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肝胆膵外科におけるロボット手術

肝胆膵外科におけるロボット手術

最終更新日 : 2024年4月17日

ロボット手術は、正式にはロボット支援下手術(Robotic-assisted surgery)と呼ばれます。人工知能を持つロボットが手術を行う風景(図1)を想像される方がいらっしゃいますが、そうではありません。手術を支配しているのは執刀医(人間)であり、『見る』『認識する』『判断する』『動かす』のすべてを執刀医が行います。初めの『見る』と最後の『動かす』にロボットの力を借りている、というイメージです。

図1 ロボット手術≒『ロボットが行う手術』
図1

ロボットの『見る』

開腹手術では、見る能力は執刀医の肉眼視力に依存します。とても細かい操作(例えば2o径の主膵管と腸の吻合など)の時は、手術用ルーペで拡大視をしながら操作を行います。それに対して、daVinci®手術では腹腔内に挿入したロボットスコープの先端が対象物から5cm以内の距離まで近接することができる、ブレのない超拡大視と、双眼レンズによる立体視が可能です。

ロボットの『動かす』

ここで、一つ想像してみてください。
「お皿に入った乾燥大豆を別の皿に移す作業を、なるべく早くこぼさずにやってください」と言われたとき、どちらの方法を選びますか(図2、3)?

図2 想像してみてください・・・
図2
図3 どちらがやりやすいでしょう?
図3

日本人であれば、箸を使って移すのも上手にできると思いますが、多くの方は直接をつまんで移すことを選ぶのではないでしょうか?手術の方式で言うと図4のように、

図4
図4

にそれぞれ相当します。箸の長さは最も先端が精密に動く長さの一つであり、開腹手術の道具もほとんどが箸の長さと一緒です。ロボットでは執刀医がdaVinci®のコックピットのジョイスティック2本を両手で操作します。その感覚は、まるで自分の体が小さくなって患者さんのおなかに入って、自分の手で手術をしているようなイメージです。

このようにロボットには、それまでの開腹や腹腔鏡では得られなかった視野と動きの精度下に手術を行うことができますが、課題もあります。1つめは、操作が精密であるがゆえに時間がかかること。2つめは、不測の出血時に弱いことです。従って現在は、体格が大きすぎない方、上腹部の手術既往がない方、血管合併切除を要するなどの進行癌ではない方、をロボット膵切除・肝切除の適応としています。

ロボット膵切除の実際

・ロボットによる脈管周囲の剥離、枝の処理
膵頭部に存在する腫瘍を切除する膵頭十二指腸切除術では、膵頭部と上腸間膜動脈・静脈との間を外す行程が最も難しいといわれますが、ロボットの拡大視と精密な動きにより、1mm前後の細かい血管まで良好な視界の下、安全に処理することができます。

ロボット支援膵切除 da Vinci Xiによる膵頭十二指腸切除の動画はこちら

※実際の手術映像を掲載していますので、気分の悪くなる可能性がある方はお気を付けください。

・ロボットによる消化管再建
膵頭十二指腸切除術の最重要パートの一つに、膵空腸吻合があります。切断された膵の断端と小腸をつなぐ膵空腸吻合では、時に2mm以下の主膵管(消化液のトンネル)と小腸に明けた小孔を髪の毛と同じ太さの糸で吻合する必要があり、非常に繊細な操作が求められます(図5)。

図5 ロボットの超拡大視と精緻な操作

図5

開腹手術では外科用ルーペによる拡大視が必要であり、腹腔鏡手術(ラパロ)で精密な2mm径の吻合を行うことは事実上不可能です。ロボット手術では、超拡大視効果とロボットアームの手振れのない精緻な動きにより、執刀医はまるで座布団台の膵臓に空いた5cm径の主膵管を縫っているような感覚で再建操作が可能です。

ロボット支援膵切除 da Vinci Xiによる膵腸吻合の動画はこちら

※実際の手術映像を掲載していますので、気分の悪くなる可能性がある方はお気を付けください。

ロボット肝切除の実際

ロボット肝切除は2022年4月に保険収載となりました。当院でも実施体制を整えて導入を済ませ、現在保険診療としてロボット肝切除を実施しています。

・ロボット肝切除の利点
ロボット肝切除の利点は、視野とアームの安定性から得られる非常に精密な肝実質破砕操作です。腹腔鏡で問題となっていた、道具先端のブレがほとんどなく、スコープも固定されて視野の揺れがないため、5p程の至近距離で肝臓を観察し、割ることができます。肝実質内に存在する1o程度の細かい脈管や線維まで識別して肝離断ができるため、出血量の最小化や胆汁漏の防止にも有用です(図6)。

当院では、2020年の保険収載以降、院内実施および他院のロボット手術指導を含めて現在までに200例以上のロボット肝胆膵手術を実施しています(術関連死亡 0%)。2023年度は120例近くのロボット手術を行い、2024年度も同様に月に10件(年間120件)ペースで定時ロボット手術を行う体制を整えており、引き続き安全かつメリットの多い手術の提供を努めてまいります。

(文責・井上陽介)

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