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【プレスリリース】PI3キナーゼ阻害剤ZSTK474が希少がんである特定の肉腫に奏効することを発見

2018年10月26日

【概要】
公益財団法人がん研究会がん化学療法センター・分子薬理部(旦慎吾部長)は、以前同部で見出した新規PI3キナーゼ阻害剤ZSTK474が、希少がんである肉腫の特定のサブタイプに著効を示すことを試験管内実験、動物実験により明らかにし、米国のがん研究専門誌Oncotargetの2018年10月12日号に発表しました。本研究成果により、治療選択肢の少なかった肉腫の治療薬として、本剤の臨床開発が加速化されることが期待されます。

【研究の背景と経緯】
・ZSTK474は、全薬工業株式会社で合成され、当会において がんの増殖・生存に中心的な役割を果たす細胞内シグナル伝達因子であるホスファチジルイノシトール-3キナーゼ(PI3キナーゼ、PI3K)の強力な阻害物質であることが見出された抗がん物質です(1)。
・本剤はこれまでに、新規抗がん剤として日米で第1相臨床試験が行われていますが、米国で行われた臨床試験に参加した4名の肉腫患者のうち3名で長期の病勢安定が得られたことから、肉腫への効果が注目されていました(2)。
・肉腫は、骨や軟部組織から発生する非上皮性のがんで、上皮性のがんである癌腫(肺がん、胃がん、大腸がんなど)に比べて発生頻度が断然低いことから、“希少がん”に分類されます。また肉腫は、50種類以上のサブタイプに細分化され、それぞれの発生頻度はさらに低いことから、癌腫と比較して肉腫に適応を有する抗がん剤の種類は少なく、新薬の開発や、既存抗がん剤の肉腫への適応拡大もあまり進んでいません。
・肉腫の治療は手術が中心となりますが、放射線療法、抗がん剤治療も併用されます。しかしながら、症例数の少ない肉腫サブタイプについては未だ標準治療法も確立していません。再発・転移がんでの治療成績も芳しくなく、新しい肉腫治療薬の開発が切望されています。

【成果の要点】
・本研究では、当会で見出されたPI3キナーゼ阻害剤ZSTK474について、さまざまな肉腫サブタイプに対する抗がん効果を調べ、現在肉腫で使用されている抗がん剤と比較しました。試験管内実験の結果ZSTK474は、ドキソルビシンなどの既存薬が奏功する、しないにかかわらず、調べた14種すべての肉腫細胞に対して細胞増殖を効率的に抑制しました。
・これらの肉腫細胞のうち、染色体転座による融合遺伝子が認められるユーイング肉腫(EWSR1-FLI1融合遺伝子陽性)、胞巣型横紋筋肉腫(PAX3-FOXO1融合遺伝子陽性)、滑膜肉腫(SS18-SSX1/2融合遺伝子陽性)の細胞では、増殖の抑制だけでなく、アポトーシスと呼ばれるがん細胞の自殺プログラムの活性化を引き起こすことで強力な抗がん効果を発揮することがわかりました(図1)。染色体転座を持たない肉腫細胞や上皮由来の癌腫細胞にはほとんどアポトーシスを起こさないことから(3, 4)、この効果は染色体転座陽性のこれらの肉腫サブタイプに選択的なものであると考えられました。
・ヒトのがんを移植可能なネズミ(免疫不全マウス)を用いた動物実験では、6種の肉腫細胞を移植して形成された腫瘍(ゼノグラフト)すべてに対して、ZSTK474は既存薬であるドキソルビシンと同等以上の抗がん効果を示しました。とりわけ、前述の染色体転座陽性の肉腫サブタイプ由来の腫瘍に顕著な抗がん効果を発揮し、腫瘍内のがん細胞にアポトーシスを起こすことが動物実験でも確認されました(図2)。
・動物実験により、ZSTK474は腫瘍内の血管形成を阻害することが示され、その効果は既存の血管新生阻害剤パゾパニブに匹敵することがわかりました。このことから、本剤による抗がん効果は、腫瘍に対する直接効果だけでなく、血管新生阻害よる間接効果の寄与も大きいと考えられました。
・以上の結果から、当会で見出したPI3キナーゼ阻害剤ZSTK474は、肉腫、とりわけ染色体転座陽性のユーイング肉腫、胞巣型横紋筋肉腫、滑膜肉腫に良好な抗がん効果を発揮することが明らかとなりました。


       図1 PI3K阻害剤ZSTK474の肉腫への効果(概念図)

【今後の展開と社会へのインパクトやアピールポイント】
・ユーイング肉腫の2/3が10歳代、胞巣型横紋筋肉腫は20歳未満、滑膜肉腫は10歳代または1歳未満での発症が大半を占めます。転移、進行がん、再発がんの場合の治療は化学療法が中心となりますが、使用できる抗がん剤は限られており、予後もよくありません。本研究成果により、ZSTK474は肉腫治療薬、とりわけ、ユーイング肉腫、胞巣型横紋筋肉腫、滑膜肉腫の治療薬として有望であることが示されました。このことは若年で発症する肉腫患者に対するアンメットメディカルニーズに応える新たな治療オプションを提供することにつながる重要な発見です。本研究成果を受け、当会では、当該サブタイプの肉腫患者さんに本剤を一日でも早く届けられるよう、本剤の臨床開発に注力してまいります。


    図2 ユーイング肉腫のマウス移植モデルに対するZSTK474の抗がん効果

【発表論文】
論文タイトル:Antitumor profile of the PI3K inhibitor ZSTK474 in human sarcoma cell lines(PI3キナーゼ阻害剤ZSTK474の肉腫細胞株に対する抗がんプロフィール)
著者:生田目奈知1,2、玉城尚美1、吉澤雄也1、岡村睦美1、西村由美子1、山崎佳波1、田中美和3、中村卓郎3、仙波憲太郎4、矢守隆夫1、矢口信一1,2、旦慎吾1*
1公益財団法人がん研究会がん化学療法センター分子薬理部
2全薬工業株式会社
3公益財団法人がん研究会がん研究所発がん研究部
4早稲田大学理工学術院
*責任著者
雑誌名:Oncotarget 2018; 9(80):35141-35161. doi: 10.18632/oncotarget.26216.(2018年10月12日号)


【参考文献】
1.Yaguchi S, Fukui Y, Koshimizu I, Yoshimi H, Matsuno T, Gouda H, Hirono S, Yamazaki K, Yamori T. Antitumor activity of ZSTK474, a new phosphatidylinositol 3-kinase inhibitor. J Natl Cancer Inst. 2006; 98: 545-56. doi: 10.1093/jnci/djj133.
2.Lockhart AC, Olszanski AJ, Allgren RL, Yaguchi S, Cohen SJ, Hilton JF, Wang-Gillam A, Shapiro GI. Abstract B271: A first-in-human Phase I study of ZSTK474, an oral pan-PI3K inhibitor, in patients with advanced solid malignancies. Molecular Cancer Therapeutics. 2013; 12: B271-B. doi: 10.1158/1535-7163.targ-13-b271.
3.Dan S, Yoshimi H, Okamura M, Mukai Y, Yamori T. Inhibition of PI3K by ZSTK474 suppressed tumor growth not via apoptosis but G0/G1 arrest. Biochem Biophys Res Commun. 2009; 379: 104-9. doi: 10.1016/j.bbrc.2008.12.015.
4.Dan S, Okamura M, Mukai Y, Yoshimi H, Inoue Y, Hanyu A, Sakaue-Sawano A, Imamura T, Miyawaki A, Yamori T. ZSTK474, a specific phosphatidylinositol 3-kinase inhibitor, induces G1 arrest of the cell cycle in vivo. Eur J Cancer. 2012; 48: 936-43. doi: 10.1016/j.ejca.2011.10.006.

【支援事業】
本成果は、以下の研究課題によって得られました。
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
革新的がん医療実用化研究事業
研究課題名:臨床検体を用いた多層的オミクス解析による分子標的薬の肉腫への適応拡大のための基盤的研究
研究期間 :平成28年4月〜平成29年3月
また、他に以下の機関の資金的支援を受けて実施されました。
・国立研究開発法人国立がん研究センター がん研究開発費(29A-7)
「がん治療の早期開発試験及びその研究体制確立に関する研究」(土井班)

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