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診療科・部門紹介
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直腸がん集学的治療センター

直腸がん集学的治療センター

最終更新日 : 2023年9月1日

診療科の特徴|スタッフ紹介

直腸がん集学的治療センターとは


秋吉高志
センター長
大腸外科副部長

直腸がん集学的治療センターは、大腸外科・下部消化管内科・消化器化学療法科・放射線治療部・画像診断センターなど直腸がんの診断や治療に豊富な経験を有する各領域の専門家から構成され、チームとしての豊富な治療経験を活かして専門的で質の高い直腸がん治療を一人でも多くの患者さんに届けることを目的に2023年9月に設立されました。

直腸がんとは

「直腸」は肛門につながる、1メートル以上ある大腸の出口15cmほどの部分を言います。直腸は便を貯留するために非常に重要であるだけでなく、排尿や性機能に関わる臓器(膀胱、前立腺や子宮・膣など)や神経に囲まれています。進行した直腸がんの手術では、肛門とがんの距離にもよりますが、直腸を部分的にまたは全てを切除する必要があります。例えば、肛門とがんの距離が10cmあれば、7cm程度の直腸を温存することができますが、肛門とがんの距離が1cmしかなければ、肛門も一緒に切除し永久人工肛門が必要になります(WOC支援室|がんに関するサポート・ご相談|がん研有明病院 (jfcr.or.jp)。肛門を温存できたとしても、残る直腸の長さにもよりますが、術後の排便障害(排便回数の増加、1回の排便量の低下、残便感、便失禁など)が生じます。また、直腸の周りの神経がダメージを受け、排尿障害や性機能障害も起こりえます。このように直腸がんでは、がんを治すことと引き換えに、機能をある程度犠牲にしなければならないという側面があります

集学的治療とは

進行した直腸がんに対しては外科的手術が最も有効です。一方、肛門から7-8cm以内の肛門に近い進行した直腸がんでは、外科的切除後、10%程度の局所再発が起こることが知られています。この局所再発を低下させるために、手術の前に抗がん剤内服に合わせて放射線療法を行う術前化学放射線療法が欧米では標準治療とされています。しかし術前化学放射線療法により局所再発率は下がりますが、肝臓や肺などの遠くの臓器への再発率(30%程度)は下がりません。そこで術前化学放射線療法(5週間)に加え術前の全身抗がん剤治療(3-4か月)を行うことで、遠くの臓器での再発率が下がることが海外の臨床試験で報告されています(Total NeoadjuvantTherapy(トータルネオアジュバントセラピー)の頭文字をとってTNT(ティーエヌティー)と言われています)。このような、術前化学放射線療法や術前抗がん剤治療、手術を組み合わせて行う治療を集学的治療と言います。集学的治療には外科だけでなく放射線や抗がん剤の専門家、内視鏡や画像診断の専門家が携わるため、チームとしての総合力が問われます。

進行した直腸癌(臨床病期II/III)に対する日本と欧米の標準治療

日本では直腸がんに対して手術をまず行い、術後の病理結果をみて抗がん剤治療を行うかどうかを決めることがガイドラインで標準治療とされており、欧米のように術前化学放射線療法をまず行う施設は多くありません。これは、日本が直腸がん手術後の局所再発率を下げるために、直腸切除に加えて側方郭清という、より広く切除する術式を独自に開発・発展させてきたことによります。がん研有明病院では、肛門に近い進行した直腸がんに対し2004年から術前化学放射線療法、2011年からTNTを取り入れ、2022年までに1000人を超える直腸がんの患者さんに集学的治療を行ってきました

直腸がんに対して集学的治療を受けた患者さんの人数

集学的治療により再発率が下がることが期待されます。しかし、治療期間が長くなることや、放射線や抗がん剤による副作用などのデメリットも当然あり、全ての直腸がん患者さんに集学的治療が適しているというわけではありません。たとえば、周囲を他臓器に取り囲まれていない肛門から8-15cmの直腸がんでは、放射線療法を行うことはデメリットの方が大きくなる可能性があります。また、患者さんの年齢や身体的・社会的状況等も考慮する必要があります。当院では各部門の専門家が一同に集い週一回カンファレンスを行い、一人一人の患者さんの状態に応じた最適な治療を行っています。

積極的経過観察とは~手術しないという選択肢

進行した直腸がんに対して集学的治療を行うと、がんが著明に縮小し肉眼的にほぼ消失した状態になることがあります(臨床的完全奏効といいます)。臨床的完全奏効になった患者さんでは、すぐに手術を行わず、慎重に経過観察する「積極的経過観察」が、新しい方法として注目されています。積極的経過観察は欧米では「Watch andWait(ウオッチアンドウェイト)」と呼ばれています。欧米では比較的広く行われつつありますが、まだ標準治療ではありません。日本では今のところ積極的経過観察を行っている施設は非常に少ないですが、当院では2017年頃から積極的経過観察を導入し、2022年までに60例の積極的経過観察の経験があります。積極的経過観察のメリットは、手術に伴う合併症や人工肛門、術後排便障害などを回避できることです。

手術せずに直腸がんが治癒するのであれば、こんなに素晴らしいことはありませんし、当院は常にその可能性を念頭に置いて治療に当たっています。一方で、「積極的経過観察」は残念ながら誰にでも可能なわけではありません。例えば、明らかにがんが残っているにもかかわらず手術をいたずらに遅らせることは、再発の危険性を高める可能性があり勧められません。また、がんの進行度が非常に高度である場合、「積極的経過観察」が行える可能性はかなり低くなります。がんの状態にもよりますが、概ね遠くの臓器への転移がない臨床病期II/IIIの場合、化学放射線療法のみでは「積極的経過観察」に持ち込める確率は10-15%程度、化学放射線療法+抗がん剤治療を行う「TNT」では30-40%程度と考えられます。

「積極的経過観察」が可能かどうかは、集学的治療が終了した後の内視鏡・MRI・診察の所見を組み合わせて判断します。この判断には正確さと経験が必要であり、欧米のガイドラインでは「積極的経過観察」は集学的治療の十分な経験を有する施設で行われるべきと記載されています。当院では、治療効果判定の経験豊富な内視鏡医・画像診断医・大腸外科医が合同カンファレンスの上慎重に積極的経過観察が可能かどうかを判断しています。

積極的経過観察を行った患者さんのうち、75-80%はそのまま良好な経過をたどります。しかし、残りの20-25%の患者さんは肉眼では確認できなかった、残っていた微小ながん細胞が再び増えてきてしまい(局所再増大といいます)、手術が必要になります。再増大したがんの多く(約90%)は切除できますが、遠い臓器への転移を伴う場合では切除できない可能性もありえます。このため、積極的経過観察を行う場合は、がんの再増大を早く発見するために、2-3か月毎の外来検査と慎重な経過観察が必要です。がんが再増大しても適切な時期に切除できれば、通常通りの手術治療を行った場合と同じくらいの生存率であることが報告されています。

直腸がんの外科的手術

直腸がんの手術は、直腸周囲の神経や臓器を温存しながら正確に直腸のみを切除する必要があります。技術的に難易度が高く、手術の質と局所再発率が相関すると言われています。当センターでは、経験豊富な大腸外科医がロボット支援下ロボット支援下手術 | 大腸がん|がん研有明病院 (jfcr.or.jp)あるいは腹腔鏡下手術大腸がんに対する腹腔鏡下手術 | 大腸がん|がん研有明病院 (jfcr.or.jp)を担当します。

肛門に近い進行直腸がんでは直腸からやや離れた側方リンパ節転移が10-15%に生じます。これまで、側方リンパ節転移のある直腸がん患者さんの予後は不良であると言われてきました。当センターでは、CTやMRIにて側方リンパ節腫大の有無を正確に診断し、側方リンパ節転移の可能性のある患者さんに対し集学的治療と側方リンパ節郭清を組み合わせて行う「集学的治療+選択的側方リンパ節郭清」を世界に先駆けて提唱し、良好な成績を世界に発信しています。

また、残念ながら局所再発を来した患者さんにおいても、再度切除を行えば治癒が得られる可能性も十分あります。ただし、局所再発後の手術は、仙骨や前立腺などの隣接する臓器を合併切除する必要がある場合も多く、非常に難易度の高い手術となります。当センターはこのような拡大手術も腹腔鏡下手術で行っており、豊富な経験を有する大腸外科医が担当します(直腸がん術後局所再発に対する外科治療 | 大腸がん|がん研有明病院 (jfcr.or.jp))。

診療予約室

03-3570-0506(医療機関専用)

03-3570-0541(患者さん専用)

 

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