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研究内容

最終更新日 : 2015年5月15日

研究内容目次

  1. テロメアとがん細胞の不老不死性
  2. グアニン4重鎖を標的としたがん創薬
  3. ポリADP-リボシル化酵素タンキラーゼの機能と阻害剤
  4. がん幹細胞の治療抵抗性と攻略因子

グアニン4重鎖を標的としたがん創薬

グアニン4重鎖とは?

DNAの構造といえば、通常はワトソン-クリック型の右巻き2重らせんが思い浮かぶでしょう。2重らせん構造は、DNAの鋳型依存的複製および半保存的複製を担保する分子基盤として、ゲノム情報の正確な伝播に貢献しています。一方、テロメアDNAの反復配列のうち、グアニンリッチなストランド(5’-TTAGGG-3’)は、2重らせんに加えて、K+などの1価イオンが存在する生理的条件下で、グアニンが4つ並んだG-カルテット(G-quartet)という平面構造を取ることもあります。G-カルテットはさらに、π-πスタッキングという相互作用によって重層し、グアニン4重鎖(G-quadruplex: G4)と呼ばれる特殊な高次構造を形成します。G4はDNAのみならずRNAでも形成され、テロメア以外でもおおむね5’-(GGGX1-7)n-3’を満たす核酸配列上で形成されます。近年、G4が細胞内にもゲノムワイドに存在していることがChIP-seq(クロマチン免疫沈降-シーケンシング)解析などで示され、その動態制御(=形成と解消)や生理的意義に関心が寄せられています。しかしながら、詳しいことはまだよくわかっていません。

グアニン4重鎖を安定化する化合物(G4リガンド)による制がん

興味深いことに、微生物は進化の過程で、自身のゲノム上からG4形成配列を積極的に排除してきたとする仮説が最近、提唱されました。テロメスタチンというG4安定化物質(G4リガンド: G4 ligand)を産生する、ある種の放線菌が存在することも踏まえると、微生物生存競争の中で、G4安定化物質を産生することには一定の意義があるのかもしれません。すなわち、G4とその安定化物質は、生物間の抗生関係を制御する重要な因子である可能性も考えられます。私たちは、このような発想をがんの新薬開発に応用すべく、G4リガンドが惹起する細胞応答、そしてそのような応答のがん細胞選択性に関する研究を行ってきました。具体的には、テロメスタチンやその合成誘導体としてのG4リガンドが、テロメアG4を過度に安定化することで染色体末端のキャップ機能を速やかに破綻させること、難治性神経膠芽腫の起源となるがん幹細胞(神経膠腫幹細胞: glioma stem cell)に対して強い制がん効果を示すことなどを見出してきました。G4リガンドはDNAの複製ストレスを惹起しますが、私たちの調べでは、神経膠腫幹細胞は複製ストレス刺激に対して特に過敏であることが分かっています。

さらに、G4リガンドに対する様々な臓器由来のがん細胞株(ヒトがん細胞パネルJFCR-39など)の感受性を調べ、種々のがん細胞株が高感受性を示すことを見出しています。さらに、G4リガンドはG4形成配列を有するmRNAの転写・翻訳を抑制することを試験管内の分子生物学的検討で明らかにしました。興味深いことに、G4はがん関連遺伝子のプロモーターや5’非翻訳領域(5’-untranslated region: 5’-UTR)で転写の盛んな部位に多く存在しているといわれ、これらの部位がG4リガンドの制がん作用点となっている可能性があります。以上のことは、G4、すなわち従来のゲノム・エピゲノムの概念には当てはまらない、核酸の「かたち」ががん治療の有望な標的であることを示唆しています。このような背景から、私たちはがん細胞におけるG4動態異常の解明と新たながん治療薬としてのG4リガンドの実用化を目指し、基礎および応用研究を展開しています。

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