【プレスリリース】血小板はキラーT細胞のがん殺傷能を減弱させる 〜止血にとどまらない血小板の新たな機能を解明〜
2026年10月08日
1.本研究のポイント
●本研究では、活性化血小板がキラーT細胞(CD8+T細胞)のがん細胞殺傷能を抑制する機構の一端を明らかにし、血小板とCD8+T細胞の相互作用を標的とすることで、既存のがん免疫療法の効果向上につながる可能性を示しました。
●マウス腫瘍を用いた動物実験やヒトがん細胞とヒトCD8+T細胞の共培養系を用いた解析により、活性化状態の血小板がCD8+T細胞に結合することを見出しました。
●また、この結合には、血小板が活性化した時に細胞表面に発現するPセレクチン(CD62P)と、CD8+T細胞に発現するPSGL-1が関与することを明らかにしました。
●さらに、CD62PまたはPSGL-1を中和抗体でブロックすると、血小板とCD8+T細胞の結合が減少するとともに、血小板存在下で抑制されていたCD8+T細胞のがん殺傷効果も回復することを示しました。
2.概要
血小板は、止血において重要な役割を果たす無核の血液細胞です。一方で、腫瘍組織に浸潤した血小板は、がん細胞や周辺の細胞と相互作用することで、がんの進展、さらには予後不良とも相関することが明らかになっています。また、腫瘍組織では、免疫細胞の中でもキラーT細胞(CD8+T細胞)が、がん細胞の殺傷・排除において中心的に働きますが、がん細胞を取り巻く多様な細胞や因子は、その機能に大きく影響することが知られています。そこで本研究では、血小板がCD8+T細胞の抗腫瘍免疫に与える影響を解析しました。
まず、マウスのがん細胞を移植した同系マウスを用いた実験において、活性化血小板がCD8+T細胞と結合することで、CD8+T細胞の活性化および抗腫瘍効果を抑制する可能性を見出しました。
そこで、ヒトがん細胞とヒトCD8+T細胞の共培養系を用いて詳細な解析を行ったところ、血小板の添加によりCD8+T細胞のがん殺傷能およびIFN-γ産生量が低下することを確認しました。また、共培養系においても活性化血小板がCD8+T細胞に直接結合し、この結合には血小板上のCD62PとCD8+T細胞上のPSGL-1が関与することを明らかにしました。さらに、中和抗体を用いてCD62PまたはPSGL-1を阻害すると、血小板とCD8+T細胞の結合が減少するとともに、血小板によって抑制されていたCD8+T細胞のがん殺傷効果が回復しました。
これらの結果から、活性化血小板はCD62P-PSGL-1を介してCD8+T細胞に結合し、その殺傷効果を抑制することが示唆されました。
本研究は、血小板とCD8+T細胞の直接的な相互作用が、がん免疫応答を制御する機序であることを示すとともに、これを標的とした治療戦略が既存のがん免疫療法の効果を高めることにつながる可能性を示しています。
3.論文名、著者およびその所属
○論文タイトル:P-Selectin on activated platelets inhibits the anti-tumor activity of CD8+ T cells through PSGL-1 binding
○著者
Sae Nishiguchi1,2, Masaru Yokomura1,3, Yuki Gomibuchi4, Seiji Nagano5,6, Takuo Yasunaga4, Yoshihiko Hirohashi7, Hiroshi Kawamoto5,8, Satoshi Takagi1, and Ryohei Katayama1,2,*
○著者の所属機関
1 Div of Experimental Chemotherapy, Cancer Chemotherapy Centre, Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, 135-8550, Japan.
2 Department of Computational Biology and Medical Science, Graduate School of Frontier Science, The University of Tokyo, Tokyo 108-8639, Japan.
3 Department of Head and Neck Surgery, Institute of Science Tokyo, Tokyo JAPAN
4 Department of Physics and Information Technology, Faculty of Computer Science and Systems Engineering, Kyushu Institute of Technology, Fukuoka, Japan
5 Laboratory of Immunology, Institute for Life and Medical Sciences, Kyoto University, Kyoto, JAPAN
6 Department of Hematology, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Kyoto, JAPAN
7 Department of Pathology, Sapporo Medical University, School of Medicine, Sapporo, JAPAN
8 Laboratory of Regenerative Immunology, International Center for Cell and Gene Therapy, Fujita Health University, Aichi, JAPAN
*責任著者
掲載誌:Cancer Immunology, Immunotherapy
4.詳細な内容
1.マウスモデルを用いた血小板とCD8+T細胞の抗腫瘍免疫との関連性の評価
我々はまず、血小板がCD8+T細胞の抗腫瘍効果に影響するかを評価しました。マウス腫瘍細胞を同系統のマウスに移植した後、血小板の活性化を阻害する抗血小板薬と、免疫チェックポイント阻害剤(ICI):抗PD-L1抗体を併用投与しました。その結果、併用療法により腫瘍体積の増大が著しく抑制され、腫瘍内の活性化CD8+T細胞数が増加することを示しました。また、腫瘍内CD8+T細胞の一部では、活性化血小板の結合が認められましたが、抗血小板薬とICIを併用投与したマウスの腫瘍内では、血小板とCD8+T細胞の結合が減少傾向でした。このことから、活性化した血小板がCD8+T細胞に結合することで、CD8+T細胞の活性化や抗腫瘍効果を抑制する可能性が示唆されました。

図1. マウス腫瘍における抗血小板薬と免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の治療効果
2.ヒト細胞共培養系を用いたCD8+T細胞のがん殺傷効果の評価
上記の可能性をより詳細に検討するため、ヒトがん細胞株とiPS細胞から誘導したヒトCD8+T細胞の共培養系を用いました。このCD8+T細胞は、がん細胞上に提示された標的抗原(WT1)を認識し、抗原特異的にがん細胞を殺傷します。まず、用いた共培養系において、CD8+T細胞がWT1に依存してがん細胞を殺傷するかを確認しました。WT1の添加の有無やWT1以外の抗原を添加した条件で比較したところ、WT1が存在する場合にのみがん細胞の殺傷を認め、抗原特異的な殺細胞効果であることが確認されました。
3.CD8+T細胞のがん殺傷能に対する血小板の影響の評価
次に、血小板がCD8+T細胞のがん殺傷能に影響するかを評価しました。ヒト末梢血より単離した血小板を、上述の共培養系に添加したところ、生き残るがん細胞の割合が増加しました。また、CD8+T細胞が活性化に伴って放出するIFN-γ量を定量したところ、血小板の添加によりIFN-γ量は減少しました。したがって、血小板はCD8+T細胞の活性化を抑制し、がん細胞に対する殺傷効果を抑制することが示されました。
4.ヒト共培養系における血小板とCD8+T細胞の結合の評価
次に、この共培養系において、血小板がCD8+T細胞と結合するかを評価しました。蛍光免疫染色や電子顕微鏡観察、およびフローサイトメトリーを用いた解析を行った結果、血小板がCD8+T細胞に直接結合していることが確認されました。さらに、結合していた血小板の多くは、活性化マーカーであるCD62Pを細胞表面に発現していることが明らかになりました。このことから、活性化状態の血小板がCD8+T細胞と直接インタラクションしている可能性が示唆されました。

図2. 電子顕微鏡(左)と蛍光免疫染色(右)により観察されたCD8⁺T細胞と血小板の結合像
5.血小板とCD8+T細胞の結合に関わる分子の評価
活性化血小板がCD8+T細胞に結合していたことから、この結合には、血小板が活性化した際に細胞表面に発現するCD62Pと、その結合分子の1つとして知られるCD8+T細胞上のPSGL-1が関与しているのではないかと推測しました。そこで、CD62PまたはPSGL-1に対する中和抗体を用いて、それぞれの分子を阻害しました。その結果、血小板と結合するCD8+T細胞の割合は顕著に減少しました。さらに、中和抗体で血小板の結合を阻害した条件では、血小板によって抑制されていたCD8+T細胞のがん細胞殺傷効果が回復しました。これらの結果から、血小板はCD62P-PSGL-1経路を介してCD8+T細胞に結合し、その抗腫瘍効果を抑制することが示唆されました。
6. 結論
本研究は、活性化した血小板がCD62P-PSGL-1を介してCD8+T細胞に結合し、T細胞のがん殺傷効果を抑制することを見出しました。このような血小板とCD8+T細胞の直接的な相互作用を標的とすることで、現存の免疫療法の効果増強や治療抵抗性の克服を狙った新たな治療法の開発へと繋がる可能性が期待されます。

図3. 本研究の概念図。活性化血小板はCD62P-PSGL-1を介してCD8⁺T細胞に結合し、CD8⁺T細胞の活性化およびがん細胞殺傷効果を抑制する。中和抗体でCD62PまたはPSGL-1を阻害すると、血小板とCD8⁺T細胞の結合が減少し、その殺傷効果は回復する。
5.本研究への支援 本研究は以下の支援を受けて実施されました。
〇日本学術振興会 科学研究費助成事業
基盤研究(B)(24K02333、研究代表者:片山量平)
挑戦的研究(開拓)(22K187383、研究代表者:片山量平)
〇JST次世代研究者挑戦的研究プログラム (JPMJSP2108、研究代表者:西口紗英)
〇国立研究開発法人日本医療研究開発機構;次世代がん医療加速化研究事業 (研究課題「難治性がん治療のための3次元積層共培養システムの臨床応用と生体適合性高分子抗がん剤の開発」、研究開発代表者:片山量平);革新的がん医療実用化研究事業「インターフェロン応答異常によるがん免疫療法耐性機構の解明と新規耐性克服併用療法の開発」、研究開発代表者:片山量平)
〇日本財団助成(研究課題「腫瘍細胞社会の構築機構解明と新世代がん治療薬の開発」、研究分担者:片山量平)
6.がん研究会について
がん研究会は1908年に日本初のがん専門機関として発足して以来、100年以上にわたり日本のがん研究・がん医療において主導的な役割を果たしてきました。基礎的ながん研究を推進する「がん研究所」や、新薬開発やがんゲノム医療研究を推進する「がん化学療法センター」「がんプレシジョン医療研究センター」、さらに新しい医療の創造をする「がん研有明病院」を擁し、一体となってがんの克服を目指しています。
ウェブサイト:https://www.jfcr.or.jp/
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