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【ニュースリリース】KRAS 変異大腸がんの分子標的薬への耐性メカニズムの発見〜KRASの局在がKRAS阻害薬感受性に関わることを解明〜
2025年01月10日
1. ポイント
⚫ がん研究会にて樹立した大腸がん患者由来細胞株を用いて、KRAS変異(*1)大腸がんの分子標的薬に対する耐性メカニズムを発見しました。今回の発見により、今後 KRAS 阻害薬を用いた治療法が大腸がんで承認された場合でも、治療初期から十分な治療効果が期待できる患者さんと、そうではない可能性が高い患者さんの層別化に貢献できる可能性が期待されます。
⚫ 詳細な解析の結果、KRAS変異大腸がんはEGFR(*2)の活性化を介したMAPK経路活性化(*5)が生じるタイプとPI3K/AKT経路(*3)活性化を誘導するタイプの2つに分類できることを実験的に示しました。
⚫ KRAS変異の他にHer2増幅を有する稀なKRAS変異陽性大腸がん患者由来細胞株ではHer2増幅(*4)によって PI3K/AKT 経路に依存した増殖・生存をしており、Her2 阻害薬には抵抗性であるがPI3K/mTOR 阻害薬には感受性を示すことが判明しました。
⚫ 上記の患者由来がん細胞株では、本来細胞膜に多く存在するKRASが細胞質に多く局在し、MAPK経路への依存性が低下していることが示唆され、KRAS阻害薬への初期耐性機構としてKRAS局在の関与を示しました。
2. 研究の概要
KRAS 遺伝子変異は膵がんや肺がん、大腸がんなどの様々ながん種においてがん化を誘導するドライバーがん遺伝子として知られており、大腸がん患者では約40%の症例で認められます。このKRAS変異陽性大腸がんの薬物療法として、近年開発されてきたKRAS特異的な分子標的薬 (ソトラシブなど)の臨床応用に向けた研究が盛んに進められています。しかし、大腸がんにおいては KRAS 阻害薬単剤では治療初期から十分な治療効果が得られないことが、KRAS 阻害薬の臨床試験において示され、課題となっています。そのため、大腸がん細胞がどのようなメカニズムで KRAS 阻害薬に最初から抵抗性を示すのかを解明し、克服法を開発することが急務となっています。
がん研究会の片山量平(がん研究会 がん化学療法センター 基礎研究部 部長)、丸山航平(同研究部所属)らの研究グループは、KRAS 変異陽性大腸がん患者の手術検体より独自に樹立したがん細胞株を中心に用いて、KRAS 阻害薬に対する新たな初期耐性機序を発見しました。詳細な解析の結果、患者由来細胞株はKRAS阻害薬の存在下で代償的に活性化するシグナル経路の観点から2つのグループに分類できることを見出しました。また、KRAS変異に加えてHer2増幅も有する稀な症例から樹立された患者由来細胞株では、本来細胞膜に局在するKRASが細胞質に偏って局在することでKRAS阻害薬への初期耐性に関与する可能性を発見しました。
(*1) KRAS遺伝子変異
膵臓がんや肺がん、大腸がんをはじめとする様々ながん種で発がんを誘導するドライバーがん遺伝子とし
て知られています。特に12番目、13番目のアミノ酸が別のアミノ酸に置き換わるミスセンス変異によって活
性化型KRASが蓄積し、恒常的な増殖シグナルが伝達されがん化が誘導されます。
(*2) EGFR (Epidermal growth factor receptor)
上皮増殖因子受容体と呼ばれる細胞表面の受容体型チロシンキナーゼの1つであり、EGFなどのリガンド刺激によって活性化するとKRASなどを経由してMAPK経路やPI3K/AKT経路へとシグナルを伝達し、細胞増殖を促します。KRASやBRAF変異大腸がんでは、RasまたはRAF阻害薬の存在下で活性化が誘導され、再度MAPK経路を活性化させることで薬剤耐性に関与する因子としても知られています。
(*3) PI3K/AKT 経路
PI3K/AKT/mTOR 等のタンパク質が相互作用およびリン酸化をすることで、受容体型チロシンキナーゼや KRAS などからのシグナルが伝達され、細胞の生存やタンパク質合成をはじめとする代謝に深く関与することが知られています。また、この経路の破綻はがん化だけでなく糖尿病をはじめとする様々な疾患にも関連します。
(*4) Her2 (ERBB2)増幅
EGFR と同じファミリータンパク質の一つとして知られており、Her2 の遺伝子変異や遺伝子増幅によって過剰な増殖シグナルが伝達されるとがん化にも寄与することが知られています。
(*5) MAPK経路
受容体型チロシンキナーゼ等からシグナルが伝達されることで活性化される細胞内シグナル経路の1つとして知られています。主に細胞の分化や増殖を正に制御している経路であり、この経路を構成するRAS/RAF/MEK に活性化遺伝子変異が起こると過剰な細胞増殖シグナルが伝達され、がん化が引き起こされます。
関連PDF
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