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診療科・部門紹介
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胃外科

胃外科

最終更新日 : 2023年11月27日
胃がん通信

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※ こちらのページは医療機関向けとなりますが、一般の方もご覧いただけます。 


がん研有明病院・胃がんグループは、チーム力を結集し、
患者さんをお迎えいたします。


上部消化管内科部長 退任のごあいさつ

藤崎先生写真私、藤崎順子は6月いっぱいで定年退職を迎えました。長年にわたり患者さんをご紹介いただき、当院をご支援ご指導いただき、まことにありがとうございました。先生方のおかげをもちまして、私も2003年より約20年間、がん研生活を成就できました。この3年間はコロナで上部消化管内視鏡検査はエアロゾルによる感染リスクが高く、当初は学会主導で検査の制限をかけていましたがそのような中でも内視鏡治療件数が激減しなかったのも先生方からのご紹介あっての賜物です。やっと通常に近づきつつありますが、まだ油断は禁物状態で継続していきたいと存じます。新部長が後藤田先生に決まりましたが、何卒今後ともいままで同様、ご支援のほどお願いいたします。

(消化器内科 藤崎順子)

上部消化管内科部長 就任のごあいさつ

はじめまして。10月1日より上部消化管内科部長として赴任いたしました後藤田卓志と申します。20年間勤められた藤崎順子先生の後任としては甚だ浅学非才ではございますが宜しくお願いします。藤崎先生からバトンタッチしたことにはもの凄い縁を感じています。私は1992年に東京医科大学を卒業したのですが、内視鏡を学びたく東京慈恵会医科大学内視鏡科の門を叩き、内視鏡のイロハから病理まで熱心にご指導いただいたのは何と藤崎先生でした。1年という短い期間でしたが大きな刺激を受け、1995年から国立がんセンター中央病院にレジデント、がん専門修練医、そして内視鏡部医長として2010年まで勤務しました。この期間、胃癌ESDの適応基準をまとめ、ESDの開発に関与し、15年間胃癌を生業としてきました。その後、国立国際研究医療センター、母校の東京医大、日本大学病院で消化器内科の研鑽を経て、1周回ってがん専門病院への復帰となった次第です。そして、国立がんセンター時代の胃外科部長であった佐野武先生が病院長を勤めるがん研有明病院の胃がんグループの一員となりましたことを改めて不思議な巡り合わせだと感じています。90年の歴史、煌びやかなスターを輩出した「がん研」の一員となりましたことに誇りを持ち、患者さんへの敬意と大切な患者さんをご紹介いただいております先生への感謝を忘れず、最高の胃癌診療を提供すべく日々尽力していく所存です。何卒、引き続きのご支援の程、どうぞよろしくお願いいたします。

(消化器内科 後藤田卓志)

化学療法トピック

スキルス胃がんを対象とした新規臨床試験

スキルス胃がんは、通常の胃がんに比べて、若い人や女性に多く、腹膜播種のリスクが高い、予後不良の難治性胃がんとしてよく知られています。JCOG胃がんグループで、術前S-1+シスプラチン(SP)療法と切除先行を比較したランダム化第III相試験(JCOG0501)が行われましたが、術前SPによる治療成績の改善は認められませんでした。現在でも、スキルス胃がんに対しても、切除先行が標準治療ですが、3年生存割合は約60%、治癒切除後でも3年以内に約6割の方が再発してしまう厳しい病です。このような患者さんに、新しい治療法の確立が待ち望まれています。そこでスキルス胃がんを対象として、昨今、海外で良好な効果が報告されている2つの3剤併用化学療法(FLOTまたはDOS)の効果と安全性を比較するランダム化比較第II相(JCOG2204)試験(研究責任医師 がん研有明病院 胃外科 大橋 学)が本年7月より開始されています。JCOG2204試験で最も有望なレジメンが決定できれば、それを用いた術前化学療法の効果を検証する第III相試験が行われる予定です。当院では、病理部も含めて胃がん診療チームが一丸となり、スキルス胃がんの患者さんを一人でも多く救えるように、日常診療のみならず、臨床試験も積極的に行っています。

(消化器化学療法科 中山厳馬)

胃内視鏡領域の注目トピックス

1型胃NETの多施設共同試験結果

「A型胃炎に合併した胃カルチノイドの治療指針に関する研究」として日本消化器内視鏡学会主導で行われていた多施設共同試験の結果が、本年Digestive Endoscopy誌に掲載されました。参加した40施設中、当院の登録数が最多であったことから執筆依頼を頂きました。172症例、10.1年の経過観察期間中央値は世界的に見ても大規模且つ長期の経過観察を行えた研究で、その中で下記内容を主な解析結果・提言としています。

  1. 長期予後は良好
  2. 脈管侵襲がリンパ節転移リスクであり追加治療推奨
  3. 10mm未満の腫瘍に対してリンパ節転移リスク評価目的の診断的内視鏡切除を推奨
  4. 10-20mmの腫瘍に対しても内視鏡切除が選択肢となる可能性

この様な内容を当院から発信出来た事は先生方からの沢山のご紹介あっての事です。今後も胃がん領域をリードするエビデンスを構築するべく、チーム一丸となって邁進します。引き続き宜しくお願い致します。

論文執筆に際しては藤崎前部長が中心となり、後藤田新部長も前任地で研究参加・共著者としてご協力頂いておりました。 ※論文の詳細にご興味のある先生がいらっしゃいましたら、左記QRコードからご覧ください (Open accessです)。

(上部消化管内科 並河健)

Dr.平澤の内視鏡クイズ

Q: どのような病態を考えますか?

60歳代女性.既往:高血圧、内服:アムロジピン。
午前9時   スクリーニングEGD施行。ミダゾラム2.0mg投与。慢性胃炎、生検なし。
午前11時  リカバリーで休憩後に、会計をして帰宅。会話、行動の異常は認めなかった。
午後3時   帰宅した同居の娘さんが親の言動を不審に思い、病院に電話連絡があった。
- 朝起きてからの記憶がないと言っている
- 意識はしっかりしている
- 名前、住所、電話番号などは答えられる
午後4時   病院を受診。意識清明、神経学的所見は異常なし、頭部CTは正常。「今朝、病院に来たことは覚えていません」と混乱しており、病院で検査をしたことなどを説明しても、しばらくすると、「なぜ、私は今ここにいるのですか?」と同じ質問を繰り返してくる。

A: 一過性全健忘

意識障害はなく、会計をする、電車で家に帰るなどの日常動作は問題ないため、ミダゾラムの副作用は考えにくい。また、麻痺などの神経学的所見は異常なく、脳血管障害は非典型的である。主に短期記憶の障害であり、一過性全健忘と診断した。経過観察し、翌日には、症状は消失した。
一過性全健忘は、なんらかのストレスが誘因となり、逆行性健忘と順行性健忘をきたす疾患であり、短期記憶を形成する海馬の一時的な障害と考えられている。24時間以内に回復することが多い。意識障害はないが、短期記憶が形成されないため、自分の状況を理解できずに、混乱してしまう。内視鏡を契機とした一過性全健忘の報告例も散見され1)、私もこれまで3例経験している。
このような疾患があるということを知らないと、対応に戸惑ってしまう可能性もあり、ぜひ知っておいてほしい偶発症である。

1)塚田健一郎ほか、上部消化管内視鏡検査後に,一過性全健忘を来たした3症例.日本消化器内視鏡学会雑誌 48(6), 1215-1220, 2006

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胃癌胃切除患者におけるプレアルブミン値を用いた術前栄養評価

胃切除術前に低栄養が存在すると術後成績が悪くなることが報告されています。しかし、術前に栄養介入を行うべき対象はコンセンサスが得られていないのが現状です。当科では術前に即座に評価でき、単一でも有用な指標として術前プレアルブミン値に注目してきました。プレアルブミンは半減期が約2日と短く、直近の栄養状態が判定できます(基準値:22mg/dL以上)。我々の検討では15mg/dL未満の患者さんは術後合併症リスクが高くなることが判明したため、術前栄養介入の対象と考えてきました。また、栄養介入後にプレアルブミン値が上昇した患者さんでは、術後合併症が減少することも明らかにしてきました。

今回、術前プレアルブミン値が術後全生存期間(OS)に及ぼす影響を、根治切除(R0切除)を行ったpStage I-IIIの胃癌患者約4700人のデータを用い検討しました。術前プレアルブミン値を22mg/dL以上、15-22mg/dL、15mg/dL未満の3群に分けて検討すると、興味深いことにプレアルブミン値が低くなるほど術後のOSが短くなることが分かりました(図1)。

死因別の検討では、プレアルブミン値が低くなるほど原病死(図2)、他病死(図3)ともに増加し、予後因子に関わる多変量解析では、プレアルブミン低値(15-22mg/dLと15mg/dL未満)は他病死に関わる独立した予後不良因子であった一方、原病死には関わらないという結果でした。他病死の原因としては肺炎、突然死、他がん種による死亡が多いという結果でした。

またpStage別の検討においては、pStage I-IIではプレアルブミン低値だとOSが不良となりましたが、pStage IIIではプレアルブミンとOSの間に相関を認めませんでした。これはpStage I-IIでは前述の他病死が影響している結果だと考えています。

以上から、原病死が比較的少ないpStage I-IIの胃癌患者に低栄養を伴う場合、術後の他病死が増加することが明らかになりました。当科では術前に低栄養が疑われる患者には積極的に栄養介入を行っています。今後は術前栄養介入によるプレアルブミン値上昇を評価することで、栄養介入が長期予後改善につながるのかを明らかにしたいと考えています

(胃外科 松井亮太)

図1. プレアルブミンと全生存期間(OS)
図2. プレアルブミンとOS(原病死
図3. プレアルブミンとOS(他病死

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