
2025年度 第1回
公益財団法人がん研究会有明病院 医療安全監査委員会 監査結果概要
監査日時 : | 2025年7月24日(木)13:00〜16:00 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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委員長: | 長尾 能雅 (医師:名古屋大学医学部附属病院 患者安全推進部 教授) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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1.報告事項
報告資料に基づき当院の医療安全管理体制および、前回の指摘事項に対する取り組みについて各部署より報告を行った。
(1) 医療安全管理体制について:
@インシデント・アクシデントレポートの報告状況について
- グラフを用いて提示。前回、助言のあった報告数の目標値を全て上回る結果であった事が報告された。
- 2024年度より、治験に関するインシデントもインシデント報告システムを用いた報告の対象とし、従来は紙媒体を使用していた医療機器に関するインシデントもインシデント管理システムを使用する報告の方法に変更したことでIA報告の総数は2023年度と比較して約1,000件増加した。
- 職種別報告については、医師・看護師以外の職種からの報告数割合が20%近くまで上昇しており、適切な報告が他職種から提出されている結果であった。
- 『医療行為を実施する場面での患者誤認をゼロにする』を2025年度の目標とし、部署毎に取り組み目標を設定し、管理をおこなっている。また、患者確認の方法をフルネームのみの一識別子から、フルネームと生年月日またはID番号などを用いた二識別子に変更する予定であり、来年度の本稼働に向け順次導入を開始している。
A有害事象調査委員会・事例検討小委員会開催
開催された3例について、それぞれ概要、要因、改善策について報告された。
B厚生局/東京都立入検査結果
7月17日に実施された厚生局/東京都の立入検査について、特に大きな指摘事項は無く終了したことが報告された。
(2) 前回の指摘事項に対する取り組み等について:
@口頭指示伝達について
前回指摘事項
- メモ用紙の様式が統一されていない。メモ用紙の様式を統一し、6Rを順に点検しながら記載し読み上げる手順にした方が良い(2023年度)
- 「看護部」のみではなく、「病院全体」でルール化する必要がある(2024年度)
(対応状況)
電子カルテが無い場合の口頭指示受けメモを統一し、医師が緊急時など電子カルテのオーダー入力が不可能な場合のみ使用可能であることを明記。看護師以外も使用可能とし、6Rを順に点検しながら記載できるよう項目立てた様式に変更し、記載後のリードバックについてもチェック項目を追記した。併せて、電子カルテがある場合の口頭指示受けテンプレートを口頭指示受けメモに準じた内容で作成し、運用を開始した。運用開始後、口頭指示受けテンプレートの使用状況を調査した結果、原則口頭指示は禁止であるにもかかわらず、口頭指示受けテンプレートが多用されており、リードバックも約半数が行われていない状況であった。また、発信者側も口頭指示を伝えた後に電子カルテに指示が入力されていない状況が散見された為、口頭指示テンプレートの使用について運用の整備を予定している。
(今回指摘事項)
リードバックの後に「承認を得る」という項目を追加されると良い(Closed-loop Communication)。また、経時的にリードバック率や承認率、読み返しを求めた率などを数値化し周知する事が望ましい。
A窒息防止について
入院中の患者が鶏肉塊をのどに詰まらせ窒息し、スタットコールを要請した事例の発生を受け、食物による窒息を防止するための体制を整備する目的で窒息WGを発足し、窒息リスクの低減と事故発生時の被害の最小化に向けた体制整備をおこなった。
看護師が入院後24時間以内または絶食期間が72時間以上であった患者のリスク評価をおこない、高リスク患者にたいしては多職種で対応する運用とし、2025年8月から運用を開始する予定である。
(今回指摘事項)
患者の口腔内の変化に対応できる仕組みづくりが必要である。他施設の取り組みも参考にされると良い。
B疑義照会について
前回指摘事項
薬剤部の疑義照会に対応しなかったケースへのフォローアップについて、次回以降、方略を示されたい。
(対応状況)
2024年度下半期の疑義照会後の処方変更割合が提示された。『変更あり』が69%、『変更なし』が31%であった。さらに、診療科別の疑義照会件数と変更割合、疑義照会分類別件数などの集計結果が報告された。その他、疑義照会後に変更されなかったケースのフォローアップについて、禁忌薬に対する事例3例をピックアップして報告した。
(今回指摘事項)
疑義照会後の処方変更率はプロセス指標であり、プロセス管理の結果、不適切な薬剤使用による有害事象の発生をいかに減らせるか、安全部門と連携し関連するインシデント数の増減をモニタリングする事が望ましい。
@患者参画について
患者に対するサービスの向上だけでなく、仕組みとして今以上に患者(がん患者全員)が医療者と協働して質の高い医療を実現する体制の構築を目的に2025年5月に患者参画医療推進委員会が発足した。また、当該委員会の指針や、すでに始まっている取り組み、今後の活動予定などを紹介した。
(今回指摘事項)
PX(patient experience)の測定に取り組まれると良い。当該委員会で検討されたい。
インフォームドコンセントについては、熟慮の時間よりも熟慮の機会を担保する事を意識して取り組まれると良い。
2.監査結果(総評)
- 特定機能病院の様々な要件については継続して適切な対応がなされていた。
- IAレポート報告では、いずれも目標値を達成しており院内の透明性や職員の意識の高さがうかがえた。
- 医療法施行規則および厚労省通知への適合について、組織体制と責任の明確化についても要件を満たしている。
- 法令、ガイドラインの遵守状況においても問題なく、特定機能病院の要件を満たしていると判断する。
(指摘事項:さらに改善が望まれる事)
- 有害事象調査委員会、事例検討小委員会の報告については、整備した再発防止策を今後どのようにモニタリングしていくかが課題である。重大な案件のその後についてはガントチャートなどで管理されることが望ましい。
- 患者誤認の他に中長期的にモニタリングする候補として、投薬に関連する有害事象や、手術プロセスに関連する有害事象などが考えられる。これらについて、管理図等を用いて永続的にモニタリングすることが望ましい。
3.次回の医療安全外部監査委員会に向けて
- 死亡事例に関して、年間の全死亡数、そのうち重大な事故の疑いにより緊急審査対象となった死亡数、
さらに重大な事故と判断され調査対象となった死亡数、調査の結果医療過誤による死亡と判断された死
亡数について、4階層のピラミッドで表した集計結果を次回提示されたい。 - 薬剤部の疑義照会後のリアクション率については、今後も継続して報告されたい。
以上