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研究内容

最終更新日 : 2020年3月27日

目次

  1. がん分子標的薬耐性機構の解明と耐性克服薬の探索
  2. 血小板との相互作用を介したがん悪性化機構の解明とそれに基づく創薬
  3. がん免疫療法への耐性機構の解明と克服法の探索
  4. がん幹細胞(Cancer stem cell)の機能解析と分子標的の同定
  5. 生存増殖シグナル伝達系の解析と分子標的の探索

血小板との相互作用を介したがん悪性化機構の解明とそれに基づく創薬

がん治療が困難な最大の要因は、がん細胞が他臓器へと浸潤・転移する性質を持つことにあります。実際に、がん患者の死因の約90%は遠隔転移によることからも、がん細胞の浸潤・転移機構を理解しその過程を抑制することは、今後のがん治療法開発における重要な課題です。

古くから、がん細胞が他臓器へと遠隔転移する際には、がん細胞が血流中で血小板を活性化し血小板凝集を誘導することが、臨床上認められていました。がん細胞と血小板からなる凝集塊の形成は、血流中のシェアストレスや免疫細胞の攻撃からがん細胞を守り、転移先臓器の微小血管における腫瘍塞栓の形成を亢進することで、血流中におけるがん細胞の生存率を向上させます。また、活性化された血小板は様々な生理活性因子を放出することが知られており、これら因子を介してがん細胞が悪性化することも明らかにされています。このように、止血応答において重要な役割を果たす血小板の性質を巧みに利用することで、がん細胞は遠隔転移を成立させることが知られていましたが、どのような分子を介してがん細胞が血小板凝集を誘導するのかについては、長らく不明なままでした。
私たちは、マウス結腸がんColon26細胞から樹立された高転移性株NL-17細胞が高い血小板凝集活性を示すのに対し、同時に樹立された低転移性株NL-14細胞は血小板凝集活性をほとんど示さないという性質の違いに着目して研究することで、NL-17細胞により誘導される血小板凝集の責任分子としてPodoplanin (PDPN) の同定に成功しました (J Biol Chem 2003, 同定当初はAggrusと命名しましたが、その後の解析からAggrusは機能未知であったリンパ管マーカー分子PDPNと同一分子であることが明らかになりました) 。PDPNは、複数のO型糖鎖修飾部位を有する分子量約40 kDaのI型膜貫通タンパク質であり、PDPNを安定的に過剰発現させたCHO細胞は、高い血小板凝集活性を示すことや、ヌードマウスを用いた実験的肺転移モデル系において高頻度に肺転移結節を形成することから、PDPNが長年追い求めてきたがん転移関連血小板凝集促進因子であることが確認できています (Am J Pathol 2007) 。また、PDPNは、正常組織ではリンパ管内皮細胞、腎臓のポドサイト、I型肺胞上皮細胞などに発現しており、がんでは種々の扁平上皮がん、膀胱がん、骨肉腫、中皮腫、グリオブラストーマ、セミノーマなどで高発現が認められ (Oncogene 2004) 、肺扁平上皮がんや膀胱がんではPDPNの発現量とがんの悪性度や転移能に正相関が見られます (Tumour Biol 2005; Int J Cancer 2014) 。
近年私たちは、PDPNを介した血小板凝集は、活性化した血小板からTGF-βやPDGF、EGFの放出を誘導することで、がん細胞に上皮−間葉転換 (EMT) と呼ばれる間葉系細胞様の性質を誘導したり (Sci Rep 2017) 、肺扁平上皮がん細胞や骨肉腫細胞の増殖を亢進することを見出しており (Cancer Sci 2014; Sci Rep 2017) 、PDPNはがんの遠隔転移だけでなく、広くがんの悪性化に寄与することがわかってきました。血小板の活性化を介したがん悪性化機構の詳細を解明するために、現在さらなる研究を進めています。

PDPNを介した血小板凝集は、PDPNと血小板上のレセプターCLEC-2が結合することによる血小板の活性化を起点に誘導されることが明らかされています。私たちは、PDPNの一次構造上にはPLAG (PLatelet AGgregation-stimulating) ドメインと呼ばれる動物種を超えて保存性の高い配列が並んで存在しており (PLAG1~3) 、この領域がCLEC-2との結合に重要であることや、ヒトPDPNではPLAG3とドメイン内部に位置するThr52に付加されるシアル酸を含むO型糖鎖が特に重要であることを明らかにしました (J Biol Chem 2004) 。そこで、ヒトPDPNのPLAG3領域を認識しCLEC-2との結合を阻害するような抗体を樹立できれば、がんの遠隔転移や悪性化を阻害する有用な抗体医薬となるのではないかと考え、抗ヒトPDPNモノクローナル抗体の作製を行いました。これまでに、P2-0抗体やMS-1抗体といった抗ヒトPDPN中和抗体 (マウス由来) を複数樹立し、これら抗体の抗原認識可変領域を決定することでマウス−ヒトキメラ抗体や一本鎖抗体の創製にも成功しています (Cacner Sci 2011; PLoS ONE 2013; Cancer Med 2014) 。

近年私たちは、PDPNがCLEC-2と結合する際に重要な役割を果たす新たな機能領域としてPLAG4ドメインを同定し、ヒトPLAG4を特異的に認識する抗ヒトPDPN中和抗体 (マウス由来) としてPG4D1抗体およびPG4D2抗体の樹立に成功しました (Oncotarget 2016) 。また、PLAG4ドメインを認識する抗体を体内に投与した際の安全性を確認する目的で、サルPDPNのPLAG4ドメインを認識する中和抗体2F7 (マウス由来) を樹立し、2F7抗体の単回投与はカニクイザルに対して急性毒性を示さないことを病理組織学的検査や血液学的検査により確認しました (Oncotarget 2018) 。安全性試験の結果が良好だったことを受けて、企業と共同で上記抗体をもとにしたヒト化抗PDPN中和抗体を開発し、現在、前臨床試験に向けた準備を進めています。

Recent publications:

  • A safety study of newly generated anti-podoplanin-neutralizing antibody in cynomolgus monkey (Macaca fascicularis). Ukaji T, Takemoto A, Katayama R, Takeuchi K, Fujita N. Oncotarget. 2018 Sep 7;9(70):33322-36.
  • Platelet-activating factor podoplanin: from discovery to drug development. Takemoto A, Miyata K, Fujita N. Cancer Metastasis Rev. 2017 Jun;36(2):225-234.
  • Podoplanin enhances lung cancer cell growth in vivo by inducing platelet aggregation. Miyata K, Takemoto A, Okumura S, Nishio M, Fujita N. Sci Rep. 2017 Jun 22;7(1):4059.
  • A critical role of platelet TGF-β release in podoplanin-mediated tumour invasion and metastasis. Takemoto A, Okitaka M, Takagi S, Takami M, Sato S, Nishio M, Okumura S, Fujita N. Sci Rep. 2017 Feb 8;7:42186.
  • Targeting a novel domain in podoplanin for inhibiting platelet-mediated tumor metastasis. Sekiguchi T, Takemoto A, Takagi S, Takatori K, Sato S, Takami M, Fujita N. Oncotarget. 2016 Jan 26;7(4):3934-46.
  • Suppression of Aggrus/podoplanin-induced platelet aggregation and pulmonary metastasis by a single-chain antibody variable region fragment. Miyata K, Takagi S, Sato S, Morioka H, Shiba K, Minamisawa T, Takami M, Fujita N. Cancer Med. 2014 Dec;3(6):1595-604.
  • Expression of Aggrus/podoplanin in bladder cancer and its role in pulmonary metastasis. Takagi S, Oh-hara T, Sato S, Gong B, Takami M, Fujita N. Int J Cancer. 2014 Jun 1;134(11):2605-14.
  • Platelets promote tumor growth and metastasis via direct interaction between Aggrus/podoplanin and CLEC-2. Takagi S, Sato S, Oh-hara T, Takami M, Koike S, Mishima Y, Hatake K, Fujita N. PLoS ONE, 2013 Aug 21; 8(8): e73609.
  • The impact of Aggrus/podoplanin on platelet aggregation and tumour metastasis. Fujita N, Takagi S. J Biochem. 2012 Nov;152(5):407-13.
  • Prevention of hematogenous metastasis by neutralizing mice and its chimeric anti-Aggrus/podoplanin antibodies. Nakazawa Y, Takagi S, Sato S, Oh-hara T, Koike S, Takami M, Arai H, Fujita N. Cancer Sci. 2011 Nov;102(11):2051-7.

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