
2024年度 第1回
公益財団法人がん研究会有明病院 医療安全監査委員会 監査結果概要
監査日時 : | 2024 年 7 月 25 日(木) 11:55〜15:00 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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委員長: | 長尾 能雅 (名古屋大学医学部附属病院副病院長 患者安全推進部教授 (医学博士)) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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1.報告 事項
(1)前回指摘事項の対応状況及び(2)医療法第 25 条の規定に基づく立入検査結果について医療安全管理部長より報告がなされた。
(1)2023 年度第 2 回医療安全監査委員指摘事項の対応状況報告
前回指摘事項@
インシデント報告について、医師・看護師以外の職種からのインシデント報告率を 20%とする目標達成に引き続き努めること。
(対応状況)
院内の各委員会・会議にて、監査での指摘事項としてフィードバックを行った。2024 年 1 月以降は医師・看護師以外の職種からのインシデント報告率は増加傾向にあり、インシデントを報告することが文化として根付きつつあると評価している。安全文化を醸成していくために、引き続き継続し、次回の本委員会でも報告を行いたい。
前回指摘事項A
麻薬管理について、受払手順の徹底が必要であり、担当職員を教育する際の手順の明確化と行動のモニタリングが重要である。
(対応状況)
2024 年 5 月に行動の遵守状況に対する評価を実施した。また、医薬品安全管理委員会が行う院内ラウンドでもモニタリング項目に取り上げ、年2回の評価及び必要に応じたフィードバックを行うことで改善に努めていく。
前回指摘事項B
IC のひな型にコスト(患者負担)に関する記載を含めると良い。
(対応状況)
現状 900 種類を超える文書の管理を継続的に行うことは困難であるが、今後の検討課題としたい。
前回指摘事項C
IC の審査体制が 2 名の医師で短期間に行われていることから、審査基準に差が出ないようにすること。
(対応状況)
当院では診療情報管理士が事前に内容を確認し、内科・外科の各診療科から選出された医師や看護師も確認に携わることから、現行の審査体制を継続する方針とした。
前回指摘事項D
審査委員会の中に外部委員(医療者以外)を加えることを検討する。医療者以外でも理解できるかという視点が必要である。
(対応状況)
当院では診療情報管理士が当該の役割を担うため現状の体制を継続する方針とした。
前回指摘事項E
IC 後の患者の熟慮期間確保をどの程度確保されているかを調査する段階になっている。熟慮期間の視覚化ができるとよい。
(対応状況)
初診時からパンフレットを配布し説明を重ねる工夫をしている。入院後に IC を行わざるを得ない緊急性を要するケースについては、入院が予約された時点で IC 文書を交付し自宅で確認ができる運用を検討する方針とした。
前回指摘事項F
外来の処置時のタイムアウトについては整備段階である。侵襲的医療行為における安全確認については、外来・病棟でも求められつつあるので検討されたい。
(対応状況)
外来・病棟を問わず侵襲的医療行為に対してはタイムアウトを導入していく方針で、まずは乳腺外科の外来処置である CNB(針生検)に対し導入し、モニタリングも実施している。
前回指摘事項G
転倒転落について、患者がどのエリアにいても職員側でリスクを認識できるような工夫が必要である。
(対応状況)
患者がどのエリアにいても転倒転落リスクが認識できる工夫については、着手したばかりであり具体的な対応が提示できる状況にない。
前回指摘事項H
外来の各所に丸椅子が設置されていた。転落防止のため、背もたれのある椅子にするなど対策が望まれる。
(対応状況)
転倒リスクの見える化を病院の課題として検討し、外来エリアの丸椅子を背もたれのある椅子に替えていく方針とした。
前回指摘事項I
PDCA はプランに 7〜8 割の重きを置くことが有用とされている。単なる起承転結とならないような管理体制、助言・指導を目指してほしい。
(対応状況)
指摘事項を参考に管理体制を構築中であり、具体的な対応が提示できる状況にない。
前回指摘事項J
毎年病院は上位指標を複数提示し、各部署はその中から自部署の目標を選択して1年間取り組むという QI の連動体制を展開すると良い。
(対応状況)
QI 管理については途に就いたばかりであり、まずは指摘事項を真摯に受け止め、病院の課題として検討する。また、今年度よりパフォーマンスレポートの指標管理については目標値の設定を求める方針とした。
(2)関東信越厚生局・東京都による医療法第 25 条の規定に基づく立入検査結果の報告
2024 年 7 月 19 日(金)に実施、関東信越厚生局・東京都ともに「法令に違反するような不適切な部分は無く、概ね良好な結果である」との評価を受けた。
2.監査事項
当院の医療安全管理体制と取り組み状況について、「自己評価表」を基に委員から助言・提言が行われた。
- 医療安全管理体制の確立(ガバナンスの確保)
- 病院長のリーダーシップの下で安全活動が展開されている。患者安全を第一とし、且つ先進医療も遂行する意思が明確であった。
- 医療安全管理責任者・医療安全管理部長を中心にインフラが良く整備されており、部署リスクマネージャーを束ねて適切な活動がされている。
- 部署リスクマネージャーについては、部署によっては代行者の設定を検討されたい。
- 医療安全管理活動
- IA 報告件数は、適切である。特に医師の報告数が多く、院内の重大案件をキャッチアップする上で、必要十分な数に到達していると考えられる。医師・看護師以外の職種からの報告率も昨年度の 12%から今年度は 19%へ増加(目標値 20%以上)しており、今後の取り組みに期待する。
- 職種別の報告状況が提示されると良い。また、IA 報告の目標値を設けて取り組むと良い。もし明確な目標設定がないのであれば、病院管理者が把握する必要があるインシデントの 9割以上を把握できると推定される IA 報告件数として、以下を目安とされると良い。
- 報告総数において病床数×6.6 以上、さらに医師からの報告数において病床数 ×6.6×0.08 以上、この二つの条件の同時達成
- 職種に関係なく、報告総数において病床数×8.2 以上
- 患者影響レベル 3a 以上の IA 報告件数
- @全死亡患者数、A重大なインシデントが発生し急ぎ事故性の判断を必要とした件数、B実際に事故調査が必要となった件数、C事故調査の結果、死亡原因が医療過誤によると判断された件数が視覚化できると良い。
- 院内救急体制において、MET 要請件数の 207 件/年は優れている。
- 国際的な医療施設評価認証機関である JCI(Joint Commission International)では、code blue (スタットコール)と Rapid Response System(MET 要請)と Early Warning Score(早期警告スコア)の 3 つの体制を持つことを推奨している。中長期的観点で Early Warning Score
(早期警告スコア)の導入を検討されると良い。 - QI 部門(医療品質改善部)で、現在院内で動いている指標を一元管理できると良い。病院幹部が毎年打ち出す目標の中から、各部門の年度目標が選択される、いわゆるガバナンスの一直線化体制が望ましい。
- 患者の権利保障の取り組み
- ひな型に沿った IC 文書の作成と使用頻度の管理について、IC 委員長の下、現在約 900 種類ある IC 文書の見直し計画が概ね定まり、今年度中にコンテンツの不足部分を点検していく予定となっている。IC の一元管理が適切に稼働し始めている。
- 高難度新規医療技術等導入のプロセス
- 高難度新規医療技術評価委員会と未承認新規医療技術等評価委員会の双方の評価にバラつきが無いよう医療クオリティマネジメントセンター運営委員会で評価基準等を共有されており、適切と言える。
- 事故防止策の実際
- 確実な患者確認はIPSG(国際患者安全目標:International Patient Safety Goal)の第 1 項目に該当する。国際基準では、患者側から二識別子を発信させ、医療者の手元にある二識別子と突合されない限りは次の行為に移ってはならないとされている。病院として、国際基準に基づく方法で手順を見直すことを検討されたい。
- 口頭指示伝達は IPSG(国際患者安全目標)の第 2 項目に含まれる。「口頭指示は原則しない・受けない」を基本としていることは良いが、「看護部」のみではなく、「病院全体」でルール化する必要がある。
- マーキングは IPSG(国際患者安全目標)の第 4 項目に該当する安全行動である。マーキングに関する手順やルールを国際基準に則って見直すと良い。
- 患者の転倒・転落の予防は IPSG(国際患者安全目標)の第 6 項目に該当する。転倒のリスクがある患者を誰が見てもわかるようにするためリストバンドに標識(色)を付けるなどの方法を採用することが望まれる。外来患者は目視で判断せざるを得ないが、転倒リスクの高い患者を識別するためのルールを検討されると良い。
- B 型肝炎管理体制、大量出血管理体制は優れた取り組みといえる。
- 薬剤管理の実際
- 疑義照会において、医師の非対応率等を数値化して診療科別に介入を行うことは重要なことと考える。次回、提示されると良い。
- 医療安全管理部門と連携して取り組んだインシデント対策等について、今後、医薬品安全管理責任者から報告されると良い。
- 疑義照会において、医師の非対応率等を数値化して診療科別に介入を行うことは重要なことと考える。次回、提示されると良い。
- 医療機器管理の実際
- 医療機器の購入・更新について、概ね適切に管理されている。
- 国際基準ではすべての院内の医療機器と医療材料を一元管理できているかが問われており、中長期的な課題として検討されると良い。
- 医療安全管理部門と連携して取り組んだインシデント対策等について、今後、医療機器安全管理責任者から報告されると良い。
- 医療放射線の管理の実際
- 生涯被ばく線量、診療科・検査項目別の総被ばく線量などの把握状況が提示されると良い。被ばく線量の多いカテゴリーを同定して介入していくことが今後の課題と考える。
3.監査結果(総評)
- 特定機能病院に対して、医療法上求められる基本的な医療安全のガバナンス体制や承認要件を満たしていることを確認した。
- 病院長の適切なリーダーシップの下、患者安全上の体制、ガバナンスを発揮するための委員会や各 WG の設置など、患者安全のためのインフラが整備されており、各安全責任者が適切に対応を図っている。
- 一方「(5)事故防止策の実際」項において、複数且つ重要な課題が指摘された。(5 頁参照)
- 今回の監査は、監査用紙(自己評価)を基にする形式で初めて実施したが、あくまでペーパーを用いた外形に対する評価である。監査で大切なことは、上層部の意図が、現場でどれくらい実践されているかを外部の目で実際に検証し、抽出した課題を上層部にフィードバックすることである。次回の監査で確認したい。
2024年度 第2回
がん研究会有明病院 2024年度 第2回医療安全監査委員会 監査結果概要
監査日時 : | 2025年2月21日(金)13:00〜16:00 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
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委員長: | 長尾 能雅 (医師:名古屋大学医学部附属病院 患者安全推進部 教授) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
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1.報告事項
報告資料に基づき当院の医療安全管理体制および、前回の指摘事項に対する取り組みについて各部署より報告を行った。
- 医療安全管理体制について:
- インシデント・アクシデントレポートの報告状況について
グラフを用いて提示。前回、助言のあった報告数の目標値を、全て上回る結果であった事が報告された。 - 相互ラウンド実施報告
獨協医科大学病院と行った相互ラウンドについて報告。助言のあったリストバンド装着方針についての改善策が報告された。 - 有害事象調査委員会・事例検討小委員会開催
開催された事例の中から5例をピックアップし、それぞれ概要、要因、改善策について報告された。
- インシデント・アクシデントレポートの報告状況について
- 前回の指摘事項に対する取り組みについて:
- 前回指摘事項@
メモ用紙の様式を統一し、6Rを順に点検しながら記載し、読み上げる手順にした方が良い(2023年度)
看護部のみではなく「病院全体」でルール化する必要がある(2024年度)
(対応状況)
2023年度の指摘事項も併せて検討し、口頭指示受けメモの記載内容の見直しを行い、使用条件の追記、全職種が使用できるよう「看護師」の表記を「受信者名」に変更。さらに6Rに沿って項目立てた様式に変更した。併せて電子カルテのテンプレートもメモに準じた内容に変更し、全職員が使用できるようナビゲーションマップに収載予定である - 前回指摘事項A
患者の転倒転落予防について、外来患者は目視で判断せざるを得ないが、転倒リスクの高い患者を識別するためのルールを検討されると良い
(対応状況)
外来エリアで転倒リスクの高い患者を職員が覚知できる仕組みの具体策を検討し、呼び出し受信機フォルダーのストラップ紐を利用してリスクの高い患者を識別する運用を検討中である。高リスク患者は黄色のストラップとし、4月より運用を開始する予定である - 前回指摘事項B
手術部位マーキングについて、手順やルールを国際基準に沿って見直すと良い。マーキング対象患者については、左右のない部位であっても上腹部、下腹部の違いについてもマーキングする事を推奨する。また、マーキングに使用するペンについては皮膚ペンを使用し単回使用が望ましい
(対応状況)
国際基準である「国際患者安全目標4」および「WHOガイドライン2009」に明記されている基準と当院の現在の運用を照合した結果、国際基準に準拠した運用であると判断した。
マーキング対象患者については当院の特性等も鑑み、協議の結果、従前どおり左右、複数の構造やレベルがある場合にマーキングを行う運用とした。皮膚ペンについては協議の結果、マーキング専用のペンを各病棟に配置する事とした。 - 前回指摘事項C
疑義照会において、医師の非対応率等を数値化して診療科別に介入を行う事は重要であり、次回提示されたい。
(対応状況)
2024年度上半期の疑義照会による処方変更割合とPBPM対応率を提示。処方変更された割合は68%であり、そのうち医師によるPBPMによる修正は24%であった。併せて、診療科毎の疑義照会件数および変更割合も提示した。
2.監査結果(総評)
特定機能病院の様々な要件については継続して適切な対応がなされていた。特に、報告行動については非常に活性化されており、医師、看護師以外の報告も含め適切な件数が維持できている。また、重大な問題のトリアージから、検証、分析、再発防止策の立案が行われ、適切な再発防止策が導かれている事が確認できた。さらに改善が望まれる事項として、以下について指摘する。
- 重大な事故に対する再発防止策について、院内でいかに定着しているかを確認し、具体的に示す段階にあると考える。例えば、四半期ごとに院内ラウンドにおいて定着度を確認するなど、企画立案した再発防止策の定着度を計るフォローアップ体制の整備が望ましい。
- 院内巡視の際に病院全体の目標について現場職員へ確認したところ、多くの職員が『患者誤認防止』であることを認識していたが、発生件数や推移などについて数字を用いて説明できる職員はいなかった。病院全体の方針を認識した上で、能動的に受け止め行動できる職員が増える事が望ましい。
- 医療安全マニュアルの携行について、周知徹底されたい。
- 過去に発生した重大事故について、職員の認知度を上げると良い。
- タイムアウト、サインイン時のチェックリストの作成、突合方法の整備を行う事が望ましい。
- メモに書けない場合の口頭指示の確認方法について手順整備が行われると良い。
- マーキングについて、全例対象とすることを推奨する。全例を対象としない場合、手術室に運ばれる患者の中にマーキングされていない患者も含まれており、その事がもたらすリスクについて認識したうえで、今後も継続して対応を検討されたい。
- 院内巡視の際にマーキングの方法について質問したところ、術創に沿ってマーキングする、と回答され、丸印であると明確に回答されなかった例もあった為、確認されたい。
- 検査レポートの未読・既読の管理、および対応・未対応の管理に関して、重要な課題として今後の取り組みを検討されたい。
- ルール策定において原則と例外を区分して明記する事があるが、例外を定める場合はできる限り具体的に明示すると良い。
3.次回の医療安全外部監査委員会に向けて
- 薬剤部の疑義照会に対応しなかったケースへのフォローアップについて、次回以降、方略を示されたい。
- 院内巡視を行う際には、医師に直接ヒアリングを行うため、各巡視先に必ず医師を立ち会わせることを希望する。
以上