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がん研有明病院の膵臓がん診療の特徴
がん研有明病院の膵臓がん診療の特徴
診療
1.チーム医療
肝胆膵外科、肝胆膵内科、腫瘍内科、放射線診断部や病理部などを含めた“チーム肝胆膵”が常に患者さんの最善の治療法を考えます。それぞれの分野に精通したエキスパートが患者さんに最善の治療法と最大の効果をもたらすことができると思います。
2.迅速な診断、治療
肝がん、胆道がん、膵がんのなかには非常に進行の速いものがあります。それらのがんの患者さんは診断後できるだけ速やかに治療ができるように速やかな診断、治療を行います。進行の速いがんに対しては2-4週間以内に手術ができるように予定をたてています。
3.研究と臨床の架け橋
診断・治療にあたるとともに、同意のいただけた患者さんに関しては、新しい治療法、手術手技などの臨床研究も積極的に行っています。
内科
1.臨床研究を大切にする科学的マインド
名人芸や職人技が通用しづらい手術不能進行がんに対する薬物療法の領域では、多くの病院が協力しておおぜいの患者さんの参加のもとに行われる臨床研究が、より安全でより有効な新規治療開発に不可欠です。このような治療開発はがん専門病院職員である私たちの使命であり、多施設共同臨床試験や治験(企業主導臨床試験)に積極的に参加し、登録数トップの座を常に国立がん研究センター病院や有力な地域がんセンター病院と競っています。
2.洗練された標準治療
ガイドラインに準拠した標準治療をいかに上手に行うかは、科学ではなく芸術です。私たち内科は豊富な経験と知識をもとに、標準治療をどこの病院よりも洗練したかたちで提供します。また、このようにして得られた多数の貴重な実地診療経験を再度見直すことにより、前向きの臨床研究の核となる臨床的疑問を創出し、多施設共同会議で臨床研究のコンセプトを積極的に提案しています。
外科
1.あきらめない外科
内視鏡で診断可能な消化管の癌と異なり、肝がん、胆道がん、膵がんの進展を画像だけで判断することは時に困難なことがあります。また 手術適応も施設により異なるのが現状であり、ある病院で手術ができないといわれても別の病院では手術ができるということもまれではありません。手術の経験や技量のほか、医師の考え方も大きく手術適応に影響するのが肝胆膵外科の領域です。我々は 難治癌であっても外科的な立場から可能性を最後まで追求します。“あきらめない外科”をモットーとし、患者さんとともに、がんに立ち向かって参ります。
2.安全かつ正確な手術
肝がん、胆道がん、膵がんはおなかの中の最も複雑な部位にでき、手術が非常に複雑で切除が困難であり、出血量も多くなりがちです。私たち外科医の習熟した手技にさまざまな医療機器を組み合わせることで、手術中の出血をできるだけ少なくなるよう工夫しています。出血のすくない手術は安全かつ正確な手術につながります。血管をいっしょに切除する拡大手術から腹腔鏡手術という非常に小さい傷でできる手術まで過不足のない手術を選択しています。
膵臓がんの治療の実績
膵臓は上腹部の一番背中側に位置する臓器で、「消化を助ける酵素を製造し腸内に分泌する」外分泌と、「インスリンやグルカゴンなどのホルモンを産生し血管内に分泌する」内分泌の2つの働きがあります。これら2通りの細胞は肝臓の場合と同様に、それぞれまったく性質が違います。外分泌細胞から発生するがんには、浸潤性膵管がん、膵管内乳頭粘液性腫瘍、膵嚢胞性腫瘍などがあり、一方内分泌細胞からは内分泌腫瘍(低悪性度または高悪性度のがん)が発生します。この中で浸潤性膵管がんは膵がんの80%以上を占め「性質(たち)が悪い膵がん」を代表する膵腫瘍です。
外科治療の実績
2006年から2010年までの5年間に行った膵がん切除手術件数と、手術後の生存率を示します。
内科治療の実績
膵がんの領域は、わが国が世界をリードした画像診断とその応用による画像ガイド下治療(IVR)の興隆が一段落したのに対し、この分野では今まで不毛であった薬物療法の急激な台頭が起こりつつあります。難治がんの代表である膵がんに対するゲムシタビンの登場(1997年)がそのさきがけであり、有効な薬物療法のなかった肝胆がんも、近年、肝細胞がんに対するソラフェニブ療法(2007年)、胆道がんに対するゲムシタビン+プラチナ併用療法(2009年)が相次いで開発され、臨床の現場に新たに登場しています。ゲムシタビン以降、欧米ではたくさんの検証的な大規模試験が行われ、臨床研究の体制整備が急務であったわが国でも、ついに600例規模の大規模検証試験(GEST)を完遂するまでに至りました。ここ数年のこの分野での薬物療法の開発の進歩はめざましく、今後も当分この流れは変わらないと考えられています。
このようにして生まれたエビデンスの多くは欧米からの発信でしたが、わが国の臨床研究体制の充実も着実に進んでおり、先に述べたGEST以外にもいくつかの検証的大規模試験が進行中です。当院は肝胆膵領域の日本臨床腫瘍グループ(JCOG)の中核施設であり、全国規模の多施設共同試験や治験に多数例を登録することでエビデンスの創出に貢献しています。
当院内科では、肝がんに対する局所療法、経動脈的治療、胆膵がんに対する内視鏡的アプローチなどの「伝統のIVR」と、ガイドラインを遵守しつつ、新たなエビデンス創出のための臨床研究を重視した「新興の肝胆膵オンコロジー」のふたつを両輪として、わが国を代表するがん専門施設の名に恥じない診療を心がけています。
| 2008年 | 2009年 | 2010年 | ||
|---|---|---|---|---|
| 膵がん | 化学療法(臨床試験) | 62(14) | 85(35) | 117 (17) |
| 緩和その他 | 7 | 23 | 17 |
膵がんについての知識
膵がんとは
膵臓は胃の後ろ側に位置する長さ20cm くらいの左右に細長い臓器で、CT の画像でみるとひらがなの「へ」 の字に似ています。膵臓の右側は頭部と呼ばれ、左端の細長い部分は尾部、頭部と尾部の中間の部分は体部と呼ばれます。膵臓には食べ物を消化する分泌液(膵液)をつくる仕事(外分泌)とインスリンなどのホルモンをつくる仕事(内分泌)があります。外分泌を担当する細胞からしみ出した消化液は小さな流れの集合を繰り返し、一本の大きな川(主膵管といいます)に合流します。消化液は主膵管を通り、尾部から頭部へ向かい、最後は十二指腸に流れ出ます。膵臓から発生する原発性の膵がんの80%を占める通常型の膵がんは、消化液の流れる管(膵管)を形成する細胞のがん化です。したがって、膵管がんということもあり、とくに専門家のあいだでは浸潤性膵管がんという言葉がよく使われます。その他、膵管内乳頭状粘液腫瘍(IPMN)と呼ばれる病変も、治療対象となります。
この項では、通常型の膵がん(浸潤性膵管がん)について説明します。

膵がん罹患率
膵がんの発症は60歳ごろから増加し、罹患(りかん)率は高齢になるほど高くなります。死亡率の年次推移では、男女とも戦後1980年代後半まで増加し、1990年代以降は横ばいもしくは漸増傾向にあります。日本の膵がん死亡率はもともと低いレベルでしたが、1960年代から80年代後半に増加し欧米先進国並みになっています。死亡率は男性で高く、女性の約1.7倍です。罹患数と死亡数はほぼ等しく、膵がん患者の生存率が低いことが伺えます。日本では毎年22,000人以上の方が膵がんで亡くなっています。膵がんは日本及び欧米先進国の主要ながん死因のひとつです。
膵がんのリスク要因
喫煙習慣は膵がんのリスク要因です。飲酒やコーヒーは、かつてリスク要因候補として注目されていましたが、現在は否定的です。食事要因として、高脂肪食や肉摂取がリスクを増加させ、野菜・果物摂取がリスクを低下させる可能性が示されています。その他、糖尿病や慢性膵炎によってリスクが上がるという報告があります。
症状
膵頭部にできた膵がんは小さくても胆汁の流れ道(胆管)をつぶして胆汁の流れを悪くして、黄疸を引き起こすことがあります。このような黄疸(閉塞性黄疸といいます)は膵がん早期発見のきっかけになります。黄疸以外の症状は、胃のあたりや背中が重苦しいとか、なんとなくお腹の調子がよくないとか、食欲がないなどという漠然としたものが多く、膵がんが疑われることなく経過することが少なくありません。糖尿病の急な悪化は膵がんを疑う症状のひとつです。おなかやせなかの痛みや体重の減少などがみられます。
診断
膵がんを疑った場合、まず行われるのは腫瘍マーカーを含めた血液検査と腹部超音波検査や腹部 CT 検査などの画像診断検査です。
膵がんの代表的な腫瘍マーカーは CA19-9です。画像診断では、膵がんの存在を示唆する主膵管の拡張がないか、膵がんそのものが写っていないかが検討されます。造影CT は膵がんの存在診断にとても役に立ちます。小さな膵がんをみつけるために超音波内視鏡検査を行うこともあります。
膵臓にしこりがあるものの、がんか良性か迷うときには、超音波内視鏡で観察しながら細い針を刺し、しこりの細胞を吸引して採取し、がん細胞か否かを調べることがあります(EUS-FNA:超音波内視鏡下細径針吸引細胞診)。
病期診断
病期は、手術できるか、できないかに大別できます。
膵がんを治す唯一の方法は、手術です。したがって、手術できるかできないかの判断はきわめて大事です。この判断は、セカンドオピニオンを求めるときの大きなポイントになるでしょう。
手術ができないと判断される要因は、がんが重要な血管にくっついている場合もしくは遠方の臓器に転移がある場合のふたつです。


治療法
病期診断で切除可能と判断された場合におすすめできる治療は手術療法です。
手術の成功のみが、膵がんを治す前提となるからです。手術の方法は、膵がんのできた場所(頭部か、体尾部か)で異なります。膵がんの手術は難易度の高い手術ですので、可能な限り定評のある病院で手術してもらうのがよいでしょう。
病期診断で手術できない時期と判断された場合、よその病院でも手術できないと判断されるかセカンドオピニオンを求めるのも一法です。手術できない時期の診断に納得された場合、強くおすすめできる治療は抗がん剤による全身性化学療法です。おもに使用される抗がん剤はジェムザール(注射薬)、ティーエスワン(内服薬)などです。化学療法によって膵がんを治すことは現時点では不可能ですが、がんの進行をおさえてがんとともに長生きしていただくことは可能です。化学療法は通院で行います。通院は月に3回程度です。
病期診断で T4M0と判断された場合、放射線療法も治療候補になります。抗がん剤との併用である化学放射線療法や重粒子線療法などの治療は、臨床試験というオプションとしておこなわれています。
閉塞性黄疸は、手術療法や全身性化学療法を安全に行う妨げになるので、治療開始前に黄疸を解消する処置(減黄術といいます)をします。一般的には、内視鏡を使って十二指腸乳頭からがんの狭窄を越えた場所までチューブをいれます。チューブは鼻から出したり、そのまま埋め込んだりします。抗がん剤治療を考慮している場合は、より確実に長期間、黄疸がとれるように、チューブから形状記憶合金でできたメタリック・ステントに交換することがあります。
再発の診断と治療
手術ができた場合、治っていることが期待できる状況ですが、膵がんは手術後も再発することが少なくありません。したがって、手術後の最初の5年くらいは3-4ヶ月ごとに腫瘍マーカーを含めた血液検査や CT 検査などの画像診断を行い、再発の有無を確認します。手術のあとの再発は、残念ながら既に手術の段階で目に見えないがん細胞が手術で取れる範囲以上に広がっていたということなので、再発を早期診断するという考え方はありえません。再発の多くは転移ですので、再度手術することはまずありません(Chapter.4: 病期診断をご覧ください)。再発した場合は、Chapter.5で示した病期診断で手術できない時期と判断された場合と同じ治療法、すなわち抗がん剤治療が考慮されます。
再発を予防する治療を補助療法といいます。膵がんでは手術後に3-6ヶ月間抗がん剤治療を行うと、手術のみで経過をみた場合にくらべて明らかに再発率が低下することがわかっています。現在、ジェムザール単独療法が標準的な補助療法と考えられています。
治療の副作用と対策
減黄術(膵がんに伴う黄疸を解消する処置)に伴う副作用として、胆管炎があります。抗生物質の使用で軽快することも少なくありませんが、ときに処置のための入院が必要になることがあります。
抗がん剤治療の副作用で、最もよくみられるのが血液の細胞成分の減少です。白血球のひとつである好中球が減ると、体の抵抗力が弱まり、高い熱が出やすくなります。その心配があるときは、担当医が解熱剤、抗生剤をお渡しして発熱時の対応を説明します。血小板が減ると、出血が止まりにくくなることがあります。血液の細胞成分の減少は、自覚症状では察知不能ですので、抗がん剤投与前日もしくは当日に必ず血液検査をしてこれらの副作用の状況をチェックします。血液の細胞成分の減少は一過性で、抗がん剤治療を中断すれば数日で回復します。
抗がん剤治療でみられるその他の副作用は吐き気、倦怠感、皮疹などです。担当医は予め標準的な副作用対策を講じていますが、それでも辛いときはより強力な副作用対策がいろいろと用意されています。
治癒率
膵がんは代表的な難治がんであり、あらゆるがんの中で最も生存率が不良です。手術できた方の5年生存率は10-30%くらいです。転移はないが手術できない方(UICC のステージⅢ)の1年生存率は30-50%くらい、転移があるため手術ができない方(UICC のステージⅣ)の1年生存率は10-30%くらいです。







