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【プレスリリース】大豆グリセオリン I が再発乳がんモデル細胞の増殖を抑える −エストロゲン療法に関わる新たなメカニズムを解明−

2018年10月12日

【ポイント】
●ポイント1: 内分泌療法※1 抵抗性を獲得した再発乳がんは、治療困難となることが問題ですが、大量のエストロゲンの投与により寛解することがあります。
●ポイント2: 大豆から抽出・精製したグリセオリン I が、エレノア RNA※2、ESR1※3の転写を阻害し、再発乳がんモデル細胞の増殖を抑制しました。
●ポイント3: グリセオリン I の作用機序はエストロゲンやレスベラトロール※4と異なり、エストロゲン受容体を介さずに細胞死(アポトーシス)を誘導する新規な機序で、新たな乳がん治療薬の開発につながる可能性を示しました。

※1: 乳がんの増殖に必要な女性ホルモン、エストロゲンの作用を抑制する薬剤による治療。
※2: 再発乳がんで高発現するノンコーディング RNA。細胞核内で遺伝子を活性化する。
※3: エストロゲンと結合して活性化するエストロゲン受容体をコードする遺伝子。
※4: ポリフェノールの一種でエストロゲンと類似構造を持ちエストロゲン様の働きをする。

公益財団法人がん研究会(理事長:馬田一、所在地:東京都江東区)の斉藤典子(がん研究所 がん生物部/熊本大学)らの研究グループは、国立大学法人熊本大学(学長:原田 信志、所在地:熊本市)、国立大学法人九州大学(総長:久保 千春、所在地:福岡市)、大豆エナジー株式会社(代表取締役社長:井出 剛、所在地:熊本市)らとの共同研究で、大豆から得られたフィトアレキシンの1種であるグリセオリン I という天然小分子化合物が、治療抵抗性となった再発乳がんを模した培養細胞の細胞死を誘導し、増殖をおさえる生理活性を持つ機序を明らかにしました。その機序として、グリセオリン I は、エレノアとよばれる RNA 分子、およびエストロゲン受容体の遺伝子の働きを抑制しました。本研究者らは、女性ホルモンのエストロゲンや、ポリフェノールの一種のレスベラトロールにも同様の生理活性のあることをすでに見出しておりますが、グリセオリン I はそれらと異なるメカニズムで作用することから、グリセオリン I の作用機序が再発乳がんの新たな治療薬の開発につながる可能性を示しました。
本研究成果は、Scientific Reports 誌に英国時間 平成 30 年 10 月 12 日 10:00 (日本時間 10月12日 18:00)に掲載されます。

【内容】
乳がんは女性の罹患率が第一位のがんで、日本人女性の約11人に1人がかかり、近年患者数は上昇傾向にあります。乳がんの約 60〜70%は、女性ホルモンであるエストロゲンと結合して細胞増殖に働くエストロゲン受容体(ER)を生産(発現)しています。そのため、エストロゲンの作用を抑える内分泌療法が効果的です。しかし、一部の乳がんでは抵抗性を獲得し、治療が効かなくなり再発することが問題になっています。
2015 年に斉藤らは、内分泌療法抵抗性の乳がんモデル培養細胞(抵抗性乳がん細胞)で、ノンコーディング RNA であるエレノア(Eleanors; ESR1 locus enhancing and activatingnon-coding RNAs) を発見し、このエレノアが抵抗性乳がん細胞で、ER をコードする ESR1遺伝子を過剰に活性化し、細胞増殖に関わることを見出しました(Nature Communications,2015.04.29)。また、抵抗性乳がん細胞に、エストロゲンとよく似たレスベラトロールを投与すると、ER を介してエレノアと ESR1 の働きが抑えられ、抵抗性乳がん細胞が増殖しにくくなることも見出しました。これは、治療抵抗性再発乳がんにエストロゲンを投与することで寛解するエストロゲン療法を、細胞実験で反映した結果と見ることができます。ただしまだ不明なことが多く、再発乳がん治療法の改良のためには詳細な仕組みを理解することが重要です。
そこで今回、山本らは、レスベラトロールのような効果を持つ天然化合物がないか、大豆に着目して研究を進めました。 大量の大豆を多様な植物生理活性物質(フィトアレキシン)を誘導するようにストレス刺激処理してからすり潰し、抽出液を分画して抵抗性乳がん細胞に加えたところ、一部の画分の添加によって、エレノアと ESR1 の転写が抑制され、細胞の増殖が抑えられました。この画分を、NMR(核磁気共鳴分光法)と TOF-MS(質量分析法)により解析したところ、大豆の二次代謝物質であるグリセオリン I が活性成分であることがわかりました。グリセオリン I は、レスベラトロールよりも効果的に治療抵抗性乳がん細胞の増殖を抑え、また、正常線維芽細胞よりも強く抵抗性乳がん細胞の増殖を阻害し、細胞死(アポトーシス)を誘導しました。
一方で、グリセオリン I は、エストロゲンやレスベラトロールと異なり ER を介さずにエレノ3アを阻害することを見出しました。構造解析を進めたところ、グリセオリン I は ER のアミノ酸(404 番目のフェニルアラニン残基)に立体障害を起こすことが示唆されました。
これらの結果から、グリセオリン I が有する治療抵抗性乳がん細胞の増殖抑制作用は新しい機序であること、また、ポリフェノールが細胞死を誘導する際には ER の介在と非介在の様式があること、さらに、抵抗性乳がん細胞は適切なポリフェノール処理が引き金となって細胞死が誘導される脆弱な性質があることが示されました。この新たに見出されたグリセオリン I の作用機序が、内分泌療法抵抗性乳がんの新たな治療薬を開発する契機につながることが期待されます。
なお、本研究は、高濃度(50μM)のグリセオリン I を培養乳がん細胞に暴露させて作用機序を調べた基礎研究であり、グリセオリン I が抗がん剤となることや、大豆を食べることで再発乳がん治療につながることを直接的に示すものではありません。

<論文名、掲載誌、著者およびその所属等>
○論文名
Endocrine therapy-resistant breast cancer model cells are inhibited by soybean glyceollin I through Eleanor non-coding RNA
○掲載誌
Scientific Report 2018 Oct 12 doi: 10.1038/s41598-018-33227-y
○著者
Tatsuro Yamamoto1, 2, 6, Chiyomi Sakamoto1, Hiroaki Tachiwana2, Mitsuru Kumabe1, Toshiro Matsui3, Tadatoshi Yamashita4, Masatoshi Shinagawa5, Koji Ochiai5, Noriko Saitoh1,2, and Mitsuyoshi Nakao1

○著者の所属機関
1 国立大学法人熊本大学発生医学研究所
2 公益財団法人がん研究会がん研究所
3 国立大学法人九州大学大学院農学研究院
4 株式会社常磐植物化学研究所
5 株式会社果実堂/大豆エナジー株式会社
6 国立大学法人熊本大学大学院生命科学研究部

〇本研究の助成金
1. 文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究「遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル」
2. 経済産業省中小企業庁戦略的基盤技術高度化支援事業
3. 科学研究費補助金基盤研究(B)、挑戦的研究(萌芽)
4. アステラス病態代謝研究会研究助成金
5. 上原記念生命科学財団研究助成金
6. 三菱財団研究助成金

【本研究の説明図】

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