医療安全体制の監査について

最終更新日 : 2024年8月20日

2024年度 第1回

公益財団法人がん研究会有明病院 医療安全監査委員会 監査結果概要

監査日時 : 2024 年 7 月 25 日(木) 11:55〜15:00
委員長: 長尾 能雅 (名古屋大学医学部附属病院副病院長 患者安全推進部教授 (医学博士))
委員 :
大滝 恭弘 (帝京大学医療共通教育研究センター 教授 (医学博士・法務博士))
瀧澤 邦 夫 (がん研有明友の会(医療を受ける者))
参加者 :
公益財団法人がん研究会 有明病院
佐野 武 (病院長/病院本部本部長/常務理事)
米瀬 淳二 (医療安全管理責任者/副院長/泌尿器科部長)
山本 豊 (医療安全管理部長(ゼネラルリスクマネージャー))
藤木 由佳子 (医療安全管理部看護師長(ゼネラルリスクマネージャー))
鈴木 美智子 (医療安全管理部副看護師長(ゼネラルリスクマネージャー))
根本 真記 (医療安全管理部主任薬剤師(ゼネラルリスクマネージャー)/鎮静管理 WG)
三谷 浩樹 (医療機器安全管理責任者/頭頸科部長/ME センター長)
寺内 隆司 (医療放射線安全管理責任者/画像診断センター長/核医学部長)
山口 正和 (医薬品安全管理責任者/院長補佐/未承認新規医薬品等管理部長/薬剤部長)
清水 多嘉子 (看護部長/副院長)
橋 祐 (高難度新規医療技術管理部長/院長補佐/肝胆膵外科部長)
西尾 誠人 (化学療法部長/呼吸器センター長/呼吸器内科部長)
宮北 康二 (IC委員会委員長代理/脳腫瘍外科部長)
大橋 学 (中央手術部長)
中原 由美子 (患者相談室長)
瀧口 友美 (薬剤部臨床薬剤室長)
庄司 大悟 (薬剤部/未承認新規医薬品等管理部)
牧野 吉展 (診療情報管理委員会委員長代理/診療情報管理室主任)
栗城 清夏 (診療情報管理委員会委員長代理/診療情報管理室)
富樫 保行 (診療情報管理委員会委員長代理/臨床検査センター主任技師)
山本 晃史 (医療クオリティマネジメントセンター事務室長/院長補佐/人事部長/総務部長)
青木 智恵子 (医療クオリティマネジメントセンター事務室係長)
山口 智美 (医療クオリティマネジメントセンター事務室)
根本 さやか (医療クオリティ マネジメントセンター事務室)

1.報告 事項

(1)前回指摘事項の対応状況及び(2)医療法第 25 条の規定に基づく立入検査結果について医療安全管理部長より報告がなされた。

(1)2023 年度第 2 回医療安全監査委員指摘事項の対応状況報告

前回指摘事項@

インシデント報告について、医師・看護師以外の職種からのインシデント報告率を 20%とする目標達成に引き続き努めること。

(対応状況)
院内の各委員会・会議にて、監査での指摘事項としてフィードバックを行った。2024 年 1 月以降は医師・看護師以外の職種からのインシデント報告率は増加傾向にあり、インシデントを報告することが文化として根付きつつあると評価している。安全文化を醸成していくために、引き続き継続し、次回の本委員会でも報告を行いたい。

前回指摘事項A
麻薬管理について、受払手順の徹底が必要であり、担当職員を教育する際の手順の明確化と行動のモニタリングが重要である。

(対応状況)
2024 年 5 月に行動の遵守状況に対する評価を実施した。また、医薬品安全管理委員会が行う院内ラウンドでもモニタリング項目に取り上げ、年2回の評価及び必要に応じたフィードバックを行うことで改善に努めていく。

前回指摘事項B
IC のひな型にコスト(患者負担)に関する記載を含めると良い。

(対応状況)
現状 900 種類を超える文書の管理を継続的に行うことは困難であるが、今後の検討課題としたい。

前回指摘事項C
IC の審査体制が 2 名の医師で短期間に行われていることから、審査基準に差が出ないようにすること。

(対応状況)
当院では診療情報管理士が事前に内容を確認し、内科・外科の各診療科から選出された医師や看護師も確認に携わることから、現行の審査体制を継続する方針とした。

前回指摘事項D
審査委員会の中に外部委員(医療者以外)を加えることを検討する。医療者以外でも理解できるかという視点が必要である。

(対応状況)
当院では診療情報管理士が当該の役割を担うため現状の体制を継続する方針とした。

前回指摘事項E

IC 後の患者の熟慮期間確保をどの程度確保されているかを調査する段階になっている。熟慮期間の視覚化ができるとよい。

(対応状況)
初診時からパンフレットを配布し説明を重ねる工夫をしている。入院後に IC を行わざるを得ない緊急性を要するケースについては、入院が予約された時点で IC 文書を交付し自宅で確認ができる運用を検討する方針とした。

前回指摘事項F
外来の処置時のタイムアウトについては整備段階である。侵襲的医療行為における安全確認については、外来・病棟でも求められつつあるので検討されたい。

(対応状況)
外来・病棟を問わず侵襲的医療行為に対してはタイムアウトを導入していく方針で、まずは乳腺外科の外来処置である CNB(針生検)に対し導入し、モニタリングも実施している。

前回指摘事項G
転倒転落について、患者がどのエリアにいても職員側でリスクを認識できるような工夫が必要である。

(対応状況)
患者がどのエリアにいても転倒転落リスクが認識できる工夫については、着手したばかりであり具体的な対応が提示できる状況にない。

前回指摘事項H
外来の各所に丸椅子が設置されていた。転落防止のため、背もたれのある椅子にするなど対策が望まれる。

(対応状況)
転倒リスクの見える化を病院の課題として検討し、外来エリアの丸椅子を背もたれのある椅子に替えていく方針とした。

前回指摘事項I
PDCA はプランに 7〜8 割の重きを置くことが有用とされている。単なる起承転結とならないような管理体制、助言・指導を目指してほしい。

(対応状況)
指摘事項を参考に管理体制を構築中であり、具体的な対応が提示できる状況にない。

前回指摘事項J
毎年病院は上位指標を複数提示し、各部署はその中から自部署の目標を選択して1年間取り組むという QI の連動体制を展開すると良い。

(対応状況)
QI 管理については途に就いたばかりであり、まずは指摘事項を真摯に受け止め、病院の課題として検討する。また、今年度よりパフォーマンスレポートの指標管理については目標値の設定を求める方針とした。

(2)関東信越厚生局・東京都による医療法第 25 条の規定に基づく立入検査結果の報告

2024 年 7 月 19 日(金)に実施、関東信越厚生局・東京都ともに「法令に違反するような不適切な部分は無く、概ね良好な結果である」との評価を受けた。

2.監査事項

当院の医療安全管理体制と取り組み状況について、「自己評価表」を基に委員から助言・提言が行われた。

  1. 医療安全管理体制の確立(ガバナンスの確保)
    • 病院長のリーダーシップの下で安全活動が展開されている。患者安全を第一とし、且つ先進医療も遂行する意思が明確であった。
    • 医療安全管理責任者・医療安全管理部長を中心にインフラが良く整備されており、部署リスクマネージャーを束ねて適切な活動がされている。
    • 部署リスクマネージャーについては、部署によっては代行者の設定を検討されたい。
  2. 医療安全管理活動
    • IA 報告件数は、適切である。特に医師の報告数が多く、院内の重大案件をキャッチアップする上で、必要十分な数に到達していると考えられる。医師・看護師以外の職種からの報告率も昨年度の 12%から今年度は 19%へ増加(目標値 20%以上)しており、今後の取り組みに期待する。
    • 職種別の報告状況が提示されると良い。また、IA 報告の目標値を設けて取り組むと良い。もし明確な目標設定がないのであれば、病院管理者が把握する必要があるインシデントの 9割以上を把握できると推定される IA 報告件数として、以下を目安とされると良い。
      1. 報告総数において病床数×6.6 以上、さらに医師からの報告数において病床数 ×6.6×0.08 以上、この二つの条件の同時達成
      2. 職種に関係なく、報告総数において病床数×8.2 以上
      3. 患者影響レベル 3a 以上の IA 報告件数
    • @全死亡患者数、A重大なインシデントが発生し急ぎ事故性の判断を必要とした件数、B実際に事故調査が必要となった件数、C事故調査の結果、死亡原因が医療過誤によると判断された件数が視覚化できると良い。
    • 院内救急体制において、MET 要請件数の 207 件/年は優れている。
    • 国際的な医療施設評価認証機関である JCI(Joint Commission International)では、code blue (スタットコール)と Rapid Response System(MET 要請)と Early Warning Score(早期警告スコア)の 3 つの体制を持つことを推奨している。中長期的観点で Early Warning Score
      (早期警告スコア)の導入を検討されると良い。
    • QI 部門(医療品質改善部)で、現在院内で動いている指標を一元管理できると良い。病院幹部が毎年打ち出す目標の中から、各部門の年度目標が選択される、いわゆるガバナンスの一直線化体制が望ましい。
  3. 患者の権利保障の取り組み
    • ひな型に沿った IC 文書の作成と使用頻度の管理について、IC 委員長の下、現在約 900 種類ある IC 文書の見直し計画が概ね定まり、今年度中にコンテンツの不足部分を点検していく予定となっている。IC の一元管理が適切に稼働し始めている。
  4. 高難度新規医療技術等導入のプロセス
    • 高難度新規医療技術評価委員会と未承認新規医療技術等評価委員会の双方の評価にバラつきが無いよう医療クオリティマネジメントセンター運営委員会で評価基準等を共有されており、適切と言える。
  5. 事故防止策の実際
    • 確実な患者確認はIPSG(国際患者安全目標:International Patient Safety Goal)の第 1 項目に該当する。国際基準では、患者側から二識別子を発信させ、医療者の手元にある二識別子と突合されない限りは次の行為に移ってはならないとされている。病院として、国際基準に基づく方法で手順を見直すことを検討されたい。
    • 口頭指示伝達は IPSG(国際患者安全目標)の第 2 項目に含まれる。「口頭指示は原則しない・受けない」を基本としていることは良いが、「看護部」のみではなく、「病院全体」でルール化する必要がある。
    • マーキングは IPSG(国際患者安全目標)の第 4 項目に該当する安全行動である。マーキングに関する手順やルールを国際基準に則って見直すと良い。
    • 患者の転倒・転落の予防は IPSG(国際患者安全目標)の第 6 項目に該当する。転倒のリスクがある患者を誰が見てもわかるようにするためリストバンドに標識(色)を付けるなどの方法を採用することが望まれる。外来患者は目視で判断せざるを得ないが、転倒リスクの高い患者を識別するためのルールを検討されると良い。
    • B 型肝炎管理体制、大量出血管理体制は優れた取り組みといえる。
  6. 薬剤管理の実際
    • 疑義照会において、医師の非対応率等を数値化して診療科別に介入を行うことは重要なことと考える。次回、提示されると良い。
    • 医療安全管理部門と連携して取り組んだインシデント対策等について、今後、医薬品安全管理責任者から報告されると良い。
  7. 医療機器管理の実際
    • 医療機器の購入・更新について、概ね適切に管理されている。
    • 国際基準ではすべての院内の医療機器と医療材料を一元管理できているかが問われており、中長期的な課題として検討されると良い。
    • 医療安全管理部門と連携して取り組んだインシデント対策等について、今後、医療機器安全管理責任者から報告されると良い。
  8. 医療放射線の管理の実際
    • 生涯被ばく線量、診療科・検査項目別の総被ばく線量などの把握状況が提示されると良い。被ばく線量の多いカテゴリーを同定して介入していくことが今後の課題と考える。

3.監査結果(総評)

  • 特定機能病院に対して、医療法上求められる基本的な医療安全のガバナンス体制や承認要件を満たしていることを確認した。
  • 病院長の適切なリーダーシップの下、患者安全上の体制、ガバナンスを発揮するための委員会や各 WG の設置など、患者安全のためのインフラが整備されており、各安全責任者が適切に対応を図っている。
  • 一方「(5)事故防止策の実際」項において、複数且つ重要な課題が指摘された。(5 頁参照)
  • 今回の監査は、監査用紙(自己評価)を基にする形式で初めて実施したが、あくまでペーパーを用いた外形に対する評価である。監査で大切なことは、上層部の意図が、現場でどれくらい実践されているかを外部の目で実際に検証し、抽出した課題を上層部にフィードバックすることである。次回の監査で確認したい。

 

以上

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