体幹部定位照射
目次
Chapter.1: 体幹部定位照射とは
「体幹部定位照射」とは胸部や腹部の病巣に対し、高い精度で集中して放射線をあてる治療法で「ピンポイント照射」とも呼ばれています。当院では、小さな肺腫瘍を対象に1999年に治療を開始し、現在は年間40〜50名に対しこの治療を行っています。治療の主な対象は以下の通りです。
- リンパ節や他臓器に転移がなく、大きさが最大5cmまでの原発性肺がん
- 肺以外に転移のない転移性肺腫瘍で、大きさが5cmまでで3個以内のもの
Chapter.2: 特徴
- 治療期間は4〜5日です。
- 治療には痛みなどの苦痛は伴わず、入院の必要はありません。
- 治療効果が高く、大きな副作用はほとんどありません。
ただし、通常手術で切除するリンパ節に対する治療を行うことができません。また心臓、大血管、食道、脊髄などの近くにがんがある場合は治療できないことがあります。
Chapter.3: 他の治療法との比較
手術
肺がんに対するもっとも一般的な治療法です。原発性肺がんでは、術前のCTなどの画像評価ではリンパ節転移を認めなかった場合でも、手術の際にリンパ節郭清を行うと、20〜30%程度には小さなリンパ節転移が見つかります。肺機能低下や他の病気などで手術が困難となる場合があります。
通常の放射線治療
従来、手術に代わる治療法として放射線治療が行われてきました。通常、治療期間は6〜7週間かかります。残念ながら治療効果は手術と比べると劣りますので、最近では定位放射線治療が可能な患者さんには、定位放射線治療が行われることが多くなっています。
Chapter.4: 治療の流れ
1.治療の準備
精度よく治療を行うために、患者さんの体に合わせて専用の固定具を作り、次にCTを撮影します。この際、皮膚の数箇所に印をつけます。肺の病気は呼吸とともに移動するので、最近ではその移動を評価するために4次元CTを撮影しています。
2.治療計画
撮影したCTを元に、周囲の正常組織にあたる放射線を最小限にし、がんに放射線を集中させるために、コンピュータを用いて治療の計画を行います。
3.治療
治療は4〜5日に分けて行います。毎回治療前にCTを撮影し、がんの正確な位置を確認してから治療を行います。治療にかかる時間は、30〜40分程度です。
Chapter.5: 治療の効果
治療後は定期的にCT検査を行い、がんが増大していないか確認する必要があります。がんが小さく十分な放射線をあてることができる場合は、80-90%程度の方に治療効果が見られます。治療対象の患者さんの多くは年齢や合併症で手術困難な方であることを考慮すると、十分な治療効果の期待できる治療法だといえると思います。
治療前
治療2年後
Chapter.6: 副作用
数ヶ月後に治療したがんの周りに肺炎が出現しますが、多くの場合は周囲に限局しており、咳や呼吸苦などの症状が出ることはまれです。胸壁に近いがんの場合、皮膚炎や肋骨骨折などが起こることがあります。その他には大きな副作用は見られません。