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エレノアノンコーディングRNAはER陽性乳がんのがん幹細胞に関与する -晩期再発の予測因子となる可能性を発見-

2022年07月25日

1. 概要
乳がんの約7割は、エストロゲン受容体(ER)タンパク質が多く存在する(発現する)ER陽性乳がんです。このがんは高い頻度で再発することが問題です。他のがんでは、がん摘出の手術をしてその後5年を経過すると再発のリスクが低くなることが一般的です。しかしER陽性乳がんは術後5年以降でもなお再発することがあり、これを晩期再発と呼びます。特に、閉経後のER陽性乳がん患者では術後補助療法として、エストロゲンを阻害するアロマターゼ阻害剤を使用しますが、晩期再発が多いことが課題です。再発転移の過程でがんがあまり増殖しない長期休眠状態に入ることが原因のひとつであると示唆されていますが、晩期再発の仕組みはいまだ不明です。
がん研究会がん研究所がん生物部の福岡恵(大学院生)らは、がん研有明病院乳腺センター、がん研病理部、名古屋大学との共同研究により、乳がん患者検体におけるエレノアノンコーディングRNA(たんぱく質をコードしない一群のRNA)の発現を詳細に解析しました。エレノアはもともと、ER陽性の再発乳がんモデル細胞株でERとなるESR1遺伝子の発現を促進するノンコーディングRNAとして発見されました。今回の検体解析の結果、原発巣でのエレノアの発現が晩期再発と相関し、再発の予測因子であることを明らかにしました。さらに、マウス移植モデルを用いた実験などにより、エレノアは乳がん幹細胞のマーカー遺伝子CD44の転写を活性化し、がん幹細胞維持に関わることが明らかになりました。
エレノアは以前に、増殖遺伝子ESR1とアポトーシス遺伝子FOXO3遺伝子を相互作用させることで乳がんの増殖とアポトーシス(細胞死)のバランスを保つことが報告されていました。この機能に加えて、今回発見したエレノアの乳がん幹細胞の維持機能は、乳がん細胞を再発に有利な環境になるまで長い期間休眠状態に陥らせる、晩期再発の仕組みの一部であると考えられます(図1)。


2. 研究の詳細

背景と経緯

ER陽性乳がんの細胞株を長期にわたってエストロゲン枯渇状態で培養すると、アロマターゼ阻害剤に耐性の再発乳がんを模倣するLTED細胞(long-term estrogen deprivation の略)を作成できます。LTED細胞の核内においては、ERとなるESR1遺伝子の近傍にエレノアとよばれる一群のノンコーディングRNAが核内に濃縮体(エレノアクラウド)を形成し、ESR1遺伝子を活性化します。このように今まで、エレノアの遺伝子の発現制御に関する研究は細胞株でさかんにされてきました。そこで、実際のがんにおけるエレノアの意義を理解するために、臨床検体を用いた実験が期待されていました。

研究内容
・がん研有明病院で2005年5月から2006年12月の間に手術が行われた2~5cmの腫瘍を持つ乳がん患者185例について、原発巣のサンプルを用いた蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法(FISH法)でエレノアの発現を調べました(図2)。エレノアクラウドは58例(33%)に認められ、エレノアはER陽性乳がんのみに発現することや、閉経後の患者に多いことなどが確認されました。
・ER陽性乳がん141例のうち、原発巣でエレノアが発現していた患者は、エレノアが発現していなかった患者に比較して、術後5年以降の再発が多いことが明らかになりました(図3)。
・移植実験により、エレノア強陽性のLTED細胞は卵巣除去マウスへの生着能が高くいことがわかりました(高いがん幹細胞性を示します)。実際に細胞株において、エレノアはがん幹細胞遺伝子CD44の転写を活性化することを明らかにしました。FISH法では、6番染色体上のエレノアが6番染色体の中心体(CEN6)と比較して、11番染色体上のCD44に近いことから、エレノアとCD44遺伝子の相互作用が示唆されました(図4)。



まとめ
本研究では、エレノアの臨床検体における意義を解析しました。その結果、エレノアが乳がん幹細胞の維持を介してER陽性乳がんの長期休眠に関わることを示しました。さらに、晩期再発を早期に予測する診断の指標となり得ること、乳がん幹細胞を標的とする新しい治療法の標的としての可能性が示唆されました。

3.論文名、著者およびその所属

○論文名
The ELEANOR non-coding RNA expression contributes to cancer dormancy and predicts late recurrence of estrogen receptor-positive breast cancer.
○ジャーナル名
Cancer Science
, 113, 2336-2351, 2022. doi: 10.1111/cas.15373, PMID: 35415910
〇著者
福岡恵1,2, 市川雄一1, 大迫智1, 藤田知子1, 馬場郷子3, 竹内賢吾3, 角田伸行2, 江畑智希2, 上野貴之4, 大野真司4, 斉藤典子1*
* 責任著者
○著者の所属機関
1: 公益財団法人がん研究会がん生物部
2: 名古屋大学大学院医学系研究科
3: 公益財団法人がん研究会病理部
4: 公益財団法人がん研有明病院乳腺センター

#本研究の成果は掲載号のCancer Science誌表紙を飾りました。

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