン酸化酵素であり、細胞内シグナル伝達に重要な酵素ですが、その異常は発がんやがんの増殖促進の要因となります。したがって、PI3Kはがん治療の有力な分子標的であり、その阻害剤は有望な抗がん分子標的薬となると期待されてきました。このような背景にあって、分子薬理部(矢守隆夫部長)では、世界に先駆けて、抗がん活性を有する新規PI3K阻害物質ZSTK474を全薬工業と共同で見出しました(J Natl Cancer Inst 2006;98(8):545-56)。ZSTK474は、物性が安定、経口投与で有効、かつ毒性が低い、という医薬品候補として優れた長所を持っていました。そこで、分子薬理部では、ZSTK474の特徴を克明に調べ、その分子作用機序、標的特異性、様々ながんモデルでの有効性、血管新生阻害作用などを明らかにしてきました(脚注*)。一方、平行して、全薬工業では臨床試験に進めるために必要な剤型開発、薬物動態研究、GLP試験などを完了しました。そして、FDA(アメリカ食品医薬品局)の審査を経て、ついに、2011年1月より第一相臨床試験が米国において開始されました(下記注目すべき臨床試験参照)。さらに最近、分子薬理部は、(独)放射線医学研究所の岡安隆一博士のグループと共同で、ZSTK474は放射線療法と併用することによって、その治療効果がさらに増強することを明らかにしました(下記注目すべき論文)。これは、ZSTK474の臨床開発を後押しするものと考えられます。今後の臨床試験の結果が注目されます。
注目すべき臨床試験:「がん患者における経口投与ZSTK474の安全性試験」
がん患者を対象とする21日間、経口連続投与におけるZSTK474の安全性試験が実施されています。詳しくは、以下のURL参照
http://www.clinicaltrial.gov/ct2/show/NCT01280487?term=ZSTK474&rcv_d=14
【脚注*】これらの研究は、(独)医薬基盤研究所の保健医療分野における基礎研究推進事業および文部科学省科研費がん特定領域研究で一部サポートされました。詳細は、以下のPDFファイル参照。
PI3キナーゼ(ホスファチジルイノシトール3キナーゼ)を標的とする分子標的薬の創製(4.5MB)