注目の論文

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注目の論文

最終更新日 : 2016年06月14日

白血病細胞の骨髄への定着に必要な新たな遺伝子Sytl1を発見

このたび、がん研究所 発がん研究部 横山隆志 研究員と、中村卓郎 部長、および東京大学先端科学技術センターなどの研究グループが、従来不明であった白血病細胞の骨髄ニッチへの定着を司る遺伝子Sytl1の同定に成功し、Sytl1による白血病細胞と骨髄感質細胞との相互作用の仕組みを明らかにしました。

白血病細胞は、体の中で骨髄ニッチと呼ばれる微小環境に生存し、それによって正常の造血を妨げ、また治療への抵抗力を増すことが知られています。白血病細胞の骨髄ニッチへの定着を促進する転写因子Meis1の標的遺伝子を探索することでSytl1を見出し、Sytl1がサイトカイン受容体の輸送を促進して、細胞間の情報伝達を亢進させていることが分かりました。Sytl1を介した白血病と骨髄ニッチの相互作用は全く新しい分子機構で、今後Sytl1を標的とした治療薬の開発に繋がることが期待されます。

【詳細】

今回私たちは、白血病原因遺伝子Meis1の役割に着目しました。Meis1は、白血病の発症においてHoxa9と協調作用を示します。Hoxa9遺伝子は、造血細胞に対して強力な発がん作用を持っていて、強発現により造血幹細胞や前駆細胞を不死化させることが出来ますが、Meis1との協調作用がないと生体内で白血病を発症させることは出来ません。私たちは、Meis1が白血病細胞の骨髄ニッチへの定着に必要であり、さらに間質細胞と白血病細胞との相互作用を促進していること、またMeis1が存在すると白血病細胞のサイトカイン刺激下での遊走能が亢進することを示しました。

次に、ChIP-Seq解析や遺伝子発現プロファイルを利用して、Meis1の機能を担う標的遺伝子の同定を試みたところ、Sytl1遺伝子が白血病細胞の骨髄ニッチへの定着を司り、Meis1同様にHoxa9と協調して白血病発症を促進することがわかりました。Sytl1 (Synaptotagmin-like 1)蛋白は、細胞内小胞の膜への輸送を促進する機能を発揮します。小胞内にはサイトカイン受容体も含まれ、その膜輸送がSytl1によって促進されると、白血病細胞のシグナル獲得と間質細胞との相互作用に有利に働くことが考えられます。事実、Sytl1の発現増加によって、CXCL12の受容体CXCR4の膜輸送が亢進していることや、CXCL12刺激による細胞運動の促進が証明されました。CXCL12は、骨髄のCAR細胞から分泌され、骨髄ニッチにおける重要なシグナル分子と考えられています。

このようなSytl1の役割は、マウスだけではなくヒト白血病細胞を用いた実験でも検証されました。また、ヒトAML526症例の遺伝子発現解析データから、Sytl1の発現上昇がHoxa9やMeis1の発現上昇やNPM1変異と相関することが示されました。今後、Sytl1及びそのシグナル経路を標的とした新たながん治療法の開発に繋がることが期待されます。

  1. Yokoyama, T., Nakatake, M., Kuwata, T., Couzinet, A., Goitsuka, R., Tsutsumi, S., Aburatani, H., Valk, P. J. M., Delwel, R., and Nakamura, T. MEIS1-mediated transactivation of synaptotagmin like 1 promotes CXCL12/CXCR4 signaling and leukemogenesis. Journal of Clinical Investigation (2016) in press

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