がんに関する情報
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多発性骨髄腫

多発性骨髄腫

最終更新日 : 2022年6月7日
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がん研有明病院の多発性骨髄腫診療の特徴

当科では、すべての患者さんの診療方針は、毎週開催される当科医師全員、連携診療科医師(特に放射線診断医、放射線治療医)、薬剤師、看護師、治験コーディネーターが参加する血液腫瘍科Cancer Board(カンファレンス)で検討・決定されます。さらに各治療法の説明同意文書を整備しており、病状、治療法、治療に伴う副作用やその対処法についてわかりやすい説明を心掛けています。

当科の入院ベッド数は36床で、化学療法後に白血球低下をはじめ免疫力が低下した状態にも対応できるように、クリーンルーム(空気中の病原微生物を粉塵除去フィルターで遮断することで清潔に保ち、感染の合併症を予防する目的で使用するいわゆる無菌室)を個室6床、4人部屋で5室備えています。化学療法導入、救援化学療法、自家造血幹細胞移植併用大量化学療法、治験を含む臨床試験の患者さんは入院して治療を行いますが、外来で治療の継続が可能な患者さんにおいては、当院外来治療センターで継続します。

多発性骨髄腫においては、日本臨床腫瘍グループ(Japan Clinical Oncology Group: JCOG)に参加し、より最適な治療法の臨床研究・開発において中心的な立場を担っています。さらには新薬開発において、国内または国際共同で行われる治験(新たな薬剤や治療法として承認を得るための臨床試験)に参加しております。疾患や病状によって臨床試験や治験の選択肢が存在する場合もあります。具体的には担当医から適切に説明いたします。また同種造血幹細胞移植やCAR‐T(カーティ)細胞療法(キメラ抗原受容体遺伝子導入した遺伝子改変T細胞を用いた治療)が適応となる患者さんにおいては近隣の病院へ連携し、ご紹介することがあります。

多発性骨髄腫

病態

多発性骨髄腫は血液細胞の中の「形質細胞」というリンパ球の仲間の細胞ががん化し、骨髄を中心に増殖する「形質細胞腫瘍」の最も代表的な疾患です。高カルシウム血症(破骨細胞の活性化による骨吸収の亢進)、腎障害(Bence-Jones蛋白による尿細管障害、アミロイドの糸球体への沈着、腎臓への直接的な骨髄腫細胞浸潤、高カルシウム血症、高尿酸血症、鎮痛薬をはじめとする薬物の影響など)、貧血(骨髄腫細胞の骨髄浸潤、腎障害による造血ホルモンの産生低下などによる)、腫瘍増殖に伴う骨破壊による骨痛/病的骨折を生じます。患者さんは高齢者に多く、女性よりも男性に多い傾向があります。

症状

発症初期には無症状であることが多く、健康診断で高蛋白血症、軽度の貧血・腎障害、蛋白尿などの指摘が契機となることも少なくありません。病状が進むと、貧血、血小板減少などの造血障害、腎障害、骨折・骨溶解・骨腫瘤などの骨病変、高カルシウム血症(食欲不振、吐き気、多尿と口渇、意識状態の変化、けいれんなどを生じることがあります)、アミロイドーシス(浮腫、胸水腹水などの心不全症状、下痢/便秘などの消化器症状、腎機能障害)、過粘稠度症候群を呈することがあります。骨折のために整形外科への受診が多発性骨髄腫の診断につながることもあります。

多発性骨髄腫の検査と診断

多発性骨髄腫の診断のためには、血液検査、尿検査、骨髄検査、心電図検査、心臓超音波検査、画像検査(全身単純CT、FDG-PET/CT、レントゲン、MRI)が必要です。特に既に骨病変による骨痛や、腎障害などの「臓器障害」を認める患者さんでは、診断と治療が急がれます。なお、多発性骨髄腫が疑われた場合、あるいは既に診断されている患者さんでは、造影剤の使用は原則として禁止です(腎機能が急激に増悪することがあります)。多発性骨髄腫の診断、治療方針などの詳細は担当医から説明します。

多発性骨髄腫の診断規準
以下の2項目を満たす。
  1. 骨髄に10%以上のクローナルな形質細胞を認める、または生検で確認された骨または髄外形質細胞腫を認める。
  2. 以下に示す骨髄腫診断事象(myeloma defining events: MDE)の1項目以上を認める。
骨髄腫診断事象
  • 臓器障害
    • 高カルシウム血症(正常上限より1mg/dL上昇、または>11mg/dL)
    • 腎障害(血清Cre>2mg/dL または Ccr<40mL/min)
    • 貧血(Hb正常下限より2g/dL以下、または<10g/dL)
    • 骨病変(溶骨性病変をXp, CTあるいはPET-CTで1か所以上)
  • 病状進行のバイオマーカー
    • 骨髄中のクローナルな形質細胞比率が60%以上
    • 血清遊離軽鎖比が100以上
    • MRIで確認される、5mm以上の骨病変が2か所以上
くすぶり型多発性骨髄腫の診断規準
以下の2項目を満たす。
  1. 血中M蛋白量(IgGかIgA)≧3g/dLあるいは尿中M蛋白量≧500mg/24時間、または骨髄中のクローナルな形質細胞が10-60%
  2. 骨髄腫診断事象を認めない。アミロイドーシスの合併を認めない。

多発性骨髄腫の進み具合(病期、ステージ)

血液中のアルブミン値の低下、血液中のβ2ミクログロブリン値の上昇、血液中のLDH(乳酸脱水素酵素)値の上昇、骨髄腫細胞の染色体異常の有無と種類により病期分類が行われます(改訂国際病期分類;R-ISS)。

治療

多発性骨髄腫は一般的に進行が緩慢で長い経過をとる疾患です。「くすぶり型」と診断された患者さんでは原則として無治療経過観察が選択されます。症状や臓器障害を伴う場合、化学療法が勧められます。
多発性骨髄腫治療においては、プロテアソーム阻害薬、免疫調整薬、抗体薬、CAR-T細胞療法(キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞;Chimeric Antigen Receptor induced T-cell)などの新たな薬剤や治療法が開発・導入されています。

多発性骨髄腫は、自家末梢血造血幹細胞移植併用大量化学療法(以下、自家移植と言います)が施行できるかどうかで治療方針が異なります。一般的には若年(65-70歳が上限)で、十分な臓器機能が保たれている患者さんが自家移植の適応となります。

これらの治療開発により、多発性骨髄腫患者さんの治療成績は経年的に改善しています。

<移植適応の患者さん>

自家移植の適応となる初発多発性骨髄腫患者さんに対しては、新規薬剤を含む治療薬を複数併用する導入療法が標準治療(もっとも効果が期待できるお勧めの治療)として推奨されています。3-4サイクル施行後に奏効が得られれば自家末梢血造血幹細胞を採取・凍結します。十分な造血幹細胞が採取・凍結できれば、大量化学療法を施行したのちに凍結保存していた自家末梢血造血幹細胞を解凍して輸注します。導入療法の一部(治療開始時)、自家末梢血造血幹細胞採取、および自家移植は原則として入院で行います。その後維持療法が行われることがあります。

<移植非適応の患者さん>

自家移植の適応とならない高齢患者さんや何らかの臓器障害を有する患者さんでは、抗体薬を併用した薬物療法が標準治療として推奨されています。新たな治療法の開発・導入により、移植非適応患者さんの治療成績は確実に向上しています。

再発時にはさらに複数の治療選択肢があります。病態や病状によって臨床試験や治験の選択肢が存在する場合もあります。

具体的には担当医から適切に説明いたします。治療についての疑問点がある場合は、担当医や医療スタッフにいつでも遠慮なくご質問ください。

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