注目の論文

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注目の論文

最終更新日 : 2016年9月21日

染色体構築因子であるCondensin Iの新たな制御メカニズムを解明
:2つのATPaseが織りなす染色体凝縮

このたび がん研究会がん研究所 実験病理部 橋 元子博士研究員と、広田 亨部長らの研究グループは染色体構築因子であるCondensin Iの新たな制御メカニズムを解明しました。

細胞は分裂する際、全長2mにも及ぶDNAを絡まりや損傷から守りながら高度に凝縮させた染色体を形成し、それを分けることで安定してゲノム情報を継承します。この染色体凝縮に関わる主要な因子がコンデンシン複合体です。コンデンシンは、ATPの加水分解酵素(ATPase)を有する5つのタンパク質から成るリング状の複合体で、そのリング内にDNAを通すことが知られています。一方で、コンデンシン・リングがDNAを捕捉した後、どのようにしてDNAを折りたたむのか、そのメカニズムはまだよく分かっていません。今回私たちは、コンデンシン複合体とともに染色体の「軸」に局在するKIF4Aというモーター分子に着目しました。

【詳細】

KIF4AもATPase活性をもつ微小管上を走るキネシンと呼ばれるモーターの一種で、細胞内ではそのtail domainにさまざまな蛋白を乗せて輸送にあたっています。興味深いことに、KIF4Aは、コンデンシンI (ヒトではIとIIがある)と分裂期に特異的に結合することを見いだしました。結合部位の詳細を生化学的に調べたところ、コンデンシンIのCAP-GサブユニットとKIF4Aのtail domainとが結合すること、特にtail domainの1214番目のロイシンが結合に必要であることを見いだしました。これを基にコンデンシンIと結合しないKIF4A変異体を作り、この非結合型変異体を発現する細胞を観察したところ、染色体軸の部分に集積するはずのコンデンシンIが、染色体上に広く拡散した状態となり(図)、コンデンシンIが本来の機能を発揮できずに、微小管が結合するセントロメアが構造的に脆弱になることが分かりました。さらにコンデンシンIとKIF4Aが結合できても、KIF4Aのモーター活性を阻害することでコンデンシンIが染色体軸に局在できなくなることも判明しました。KIF4Aは細胞内で二量体を形成することから、2つのコンデンシンをたぐり寄せることができると予測されます。つまり、染色体凝縮ではDNAをリング内に捕捉したコンデンシン2分子がKIF4A1分子と結合することでDNAがループ状に折り畳まれ、さらにKIF4Aのモーター活性によりコンデンシンIが染色体軸に運ばれるというモデルが導き出されました(図)。今回の一連の発見によって、モーター分子が機動力となって染色体凝縮が進むという、これまでに知られていないメカニズムの存在が示唆されます。

1) Takahashi, M., Wakai, T. and Hirota, T. Condensin I-mediated mitotic chromosome assembly requires association with chromokinesin KIF4A. Genes & Development (2016) In-press

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