目次
甲状腺
甲状腺チームの概要
メンバー:千葉、井上、坂田、竹内
病理部甲状腺グループは、甲状腺および副甲状腺の診断、研究を行っています。がん研有明病院頭頸科では、甲状腺腫瘍の中でも周囲組織・臓器への浸潤傾向が強く、手術が困難である症例や進行症例の診療実績が豊富です。甲状腺癌の中でも乳頭癌は最も頻度の高い内分泌悪性腫瘍ですが、その他の組織型はいずれも希少がんに相当します。近年、甲状腺腫瘍の遺伝子異常が次々と明らかになり、分子標的薬の開発が進んでいます。甲状腺癌全体で見ると、全身に生じるがんの中で最も予後が良いがんですが、一定数の予後不良な症例が含まれており、診断時に適切なリスク評価をすることが重要となっています。
診療・診断
甲状腺腫瘍の診断・治療は専門性が高く、適切な診療を受けるためには専門病院や大学病院などを受診する必要があります。がん研有明病院は中でもリスクの高い症例の診療実績が豊富であり、専門病院や大学病院での手術が困難である症例を多数紹介いただいています。最新のWHO分類・甲状腺癌取扱い規約に基づいた世界標準で高度な病理診断を実施しています(図1)。
診断は超音波検査と穿刺吸引細胞診が基本となります。他の臓器においては、細胞診は補助的な役割ですが、甲状腺腫瘍の診断においては、細胞診の精度が組織診と同等に高いとされ、治療方針決定において重要な役割を担います。甲状腺腫瘤に対する細胞診が年間250〜300件程度実施されており、手術の必要性が評価されています。術後に病理組織学的な評価が実施され、最終的な確定診断が実施されます。甲状腺腫瘍の手術件数は年間で平均130件程度であり、迅速診断や生検と合わせて200件程度の組織診断を実施しています。
甲状腺腫瘍の病理診断において、遺伝子異常の重要性が増しています。病理診断において、形態学的な評価は依然として必須ですが、診断困難な症例の場合、遺伝学的検査(ダイレクトシーケンス、FISH、PCRなど)を実施して、最新の知見に基づいたより正確な診断を提供しています。
甲状腺にはしばしば悪性リンパ腫も生じます。血液腫瘍チームと兼任の担当者を中心として、悪性リンパ腫の診断も適切に行っています。
甲状腺の検体数
| 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | |
| 細胞診 | 269 | 278 | 271 | 264 | 277 |
| 組織診 | 205 | 220 | 206 | 193 | 202 |
甲状腺腫瘍の最新の分類では、@腫瘍の由来・分化、Aドライバー遺伝子変異、B組織病理学的悪性度の評価、という3つの情報を統合することが求められています。当院では、長い伝統から培った組織病理学的・形態学的評価に加えて最新の遺伝子解析技術を用いることで正確な診断を実施しています。
研究テーマ
「甲状腺癌のドライバーおよびリスク遺伝子変異の研究」(図2)という大きなテーマに沿って下記の研究課題を実施しています。
- 乳頭癌のドライバー遺伝子の解析
- 未分化転化に関与する遺伝子の解析
- NIFTPの診断およびドライバー遺伝子の解析(多機関共同研究)
- 甲状腺癌に特化した遺伝子パネル検査の開発(多機関共同研究)
- 甲状腺癌の悪性度に寄与する細胞内シグナル伝達経路の研究(図3)
甲状腺は頸部にある臓器で、最も頻度が高いのは乳頭癌です(中央左の円)。乳頭癌はすりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体という特徴的な所見を有します。癌において活性化ないし不活性化しているバイオマーカーを同定し、生存解析からリスクの層別化を目指しています。
甲状腺濾胞癌ではRAS遺伝子変異、乳頭癌ではBRAF遺伝子変異が主なドライバー遺伝子変異であることが明らかとなり、その下流の細胞内シグナル伝達経路を標的に治療薬開発が進められています。現在、チロシンキナーゼ阻害剤、RET阻害剤、BRAF+MEK阻害剤などが治療に使用されています。
Publication list (2020年以降)
- Masaki C, Chiba T, Baba S, Moriya K, Ebina A, Toda K, Mitani H, Jikuzono T, Ohashi R, Sugino K, Ito K, Sugitani I, Takeuchi K.
Nuclear STAT3 expression is associated with favorable prognosis in papillary thyroid carcinoma.
Eur Thyroid J., Oct 17:ETJ-25-0080, 2025. - Kamma H, Ito Y, Suzuki S, Hibi Y, Suganuma N, Kinuya S, Kitamura M, Horiuchi K, Omi Y, Tomoda C, Kameyama K, Imamura Y, Ohashi R, Kondo T, Chiba T, Nakashima M, Hirokawa M, Sugitani I.
Japanese general rules for the description of thyroid cancer (9th edition) established by the Japan Association of Endocrine Surgery and the Japanese Society of Thyroid Pathology.
Thyroid Sci., 2(1): 100021, 2025. - Chiba T.
Molecular Pathology of Thyroid Tumors: Essential Points to Comprehend Regarding the Latest WHO Classification.
Biomedicines, 12(4): 712, 2024. Review. - Hirokawa M, Ito M, Motoi N, Chiba T, Imamura Y, Yasuoka H, Hino R, Higuchi M, Miyauchi A, Akamizu T.
Prevalence and diagnostic significance of non-invasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features in Japan-A multi-institutional study.
Pathol Int., 74(1): 26-32, 2024. - Sugitani I, Kazusaka H, Ebina A, Shimbashi W, Toda K, Takeuchi K.
Long-Term Outcomes After Lobectomy for Patients with High-Risk Papillary Thyroid Carcinoma.
World J Surg., 47(2): 382-391, 2023. - Kamma H, Kameyama K, Kondo T, Imamura Y, Nakashima M, Chiba T, Hirokawa M.
Pathological diagnosis of general rules for the description of thyroid cancer by Japanese Society of Thyroid Pathology and Japan Association of Endocrine Surgery.
Endocr J., 69(2): 139-154, 2022. - Kure S, Chiba T, Ebina A, Toda K, Jikuzono T, Motoda N, Mitani H, Sugitani I, Takeuchi K, Ohashi R.
Correlation between low expression of protein disulfide isomerase A3 and lymph node metastasis in papillary thyroid carcinoma and poor prognosis: a clinicopathological study of 1,139 cases with long-term follow-up.
Endocr J., 69(3): 273-281, 2022. - Ebina A, Togashi Y, Baba S, Sato Y, Sakata S, Ishikawa M, Mitani H, Takeuchi K, Sugitani I.
TERT Promoter Mutation and Extent of Thyroidectomy in Patients with 1-4 cm Intrathyroidal Papillary Carcinoma.
Cancers (Basel), 12(8): 2115, 2020.










