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研究内容

最終更新日 : 2022年4月4日

目次

  1. がん分子標的薬耐性機構の解明と耐性克服薬の探索
  2. 血小板との相互作用を介したがん悪性化機構の解明とそれに基づく創薬
  3. がん免疫療法への耐性機構の解明と克服法の探索
  4. がん幹細胞(Cancer stem cell)の機能解析と分子標的の同定
  5. 生存増殖シグナル伝達系の解析と分子標的の探索

がん免疫療法への耐性機構の解明と克服法の探索

進行がんの治療において、がん免疫療法、特に免疫チェックポイント阻害薬による治療は、肺がん、悪性黒色腫、腎臓がんをはじめ、様々ながんにおいて重要な役割を果たすようになり、肺がんなどの一部の進行がんの治療においては、第1選択薬となってきています。現在臨床応用されているがん免疫チェックポイント阻害薬は、PD-1並びにPD-L1やCTLA4を標的とした抗体医薬です。この標的の1つであるPD-L1は様々な腫瘍において高発現しているだけでなく、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞や、心臓内の内皮細胞など、様々な細胞内に発現しています。一方その結合相手であるPD-1は主に細胞障害性T細胞などの免疫細胞に発現しています。腫瘍細胞等のPD-L1が細胞障害性T細胞上のPD-1に結合すると、T細胞の活性が抑制されます。このようなメカニズムにより、腫瘍は細胞障害性T細胞により異物として認識されても、T細胞を抑制することで免疫監視機構から逃れて増殖しています。このPD-1分子のように、免疫系を抑制する分子や、類似の機能を有する分子等を総称して免疫チェックポイント分子と呼び、免疫チェックポイント阻害機構を阻害する抗体医薬が、多数開発されています。これまでに臨床での使用が承認された免疫チェックポイント阻害薬である、抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体は、数割程度の患者さんにおいて、長期にわたり腫瘍増殖を抑制する効果が認められても、やがて耐性を獲得し腫瘍が再増悪してしまうケースも見られることが明らかとなり、近年問題となっています。これまでに、抗PD-1抗体に対する耐性機構としては、細胞障害性T細胞が腫瘍細胞を異物として認識するために必須の抗原提示がされなくなるといったメカニズムなどが相次いで報告されていますが、抗PD-L1抗体に対する耐性機構はまだあまり明らかになっていませんでした。
 我々は、分子標的薬耐性機構の研究で得たノウハウを生かし、がん免疫チェックポイント阻害薬耐性機構の研究においても、(1)実際に免疫チェックポイント阻害薬での治療を受けた患者様由来の検体(治療前、耐性獲得後の検体)を用いて耐性機構を検索すること、(2)マウスに同系マウス腫瘍細胞を移植したSyngeneicモデルを用いて耐性メカニズムの解析や耐性克服法の効果を検討し、(3)培養細胞を用いても耐性メカニズムの詳細について検討すること、などの方法を駆使し研究を進めています。最近我々は、抗PD-L1抗体療法に一度奏功したのちに耐性となり、腫瘍が再憎悪した症例を詳細に解析し、新たな耐性機構として、PD-L1のRNAスプライシング異常により膜貫通領域を欠損し、細胞外に分泌されるPD-L1バリアントが産生されていることを発見しました。この分泌型PD-L1バリアントは、抗PD-L1抗体をトラップし抗体の効力を打ち消すことで、抗PD-L1抗体耐性を引き起こすことを見出しました。さらに、この分泌されるPD-L1による耐性には、PD-1に対する抗体により克服できる可能性があることを、培養細胞、ヒトiPS由来T細胞、および動物実験により示すことに成功しました。

この研究の様に、我々はin vitro,マウスモデル,臨床検体の解析を駆使し、耐性機構の同定と耐性克服法の発見をめざして日々研究を行い、より効果的ながん免疫療法の開発につなげていきたいと考えて研究を行っています。

参考論文

  • Sagawa R, Sakata S, Gong B, Seto Y, Takemoto A, Takagi S, Ninomiya H, Yanagitani N, Nakao M, Mun M, Uchibori K, Nishio M, Miyazaki Y, Shiraishi Y, Ogawa S, Kataoka K, Fujita N, Takeuchi K, *Katayama R. Soluble PD-L1 through alternative polyadenylation works as a decoy in lung cancer immunotherapy. JCI insight. 7(1):e153323, 2022.
  • Gong B., Kiyotani K., Sakata S., Nagano S., Kumehara S., Baba S., Besse B., Yanagitani N., Friboulet L., Nishio M., Takeuchi K., Kawamoto H., Fujita N., *Katayama R. Secreted PD-L1 variants mediate resistance to PD-L1 blockade therapy in non-small cell lung cancer. J Exp Med. 2019;216(4):982-1000.

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