がんに関する情報

卵巣がん

最終更新日 : 2018年7月2日
外来担当医師一覧

すでに他院で治療している方については、セカンドオピニオンで相談をして、標準治療の場合は、当院以外での治療をお勧めする場合がございます。

がん研有明病院の卵巣がん診療の特徴

がん研有明病院の卵巣がん診療の特徴

がん研有明病院婦人科は、化学療法科や放射線科の助言を得つつ、婦人科医が責任を持って手術・化学療法・放射線療法などの治療手段のなかから、患者の皆様の状況に応じて、適切な治療方針を決定し、それを安全に実施するシステム(集学的治療)を構築しています。

特徴

  1. 個別化治療―個々の患者さんのがんの特徴、身体的精神的状況、要望に合わせた治療。
  2. 細胞診断、組織診断に立脚したがん治療。
  3. 治療後の検診―再発の早期発見。
  4. がん治療に伴う後遺症・合併症によるQOL低下を予防(内分泌・骨外来、リンパ浮腫予防外来、また脱毛などに対応する帽子 クラブなど)。

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卵巣がんについての知識

はじめに

卵巣にできる悪性腫瘍には、若い世代(10-20才代)を中心に発生する"卵巣胚細胞腫瘍"と中高年女性(40-60才代)を中心に発生する"上皮性卵巣がん"があります。前者は、頻度はかなり低く、弱年発症という性格から子宮温存を求められるなど、後者とは治療体系が全く異なる疾患であるといえます。ここでは、卵巣がんの大多数を占める"上皮性卵巣がん"について解説します。

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卵巣がんの症状

腫瘍が小さい場合でも婦人科検診などで早期に発見されることもありますが、卵巣が腫れている状態であっても、かなり大きくなるまで無症状のことが多く、進行して発見されることが多いです。卵巣がんの約25%が子宮内膜細胞診で陽性になることが当科の成績で明らかになっており、これが発見の端緒になる場合もあります。大きくなると腹壁から自分の手で腫瘍を触れたり、あるいは腫瘍による圧迫症状がみられるようになります。腹水を伴うと、その量に応じた腹部の腫大と腹部膨満感が出現します。腹水が増量し胸水も認められるようになると、呼吸苦が出現します。胸腹水は良性卵巣腫瘍でも発生しますが、悪性の場合により多く見られます。卵巣腫瘍は悪性、良性に関わらず、捻れたり(卵巣腫瘍茎捻転)、破裂したりすることがあり、この場合は激痛を伴います。

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卵巣がんの治療

卵巣がん(上皮性卵巣がん)は、婦人科がんの中でも最も化学療法(抗がん剤治療)の感受性が高く、その治療は"手術療法と化学療法の組み合わせ"によって形成されることを御理解下さい。初診時の進行期(腫瘍の広がり)が重要で、これによって治療法が大きく異なります。

I期卵巣がんの治療

I期卵巣がん(がんは卵巣に限局)では、原則として、子宮全摘、両側付属器切除(両側の卵巣切除)、大網切除術(胃下部の脂肪組織切除)に加えて、骨盤内リンパ節、傍大動脈リンパ節の郭清が根治手術となります。手術後は再発予防に化学療法を施行するか否かを検討することとなります。手術だけでよいか再発予防の抗がん剤が必要かは難しい問題ですが、卵巣からがんが全く出ていない状態(腫瘍が皮膜に覆われた状態で、なおかつ他の部位に転移がない)では手術だけでよいと考えられ、それ以外は原則として抗がん剤が必要となります。卵巣がんの手術では、開腹時に腹腔細胞診(腹水を採取し、その中に悪性細胞がいるかどうかを判定すること)も行われますが、これが陽性の場合も抗がん剤が行われることが多くあります。

腫瘍が卵巣に限局するのに、なぜこれだけの大がかりな手術が必要かと疑問に思われるかもしれませんが、この手術の切除範囲はいずれも卵巣がんが転移をおこしやすい部位で、これら全てに腫瘍がないことが確認されて初めて、"腫瘍は卵巣に限局していた(I期)"といえるのです。しかし、発症が若年齢の場合は、リスクを検討しつつ、子宮及び反対側の卵巣の温存を計ることもあります。

II期卵巣がんの治療

II期の卵巣がん(がんは子宮、卵管、直腸、膀胱に広がる)では、I期の根治手術に加えて、がんが広がっている部位を併せて切除することとなります。つまり、 II期でも子宮、卵管などI期の根治手術の範囲内への進展であれば問題ありませんが、直腸表面への浸潤するケースも多く、この場合は直腸合併切除が行われる事となります。この手術は人工肛門などにならずに腸管吻合が可能で、後遺症も少ないため当科では積極的に行っています。また、膀胱側にがんが広がる場合でも、膀胱表面の腹膜切除を行います。これらの方法により、II期の多くの症例で腫瘍は完全切除が可能です。しかし、I期よりもがんが広がっているため、殆どのケースで術後抗がん剤治療が必要になります。

III期卵巣がんの治療

III期の卵巣がん(がんは上腹部またはリンパ節に広がる)の治療は、上腹部にがんが存在している場合と、リンパ節にがんが存在している場合と区別して考えなければなりません。後者は通常、根治手術がなされた場合に切除されたリンパ節に、術後検査の結果がんの存在することがわかった場合が多く、この場合は術後抗がん剤治療を再発防止に行います。がんが最初から上腹部にまで広がっている場合は、多くの場合腹腔内全域にがんがあり、この状態は"がん性腹膜炎" あるいは"腹膜播種"とよばれます。

まず、試験開腹(最近は腹腔鏡で行うことが多い)を行う場合と抗がん剤治療を先行させる場合があります。試験開腹を行えば、診断が確かに卵巣がんであること、病変の広がりの確認、それに加えて卵巣がんの組織型(どういうタイプの卵巣がんか)を知ることができます。この組織型の確認は、その後の抗がん剤の選定に重大な影響をあたえます。試験開腹を行わない場合は、画像診断や細胞検査で推測し、治療を開始することとなります。試験開腹を行う欠点は、長い治療の前に、手術という負担を患者の皆様に強いることになる点です。

当科では、全身状態がよい場合は、原則として開腹手術(最近は腹腔鏡で行うことが多い)を先行し、腹腔内状況及び組織型を確定するようにしています。しかし、全身状態が良くなく化学療法を先行させる場合も多くあります。試験開腹術後は、化学療法を進め、6-8サイクル(術前、術後併せて)の抗がん剤治療を行うことが多くあります。腹腔内に広範囲の転移を認める症例でも、3-4サイクル後に著しい縮小効果が認められ、その結果手術切除が可能な症例が多数経験されます。

しかし、こういった抗がん剤で相当の腫瘍縮小が認められる症例でも、抗がん剤は卵巣の遠隔部位ほど効果が大きい傾向があり(大網は例外で腫瘍が残存しやすい)、最終的に卵巣周辺及びダグラス窩(子宮直腸間)付近に腫瘍が残存することが多くあります。この場合は通常の根治手術と共に直腸合併切除を行うこととなります。直腸合併切除は今日、卵巣がん治療では欠かせない手技となっています。当院で直腸合併切除を受けられた方で人工肛門になった方はほとんどいらっしゃいません。一時的な人工肛門は2〜5%ですが、術後半年程度で元に戻します。これまで永久人工肛門になった方は1人のみ(0.5%未満)です。このように、III期卵巣がんの根治手術は化学療法により腫瘍が最も小さくなった時点で行われており、術後に行われる再発予防の抗がん剤を含めると、治療開始から終了まで6-12ヶ月を要することが多くあります。ただし、抗がん剤治療はその期間のみ入院が必用で、上記の期間全てに入院が必要なわけではありません。

 

IV期卵巣がんの治療および治療のまとめ

IV期卵巣がん(がんは肺、首のリンパ節などの遠隔部位に広がる)では、腹腔内はIII期の状態になっていることが多く、治療の形式はIII期と根本的には変わりません。遠隔転移の存在のため、化学療法を先行させることが多く、この消失に成功した場合はIII期と同様腹腔内の治療を進めていくことになります。

卵巣がん治療をまとめると、I 期、II期ではまず手術で腫瘍の完全摘出を目指し、その後再発のリスクの高いケースで再発予防の抗がん剤治療を行います。 III期、IV期では、"手術療法と化学療法の組み合わせ"によって治療が行われ、抗がん剤治療によりまず完全摘出可能な範囲まで腫瘍を縮小させてから手術摘出し、その後再発予防の抗がん剤治療を行うことが原則となります。

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卵巣がんのリンパ節郭清

リンパ節郭清とは、あるがんにおいて"がんの転移が多いと予想される領域"のリンパ節(所属リンパ節といいます)を全て取るということです。これに対して、その領域のリンパ節を一部取る(例えば大きいものだけ)ことを、リンパ節生検(サンプリング)といいます。"がんの転移が多いと予想される領域"は、それぞれのがん種ごとに異なり、卵巣がんでは、骨盤内リンパ節および傍大動脈のリンパ節(腹部大動脈及び腹部大静脈の周りのリンパ節)とされます。骨盤内リンパ節と傍大動脈のリンパ節のどちらがより重要かは難しいですが、早期卵巣がん(I期がん)では傍大動脈のリンパ節の重要性が大きいとする報告が多くあります。

当科では、I期がんから原則として、骨盤内および傍大動脈のリンパ節郭清を施行しています。これらのリンパ節には、実際どれほどの確率で転移をおこしているのでしょうか。当科の1995年より2004年までの、骨盤内および傍大動脈リンパ節郭清施行症例におけるリンパ節転移率は、I期12.8% (20/156)、II期48.6%(18/37)、III期60%(9/15)でした。I期がんでは、それほど高いリンパ節転移率ではありません。このため、全例にリンパ節郭清を施行しても治療成績に差がでにくいと考えられること、術後の抗がん剤治療が残存するリンパ節転移の治療に期待できることなどから、卵巣がんのリンパ節の取り扱いについては、施設間の差が大きいと思われます。現在、LION studyとい研究において、進行卵巣がんでのステージングのためのリンパ節郭清は行っても予後に寄与しないとする報告が増えています。もちろん腫れているリンパ節は転移の可能性があり郭清しますが、腫れていないリンパ節については、当院においても郭清を行わない方向になりつつあります。リンパ節郭清は術後にリンパ浮腫、リンパ嚢胞などの合併症を引き起こす可能性があることや、抗がん剤治療に入るタイミングが遅れることがあり、我々は基本的には不要なリンパ節郭清はさける必要があると考えております。

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卵巣がんの組織型

組織型と治療戦略

卵巣がんには、主として4つの組織型があり、それぞれ抗がん剤の効果が異なるため、あたかも別の疾患のように取り扱われます。漿液性がん、類内膜がん、明細胞がん、粘液性がんの4つですが、前2 者は抗がん剤がよく効き(特に漿液性がん)、後2 者は抗がん剤が効きにくく、使用される抗がん剤もこれらの組織型によって決定される場合が多くあります。頻度的には、漿液性がん、明細胞がん、類内膜がん、粘液性がんの順とされています。
卵巣がんの組織型に関して最も重要なことは、抗がん剤のよく効くタイプでは拡大手術を施行しなくても、その後の治療を抗がん剤に期待できるということです。逆に、抗がん剤が効きにくいタイプでは、手術の機会に可能な限りの完全切除が必要となります。このように、治療形態までもが異なってくるため、卵巣がんの組織型の決定は重用な事項となっています。

漿液性がんは抗がん剤の最もよく効く卵巣がんの代表格ですが、通常使用される抗がん剤は、TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)です。この治療は一日で治療を終えることができ、諸条件が整えば外来でも使用可能で、治療する側、治療を受ける側双方に有益性が高くなります。この他には、TP療法(パクリタキセル+シスプラチン)、DP療法(ドセタキセル+シスプラチン)などを、第一選択とする施設もあります。類内膜がんにおいては、基本的には漿液性がんと変わりありませんが、アドリアマイシン系の抗がん剤レジメ(CAP療法、AP療法など)を重視する施設もあります。抗がん剤のよく効く組織型の卵巣がんでは、いずれの抗がん剤レジメも概ね良好な成績が期待できます。

また、2013年11月より本邦において、大腸がん、肺がん、乳がんの治療に用いられていたベバシズマブが卵巣癌にも使用可能となりました。がん組織では、がん化した細胞が正常細胞と比較して著しい速さで増殖を行っています。細胞が増殖するためには豊富な栄養が必要であり、栄養を調達するために、新しい血管を作っています(血管新生)。ベバシズマブは、新しい血管を作るためにがん細胞が分泌する物質に結合して、血管新生を阻害し、がん細胞が増えるのを抑えます。

ベバシズマブは、これまで婦人科の領域で使用されてきた抗がん剤とは、作用の異なる薬剤です。卵巣がん領域で最も期待されている分子標的治療薬が実施可能となり、抗がん剤との併用、その後の維持療法として上乗せ効果が期待されています。

ベバシズマブ特有の副作用としては高血圧、タンパク尿、消化管穿孔などが挙げられます。

再発卵巣がんについては、前治療で最後にプラチナ製剤(カルボプラチン)を使用してから病状が悪化するまでの期間(プラチナフリー期間)により、次治療の選択が変わります。一般的にはプラチナフリー期間が6ヵ月未満であればプラチナ抵抗性再発として、カルボプラチンを使用しない治療を選択します。6ヵ月以上であるがプラチナ感受性再発として、カルボプラチンを使用した治療を選択します。抗がん剤にベバシズマブを併用と維持療法に使うこともあります。

また2018年4月よりオラパリブが卵巣癌において使用可能となりました。

オラパリブはプラチナ感受性再発卵巣がんに対し、カルボプラチンを含んだ抗がん剤を行い、治療効果が得られた卵巣がんに対し、その後もよい状態を維持するために用いる飲み薬です。オラパリブの服用は、抗がん剤治療が終わってから始めます。卵巣がん細胞では遺伝子(DNA)修復に関係する仕組みのひとつが働いていないことが多くありますが、残った一方の仕組みでDNAを修復することできれば、がん細胞は生き残ることができます。リムパーザは、DNAの修復の仕組みの1つを働かないようにする薬です。ただし正常な細胞では修復の仕組みが片方残るため、細胞は生存できます。オラパリブが、もともと片方しか修復の仕組みが働いていなかったような卵巣がん細胞に作用した場合には、DNA修復の仕組みが両方とも働かなくなるため、DNAの傷は修復されずに細胞死に至ります。オラパリブに頻度の高い副作用は吐きけ、貧血、疲労などで、まれに間質性肺疾患が現れることがあります。

問題は、抗がん剤の効果が期待しにくい、明細胞がん、粘液性がんです。特に明細胞がんは頻度的にも増加傾向にあるので、有力な抗がん剤レジメの確立が待望されています。これらの卵巣がんに対しては、漿液性がん、類内膜がんで使用されている抗がん剤以外に、カンプトテシン、マイトマイシン、ドセタキセルなどの組み合わせが使用されています。

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