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【プレスリリース】 細胞分裂の制御酵素 Aurora B の新たな活性化メカニズムを解明 : 新しいがん治療薬の開発に道

2016年03月08日

このたび、がん研究会がん研究所の広田亨実験病理部長、阿部優介客員研究員らの研究グループは、がんの染色体分配異常の原因を発見しました。

細胞増殖のコントロールが効かなくなったがん細胞の多くは、細胞分裂に伴う染色体の分配に失敗する「染色体不安定性」と呼ばれる細胞病態に陥っています。その結果、がんにはさまざまに染色体の異常をもった細胞が増えてしまい、そのことががんの治療を難しくしていることが分かってきました。こうしたがんを構成する細胞の多様化は、進行したがんの共通した特徴であることから、染色体不安定性に目をつけた抗がん治療が実現すれば、広く進行がんに奏効する薬ができるのではないかと期待されています。しかし、どの分子にどのような異常が生じて染色体不安定性にいたるのか、その病理機構の理解は乏しく、有効な分子標的薬を作る手立てがありませんでした。

【詳細】

今回私たちは、がん細胞の染色体不安定性の原因を分子レベルで説明するうえで重要な手掛かりを得ることに成功しました。染色体を過不足なく分配するためには、染色体を分ける微小管と正確に結合することが必要で、それはAurora Bというリン酸化酵素のはたらきによってなされていることが知られています(図)。私たちは、このAurora Bが適正にはたらくためにはHP1という分子の補助が不可欠であること、即ち、HP1Aurora Bのアロステリックな活性化因子であることを見つけました1)。これは換言すれば、HP1が不足するとAurora Bの機能が低下し、微小管の接続エラーが生じて染色体の分配を失敗するようになることを意味します。特記すべきことに、いろいろな臓器由来のがん細胞を調べてみたところ、Aurora Bに結合するHP1の量がいずれの細胞でも著しく減少していることを突き止めました1)。つまりそれ故に、がん細胞ではAurora Bのはたらきが弱まり、染色体不安定性を示すに至っていることが判明しました。

増殖性の指標となる細胞の分裂をターゲットとする治療法はこれまで有望視されてきました。しかし、細胞分裂機構の破壊は、正常細胞にもダメージを与えてしまうというジレンマがあり、そこにどうやって風穴を開けるのかが大きな課題でした。今回、HP1のアロステリック効果を糸口として見出されたがん細胞におけるAurora Bの脆弱性をうまく利用することができれば、がんの細胞分裂を選択的に標的とする革新的ながん医療の開発に繋がると考えています。

1)      Abe, Y., Sako, K., Takagaki, K., Hirayama, Y., Uchida, KSK., Herman, J., DeLuca, JG., and Hirota, T. HP1-assisted Aurora B kinase activity prevents chromosome segregation errors. Developmental Cell (2016) In-press

 

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