部門紹介

印刷

基礎研究部の目標

最終更新日 : 2022年4月4日

がんの分子標的薬創製を目指した基礎研究
〜がん臨床検体から学び、臨床への還元を目指す〜

がんの治療法の進歩に伴い、これまで主流だった手術療法、放射線療法、細胞障害性の化学療法に加え、分子標的薬や免疫療法など様々な治療が用いられるようになり、これまで極めて予後不良であった進行がんの生存期間が、著しく改善しつつあります。

がんが発生した部位である原発巣に留まっている場合には、外科手術あるいは放射線療法での治療が可能です。しかし、がんには転移能と呼ばれる非常に厄介な性質があり、こうした新たな転移巣全てに対して外科手術あるいは放射線治療を施すことは不可能なため、外科手術あるいは放射線だけでのがんの根治を困難にしています。こうした転移がんの治療には主に薬物療法が用いられます。さらに、がんの薬物療法は、外科手術や放射線療法後に残存している可能性がある目視や画像診断装置で検出しきれないがんを根絶して再発を防ぐための補助療法(アジュバント療法と呼ばれる)としておこなわれたり、外科手術の前にがんを小さくすることで機能温存したり、より外科療法の効果を高めて再発のリスクを低減するなどの目的で用いられること(ネオアジュバント療法と呼ばれる)もあります。

この薬物療法には、従来から幅広く用いられてきた殺細胞性の化学療法剤(抗がん剤)、に加えて、近年目覚ましい発展を遂げている、がん分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などがあります。殺細胞性の抗がん剤は、がんの無秩序な増殖能を抑えることを目標として作られてきました。そのために、これまでの抗がん剤は強い抗腫瘍効果を示す一方でがん細胞に対する特異性が低く、増殖期にある正常細胞をも障害してしまう危険性(副作用)を回避することが困難でした。そこで、複数の抗がん剤を併用する多剤併用療法により、副作用の出方を抑えてより高い腫瘍縮小効果を得るための試みも多数なされてきています。

また、近年のがんの基礎研究の発展に伴い、がん細胞の特徴・特性を規定する分子機構が明らかにされ、それらの機構に関与する標的分子やパスウェイを同定し、その機能を制御することによってがんの根治に結びつけようとする分子標的治療の研究が盛んに行われてきました。その研究成果により、グリベック®、イレッサ®をはじめとして、多くの分子標的治療薬が開発され、その一部は対応する分子標的を有するがんに対しての治療薬として承認され、実臨床においても高い治療効果を示しています。この分子標的治療薬は、効果が認められる患者さんとそうでない患者さんを、遺伝子検査などにより、あらかじめ選択することで患者さん個人ごとに最適な治療法を選択することが可能となってきています。しかし、がん分子標的薬により、どれほど高い治療効果が得られた場合でも、多くのケースで1年から数年すると、がんが薬剤に対する耐性を獲得し再発してしまうことが大きな問題となっており、耐性のメカニズムを明らかにし、耐性を克服できる治療薬や治療方法の開発が盛んに進められています。

さらに近年では、免疫チェックポイント阻害薬を中心に、がん免疫療法も様々ながん腫において期待されており、一部の薬剤は承認されています。現時点ではどのような患者さんに高い治療効果が得られるのか(バイオマーカー)についてまだ十分に明らかになっていませんが、一定の割合で高い治療効果(比較的長期間の腫瘍増殖抑制効果)が認められており、今後バイオマーカーとなりうる因子の発見に加え、より効果的ながん免疫療法の発展のための基礎研究が重要です。

がん化学療法センター基礎研究部では、がんの分子標的治療薬開発の際に標的となりうる新規分子の同定を目指して、がんの基礎研究・新しい抗がん剤の開発研究を行なっています。近年のがん分子生物学の進歩にともない、私たちの研究対象もがん分子標的薬への耐性・がん転移・がん幹細胞、さらにはがん免疫療法における感受性・抵抗性規定因子の同定へと多岐にわたっており、さらにがん研究会有明病院との緊密な連携の下、倫理審査委員会での承認の下で、同意を頂いた患者様からの臨床検体を用いた研究を進めています。最新の分子生物学および薬理学的手法を用い、がん治療成績向上・がん転移阻止のための分子標的研究・臨床応用に向けた基礎研究にも力を注いでいきます。

このページのTOPへ