メッセージ
研究所長メッセージ
研究所長 広田亨
この度、がん研究所の所長を拝命いたしました。前所長の野田哲生先生は、厳しくも温かく思いやりのあるリーダーシップを発揮され、「研究」と「ひと」を第一にした指導によって研究所は大きな発展を遂げました。これを引き継いで、さらなる飛躍を期して次の時代を切り拓く挑戦をすることが後継者の使命と捉えています。医療変革を起こすブレークスルーの多くは基礎研究から生まれるものであり、これをがん研で実現していくことが研究所の役割と肝に銘じ、一層の精進を重ねて参ります。
私は、がん研が有明に移転した2005年にがん研究所実験病理部に着任し、染色体の研究に一貫して取り組んできました。この間に科学研究の様相は、解析技術の進歩に伴って急速に変化し、論文に求められるデータの質も量も、私の学生時代とは隔世の感があります。また、多彩な解析を組み合わせる研究スタイルが標準的となり、異なる専門性といかに連携するかが肝要となりました。がんの基礎的研究から実用のための応用研究まで、多くの先進的技術を備えたがん研では、専門性を超えた連携をしていくのに優れた環境が整っています。この体制は何としても維持・更新していかなければなりません。
連携によって大きな成果を狙うには、個々の研究チームの強化が先ずは重要です。国際的な優位性と競争力を持つチーム間の掛け算であってこそ、大きな力が生み出されますが、その立役者は、言うまでもなく、研究室のメンバー、私たちひとりひとりです。そして、革新的な成果は、若い研究者の情熱と指導者の経験の両者が重なったときに生まれるものではないでしょうか。さまざまなキャリアの研究者が同じステージに立ち、サイエンスを論じ、一緒に夢をみて汗を流す。こうした地道な過程を通じて、ひとが育ち、内なるポテンシャルが引き出されて、真にチームを強くしていくと思うのです。
そこに必ず泉あり ―― 研究の真髄にも迫る哲学者ニーチェのことばです。ものごとの流れが早く、膨大な情報が散乱し、多様な視点が交錯する複雑な時代に身を置く私たちが、方向を見失うことなくしっかりと歩んでいくためには、それぞれが立つところを「だれよりも深く考え抜き、真実の探究にどこまでもこだわる」ことが、ことさら重要だと思います。こうした研究者精神を、皆さんと一緒に育んでいくとともに、「がん研発の知の創出」のために全力を尽くしていく所存です。どうぞよろしくお願いいたします。